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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
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シュヌーシア寮サロン。
ある日の午後。テオは寮の皆の為にお茶の準備をしていた。
歴史の講義が休講になった為、島の中心街フィンシャルまで出掛けて、
皆が好きそうなケーキをたくさん買って来た。
「一人では持てないから」と荷物係に連れ出されたのは、生徒代表だった。
荷物係を務めたクラウスは甘味が苦手で食べられない。
味も駄目だが、見目も身体が受け付けない。
特に、天使の顎は、鮮やかな黄色が眩し過ぎる。
テオがサロンのテーブルに並べるケーキ。
クラウスはコーヒーを飲みながら、嫌そうに見ていた。
「天使の顎、キングズ・フィンガーに、誘惑の代償か。
 どれもお前が名付けたような名前だな」
「そうかい? 私にもこれほど秀逸な名前が付けられたら良いねえ」
「秀逸? グロテスクにも程が在るだろう。
 顎に指に代償だぞ。菓子の名前がこんなサディスティックで良いのか?」
テオは可笑しそうに笑う。
「お菓子の立場からすると、マゾヒスティックな名前だね」
言いながら、アップルパイを自分の方に寄せる。
今日はこれを食べようとナイフを入れた。ふと思い付いたことを口にする。
「ねえ。もし、代償を払う誘惑があったら、クラウスは誘惑に乗る?」
クラウスは、誘惑の代償と呼ばれるアップルパイを見やる。
これは旧約聖書から命名されたらしかった。
エデンという楽園に暮らしていたアダムとイブ。
神が食べるなと言った木の実。
イブは蛇に唆され、果実を口にした。
神の怒りに触れた彼等は、エデンを追放される。
聖書には木の実の種類までは記されていない。
だが、リンゴだという俗説が広まったことに理解はできる。
赤という強い色。それは誘惑の象徴に相応しい。
食べてはいけない、誘惑の果実。
エデンを追放されるという代償を払ってまで。
クラウスには、イブの気が知れなかった。
「俺は、リスクのある誘惑など御免だな。第一、誘惑という言葉は好かない」
「クラウスらしいね」
ナイフを入れたパイから、飴色のリンゴが顔を覗かせる。
艶めいた黄金色だ。見るからに甘そうで、クラウスは視線を移した。
「お前ならどうするんだ、テオ」
「私? 私は楽しそうな誘惑には、自ら身を投じてしまうと思うな。
 抗い難い誘惑に、私はとても弱いからね」
「だろうな」
クラウスは心から同意した。この享楽主義なら、喜んで誘惑に溺れるだろう。
自分だけではなく、周囲まで巻き込み、溺れさせる。
もしかしたらテオ自体が誘惑なのかもしれない。
本人にそう言ってやろうと思い、そちらを見ると、
自分用に取ったアップルパイを見つめながら、何か考え込むような顔をしていた。
「どうした、テオ?」
ふっと笑った顔は何処か自嘲的だった。
「ああ、うん。私は本当に誘惑に弱い人間だなと思ってね。
 例えば、私の前に柔らかくて甘そうなお菓子があるとするだろう?」
テーブルの上に視線を落とす。
並んでいるのはまさに、柔らかくて甘そうなケーキだ。
「私はお菓子に手を伸ばして、どんな香りがするか、どんなに甘いのか、
 舐めてみたくなってしまう。これでも、我慢はしている方なのだけどね。
 きっと、もっと欲しくなってしまう。いつまで我慢できるか解らないな」
クラウスは憮然として、頬杖を着く。
「我慢している? 人に持たせる程、買っておいてか?」
テオは穏やかに笑う。
「そうだね。今日も貴方を連れ出してしまったけれど。
 私はね、足りないのだと思う。誘惑というのは恐ろしいものだね。
 最初は少しでも満足できたのに」
享楽主義は、自分の誘惑の代償を見て、言った。
「いつか、私はイブのように、禁じられた果実に触れてしまうと思う。
 例え、誘惑の先に、どんな代償が待とうとも」
銀のフォークを手にして、テオはそっとリンゴを突き刺す。
優雅な手付きで口に運び、ゆっくりと咀嚼していた。

