忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■オウム×ジャワハルワール
--------------------------
聖アルフォンソ学院 アルファルド寮。
この寮は朝から夜までいつもひっそりとしていた。
物静かな人種が集まっているからである。
廊下で擦れ違っても挨拶をしない方が普通だった。
互いに干渉しない為、揉め事も起こらない。
寮生達の仲は悪くないが、さして良くもない。
祖国での煩わしい干渉に疲れた彼等には、
アルファルドの静寂はありがたく、彼等なりの平和が保たれていた。
その均衡を微かに脅かしている生徒が居た。
波立つ黄金の髪に、小麦色の肌を持つ生徒。
その肩に乗っているのは一羽の白い鳥。
マレー語で「姉」の名を持つ鳥、オウムだった。
いつも騒がしいオウムに寮生達は迷惑していたのだが、
それを口に出して注意する生徒は居なかった。
アルファルド寮で最も喋る社交家はこのオウムかもしれなかった。
今日もオウムは甲高い声で叫んでいた。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

その名前は生徒のものだが、オウムはよくその台詞を喋っていた。
アルファルドの生徒は皆「ジャワハルワールのオウム」と呼んでいた。
誰もオウムの名前を知らなかった。
何故なら、ジャワハルワールがオウムを呼ぶ場面を見ていないからだ。
というより、彼が喋った所をまだ誰も見たことがなかった。

ジャワハルワールが飼っているのはコバタンオウム。オス。
動物名:コバタン 鳥類オウム目オウム科
体長 約35cm  寿命 平均40年。
オウムは人間並みに長命で、種類によっては100年生きる。
羽毛は白。冠羽(かんう)は黄色。瞳の色はオスが黒、メスが赤
チャームポイントは、冠羽とお揃いの黄色のほっぺ。
知能が高い為、人の言葉を真似ることができる。
趣味はおでかけと、きらきらするものコレクション。
白いオウムは概して人懐っこく、
人に構って貰えないことがストレスになる程の淋しがり。
人を噛むなど凶暴な面もあり、ペットに向かないオウム第一位。

朝。ジャワハルワールはオウムの鳴き声で目覚める。
隣室まで確実に届く盛大な音量が繰り返される。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

むくっと起きたジャワハルワールを確認すると、
オウムは鳴くのを止めた。利口な目覚まし時計である。
ジャワハルワールは欠伸もせずに、身支度を始める。
背筋が正しく、動作は機械的だった。
時計の針が朝食の時間を示すと、オウムが鳴いた。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

ジャワハルワールは食堂へ向かった。
寮生達が集まっている。皆、口数が少ないので、やはり静かだった。
ジャワハルワールが自分の席に着く。
彼のテーブルには、人間用と鳥用の食事が並んでいた。
どちらもアルファルド寮のシェフ、アラン・ウーが用意してくれたものだ。
おそらくアランは動物好きなのだろう、と寮生達は推測していた。
実際にアランに尋ねる生徒は居なかったので、真実かどうかは定かではない。
食事が終わったジャワハルワールは、鳥用の皿を持って、すっと席を立つ。
やはり一言も喋らずに、自分の部屋へと戻った。
自室のドアを開けると大歓迎の声に迎えられた。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

ジャワハルワールは鳥カゴを開ける。キイと音が鳴る。
鳥カゴは彼の背丈程もある大型だ。
同じ台詞を繰り返す鳥の前に、持ってきた皿を置く。
皿にはオウムの主食であるトウモロコシやヒマワリの種。
オウムは両の翼を広げた。
アラン特製のオウムモーニング。味も良く栄養バランスも良い。
羽根の艶が良いのも毎日朝食を摂っているからかもしれない。
ジャワハルワールが鳥カゴを閉めると、
オウムはクチバシを突き立てて、がつがつ食べ始めた。
食事中のオウムは何も喋らず、この時が一番静かだった。
ジャワハルワールは無表情なまま、暫しオウムを見守る。
余り感情を表に出さない人間ではあるが、見目は美しい。
声も美しいのだろうかと想像はできるが、無言の為にどんな声かも解らない。
やがて、ジャワハルワールは講義のテキストを持ち、教室へと向かった。

