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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
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クラウスは生徒代表室からシュヌーシア寮に戻って来た。
聖アルフォンソ祭まで約1か月と迫り、仕事量が増えていた。
色々と調べ物をしていたら、夜遅くなってしまった。

そろそろ眠らなくては、明日に支障をきたす。
真っ直ぐ部屋に戻ろうとすると、サロンから賑やかな声が聞こえて来た。
消灯時間も近いというのに、何を騒いでいるのか。
寮生達が親睦を深めるのは構わないが、今夜はやけに歓声が飛び交っている。
保健室に最も近いシュヌーシア寮には例年病弱な生徒が集まり易い。
今年度も何人か身体の弱い生徒が入っている。
彼等が寝ていたら、この騒ぎで起こしてしまうかもしれない。
一言注意しておかなくてはという義務感に駆られ、サロンへと向かう。

「おい、お前達。もう少し静かにしろ。こんな時間まで何を騒いでいる」

サロンに入ると、寮生達に囲まれている一人の人物。
テオかと思い、輪の中心を覗くと其処には、魅力的な女性が居た。
淡いピンクのふわっとしたドレス。
肩より長い金の巻き髪は、貴族の令嬢を思わせる。
頭には、花が飾られた大きな帽子。
まるで昔のフランス映画から抜け出してきた姫のようだ。
帽子の唾に隠れて表情がよく見えないが、薄く口紅が引かれている。

ピンクの唇が仄かに笑ったのがちらと見えた。
その高貴な微笑にクラウスはどきりとしながらも、
頭の中では、学院の来客スケジュールを思い返していた。
此処は全寮制男子校。女性ということは部外者ということだ。
ここ最近、来客の予定はなかった筈。
生徒代表に知らされない客人は、招かれざる客だ。

しかし、寮生達は警戒心などまるでなく、
女性と俺を交互に見て、にやにやしている。
ワンピースの女性も帽子の下で、穏やかに微笑した。
クラウスは生徒代表として、彼女の素性を明らかにしなくては思う。
誰かの姉か妹なのかもしれないが、寮に訪れるなら許可が必要だ。

「失礼ですが、貴女は…」

一斉に寮生達が笑う。
女性はゆっくりと歩み寄った。

「おやおや。気付かないものだね。私だよ、クラウス」

穏やかな口調に、クラウスは愕然とする。
よく知っている声だった。

「テオ、なのか?」

女性が帽子を取る。
現れたのは化粧はしているものの紛れもなくテオの顔だった。

「声を聞くまで解らないとはね。それほど私は美女に見えたかい?」

「ああ。…あっ、いや…」

同意してしまってから、口を押さえたがもう遅い。
寮生達は爆笑だ。テオも嬉しそうに笑っている。

「ありがとう。クラウス。光栄だよ」

気まずいクラウスは小言を放つ。

「喜ぶな、馬鹿。大体、何故このような格好を…」

「ああ、皆がね、着せてくれたの。
 聖アルフォンソ祭の仮装はこれにしたらどうかって」

クラウスの頭で火花が散る。

「…貴様等! テオにふざけた真似を…テオもこいつらの口車に乗るな!」

猛犬のような怒号に、寮生達がテオの後方に後ずさる。
一人動じていないテオは皆を振り向いた。
クラウスは、寮生達の反応を見て、自分が仕事で居ない隙を狙って、
この犯罪が実行されたようだと思う。
俺が居れば止めさせるのは自他共に明白だ。

テオはクラウスに向き直り、事情を説明した。

「あのね。今年の聖アルフォンソ祭ではウーティスの姫君に対抗して、
 我がシュヌーシアからも姫を出したいのだって」

「ウーティスの? …ああ、あいつか」

クラウスの苦手な人物だ。
妖しげな伯爵家の後継者で、本人にもオカルトめいた能力があるらしい。
あいつに女装の趣味があるとは思えないのだが、
入学以来ずっと上級生のリクエストに応えて、
プリンセス姿で仮装行列に参加している。

他人に対してあれほど刺々しい奴なのに、何故その時だけ異常に寛大なのか。
クラウスにとっては謎で仕方がなかった。

テオはスカートの部分を持って、少し歩いてみせる。
テオのおっとりとした歩き方はとても優雅で、
この姿で黙ってさえいれば女性以上に女性的だった。

シュヌーシアの姫は、皆の前を歩きながら、

「私はね、姫にはクラウスの方が適任ではないかと言ったのだけど」

「誰が姫になどっ!?」

「と、クラウスは言うだろうからって。
私が着てみることになったのだよ?」

自分のせいでテオが犠牲になった気がして、
律儀なクラウスは、理不尽ながらも罪悪感に見舞われる。

テオの周りでは、皆が口々に褒め称えている。
誰かのリクエストでテオがくるりと回った。
ドレスの裾がひらひらと広がる。
寮生達から大きな歓声と拍手が起こった。
テオはスカートの裾を持って、片足を折り、プリンセスの礼をした。
サロンに絶賛の嵐が巻き起こる。クラウスは額を押さえて、溜め息を吐く。

「テオ、遊ぶんじゃない。お前等も盛り上げるな。テオが調子に乗るだろうが」

楽しいこと、楽しませることが大好きなテオだ。
只でさえ、サービス精神が豊富な奴に、
賞賛を浴びせれば、大抵のことは仕出かすに違いない。
おそらく「絶対に似合うから」と頼まれて、
テオはそれは面白そうだと感じ、喜んで手に取ったのだろう。

「何故怒るの、クラウス? 楽しいのに。ねえ、皆?」

寮生達がテオに賛同する。
この場にクラウスの味方は一人も居ないようだ。

「…お前な、女装して楽しいとか言うな」

「ドレスでは気に入らなかった? チャイナ服の方が好きかい?」

「そういう問題ではなくてだな」

テオは一歩近付いて、クラウスを見上げる。
口紅だけではなく、顔全体にナチュラルメイクをしていたし、
胸元まで女性的になっていた。何故、そこまでするのか。
衣装やメイクを施したのは全面的に寮生達なのだろうが、
それを許可するテオもテオだ。
楽しげな姫は、クラウスの目の前まで来て、上目遣いに尋ねる。

「ねえ。クラウスはどんな服が好みなの?」

「…その顔で、こっちを見るな」

明らかに照れた様子に、寮生達がまた騒ぎ出す。
「似合うぜ、お二人さん」と野次が飛んだ。
テオは、ふふと笑う。

「似合うって、私達。このまま教会に行って挙式でもあげようか?」

「馬鹿を言うな! お前はいい加減、着替えろ!」

えー、とサロン全体から大きなブーイングが起こる。
テオは微笑んで、皆を宥めた。

「皆、クラウスが言うのだから仕方がないよ。
では着替えるのを手伝って、クラウス」

「手伝う?」

「この服、一人では脱げないのだよ。背中にファスナーがあるんだ。
 だから降ろしてくれる?」

テオは背中を向けて、長い髪を肩に寄せる。
クラウスの眼前には広く開いた首許。
見ていられなくて、目を背けた。

「なっ、何故俺がしなくてはならないんだ」

「そう? では他の人にして貰わなくては」

他の誰かにやらせる、と考えると何処か許せない気もするが、
だからと言って自分が行うのも可笑しい、というジレンマに陥る。
寮生達は、テオの手伝い権をめぐって揉め始めた。
その中をクラウスが注意に割って入る。
テオはその様子を楽しそうに見守っていた。
今日もシュヌーシア寮サロンでは、
消灯時間ギリギリまで賑やかな声が飛び交っていた。


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