忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ソクーロフ×アイヴィー
------------------------
「聖アルフォンソ島の南側、んで、ちょっと西の方。
 広い広い海の傍に、小粋なコテージがありました。
 住んでいるのは、長い金髪の男前でした。
 昼は人気のタクシーのお兄さん、夜はイジメられっ子、
 しかしその実体は、辺境の島に降り立った、
 正義のヒーローだったのです!…なんちて」

グラスの氷だけが、空しくカランと反応してくれました。
早速の放置プレイですか。そーですか、そーですか。
夏なのに涼しい顔して、酒飲むだけですか。

またカランと氷だけが鳴り響く。
ちょっと気まずい俺。てゆうか可哀想な俺。
せっかく、ほろ酔いの俺が、イイ気分で喋ってんのに。
これだから、あんたは真性のドSなんだよ。
イジメられっ子は、負けじとタンブラーグラスをテーブルに置いて、
文句を言ってみました。…一応ね。言うこと言っとかないと。

「ソクーロフ、無視すんな! お前ツッコめよ! 
 てゆーか、何でもイイから喋って下さい」

ソクーロフ博士、いや、変態鬼畜ドS博士は、
窓から見える海を見ながら、全然違うことを言い出しました。

「無人島の方で、火の手が上がっているようだが。良いのか、警備責任者」

俺んちの窓から、小さく花火が見えました。なんだか絶景です。
酒の肴になりそうなくらい綺麗で、見惚れてしまいました。
あれ? でも花火って上がっててイイの?
酔った頭で、ちょっと考えた後。
あ、そういや聞いてたわ、と警備組織のエライ俺は思い出しました。

「あー、今日ね、クラウスの誕生日なんだって。クラウス、おめでとー」

手近なグラスにカンパイしてみました。
相手は嫌そうにするどころか、また放置プレイでした。
花火を見ながら何事もなかったようにグラスを手に取って、

「生徒代表のクラウス・フォン・モールか? それと花火に何の関係が?」

「あのー、ほらっ、お船持ってる、テオちゃんのシワザ。
 クラウスのお誕生日会で、花火上げたいって、
 うちにも火薬使用許可の申請来てっから。あの花火は問題ナシ」

「テオ・メネシスが? …ほう。それは良いことを聞いた」

えっ? 今、笑うとこ? 俺、なんか面白いこと言った?

「成程。あの二人はどちらもシュヌーシアだったな」

「あ、あのー、センセ? 何で急にメモとペン取り出してんの?」

「覚え書きだ。テオのカウンセリング用にな」

あー、テオちゃん、ゴメン。次のカウンセリング、気を付けた方がイイかも。
てゆうか、保健室に呼ばれても行かないで。仮病でも使って。
あ、仮病使ったら、余計保健室に連れてかれるか。
じゃあ、どうしたらいいんだ。使えない保健室め。
鬼畜保健医は花火から視線を落とすと、
手許のロックグラスを見て、またなんか笑ってた。

「ラムバリオンな夜だな」

「らむばりおん?」

「死んだ英語で、ラムの語源だ。興奮、騒動の意味がある。
 ラムを飲んだ者は乱痴気騒ぎをすると言われていたからな。
 テオはラムなしに騒いでいるようだがな」

ソクーロフはロックグラスに口付けた。
今宵の酒はラム酒。
ラムの中でも、熟成されたダークラムで、色は濃い琥珀色。
酒豪さんはロックで飲んでる。俺は水割り。
「ダークラムはストレートかロックだろう」ってバカにされたけど。
飲める方が可笑しいから気にしないもんね。
酒豪さんはダークラムを見ながら、静かに言った。

「お前は、ラムが何で出来ているか知っているか?」

「そんくらい知ってるぞ。サトウキビだろ。その糖蜜で作った蒸留酒」

「ラムはヒトで出来ている」

「ヒト?」

「17世紀の話だがな。奴隷が糖蜜に、糖蜜がラムになる三角貿易が行われていた。
 船はアフリカで黒人奴隷を乗せた。
 西インド諸島では奴隷を降ろし、ラムの原料となる糖蜜を乗せる。
 アメリカでは糖蜜を降ろし、ラム酒を乗せる。
 そして船はアフリカに戻ってくる。
 船に乗っているラム酒を売って、金にする為に」

