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Marginal Prince Short Story
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■テオ×ミハイル
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ミハイルはソクーロフ博士のカウンセリングを終えて、
森の泉で時間を過ごし、涙を乾かした。
その後、シュヌーシア寮の自分の部屋に行こうとすると、
廊下で甘い匂いを感じた。
とってもいい匂いで美味しそう。サロンの方からだ。
そうっとサロンのドアの隙間から覗いてみる。

人が居た。
キラキラ輝く髪をした、この学院の生徒代表テオだ。
フォークをゆっくりと口に運んでいるところだった。
ミハイルは暫くその様子に見惚れていた。

生徒代表には入学して数日後に学院案内をして貰った。
普通は入学日に学院の各所を見て回るそうだけど、
身体の弱いミハイルは、島までの長旅ですっかり体調を崩し、
入学早々、保健室で寝込むことになった。

生徒代表の予定を狂わせたことを保健医から聞いたミハイルは、
見舞いに来た彼に、ごめんなさい、と謝った。
怒られるかもしれないと覚悟していたのだが、
生徒代表は微笑んで、花束を差し出した。

「学院案内なんて、いつでもできるから気にしなくて良いのだよ。
 君と私は同じ寮だ。これから何度だって話す機会はある。
 今は、その身体を休めることだけを考えて?」

その優雅な振る舞いと大らかさにミハイルはびっくりした。
なんだか王様みたいな人だなあ、と心の中で呟いた。


サロンに居た生徒代表はふいに視線を上げた。
目が合ってしまった。どうしよう、とミハイルは思う。
生徒代表は優しく微笑んだ。

「やあ。ミハイル。この香りに誘惑されたの?」

「…ゆーわく?」

「良かったら一緒にどうかな?」

誘われて断れず、テオと午後のお茶の時間を過ごすことになった。
テオは高等部の最高学年で、ミハイルは中等部三年だ。
人と話すことが苦手で、寮生とも余り話さない。
年の離れた、それも学院のトップとお茶を飲むこと自体、
ミハイルにとっては緊張することだった。
テオは自分が食べていたお菓子を紹介する。
艶々と輝く、黄金色のパイ。

「これはね、誘惑の代償と言うのだよ」

「誘惑の、代償?」

「うん。この島でアップルパイはそう呼ばれているんだ」

テオはアップルパイを切り分けて、ひとつミハイルに差し出した。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

ミハイルは誘惑の代償を口に運ぶ。シナモンのいい匂いがした。
食べてみると、まだほんのり温かかった。

「…美味しいんだね、誘惑の代償って」

「良かった」

テオは優しく笑って、静かにティーカップを置く。

「そうだ。ミハイル。昨日、此処に居る時に、天使の歌声を聞いたのだよ」

「天使の…歌声?」

「うん。我がシュヌーシア寮に天使が住んでいるようなんだ。
 とても癒される歌だった。私は聞き惚れてしまったよ」

サロンのドアがノックされた。
失礼します、と声が聞こえ、シュヌーシア寮のバトラーが一礼した。

「テオ様、理事会からお電話でございます」

「ありがとう、バトラー。今行くよ」

生徒代表は席を立ち、ミハイルに詫びる。

「すまない、ミハイル。お先に失礼するよ。
 ああ、誘惑の代償はゆっくり食べておくれ」

「あ、うん」

「もし天使に会ったら伝えてくれるかな?
 私は貴方の歌が大好きです、ぜひまたその美声を聞かせて下さい、とね?」

黄金の髪を見送って、ミハイルはサロンで一人になる。
テオの言葉が、じわじわとミハイルの胸をあたためていく。

「大好き、だって…」

誘惑の代償を口に運ぶ。
柔らかいリンゴがとても甘くて美味しい。
黄金色のパイを見つめる。

また歌ってみようかな、とそっと思った。


fin
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