サロンのドアが乱雑に開く。現れたのは中等部一年の二人組。
一人は病弱で時折、発作を起こすラビだ。
空気の良いこの島では大分その回数が減っていた。
定期的に保健室に通わせているが、他の生徒と同じ生活を送っていた。
雪のように透き通る肌に、サラサラとした栗毛。
テーブルの上に並ぶケーキを見て、嬉しそうにテオに近付いた。
「テオが用意してくれたの? 僕、天使の顎が食べたいな」
「じゃあ俺、キングズ・フィンガー!」
快活な声で叫ぶのはレオン。ラビよりやや明るい栗毛で、
天然の緩いパーマがかかっている。
縦横無尽に跳ねた毛先はレオンの性格そのものと言える。
ラビと同じ中等部一年で仲が良い。
同い年だが、元気溢れるレオンの方が兄で、ラビが弟のようだった。
講義も幾つか同じものを取っているようで、
シュヌーシア寮サロンでも一緒に宿題をしていた。
勉強はラビの方ができるらしく、その時ばかりはレオンの方が弟に見えた。
二人で解決できない問題に遭遇すると、
「うーん」と唸りながら、折れそうな程に首を捻る。
見兼ねた上級生は苦笑しながら「どうした」と助け船を出す。
声を掛けられるのを待っていたかのように「あのねあのね」と飛び付いて来る。
上級生は、甘いかなと思いつつも、この一年生コンビに手を貸していた。
テオはそんな甘い上級生の筆頭だった。
「レオン、ラビ、紅茶を淹れようか?」
「欲しい欲しい! 俺、ミルクティな! ミルクと砂糖たっぷりで!」
「あ、僕もレオンとおんなじの」
二人もテオによく懐いていた。ある意味、相思相愛の状態なのかもしれない。
クラウスにとっては、テオは中等部を甘やかし過ぎだと感じていた。
以前、テオと二人で居る時にクラウスはこう言われたことがある。
「ああ、中等部の子達はなんて愛らしいのだろう。ね、クラウス?」
「俺に同意を求めるな。子供は苦手だ。5年も離れてると、もはや住む次元が違う」
「おや。でもクラウスは、皆を大人として同じように接しているだろう?」
「お前みたいに、あいつらを甘えさせることが俺にはできないだけだ」
「私は、貴方みたいに凛々しく接することができないな。
 可愛くて可愛くて、何でも許してしまうから」
その言葉通りに、テオは中等部の生徒を可愛がり、慈しんでいた。

中等部一年の二人組は仲良くソファに着いた。
ラビはうきうきとケーキを眺めている。
「僕、天使の顎、好き。あっ、でも一番好きなのはママが作ったのだけど」
イタリア出身のラビの口からは、家族の話題がよく上っていた。
テオは紅茶を注ぎながら、相槌を打つ。
「へえ。ラビのお母様はケーキもお得意なの?」
「うん! テオにも食べさせてあげたいなあ」
レオンがからかうように言う。
「おい、ラビ。子供じゃないんだから、パパとかママとか言うなよ。
 俺達もう13なんだぜ? はー、やだやだ。年は取りたくないねー」
聞いていたクラウスは、眉を顰めていた。
レオンは大きな口を開けて、キングズ・フィンガーを食べる。
二本目を口に入れ、もぐもぐさせながら、
コーヒーを飲むクラウスを不躾な程じっと凝視していた。
視線を感じたクラウスが顔を上げ、下級生を睨む。
「人のことをじろじろ見るな。失礼だ」
切れ長の鋭い瞳。他の生徒ならば思わず目を瞑るところだろう。
しかしレオンは、威厳のある低音の声にも物怖じせず、話題を転換した。
「クラウスってさ、コーヒーばっか飲んでんね? それブラックだろ?」
「悪いか」
「俺はー、コーヒーなんか苦くて飲めないー。あっ! クラウスさ、
 コーヒーばっか飲んでるから、いっつもニガーイ顔してんじゃないの?」
クラウスは仏頂面を更に苦くする。
ラビは堪え切れず、忍び笑いをしている。テオも可笑しそうに笑みを零した。
「クラウス、コーヒーを控えてみるかい? レオンの言う通りかもしれないよ?」
「んなわけあるか」

寮生達が続々とサロンにやってくる。
わいわい言いながら、テオが買って来たケーキを囲んでいる。
食事をしながら、人とどうでもいい話をする。
クラウスが、そういう場面に遭遇したのは此処での寮生活が始まってからだ。
食事の印象が変わった。
クラウスは味に拘るグルメではなかったし、身体を維持する為に、
