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■ソクーロフ×アイヴィー
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「聖アルフォンソ島の南側、んで、ちょっと西の方。
広い広い海の傍に、小粋なコテージがありました。
住んでいるのは、長い金髪の男前でした。
昼は人気のタクシーのお兄さん、夜はイジメられっ子、
しかしその実体は、辺境の島に降り立った、
正義のヒーローだったのです!…なんちて」
グラスの氷だけが、空しくカランと反応してくれました。
早速の放置プレイですか。そーですか、そーですか。
夏なのに涼しい顔して、酒飲むだけですか。
またカランと氷だけが鳴り響く。
ちょっと気まずい俺。てゆうか可哀想な俺。
せっかく、ほろ酔いの俺が、イイ気分で喋ってんのに。
これだから、あんたは真性のドSなんだよ。
イジメられっ子は、負けじとタンブラーグラスをテーブルに置いて、
文句を言ってみました。…一応ね。言うこと言っとかないと。
「ソクーロフ、無視すんな! お前ツッコめよ!
てゆーか、何でもイイから喋って下さい」
ソクーロフ博士、いや、変態鬼畜ドS博士は、
窓から見える海を見ながら、全然違うことを言い出しました。
「無人島の方で、火の手が上がっているようだが。良いのか、警備責任者」
俺んちの窓から、小さく花火が見えました。なんだか絶景です。
酒の肴になりそうなくらい綺麗で、見惚れてしまいました。
あれ? でも花火って上がっててイイの?
酔った頭で、ちょっと考えた後。
あ、そういや聞いてたわ、と警備組織のエライ俺は思い出しました。
「あー、今日ね、クラウスの誕生日なんだって。クラウス、おめでとー」
手近なグラスにカンパイしてみました。
相手は嫌そうにするどころか、また放置プレイでした。
花火を見ながら何事もなかったようにグラスを手に取って、
「生徒代表のクラウス・フォン・モールか? それと花火に何の関係が?」
「あのー、ほらっ、お船持ってる、テオちゃんのシワザ。
クラウスのお誕生日会で、花火上げたいって、
うちにも火薬使用許可の申請来てっから。あの花火は問題ナシ」
「テオ・メネシスが? …ほう。それは良いことを聞いた」
えっ? 今、笑うとこ? 俺、なんか面白いこと言った?
「成程。あの二人はどちらもシュヌーシアだったな」
「あ、あのー、センセ? 何で急にメモとペン取り出してんの?」
「覚え書きだ。テオのカウンセリング用にな」
あー、テオちゃん、ゴメン。次のカウンセリング、気を付けた方がイイかも。
てゆうか、保健室に呼ばれても行かないで。仮病でも使って。
あ、仮病使ったら、余計保健室に連れてかれるか。
じゃあ、どうしたらいいんだ。使えない保健室め。
鬼畜保健医は花火から視線を落とすと、
手許のロックグラスを見て、またなんか笑ってた。
「ラムバリオンな夜だな」
「らむばりおん?」
「死んだ英語で、ラムの語源だ。興奮、騒動の意味がある。
ラムを飲んだ者は乱痴気騒ぎをすると言われていたからな。
テオはラムなしに騒いでいるようだがな」
ソクーロフはロックグラスに口付けた。
今宵の酒はラム酒。
ラムの中でも、熟成されたダークラムで、色は濃い琥珀色。
酒豪さんはロックで飲んでる。俺は水割り。
「ダークラムはストレートかロックだろう」ってバカにされたけど。
飲める方が可笑しいから気にしないもんね。
酒豪さんはダークラムを見ながら、静かに言った。
「お前は、ラムが何で出来ているか知っているか?」
「そんくらい知ってるぞ。サトウキビだろ。その糖蜜で作った蒸留酒」
「ラムはヒトで出来ている」
「ヒト?」
「17世紀の話だがな。奴隷が糖蜜に、糖蜜がラムになる三角貿易が行われていた。
船はアフリカで黒人奴隷を乗せた。
西インド諸島では奴隷を降ろし、ラムの原料となる糖蜜を乗せる。
アメリカでは糖蜜を降ろし、ラム酒を乗せる。
そして船はアフリカに戻ってくる。
船に乗っているラム酒を売って、金にする為に」
俺は琥珀のダークラムを手に取る。
「ラムの値段が、ヒトの値段か」
「彼等はイギリス産業革命の一翼を担う。奴隷貿易がイギリスを発展させた。
歴史には必ず、光と影が存在するものだ。国の歴史でも、人の歴史でも」
「光と影、ね。光だけの人生は送れないもんね」
「影だけの人生も送れない、ということだ」
「じゃあ、ソクーロフ、今はどっち? この聖アルフォンソ島に居る間は」
「影だろう」
「なんで?」
「この島にはお前が居る。今もこうして、酒の相手をさせられているからな」
「じゃあ俺も影だな。サディストさんにイジワルされてるから」
「お前から呼んだのだろう?」
「だって、あんた、俺が呼ばないと来ないじゃん。
その割りに、呼んだらそれなりに来てくれるよね?