人間が居なくなった部屋。
朝食が終わったオウムは翼を器用に動かして、鳥カゴを開ける。
ばさばさばさと派手に羽ばたいて、部屋の窓から抜け出した。
羽が一枚舞って、静かに床に落ちた。
オウムは空高く上昇する。寮の屋根まで上がると水平に飛んだ。

前方には格調高い校舎。そちらの方へ生徒達が移動している。
思わずオウムは二度見した。あいつを発見した。
校舎の屋根に止まり、様子を見る。
オウムのコレクションをひとつ盗んだ泥棒だ。
あんな悪い奴がこの学院に居るなんて思わなかった。
人間の世界では他人の物を勝手に取っても良いのだろうか。
極悪人はがっくりと肩を落としている。
「どうしよう。学生課にも届いてなかった…」
後ろから生徒が走ってきて、罪人の背を叩いた。
「よっ! 背中曲げてどーした? じーさんみたいだぜ」
悪党は背中をさすりながら、
「昨日、どっかで腕時計を落としちゃったみたいで。でも見付からなくて」
「マジで? 俺のもなくなったんだよ」
「え。レッドも?」
「んじゃ、今度一緒に買いに行こうぜ。
 あっ! どうせならペアウォッチとか! もちろん、お前がオンナもんな!」
「なっ、なんでだよ…」
校舎から鐘の音が聞こえた。他の生徒達が駆け足になる。
「ヤベッ。行くぞ、ユウタ!」
泥棒とその仲間は校舎の中に走って行った。
慌ただしい後ろ姿をオウムは見送る。人間達はあの鐘に怯えている。
鐘に操られているみたいに人間は動く。不思議だ。
オウムも校舎の屋根を飛び立った。


聖アルフォンソ学院 アルファルド寮。
午前の講義が終わって、ジャワハルワールが部屋に戻ってくる。
テキストを机に置く。鳥カゴを見ると、扉が開いていた。
床には羽根が一枚落ちていた。
ジャワハルワールは身を屈めて、それを取る。
一言も発さずに、真っ白な羽根を見つめている。
その表情からは何も読み取れない。
羽根を持って、机に向かう。鍵の付いた一番上の引き出しを開ける。
引き出しには黒い箱が入っていた。箱の蓋を開ける。
中には白い羽根が詰まっている。持っていた羽根を其処に入れて蓋をする。
箱を引き出しに仕舞い、鍵を掛ける。
もうすぐ昼食の時間だった。ジャワハルワールは食堂へと向かう。

オウムの黒い瞳には緑豊かな植物園が見えてくる。
少し休憩するつもりなのか、一本の木に止まった。
温かく、気持ちの良い日だった。オウムは両の翼を広げる。
強過ぎず、弱過ぎない風も吹いている。
機嫌良く羽の手入れをしていると、下界に一人の生徒が見えた。
植物園でよく見掛ける顔だった。
眼鏡がキラリと光るので、いつも眼鏡をつつきたい衝動に襲われた。
オウムはきらきら輝くものが好きだった。
巣には自慢のコレクションがずらりと並んでいる。
いつかあの眼鏡も巣に持ち帰り、コレクションに加えようと決めていた。
眼鏡を外すのを今か今かと注意深く見ているのだが、
何故かその瞬間は訪れず、今日もダメだったかと残念に思う。
けれども、野望は捨て切れず、今日も様子を伺うことにした。
生徒は此処に来ると、いつも大きな木を見上げていた。
その後の行動は日によって違う。
隣の建物に立ち寄って何か飲んだり、ぶらぶら歩いて他の植物を見たりする。
だが、大きな木を見なかったことは一度もなかった。
今日も生徒は木を見上げていた。
その時、太陽に反射して眼鏡のレンズが輝いた。
ドキッ。オウムのハートがときめく。思わず両翼を広げていた。
生徒はそんなことは露知らず、また何処かへ消えていった。
オウムはへなへなと翼を下ろす。つれない後ろ姿を見送りながら、
チキンなハートはまだドキドキと高鳴っていた。