それなりの栄養価が取れていればいいと思っていた。
食事というよりは栄養のある薬の感覚に近かった。
そもそも、食事をしながら家族と会話を楽しむような家ではなかった。
軍のお偉方とのパーティに出席することはあったが、
其処に在るのは、出世を目論み、自分の親に媚びる邪な感情と、空虚な笑い。
下手な言葉は口に出せず、水面下では張り詰めた緊張感に覆われた食卓。
それを楽しめる程の精神力は当時まだ持っていなかった。
クラウスは今、目の前にある光景をぼうっと見ていた。
寮生達が話をしながら、ケーキを食べている。
あれを買おうと言ったのは、テオだった。

その日の夜。
生徒代表室から寮に戻ったクラウスは、廊下で夜着のテオに会った。
クラウスは制服姿で腕に書類を抱えていた。
「クラウス。今までずっと生徒代表室に居たの?」
「ああ」
「最近、毎日じゃないか。無理も程々にしないと身体を壊すよ?」
「別に無理はしていないさ」
「でも、その書類、これから読むつもりなのだろう?」
「そうだが?」
「仕事好きにも困ったものだね。
 そんなに生徒代表の仕事は楽しいものなのかい?」
テオは肩を竦めて、仕事好きの手首を取る。
「何するんだ、テオ」
「せめて、私の美味しいコーヒーでも飲ませてあげようかと思ってね?」
「自分で美味しいと言うか? 普通」
しかし、コーヒーと聞いて飲みたくなったクラウスは、
自分に苦笑しつつ、テオに付いて行った。

サロンにはまだ数名の生徒が居た。
それぞれ本を読んだり、話をしたり思い思いに夜を過ごしていた。
クラウスがいつも座る席は空いていた。
其処に腰を下ろし、書類に目を通す。それほどの機密事項は載っていない。
警備組織に送らせた参考資料だ。紙の端に一言、自分への悪口が書いてあった。
「…暇なのか、アイヴィーの奴」
テオが愛用のコーヒーミルに豆を入れる。
クラシックな木製の手回し式で、毎回豆からコーヒーを淹れていた。
本当に気の長い奴だ。クラウスにとっては感心半分、呆れ半分だった。
クラウスはコーヒー1杯に時間と労力を掛けるのが嫌で、
自分では豆を挽いたことがない。
生徒代表室で自分が作るのは、インスタントコーヒーだ。
先程も仕事をしながら、それを飲んでいた。
その茶色の湯と、テオのコーヒーでは香りもコクも雲泥の差だった。
テオがミルを回している。薫り高いテオのコーヒーが待ち遠しくなる音だった。
『パブロフの犬』という言葉をクラウスは思い出した。
何かの講義で雑談として教授が話していたものだ。
ロシアの生物学者、イワン・パブロフが行った実験で、
犬にエサを与える際にベルを鳴らす、それを繰り返した結果、
犬はベルの音を聞いただけで、唾液を分泌するようになった。
つまり『ベルの音=食事の時間』だと、犬に認知させることができたのである。
この発見は人でも応用可能であり、後に心理学界で大きな影響をもたらした。
クラウスは友人の後ろ姿をそっと見やる。
豆を挽く音。もうすぐ湯を注ぐ音がして、コーヒーの香りがする筈だ。
欲しい。
クラウスの身体は、テオのコーヒーを欲していた。
パブロフの犬という実験は確からしい。

廊下から声が聞こえて来た。まだ幼さの残る13歳の声が喚いている。
サロンに入って来たのは怒り気味のレオンと目許を赤くしたラビだった。
サロンに居た皆が、ざわざわする。
テオはコーヒーを淹れていた手を止めて駆け寄った。
「ラビ、どうしたんだい?」
本人が言う前にレオンが苛々と答えた。
「ラビがコワイ夢見たんだってさ。
 俺の部屋来て、めそめそするから、サロンに連れて来たー」
ラビは赤い目のまま、異論を唱える。
「僕、めそめそなんかしてないっ」
「してたー」
「しっ、してない…」
「ほらー。また泣きそうじゃん。泣き虫ラビ、泣き虫ラビー!」
テオはラビの手が小さく震えているのに気付く。
膝を突いて、ラビの頭を胸の中に仕舞った。
その隣でレオンは、むっとした表情になる。
テオは、とんとん、と背を撫でながら、できる限り優しく言った。
「大丈夫だよ、ラビ。もう怖くないからね」
「テオ…うん」
ラビを解放すると、テオは安心させるように笑顔で言った。
「ラビ、怖い夢はね、誰かに話してしまうと良いのだよ?