忙しいってのはホントなわけ?」
「私は学院専属のカウンセラーとして、
学院専属のドライバーのカウンセリングをしてやっているだけだ」
「今、俺、カウンセリング中なの? 酒飲みながら?
あんたとフツーに酒飲んでるだけかと思ってた。
それとも、お医者さんごっこの新種? カウンセリングプレイ?」
「私は欲望を映し出す鏡。それが私のカウンセリング手法だ。
カウンセリング中に、お前が見る私の姿はお前の欲望だ、アイヴィー」
俺は言葉を返せずに、ソクーロフを見てた。
その時、自分がどんなカオしてたのか、わかんないけど。
相手は満足したみたいに、笑ってた。
こういう時のあんたはゾクッとするほどキレイで、イジワルだ。
「お前は、私を必要としているクライアントの一人だ」
ソクーロフはロックグラスをテーブルに置いた。
ダークラムの濃厚な香りがする。
ソクーロフのグラスには氷だけ残ってる。
冷たい氷。あんたみたいだ。
人に対しては、奥底まで手を伸ばして抉るくせに。
あんたは自分に氷を張り巡らしてる。冷たくって、奥まで触れやしない。
今夜は暑いから、氷はそのうち溶ける。
夏だし、酒飲んでるし。あんたのせいで、今夜は余計に暑い。
氷はゆっくり溶けて、水になる。
水になって、蒸発して、いつか、消えてなくなる。
消えちゃえば良いのにな、氷みたいに。
あんたが持ってる暗い影も、俺が持ってる赤い影も。
さっき、光と影って言ってた。
今、光ってるのは眼鏡のレンズ。あんたはいつも眼鏡を外さない。
外したらお前の間抜け面が見えないから、ってそれホント?
まあ、嘘しか吐けないよね。あんたも、俺も。もう大人だから。
嘘でも、優しいことなんか言ってくれない。
でも「影だけの人生も送れない」ってのは慰めてるつもりだったのかな?
あんたが考えてること、よくわかんないよ。
頭良くって、何でも知ってる先生で。いちいち言葉が難しくって。
難解な言葉で、自分を武装してる? 知られたくないことがあんの?
何を守ろうとしてる? 聞いても教えてくれないかな。
ソクちゃんってば、イジワルだからね。
俺のグラスには、まだラムが残ってる。
暗い糖蜜色。早く飲まないと、氷が溶けて薄まっちゃうよ。
ラムバリオン。ラムの語源。興奮、騒動の意味。
昔から、ラムは人を狂わせた。
そうやって何でも酒のせいにする。大人の悪いクセ。
何百年も前から受け継がれてきたんだ。なら、仕方ないよね。
今夜もお酒のせいにしておこう。
「酔ってたから、覚えてない」って言い訳して。
記憶が飛んだフリをしよう。
きっと昔の大人もそうしてきた。
嘘を吐かないと、生きてけないから。相手にも、自分にも。
「なあ…ソクーロフ…あんた、今までに何回、嘘吐いた?」
「何だ、唐突に。酔っているのか?」
「うん。だって、このラム、キツイから。
ね…俺のインタビューには答えてくんないの?」
「嘘の数など数えてられるか。…おい、何を笑っている?」
「へえ。あんた、今日は酔ってんじゃん?」
「何だと?」
「今、嘘吐かなかった」
カウンセラーのセンセイは、ちょっとビックリしたみたいだった。
眼鏡の奥で視線が揺らいでた。
それを隠すように眼鏡を押し上げて。
「お前という奴は……」
口の中で何か言った。小さくて聞こえない。
俺が何だよ。そこまで言って、教えてくれないわけ?
質問するヒマも与えてくれないわけ?