聖アルフォンソ学院 アルファルド寮 食堂。
昼食が終わったジャワハルワールは鳥用の皿を持って、すっと席を立つ。
やはり一言も喋らずに、自分の部屋と戻った。
自室のドアを開けると大歓迎の声に迎えられた。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

ジャワハルワールは鳥カゴを開ける。キイと音が鳴る。
手に持っていたのは、スライスされたオレンジ。オウムは両の翼を広げた。
オウムはフルーツが好きだった。
特にオレンジがお気に入り。今日はイイコトありそな予感。
ジャワハルワールがオウムの前にオレンジを差し出す。
オウムはクチバシで受け取る。
ちゅーっと100%オレンジジュースを吸う。ウマイ。
後は片足でオレンジを持ちながら、ちびちびと甘酸っぱい蜜を楽しむ。
ジャワハルワールは無表情なまま、暫しオウムを見守る。
一羽と一人の間に長閑かな時間と柑橘類の香りが漂う。
オウムが食べ終わると、ジャワハルワールは柔らかなハンカチをポケットから出した。
オレンジで濡れたクチバシと足を綺麗に拭う。
ジャワハルワールはポーカーフェィスのまま、オウムを暫し見つめる。
鳥カゴから離れると、午後の講義のテキストを持ち、教室へと向かった。

人間が居なくなった部屋。
オウムは翼を器用に動かして、鳥カゴを開ける。
ばさばさばさと派手に羽ばたいて、部屋の窓から抜け出した。
羽が一枚舞って、静かに床に落ちた。
オウムは日光浴が好きだった。
今日のように天気の良い日は鳥カゴでじっとなんかしてられない。
窓から外へと脱出した。
広い草原が見えてくる。
厩舎の前で下界に降りた。木の柵で羽を休める。
この柵に沿って馬が走るのをオウムはよく見ていた。
此処で時々会える生徒の顔も知っていた。
以前、月桂樹の森で行方不明になったナイチンゲールが居た。
仲間達が必死に探したが見付からなかった。
数日後、学院の生徒に発見され、しかも看病してくれているらしいと噂が広まった。
そして怪我が治って森に戻ったナイチンゲールの証言により、
あの深紅の瞳を持つ生徒が恩人だと鳥達は知った。
島に住む鳥達の間では彼を知らない鳥は居ないくらいだ。
特にナイチンゲール達が、彼に熱を上げていて、
「今日の王子様はテニスをしていた」など、しきりに噂をしていた。
看病してくれた件に加え、本能的に惹かれるところがあるらしかった。
そんなことを森の鳥達がピーチクパーチク話しているのを、
オウムも耳にしていた。王子様はオウムにも優しくしてくれて、
「綺麗な翼だね」と言ってくれたこともあった。今日は会えるだろうか。
今年は何故か見掛ける回数が少ない気がする。どうしてだろう。

「あ。君はジャワハルワールの…」

ドキッ。オウムの小さな心臓は飛び出しそうだった。
勢い付けて首を半回転させる。
其処にはあの王子様が居た。今日も深紅の乗馬服がよく似合う。

「やあ。こんにちは。元気にしていたかい?」

王子様はいつもの優しい笑顔を見せた。
オウムは元気いっぱい両翼を広げて答える。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