 そうしたら怖いのが消えるから。ね、どんな夢を見たのか私に教えて?」
ラビは涙を目に溜めながら、少しの間迷っているようだった。
何も言わないラビをレオンがイライラしながら見ている。
ラビは拳をきゅっと握り締めて、やっと口を開いた。
「…シュヌーシア寮が、燃えちゃう、夢」
レオンは、はあ、と大袈裟に溜め息を吐いた。
「縁起悪い夢見てんじゃねーよ。正夢にでもなったら、どーすんだよ!」
「だって…」
「あー。もー、また泣くー」
テオは手を伸ばして、ラビの涙を拭った。
「心配要らないよ、ラビ。シュヌーシアは燃えないから」
レオンが首を傾げる。
「テオ、自信満々じゃん? なんでそんなこと言えるわけ?」
「メネシスが誇る建築物だからね、我がシュヌーシア寮は」
一年生コンビは揃って瞳を大きくした。
今まで住んでいた場所の新情報に、とても驚いた様子だった。
レオンは改めて確認するように尋ねる。
「ええっと、あのー、メネシスって、テオんち、だよね?」
「そうだよ。私の家の寄付によって出来たんだ、此処は。だからとても頑丈だよ。
 燃えない素材を使っているし、デザインも美しいだろう?」
「信じらんない。あんたって船持ってるどころじゃなかったんだね」
「僕も知らなかった…テオのおうち、すごいんだね」
ラビも呆然とテオを見つめている。
今まで黙って見守っていたクラウスが、そこでフッと笑う。
この寮を作った者が、同じ寮生の中に居る。それは誰でも驚くことだろう。
毎年、同じような場面を見てきたが、何度見ても飽きなかった。
「そういうことだ、ラビ。シュヌーシアは、
 メネシスがたっぷり金を掛けて作った建物だ。これで安心したか?」
「あ、うん…」
「よし。そろそろ消灯時間だ。お前達も部屋に戻れ」
クラウスの掛け声と共に、皆が腰を上げて、散り散りに解散していく。
ラビの前で膝を付いていたテオも腰を上げようとした。
「あの、テオ…」
小さく囁かれた声に身体の動きが止まる。
「なあに、ラビ?」
「あっ、あの…今夜だけ、テオと一緒に、寝ても良い、かな?」
花が咲いたようにテオが笑顔になる。
「ああ。もちろん。では私の部屋に行こうか」
「ありがと…テオ」
テオが差し出した手を、ラビは縋り付くように取った。
手を繋いでサロンを出て行く二人を、レオンがじっと見ていた。
「レオン。お前は俺の部屋に来い」
クラウスの声に、レオンは大きな声を出した。
「はあっ!? ラビと一緒にすんな! 俺は一人で眠れるぞ!」
「解っている。お前に少し話があるだけだ」
「へえー。生徒代表直々に? なんの話さ?」
クラウスは答えず背を向ける。「来い」とだけ言って、先にサロンを出て行く。
首を傾げながらもレオンは、その後を追い駆けた。

クラウスの部屋に入ると、レオンは大きな瞳をキョロキョロと動かした。
「へええー。あんたの部屋って、バッカみたいにキレイだな」
「バカは余計だ」
ポケットに手を入れたまま、部屋の主が奥へと進む。
「いや、これはバカだろ。俺は落ち着いて住めないね、こんな部屋」
レオンは物珍しそうに、じいーっと部屋を見回していた。
先ず驚いたのは、趣味や娯楽を感じさせる品が見付からないことだ。
他の生徒の部屋には、ポスターがでかでかと貼ってあったり、
使い込まれたギターやバイオリンが置かれてたり、
マンガが今にも崩れそうなくらい積み重ねてたりするのに。
レオンの散らかった部屋と比べると、
この部屋は新しいモデルルームのように整然とした生活感のない部屋だった。
最高学年で一番長く暮らしている筈なのに、家具も入学当時のままのようだ。
本棚にはギッシリ本が並んでいるけど、分厚くて難しそうだ。
「ねえ。あんたさ、いつも此処で何してんの?」
「勉強か仕事」
「…あんた、それ、教室か生徒代表室でやりなよ」
漸く嗜好品らしき物が見付かった。黒い小型のダンベルだ。
「あ。あんた筋トレしてんじゃん。良かったー。ちょっと人間らしいとこあって」
「…俺は人間らしくないのか?」
レオンは片手を下ろして、ダンベルを持ち上げてみようとする。動かない。
床にくっつけてあるのだろうか、と思う程ぴくりとも動かせなかった。
クラウスは一人掛けのソファに座る。
その向かいにも一人掛けのソファがあった。
「座れ、レオン」
レオンはとりあえずダンベルを諦める。
クラウスの向かいに座ることを避け、離れたベッドに腰を掛けた。
両手を着いて、小生意気に言う。
「座ったー」
クラウスはフッと笑い、足を組んだ。
いちいち細かく逆らうレオンのことが、クラウスは嫌いではなかった。
逆らうには知恵が必要だ。なかなか利口な少年だとさえ思う。
それに壊れ物のような少年よりは、よっぽど扱い易い。
クラウスの怒号にも物怖じしない様子はむしろ好ましく映っていた。
13歳なら反抗期の真っ只中である方が自然だ。
生意気盛りの中等部を受け止めるのも高等部の義務なのだろうと感じていた。