ホントは、そういうのが聞きたいのに。ケチ。
濃厚な糖蜜。ダークラムの香りに、保健室の匂いが混じる。
頭が可笑しくなるクスリの匂い。
その長い髪に染み付いた香りが、酒より俺を狂わせる。
子供みたいにあんたの服を握り締めて。
グラスの底で溶けてく氷を見てた。
fin
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「聖アルフォンソ島の南側、んで、ちょっと西の方。
広い広い海の傍に、小粋なコテージがありました。
住んでいるのは、長い金髪の男前でした。
昼は人気のタクシーのお兄さん、夜はイジメられっ子、
しかしその実体は、辺境の島に降り立った、
正義のヒーローだったのです!…なんちて」
グラスの氷だけが、空しくカランと反応してくれました。
早速の放置プレイですか。そーですか、そーですか。
夏なのに涼しい顔して、酒飲むだけですか。
またカランと氷だけが鳴り響く。
ちょっと気まずい俺。てゆうか可哀想な俺。
せっかく、ほろ酔いの俺が、イイ気分で喋ってんのに。
これだから、あんたは真性のドSなんだよ。
イジメられっ子は、負けじとタンブラーグラスをテーブルに置いて、
文句を言ってみました。…一応ね。言うこと言っとかないと。
「ソクーロフ、無視すんな! お前ツッコめよ!
てゆーか、何でもイイから喋って下さい」
ソクーロフ博士、いや、変態鬼畜ドS博士は、
窓から見える海を見ながら、全然違うことを言い出しました。
「無人島の方で、火の手が上がっているようだが。良いのか、警備責任者」
俺んちの窓から、小さく花火が見えました。なんだか絶景です。
酒の肴になりそうなくらい綺麗で、見惚れてしまいました。
あれ? でも花火って上がっててイイの?
酔った頭で、ちょっと考えた後。
あ、そういや聞いてたわ、と警備組織のエライ俺は思い出しました。
「あー、今日ね、クラウスの誕生日なんだって。クラウス、おめでとー」
手近なグラスにカンパイしてみました。
相手は嫌そうにするどころか、また放置プレイでした。
花火を見ながら何事もなかったようにグラスを手に取って、
「生徒代表のクラウス・フォン・モールか? それと花火に何の関係が?」
「あのー、ほらっ、お船持ってる、テオちゃんのシワザ。
クラウスのお誕生日会で、花火上げたいって、
うちにも火薬使用許可の申請来てっから。あの花火は問題ナシ」
「テオ・メネシスが? …ほう。それは良いことを聞いた」
えっ? 今、笑うとこ? 俺、なんか面白いこと言った?
「成程。あの二人はどちらもシュヌーシアだったな」
「あ、あのー、センセ? 何で急にメモとペン取り出してんの?」
「覚え書きだ。テオのカウンセリング用にな」
あー、テオちゃん、ゴメン。次のカウンセリング、気を付けた方がイイかも。
てゆうか、保健室に呼ばれても行かないで。仮病でも使って。
あ、仮病使ったら、余計保健室に連れてかれるか。
じゃあ、どうしたらいいんだ。使えない保健室め。
鬼畜保健医は花火から視線を落とすと、
手許のロックグラスを見て、またなんか笑ってた。
「ラムバリオンな夜だな」
「らむばりおん?」
「死んだ英語で、ラムの語源だ。興奮、騒動の意味がある。
ラムを飲んだ者は乱痴気騒ぎをすると言われていたからな。
テオはラムなしに騒いでいるようだがな」
ソクーロフはロックグラスに口付けた。
今宵の酒はラム酒。
ラムの中でも、熟成されたダークラムで、色は濃い琥珀色。
酒豪さんはロックで飲んでる。俺は水割り。
「ダークラムはストレートかロックだろう」ってバカにされたけど。
飲める方が可笑しいから気にしないもんね。
酒豪さんはダークラムを見ながら、静かに言った。
「お前は、ラムが何で出来ているか知っているか?」
「そんくらい知ってるぞ。サトウキビだろ。その糖蜜で作った蒸留酒」
「ラムはヒトで出来ている」
「ヒト?」
「17世紀の話だがな。奴隷が糖蜜に、糖蜜がラムになる三角貿易が行われていた。
船はアフリカで黒人奴隷を乗せた。
西インド諸島では奴隷を降ろし、ラムの原料となる糖蜜を乗せる。
アメリカでは糖蜜を降ろし、ラム酒を乗せる。
そして船はアフリカに戻ってくる。
船に乗っているラム酒を売って、金にする為に」
俺は琥珀のダークラムを手に取る。
「ラムの値段が、ヒトの値段か」
「彼等はイギリス産業革命の一翼を担う。奴隷貿易がイギリスを発展させた。
歴史には必ず、光と影が存在するものだ。国の歴史でも、人の歴史でも」
「光と影、ね。光だけの人生は送れないもんね」
「影だけの人生も送れない、ということだ」
「じゃあ、ソクーロフ、今はどっち? この聖アルフォンソ島に居る間は」
「影だろう」
「なんで?」
「この島にはお前が居る。今もこうして、酒の相手をさせられているからな」
「じゃあ俺も影だな。サディストさんにイジワルされてるから」
「お前から呼んだのだろう?」
「だって、あんた、俺が呼ばないと来ないじゃん。
その割りに、呼んだらそれなりに来てくれるよね?