王子様は口許に手を当てて上品に微笑む。

「元気そうだね。良かった」

オウムは王子様のような笑顔に見惚れる。
眼鏡のレンズのように光るわけではないのに、
この笑顔はきらきらと輝いて見える。

「君の翼、真っ白でとても綺麗だよね。…俺にも翼があれば良いのに」

王子様は、すうっと手を伸ばす。

「おいで」

吸い寄せられたようにオウムは羽ばたき、その腕に止まった。
王子様に頭を撫でられる。優しい手付き。
やっぱりこの人がナイチンゲールを救ってくれた人に間違いないんだろう。
優しい人間って居るもんだな、とオウムは思う。
王子様はオウムを乗せたまま、厩舎の裏側へと歩き出した。
其処には馬用の水飲み場があった。木製の箱に水が張られている。
オウムはぎゅんと首を曲げ、黒い瞳で王子様を見つめる。王子様は微笑む。

「君に貸してあげる。水浴びに使って?」

オウムは水浴びが好きだった。こんな温かい日は絶好の水浴び日和。
王子様の腕から降りて、箱の縁に止まる。
羽根を水に浸す。冷たくて気持ちいい。
鳥界の王子様にこんなに優しくして貰えて、
やっぱり今日はイイ日だ。
興奮の余り翼をバタつかせ、ばしゃばしゃと羽根を洗う。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

「喜んでくれたみたいだね?」

「オレのナマエはジャワハルワール!」

「どういたしまして」

すると厩舎の中から、ぶるるるんっと馬の唸り声が聞こえてくる。
苦笑した王子様は中へと入り、一頭の馬を連れて来た。
巨体な動物がオウムにガンを飛ばしている。弱小の心臓がカタカタ震え出す。
王子様は不機嫌なたてがみを優しく撫でた。

「怒るなよ、アルセイデス。君はもう水を飲んだだろう?
 さあ、今日は山の方に行こう。ね。俺を乗せて?」

馬はツンとした表情でそっぽを向いた。
視線が合わなくなったオウムは、ほっと息を吐く。
困った笑顔の王子様は、しょうがないな、と言って馬の頬に手を添えた。

「俺は、君が一番大切だよ、アルセイデス」

オウムのハートは粉々に砕けた。
さっきまであんなに優しくしてくれたのに。
たてがみか? たてがみがそんなに良いのか?
オウムは水面に映る自分の姿を呆然と見つめる。
何故自分は馬に生まれなかったのだろう、とちょっと思ってしまう。
王子様はすっかり機嫌を直した馬と遠乗りに行ってしまった。
優しくて残酷な後ろ姿を見送る。オウムは、よよよと翼で顔を隠す。
濡れた翼から、水面にぽたりと雫が落ちた。
オウムは、優しい人間には気を付けよう、と思いつつ、また空へ飛び立つ。
そろそろ戻らなくちゃ。風の中を突き抜ける。
悲しみに濡れた羽根を乾かしながら、寮へ帰って来た。
我が家の窓から真っ直ぐに鳥カゴの中に入り、宿り木に止まる。
純白の翼を伸ばして、手馴れた様子で扉を閉めた。

聖アルフォンソ学院 アルファルド寮。
今日の講義が全て終わったジャワハルワールが寮に戻ってくる。
廊下で何名か傍を通過したが、互いに目に入らなかったように擦れ違った。
自室のドアを開けると、大歓迎の声に迎えられた。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

ジャワハルワールが鳥カゴを開ける。
オウムは羽ばたいて、ジャワハルワールの肩に止まった。
小麦色の顎に、オウムがすりすりと頬を寄せた。
ジャワハルワールはされるまま、オウムを暫し見つめる。
肩乗りオウムを連れて、部屋を出た。
廊下でアルファルド寮のバトラーに出会う。

「ジャワハルワール様、お電話でございます。
 お時間がある時に、通信室へお向かい下さい」

一礼して、バトラーが去って行く。
ジャワハルワールとオウムは寮を出て、通信室へ向かった。
キャンパス内は放課後の伸びやかな雰囲気に包まれている。
夕食までの間を友人とカフェで過ごしたり、
ジムや図書館へ出向く生徒達が行き交っていた。

聖アルフォンソ学院 通信室。
生徒が電話をする時に使用する場所だ。
外部から掛けられた電話は全て交換台に繋がる。
交換台に呼ばれた生徒は指定されたブースに入り、電話をすることになっていた。
ジャワハルワールは交換手の前に立つ。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