「レオン。今日はラビに泣き付かれて災難だったな」
「ほんっとだよ。あの泣き虫」
「まあな。だが、今夜のことは、ラビを許してやって欲しい」
ラビを擁護する発言に、レオンは気を悪くした。
「クラウスまでラビの味方すんのかよ。
 テオも一緒に寝たりして…皆、ラビに甘いんじゃねーのか!?」
声を張り上げた最年少に対し、最年長は暫し黙っていた。
まだ迷っていたのかもしれない。
けれど、生徒代表として決断できるのは自分一人だ。
「レオン、これから真面目な話をする。よく聞いてくれ」
怒声にはびくともしないレオンが、その重たい口調に若干恐れを感じた。
そんな自分に腹が立って、目だけはきっと見上げていた。
「何さっ」
クラウスは、この決断が間違っていないことをレオンに託し、静かに告げた。
「ラビは、火事で両親を失っている」
時が止まった。レオンは、数秒の間、思考が停止していた。
そして、そんな筈がない、という思いが沸きあがって来る。
「ウソだろ。だって、あいつ、パパとかママの話してんじゃん」
「ああ。あれは両親が生きていた頃の話をしているのさ」
最年長は、俯いている最年少を静かに見ていた。
自分の決断が間違っていなかったと確信し、言葉を続けた。
「俺は、生徒代表の任務上、全生徒の資料を持っている。
 本来であれば、それについて他の生徒に話すことは禁止だ。
 俺は今、独断でラビの話をお前に伝えている。
 その意味するところが解るか、レオン」
「…俺が、ラビのこと、泣き虫っていつも言うからだろ」
ラビをからかう自分を注意しているのだろう、とレオンは思った。
しかし、クラウスは首を横に振った。
「違う」
「何が違うんだよ」
「ラビにとって、最も信用する人物がお前だからだ」
レオンはハッと笑って、吐き捨てるように言った。
「何言ってんの? だって、あいつ今テオと一緒に」
「ラビが悪夢を見て、最初に助けを求めたのはお前だ。
 どうでもいいと思ってる奴の部屋に行くわけないだろう」
レオンは俯いたまま口を開かなかった。
窓がカタンと鳴った。外で強い風が吹いたらしい。
「話は以上だ。今日の所はテオにラビを任せて、お前は部屋に戻れ。
 間もなく消灯時間だ。もう寝ろ。明日の講義に障る」
その言葉に従わず、レオンはベッドから動かない。
膝の上を見たままで、表情が読み取れない。
クラウスは腕を組んで、まだ未成熟な身体を見ていた。
言うつもりのなかった言葉が、すとんと零れ落ちた。
「お前達は中等部一年だ。ラビとはこれから何度でも言葉を交わせるんだぞ」
口に出した後で、クラウスは自分の言葉に戸惑った。
まだ数年この寮に居られる一年生が羨ましいと、
心の何処かで思っていたのかもしれない。
レオンはこれからも背が伸びるだろう。声も低くなる。
内面もずっと逞しく成長する。レオンはまだまだ未知数だ。
クラウスは、今年の定期検診で成長期が終わったようだと知らされていた。
一年生の未発達な肢体から視線を外し、呟くように言った。
「レオン。部屋に戻って良いと言っているのが聞こえないのか」
ゆっくりとレオンが顔を上げた。
クラウスを凝視したまま、何も言わない。
人のことをじろじろ見るな、と以前から注意しているのに聞きやしない。
最年長を見つめて、最年少は少し笑った。
「あんたって、コワイのか優しいのか、わかんない」
全く予想しない台詞に最年長が首を傾げる。
「…なんだ、それは?」
尋ねれば答えない。レオンはベッドからひょいっと降りる。
後頭部に両手を回して、ドアへ向かいながら、言う。
「この部屋さ、やっぱもう少し散らかした方が良いよ、住み難いもん」
「住むのは俺だ」
レオンは明るく笑った。
おやすみっ、と言って小さな背中はドアの向こうに消えた。

テオの部屋は、もう照明は落ちていた。
暗闇にならない程度に、ベッドの周りだけがぽっと照らされている。
ぼんやりとしたオレンジ色の光にも、テオの黄金の髪は綺麗に輝いていた。
ふわふわのベッドの中で、ラビは隣を向く。
「…テオ…お願いが、あるの」
「なあに?」
「あの…僕が眠るまで、手、繋いでてくれる?」
「良いよ。今日のラビはとても可愛いね」
ラビの右手を取る。まだ小さな手は小刻みに震えていた。
軽く握ってやると、ラビは少し安心しようだった。
「ごめんね、テオ…僕、子供みたいで可笑しいよね…」
「怖い夢を見たのだから、不安になったって仕方がないよ」
「でも…レオンに、また『泣き虫ラビ』って言われちゃうな、きっと」
「ラビは本当にレオンが大切なのだね」
「えっ?」
「違ったかい? レオンが一番の友達だろう?」
ラビは少し視線を泳がせた後、うん、と頷いた。
「あのね…前ね、レオンが拾ってくれたの。パパのペンダント」
ラビは首許から服の中に手を入れ、身に付けていたものを取り出した。
銀の鎖の先に、小さな銀の十字架が付いている。
「なんて素敵な首飾りなのだろう。私、触ってみても良い?」