忙しいってのはホントなわけ?」
「私は学院専属のカウンセラーとして、
学院専属のドライバーのカウンセリングをしてやっているだけだ」
「今、俺、カウンセリング中なの? 酒飲みながら?
あんたとフツーに酒飲んでるだけかと思ってた。
それとも、お医者さんごっこの新種? カウンセリングプレイ?」
「私は欲望を映し出す鏡。それが私のカウンセリング手法だ。
カウンセリング中に、お前が見る私の姿はお前の欲望だ、アイヴィー」
俺は言葉を返せずに、ソクーロフを見てた。
その時、自分がどんなカオしてたのか、わかんないけど。
相手は満足したみたいに、笑ってた。
こういう時のあんたはゾクッとするほどキレイで、イジワルだ。
「お前は、私を必要としているクライアントの一人だ」
ソクーロフはロックグラスをテーブルに置いた。
ダークラムの濃厚な香りがする。
ソクーロフのグラスには氷だけ残ってる。
冷たい氷。あんたみたいだ。
人に対しては、奥底まで手を伸ばして抉るくせに。
あんたは自分に氷を張り巡らしてる。冷たくって、奥まで触れやしない。
今夜は暑いから、氷はそのうち溶ける。
夏だし、酒飲んでるし。あんたのせいで、今夜は余計に暑い。
氷はゆっくり溶けて、水になる。
水になって、蒸発して、いつか、消えてなくなる。
消えちゃえば良いのにな、氷みたいに。
あんたが持ってる暗い影も、俺が持ってる赤い影も。
さっき、光と影って言ってた。
今、光ってるのは眼鏡のレンズ。あんたはいつも眼鏡を外さない。
外したらお前の間抜け面が見えないから、ってそれホント?
まあ、嘘しか吐けないよね。あんたも、俺も。もう大人だから。
嘘でも、優しいことなんか言ってくれない。
でも「影だけの人生も送れない」ってのは慰めてるつもりだったのかな?
あんたが考えてること、よくわかんないよ。
頭良くって、何でも知ってる先生で。いちいち言葉が難しくって。
難解な言葉で、自分を武装してる? 知られたくないことがあんの?
何を守ろうとしてる? 聞いても教えてくれないかな。
ソクちゃんってば、イジワルだからね。
俺のグラスには、まだラムが残ってる。
暗い糖蜜色。早く飲まないと、氷が溶けて薄まっちゃうよ。
ラムバリオン。ラムの語源。興奮、騒動の意味。
昔から、ラムは人を狂わせた。
そうやって何でも酒のせいにする。大人の悪いクセ。
何百年も前から受け継がれてきたんだ。なら、仕方ないよね。
今夜もお酒のせいにしておこう。
「酔ってたから、覚えてない」って言い訳して。
記憶が飛んだフリをしよう。
きっと昔の大人もそうしてきた。
嘘を吐かないと、生きてけないから。相手にも、自分にも。
「なあ…ソクーロフ…あんた、今までに何回、嘘吐いた?」
「何だ、唐突に。酔っているのか?」
「うん。だって、このラム、キツイから。
ね…俺のインタビューには答えてくんないの?」
「嘘の数など数えてられるか。…おい、何を笑っている?」
「へえ。あんた、今日は酔ってんじゃん?」
「何だと?」
「今、嘘吐かなかった」
カウンセラーのセンセイは、ちょっとビックリしたみたいだった。
眼鏡の奥で視線が揺らいでた。
それを隠すように眼鏡を押し上げて。
「お前という奴は……」
口の中で何か言った。小さくて聞こえない。
俺が何だよ。そこまで言って、教えてくれないわけ?
質問するヒマも与えてくれないわけ?
ホントは、そういうのが聞きたいのに。ケチ。
濃厚な糖蜜。ダークラムの香りに、保健室の匂いが混じる。
頭が可笑しくなるクスリの匂い。
その長い髪に染み付いた香りが、酒より俺を狂わせる。
子供みたいにあんたの服を握り締めて。
グラスの底で溶けてく氷を見てた。
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