片翼を上げ、愛想の良いオウムが叫んだ。
交換手は笑顔でナンバープレートが付いたカードキーを渡す。

「はい。ジャワハルワール様ですね。6番ブースへどうぞ」

ジャワハルワールがキーを受け取り、ブースへ入った。
電話中、オウムは喋らず、静かに待っていた。
オモチャを見つけたからだ。机に備え付けのメモ帳。
クチバシで一枚破る。紙を咥え、床に着地する。
オウムは紙を破いて遊ぶのが好きだった。
口と足を使って一枚を二枚に破る。
びりびりり。クチバシに伝わる振動にゾクゾクする。
後は思うがままに、紙を小さく小さく破いていく。
両翼でそれを一箇所に集める。
小さな山ができると、翼で風を起こす。
ふわっと紙が舞った。キレイ。オウムは両の翼を広げた。
必技 オウム紙吹雪。効果は特になし。
散らばった紙をまた両翼で一箇所に集める。
飽きずに5回程繰り返したところで、電話が終わった。
ジャワハルワールは床に散らばっているメモ帳の残骸を見下ろす。
はっと気付いたオウムが、黒い瞳で彼を見上げている。
一羽と一人の間を静寂が通り過ぎる。
ジャワハルワールは無表情のまま、片膝を着いた。
オウムが散らかした紙を綺麗に拾い集め、ゴミ箱へ入れた。
ジャワハルワールはオウムに腕を差し出す。
手首の近くにオウムが飛び乗る。
ジャワハルワールはすっと立ち、手を肩に添える。
オウムの足がひょこっと手から肩に渡る。
通信室を後にして、月桂樹の森へと向かった。


聖アルフォンソ学院 月桂樹の森。
キラキラする木漏れ陽の中、ジャワハルワールとお散歩。
肩乗りオウムは今日あった出来事を一方的に報告する。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

オイラ、今朝、あの赤いキラキラを盗んだ泥棒を見た。
あれ、キレイだから、お前にあげようと思ってたのに。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

植物園のキラキラは今日もゲットできなかった。
でもいつか絶対お前にプレゼントするから待ってろよ。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

午後は水浴びしてたんだ。ほら見て見て。
な。今日のオイラ、ピカピカ。オイラ、キレイ。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

でもさでもさ、聞いてくれよ!
オイラ、馬に睨まれて、王子様に弄ばれた!

「オレのナマエはジャワハルワール!」

でもこれって、ナイチンゲール達には黙っといた方が良いかな?
お前もあいつには騙されんなよ…って、なあなあ、ジャワ、聞いてんの?

ジャワハルワールは木陰で足を止めた。
腰を降ろして幹に凭れる。
手を肩に寄せる。オウムはひょこっと肩から手に移動する。
ジャワハルワールはオウムの黒い瞳を暫し見つめる。
白い翼に小麦色の指を通し、優しく撫でた。
オウムにとって人とのスキンシップは生死を左右する程に重要だ。
日に一時間以上、しっかり構って貰えないと、淋しくて自ら羽根を抜いてしまう。
孤独を感じたオウムが、翌朝、血だらけになって倒れていることもある。
人間と同様に長命で淋しがり屋のオウム。
長年、毎日構って付き合える忍耐がなければ飼い主にはなれない。
オウムの飼育が困難な理由は此処にある。
ジャワハルワールのオウムが自ら羽根を抜いたことは今までに一度もなかった。
この褐色の手は毎日優しく翼を撫でてくれた。
ぽかぽかの午後。ピカピカの木漏れ陽。
森の中でジャワハルワールと一緒。
オウムは、人間みたいにクチバシでジャワハルワールに触れてみたかった。
でも、クチバシで突いたら、ジャワハルワールを穴だらけにしてしまう。
人間側も鳥の病気の感染予防に、唇で鳥に触れることはできない。
人間と鳥では、翼に触れることが最大のスキンシップになる。
オウムは羽根に触って貰うことが好きだった。
小麦色の大きな手はあったかい。オウムは嬉しい。
ゴキゲンで歌でも歌おうかなとクチバシを開く。