「うん。いいよ」
テオは十字架を手に取る。
左側は綺麗なシルバーだが、右側の先端が少し欠けている。
其処だけ銀が剥がれていた。テオは礼を言って、ラビに返した。
「美しい十字架だね。お父様から頂いたんだ?」
「そう。パパの」
「ラビはお父様のことが大好きなのだね」
にこっとラビが笑う。
「うん。大好き」
テオは繋いでいない方の手で栗色のさらさらとした髪を撫でた。
「テオ、テオー、何かお話して? なんか眠れそうなお話」
「そうだねえ…では私が作ったお話でも良い?」
「テオの? うわあ、聞きたい聞きたい!」
「今日のお茶の時間にね、思い付いた物語なんだ。
 むかしむかし、あるところに、リンゴの王国がありました」
ラビは微笑んで楽しそうな顔になる。
「じゃあ、アップルパイを見て、思い付いたお話なんだね?」
「そう。その王国にはね、あちこちにリンゴの木があって、
 開花期には一斉に、雪のような花が咲くのだよ」
ラビは頭の中で、自然溢れる広い王国を描く。
空の上から王国を見下ろすと、そこここに白く色付いた木がある。
「収穫期になると様々な色のリンゴが実を付けます。
 あちらの木は赤、こちらの木には橙、他にも、黄、緑、青、藍、紫とね」
ラビは言われた色を思い描いていて、あっ、と声を上げる。
「皆合わせたら虹色だね!」
「うん。リンゴの国には、7色のリンゴが植えられていました。
 リンゴの色によって、それぞれ不思議な力が宿っています。
 赤いリンゴを食べると元気になれる、緑のリンゴは優しくなれる、
 藍色のリンゴは傷を治す、というようにね?」
「えっ。すごーい。僕も欲しいなあ」
「リンゴの王国には、それはそれは美しい王子様が居ました。
 ある日のことです。お城にとんでもない情報が飛び込んできました。
 海の向こうの島で、黒いリンゴが見付かったというのです。
 リンゴの王国にも植えられていないリンゴでした。
 黒いリンゴには、良くない噂があったからです」
「噂?」
「うん。黒いリンゴはこの世で一番美味しいリンゴなのだけれど、
 食べたら最後、黒の呪いがかかってしまうの。
 その美味しさがやみつきになって、それしか食べられなくなる。
 でも、黒いリンゴは年に1個しか実を付けない。
 黒いリンゴを食べてしまった人は、やがて死んでしまうという噂がね」
ラビは真っ黒のリンゴを想像する。
焦げたアップルパイみたいで美味しくなさそうな色だ。
自分なら絶対に食べないなあと思う。
「リンゴの王国の王子様は、黒いリンゴの木を切り倒さなくてはと思いました。
 もし噂が本当で、誰かが死んでしまったら悲しいからね。
 でも国民は、王子様を止めようとした。
 黒いリンゴには強い魔力があって、一目見ると食べたくなってしまうと。
 王子様は自分は大丈夫だから、と旅に出ると言い張った」
ラビは嫌な予感がして、表情が曇り始める。
「王子様を止められなかった国民は、王子様にリンゴを持たせることにしました。
 黒いリンゴが食べたくなったら、こちらのリンゴを食べて下さいとね。
 王子様は赤、緑、藍のリンゴをひとつずつ持って、旅に出ました」
ラビは3つのリンゴが持つ、不思議な力を思い出す。
赤は元気になる、緑は優しくなれる、藍は傷を治すリンゴだ。
「王子様は船に乗り、遠くに地図に載っていない島を見付けます。
 黒いリンゴは其処にあると言われていました。
 王子様は必ず黒いリンゴの木を切り倒す、と心に決め、上陸しました。
 しかし、なかなか黒いリンゴの木が見付かりません。
 島民に訪ねて歩くことにしました。その途中、泣いている男の子に出会いました。
 大切な物を失くしてしまったそうです。
 王子様は、元気になる赤いリンゴを持っていることを思い出します。
 他にもリンゴはあるので、赤いリンゴは男の子にあげました。
 男の子は途端に元気になり、スキップして歩いて行きました。
 次に王子様は、斧を持って喧嘩をしている二人組に出会います。
 このままではどちらかが大怪我をしてしまいます。
 緑のリンゴを食べれば優しくなれる筈です。
 王子様は緑のリンゴを半分にして、二人に食べさせました。
 すると、二人は同時に斧を捨て、肩を組んで仲直りしました。
 王子様は斧を見て、黒いリンゴの木を切るのに丁度良いと思いました。
 『この斧を貰って良いか』と尋ねると『もう要らないから』と快くくれました。
 次に王子様は、怪我をしている鳥に出会います。
 羽根を酷く痛めていて、もう虫の息でした。迷っている時間はありません。
 王子様は最後の藍色のリンゴを差し出しました。
 羽根の傷はみるみる塞がり、鳥は空へ戻ることができました。
 王子様の手許にはもうリンゴはありません。
 それでも黒いリンゴには負けないと王子様は先に進みました。
 海が見える小高い丘に、一本の木がありました。
 王子様が駆け寄ると、それは黒いリンゴの木でした。