俺は琥珀のダークラムを手に取る。

「ラムの値段が、ヒトの値段か」

「彼等はイギリス産業革命の一翼を担う。奴隷貿易がイギリスを発展させた。
 歴史には必ず、光と影が存在するものだ。国の歴史でも、人の歴史でも」

「光と影、ね。光だけの人生は送れないもんね」

「影だけの人生も送れない、ということだ」

「じゃあ、ソクーロフ、今はどっち? この聖アルフォンソ島に居る間は」

「影だろう」

「なんで?」

「この島にはお前が居る。今もこうして、酒の相手をさせられているからな」

「じゃあ俺も影だな。サディストさんにイジワルされてるから」

「お前から呼んだのだろう?」

「だって、あんた、俺が呼ばないと来ないじゃん。
 その割りに、呼んだらそれなりに来てくれるよね?
 忙しいってのはホントなわけ?」

「私は学院専属のカウンセラーとして、
学院専属のドライバーのカウンセリングをしてやっているだけだ」

「今、俺、カウンセリング中なの? 酒飲みながら?
 あんたとフツーに酒飲んでるだけかと思ってた。
 それとも、お医者さんごっこの新種? カウンセリングプレイ?」

「私は欲望を映し出す鏡。それが私のカウンセリング手法だ。
 カウンセリング中に、お前が見る私の姿はお前の欲望だ、アイヴィー」

俺は言葉を返せずに、ソクーロフを見てた。
その時、自分がどんなカオしてたのか、わかんないけど。
相手は満足したみたいに、笑ってた。
こういう時のあんたはゾクッとするほどキレイで、イジワルだ。

「お前は、私を必要としているクライアントの一人だ」

ソクーロフはロックグラスをテーブルに置いた。

ダークラムの濃厚な香りがする。
ソクーロフのグラスには氷だけ残ってる。
冷たい氷。あんたみたいだ。
人に対しては、奥底まで手を伸ばして抉るくせに。
あんたは自分に氷を張り巡らしてる。冷たくって、奥まで触れやしない。

今夜は暑いから、氷はそのうち溶ける。
夏だし、酒飲んでるし。あんたのせいで、今夜は余計に暑い。
氷はゆっくり溶けて、水になる。
水になって、蒸発して、いつか、消えてなくなる。
消えちゃえば良いのにな、氷みたいに。
あんたが持ってる暗い影も、俺が持ってる赤い影も。

さっき、光と影って言ってた。
今、光ってるのは眼鏡のレンズ。あんたはいつも眼鏡を外さない。
外したらお前の間抜け面が見えないから、ってそれホント?
まあ、嘘しか吐けないよね。あんたも、俺も。もう大人だから。
嘘でも、優しいことなんか言ってくれない。
でも「影だけの人生も送れない」ってのは慰めてるつもりだったのかな?
あんたが考えてること、よくわかんないよ。

頭良くって、何でも知ってる先生で。いちいち言葉が難しくって。
難解な言葉で、自分を武装してる? 知られたくないことがあんの?
何を守ろうとしてる? 聞いても教えてくれないかな。
ソクちゃんってば、イジワルだからね。

俺のグラスには、まだラムが残ってる。
暗い糖蜜色。早く飲まないと、氷が溶けて薄まっちゃうよ。

ラムバリオン。ラムの語源。興奮、騒動の意味。
昔から、ラムは人を狂わせた。
そうやって何でも酒のせいにする。大人の悪いクセ。
何百年も前から受け継がれてきたんだ。なら、仕方ないよね。

今夜もお酒のせいにしておこう。
「酔ってたから、覚えてない」って言い訳して。
記憶が飛んだフリをしよう。
きっと昔の大人もそうしてきた。
嘘を吐かないと、生きてけないから。相手にも、自分にも。

「なあ…ソクーロフ…あんた、今までに何回、嘘吐いた?」

「何だ、唐突に。酔っているのか?」

「うん。だって、このラム、キツイから。
ね…俺のインタビューには答えてくんないの?」

「嘘の数など数えてられるか。…おい、何を笑っている?」

「へえ。あんた、今日は酔ってんじゃん?」

「何だと?」

「今、嘘吐かなかった」

カウンセラーのセンセイは、ちょっとビックリしたみたいだった。
眼鏡の奥で視線が揺らいでた。
それを隠すように眼鏡を押し上げて。

「お前という奴は……」

口の中で何か言った。小さくて聞こえない。
俺が何だよ。そこまで言って、教えてくれないわけ?
質問するヒマも与えてくれないわけ?
ホントは、そういうのが聞きたいのに。ケチ。

濃厚な糖蜜。ダークラムの香りに、保健室の匂いが混じる。
頭が可笑しくなるクスリの匂い。
その長い髪に染み付いた香りが、酒より俺を狂わせる。
子供みたいにあんたの服を握り締めて。
グラスの底で溶けてく氷を見てた。


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]