「オレのナマッ…」

ちょっ、ジャワ、そこはダメだって。こんなトコで触るなんてダイタン過ぎ。
オイラが一曲聞かせてやろうと思ったのに、こ、これじゃ歌えない。

「オレのッ…」

此処が何処だか解ってる? 森だよ? ほら、ナイチンゲールもすげー見てるし。
どんだけ羞恥プレイだと思ってんだよ。オイラ、恥ずかしいっ。

「オレッ…」

ナイチンゲール達が高い声で鳴いている。
笑われた。ジャワのバカ。オイラ、明日から森で笑われ者になっちゃうだろ。


その時、遠くから足音が近付いて来た。

「ナイチンゲールはね、『恋の歌を歌う鳥』と呼ばれてるんだ」

隣の小道から聞き覚えのある柔らかな声。オウムがガン見した。
ウーティス寮の方から歩いてきたのは王子様と泥棒だった。

「へえー。恋の歌なんて、ロマンチックだね」

あ。ナイチンゲール達が王子様をうっとり見てる。
騙されるな! そいつ馬好きなんだぞ!

「耳を澄ましてごらん、ユウタ。なんだかそう聞こえてこない?」

いや、それ、さっきまでオイラをせせら笑ってただけ。
…って、うわあー! ナイチンゲールが急にラブソング歌い始めた!?
王子様の前だからって、調子良過ぎるぞ、ナイチンゲール!

「うん。ほんと、可愛い声だねっ」

何も知らない王子様と泥棒の平和な後ろ姿をオウムは見送る。
あれ? そう言えば、羽根を撫でる手が止まっている。
振り返ると、ジャワハルワールはオウムを抱いたまま、眠っていた。
オウムはそうっとジャワハルワールの腕から翼を引き抜く。
傍に落ちていた自分の羽根。それを一枚、ジャワハルワールの腹に乗せる。
そう言えば、そろそろキラキラの時間だ。
オウムは羽ばたいて、近くにある第二の我が家まで飛んでいった。


同じく月桂樹の森。
少し居眠りしていたジャワハルワールが目覚める。
オウムが居ない。ふと見ると、腹の上に白い羽根が乗っていた。
それを手に取って、胸ポケットに差す。
もうすぐ夕食の時間だった。ジャワハルワールは食堂へ向かった。


白い翼を畳み、オウムが降り立ったのは自分の巣。
月桂樹の枝で作ったものだ。
自分の羽毛の他に、自慢のコレクションが鎮座している。
ボタン、指輪、コイン、腕時計、タイピンなど。
夕暮れのおひさまに当たって、キラキラがもっとキラキラする。
白い尾っぽを左右に揺らす。
オウムは夕陽に反射するコレクションを眺めるのが好きだった。

「増えてるな」

オウムの頭上から人間の声がした。こんな高い木なのに上れる人間が居るのか。
ぐいっと見上げると、幹に背を預け、二つ上の枝で足を伸ばしている生徒が居た。
黒髪で、鷹のように鋭い瞳。こいつ知っている。
赤いキラキラを泥棒された時に一緒に居た奴だ。
オウムは其処まで飛んで、威嚇する。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

生徒は後頭部に手を回す。冷静な声で言う。

「俺は光り物に興味はない」

「オレのナマエはジャワハルワール!」

「落ち着け。これでも食うか?」

生徒は月桂樹の葉を差し出す。明るい色の新芽だ。
オウムは月桂樹が好きだった。
葉っぱは何でも好きだけど、この葉はオトナの味。
オウムは生徒が居る枝に止まる。クチバシで葉を受け取ってちょっと離れる。
生徒の様子をじっと観察しながら、むしゃむしゃ食べ始めた。
生徒はフッと笑った。