 1個だけ黒い実がなっています。リンゴを見つめた、その時。
 王子様は、黒いリンゴの魔力に心を奪われてしまいました。
 急に眩暈に襲われて、足が震え出しました。
 王子様は木の下に座り込み、黒いリンゴを見上げました。
 食べたくて食べたくて、仕方がありません。
 震える手で、黒いリンゴに手を伸ばそうとすると、
 『触れてはいけない』と声が聞こえてきました。
 王子様は、はっと手を引っ込めます。
 声は何処から聞こえたのかと辺りを見回すと、それは頭の上。
 黒いリンゴから聞こえてきました。
 『お前が喋っているのか』と王子様が尋ねると、
 黒いリンゴは『そうだ』と答えました。
 『決して僕を食べてはいけない。食べたら貴方は死んでしまう』
 そう言いながら、黒いリンゴは泣いていました。
 『誰も僕を好きになってくれない』と。
 木の下には、ぽたり、ぽたりとリンゴの涙が落ちて来ました。
 すっかり大きな水溜りが出来た頃。
 王子様は黒いリンゴが可哀相になってきました。
 黒いリンゴは皆から嫌われて、ひとりぼっちだったのかもしれません。
 せめて、自分が食べてあげなくては、と手を伸ばしました。
 すると目の前に鳥が飛んで来ました。先程、藍色のリンゴをあげた鳥です。
 鳥に導かれて、赤いリンゴをあけた男の子もやってきました。
 男の子は叫びます。『騙されないで。黒いリンゴは魔力を持っているんだ』
 王子様は足許を見て、はっと驚きました。
 黒いリンゴの涙が作った筈の水溜りがありません。
 其処には緑色の落ち葉の山があるだけでした。
 魔力で幻を見せられていたのです。王子様は斧を取り出しました。
 力いっぱい斧を振って、木を切り倒しました。
 黒いリンゴはコロンと転がって、海の中に沈んでいきました。おしまい」
ラビはとろんとした目で微笑んだ。
「良かったあ。めでたしめでたしだね」
「そうだね。最後まで聞いてくれてありがとう。眠くなってきたかな?」
「うん。今日はありがとう、テオ。じゃ、おやすみなさい」
「ん。おやすみ、ラビ」
テオは薄明かりを消す。
ラビと手を繋いだまま、テオは黙って天井を見ていた。
5分と経たない内に、隣から聞こえてきた寝息。
天使のような寝顔に思わず顔が綻ぶ。小さな胸がゆっくりと上下していた。
今、自分が語った物語を思い返す。アップルパイを見て思い付いた話。
それは本当だけれど、ラビの為に話しながら明るめに創り変えた。
特にエンディングは眠る前に聞かせるような話ではなかった。
――王子様は木を切り倒しました。黒いリンゴはコロンと転がって行きます。
   腕を伸ばした王子様は、黒いリンゴと一緒に海に沈んでしまいました。――
テオは瞼を閉じる。この物語に題名を付けるのなら何だろう。
『黒いリンゴ』、『禁断の果実』、それともやはり『誘惑の代償』だろうか。
「眠るまで繋いでて」と言われた手。
もう離しても良いのにテオは温かい手をそっと握った。
まるで、小さな手に縋るように。


翌日。お茶の時間になったシュヌーシア寮サロンからは、
甘い焼菓子の香りが漂っていた。今日のお菓子はビスコッティ。
シュヌーシアのシェフ、ドニ・ドームお手製だ。
イタリア語で『2度焼く』というそのままの意味を持つ硬いビスケットで、
ワインやカプチーノに浸して食べる。
イタリア中部にあるトスカーナ地方の伝統的なお菓子だった。
朝食の後、テオがドニと何か話しているのを、クラウスは見掛けていた。
おそらくいつものように「今日の朝食も美味しかった」と
賛辞を浴びせているのだろうと思っていたが。
この焼菓子を作るよう依頼していたのかもしれない。
クラウスの前に見慣れたコーヒーカップが置かれる。
いい香りだ。もう、香りだけでテオのコーヒーだと解るかもしれない。
クラウスはカップに手を伸ばす。静かに流し込む。
ああ、この味だと思う。喉を通る温かさも丁度良い。
背筋が僅かに緩む。これを飲むと肩に入っていた力が少し抜ける。
たったコーヒー1杯で幸福を覚えているこの身体が可笑しかった。
もう一度カップに口付ける。
――俺は、あと何回、このコーヒーが飲めるのだろう。
コーヒーの酸味がするりと喉を駆け抜けた。
隣にテオが座る。テオもカップを持っていた。
一口飲んで、自画自賛の声が上がる。
「ああ、私のコーヒーはなんて美味しいのだろう」
クラウスはフッと笑う。
「自分で美味しいと言うか、普通」
テオは木洩れ陽のように笑っていた。
カップを置いて、クラウスは昨日の謝辞を述べる。
「昨夜は世話を掛けてすまなかったな、テオ。お前が居て助かった」
「こちらこそありがとう。私は役得だったからね」
「あの後、ラビは?」
「大丈夫。すぐに眠ったよ。とても可愛い寝顔だった」
「そうか」
低い声に僅かながらも安堵が滲む。カップを取る横顔をテオが伺う。
「クラウスの方が眠れていないんじゃないかな?