「お前の名前も、ジャワハルワールなのか?」

「オレのナマエはジャワハルワール!」

「お前、ヘンなオウムだな」

再び微笑むと、その位置から風を切って、地面に飛び降りた。
オウムは目を疑う。人間技とは思えない身のこなしだ。
あいつ、人間の格好してるけど、ほんとは猿の仲間?
でも月桂樹の葉は美味しい。オイラが葉っぱ好きなの知ってたのかな。
あいつ、ヘンだけど、ちょっとイイ奴かも。
月桂樹を食べながら、ヘンな奴の後ろ姿を見送る。
オウムは頭を捻る。泥棒の仲間なのに、月桂樹をくれた。
なんか人間って解らない。
夕陽が落ちていた。空に一番星が光る。お星様もきらきらキレイ。
カラスが鳴く。もう晩ご飯の時間だ。おうちに帰ろう。


聖アルフォンソ学院 アルファルド寮 食堂。
夕食が終わったジャワハルワールは鳥用の皿を持って、すっと席を立つ。
やはり一言も喋らずに、自分の部屋と戻った。
自室のドアを開けると大歓迎の声に迎えられた。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

ジャワハルワールは鳥カゴを開ける。キイと音が鳴る。
同じ台詞を繰り返す鳥の前に、持ってきた皿を置いた。
今日の晩ご飯はレタスだ。
鳥カゴを閉めると、オウムは両の翼を広げた。
オウムはレタスが好きだった。
足で上品にレタスを持って、一口ずつ食べる。
このレタスは島特産の新鮮なレタス。やっぱり瑞々しさが違う。
ジャワハルワールはベッドに座る。
足を伸ばして壁に背を預けながら、本を読み始めた。
部屋には、レタスを啄ばむ音と、ページを繰る音。
晩ご飯が終わったオウムは鳥カゴを開けて、ベッドに飛んで行く。
オウムがジャワハルワールの手に頭突きする。

「オレのナマエはジャワハルワール!」

ジャワハルワールは片手でページを捲り、もう片方の手でオウムの頭を撫でる。
小麦色の指は優しく冠羽から頬へ、翼へと降りてくる。
あったかい手に撫でて貰ってオウムは満足した。
今度はオウム用の毛布に包まって遊び始めた。
毛布の中から首を出したり、引っ込めたりを繰り返す。
ジャワハルワールは本を読んでいる。
オウムは毛布から首を出したり、引っ込めたり。
毛布を被ったまま、ベッドの上を歩いてみたりする。
ジャワハルワールは本を読んでいる。
ちょっと飽きてきたオウムは、ジャワハルワールの膝に乗り、足の方へ歩き始めた。
先まで行くと膝まで戻ってくる。10回程繰り返したところで、
パタンと本が閉じられた。

オウムは翼を広げて、ぴとっとジャワハルワールの胸にくっつく。
触って触って、という要求にジャワハルワールは応じる。
羽根一枚一枚に触れるように、時間を掛けて丁寧に翼を撫でた。
オウムは安心する。だんだん眠たくなってくる。
オウムの前にジャワハルワールの腕が差し出される。
オウムが乗ると、ジャワハルワールは立ち上がって、鳥カゴの中にオウムを戻した。
ジャワハルワールが扉を閉める。おやすみの時間みたいだ。
今日もお腹いっぱい食べて、いっぱい遊んだ。いいゆめ見れそう。
オウムの黒い瞳はジャワハルワールの背中を見つめていた。
金色の髪。キレイ。ジャワの髪が一番キラキラだ。

ジャワハルワールは部屋の電気を消す。
ベッドに向かう前、もう一度、鳥カゴの前に立った。
ジャワハルワールは鳥カゴの隙間から指を伸ばして、
オウムの黄色い頬を撫でた。

「愛してる」

オウムは両の翼を広げた。

「アイシテル! アイシテル!」

オウムはジャワハルワールが一番好きだった。


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]