 あの子達のことが心配で。貴方は神経質というか心配性だからね。
 私の部屋に様子を見に来れば良かったのに」
「行けるか」
「私達ね、手を繋いだまま眠ったのだよ?」
クラウスが、ぶっきらぼうに呟く。
「楽しそうで何よりだったな」
「ラビが余りに可愛いから、こっそり額に口付けてしまった」
「なっ…」
声を失った人を見て、テオは口許に手を置き、クスクスと笑い出す。
「冗談だよ。本当だと思ったかい?」
ばつの悪い顔をして、クラウスはそっぽを向く。
「…紛らわしい冗談は止めてくれ。お前の場合、真偽の区別が付かん」
テオはカップの中を見つめる。黒い水面。縁だけが琥珀色だ。
「誘惑はされたのだけどね。昨夜は我慢できたんだ」
「…あのなあ」
廊下からばたばたと足音が近付いてくる。
バンッと勢い良く扉を開けたのはレオン。
「俺の勝ちー! お前、足遅いな、ラビ」
その後から顔を出したラビは、少し息を切らしている。
「勝てるわけないよ…レオンが急に『よーいドン』とか言うんだもん」
笑顔のレオンはへたくそな音楽を付けながら、テーブルの傍まで来る。
「今日のおやつはなんだろなっ」
「わあ、ビスコッティだ。僕、これ好きっ!」
全くいつも通りに登場した二人に、クラウスは少々呆気に取られていた。
レオンが突然ラビを疎遠にするかもしれない、などと、
色々心配していた自分が馬鹿みたいに思えて来る。
「あいつら、何もなかったような顔しやがって…」
苦い顔をしたクラウスにテオは笑う。
「何よりじゃないか。ああ、今日もなんて愛らしいのだろう」
レオンは初めて見た焼菓子を口に放る。噛み切れない。
「何これ、カタッ! 歯が折れたかも、3本くらい」
大袈裟な文句にラビは、ふふと笑う。
「レオン。これはね、ココアとか飲み物に浸してから食べるんだよ?」
「えー。美味しいのか、それ?」
「美味しいよー。ママが作ったビスコッティも美味しいんだー」
レオンが一瞬止まる。
「ラビ。パパとかママって言うの止めろって言ってんだろ。
 赤ちゃんラビって呼ぶぞ。良いのか?」
「えっ、やだよ、赤ちゃんなんて」
「じゃあ、もう言わないって約束しろ。今、此処でだ」
レオンの大きな瞳がラビをじっと見つめる。
有無を言わせない眼差しに、ラビは、こくんと頷いた。
「解った…もう言わないようにする」
ほっとしたようにレオンが笑顔になる。
「よく言った。男だな、ラビ。じゃあ俺も、もう泣き虫ラビって言わない」
「…ほんと?」
「ホント」
「良かったあ」
微笑ましく見守っていたテオが立ち上がり、二人に声を掛ける。
「レオンとラビはココアで良いかな?」
「うん。飲むー」
手を挙げたラビに対し、レオンは違うオーダーをした。
「テオ、テオー。俺、今日はコーヒーが良い」
「コーヒー? レオン、昨日は苦くて飲めないと言ってなかった?」
「今日はー、コーヒーのキブン」
そう言ってレオンはちらりとクラウスを見た。
テオは、おや、と思う。
昨日までレオンはクラウスにも反抗的だった筈だ。
テオは穏やかに笑って、人気者を見やる。
「全く、貴方という人は隅に置けないね、クラウス。
 いつのまにレオンの心まで奪ったの?」
「奪ってない!」
二方向から同時に反論が飛んでくる。
ぴったりと揃った声に、テオは声を立てて笑っていた。
ラビもレオンも笑ったが、クラウスは苦い表情のままだった。
レオンはテオに向かって、手を挙げる。
「あっ、俺のコーヒーには、ミルクと砂糖たくさんで!」
ラビが隣を振り向いて、
「じゃあ、僕もレオンと同じのにしてみようかな」
「なんだよ、ラビ。俺のマネしたいの?」
「レオンだって、クラウスのマネじゃないの?」
「違いますー。俺のはブラックじゃないから、マネじゃないのー」
「マネしてるよー」
「してないー」
テオはコーヒーにたっぷりミルクを注ぐ。
スプーンを入れると、茶と白がリボンのようにくるくる回った。


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