×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■テオ×クラウス
8月12日夜。シュヌーシア寮は海の上にあった。
テオが寮ごと誘拐してきた寮生達は、
テオ所有のクルザーで、わいわいと船上の立食ディナーを楽しんでいた。
「テオ、テオー。これ、めちゃくちゃウマイ!」
「良かった。どんどん食べておくれ」
「テオ、このハンバーグみたいの何?」
「気に入ったかい? 葡萄の葉で作ったドルマだよ」
肉や野菜を葉で包んだギリシア料理。
他にもテオの故郷の料理がテーブルいっぱいに並んでいる。
テオのリクエストにより、シュヌーシア寮のシェフ、
ドニ・ドームが3日前から下準備した料理。
潮風の中で食べるそれは、より一層美味しいものだった。
口許を汚しながら貪る中等部の頭を小突く高等部。
病弱な生徒に上着を羽織らせる生徒、料理を取り合う生徒など。
海上でも変わらず、シュヌーシアのいつもの光景が見られた。
楽しそうな面々を見て、テオは満足していた。
舳先で溜め息を吐いている人を見付けたテオは、
シャンパングラスを二つ持って、舳先に向かった。
「クラウス。船酔いしてるのかい?」
「遣り残してきた予習が気になるだけだ」
舳先で憮然として海を眺めていたのは、高等部2年のクラウス。
どうにも生真面目な性格で、いつも何かに追われているような人だった。
大らかな性格で、家族も似たような性質だったテオにとっては、
クラウスはとても凛々しく、新鮮な存在だった。
テオが微笑んでシャンパンを差し出す。
「私は明日できることは今日しない主義だよ?」
「俺は今日できることは明日に残したくない主義だ」
クラウスは渋々グラスを受け取った。淡い金色のジュースに口付ける。
「それで? なんなんだ、今日は。また急に大勢連れ出して」
「おや。熱烈なことを」
「熱烈?」
「解ったよ、クラウス。今度連れ出すのは貴方だけにする」
「…そういう意味では」
きらきらしい笑顔の隣は苦々しい。
「今日はね、ペルセウス座流星群が最も美しく見られる夜なのだよ」
「流星群? 流れ星のことか?」
「そう。たくさんの星が降るから、こちらもたくさんで愛でようと思ってね」
愛情に満ちた眼差しで星空を見上げていた。
テオが言うには、一年のうちで最高の流星群が今日だと言う。
三大流星群と呼ばれるものがあるようだ。
1月のしぶんぎ座流星群、8月のペルセウス座流星群、12月のふたご座流星群。
このうち夏に見られるペルセウス座流星群がテオは一番好きだと言う。
夏の海で見る流星群はそれはそれは豪華で壮麗、らしい。
「皆、22時頃になったら一緒に流れ星探しをしよう。
今日は極大日だから、10分に1つは見られると思うよ」
テオの言葉通り、今夜は信じられないほど星が流れた。
流星群を見るのが初めてという生徒が多かった。
「あっ!」「ドコッ!?」ひとつ流星を発見する度に歓声が上がる。
そうかと思えば、星よりデザートと、口に運んでいる生徒も居る。
ミロピタというギリシャのアップルパイ。手掴みで、ぱくついていた。
それぞれに年に一度の、天体芸術の夜を楽しんでいるようだった。
クラウスにとっても流星群は物珍しく、最初は嫌々付いて来たものの、
まるで飛行機雲のように、星が長く尾を引く様子には目を見張った。
片手には食後に用意されたギリシャスタイルのグリークコーヒー。
細かく挽いたコーヒー豆を直火で煮出したもの。
カップの底には粉砕された豆が沈殿しているので、上澄みだけを飲むコーヒーだ。
味は濃く酸味も強い為に、砂糖を多く入れて飲むのが一般的だそうだ。
ブラック党のクラウスは控えめに入れたくらいで丁度良かった。
「なかなか難しいな。今宵なら成功するかと思ったのだけど」
主催者のテオが浮かない顔だ。
暫くの間、皆と一緒に流星探しをしていたのだが、
徐々に太陽の笑顔には曇が懸かっていた。
どうせ他愛の無いことで困っているのだろうが。
クラウスは二杯目のグリークコーヒーを持って、肩に手を置いた。
「どうした、テオ」
「ああ、クラウス。実はね、私、ニッポンの伝説を聞いたんだ」
クラウスは肩を竦める。テオはオリエンタル愛好者だ。
最近もキョウゲンという伝統芸能のDVDを見せられたのだが、
クラウスには理解し難いものだった。
テオは適確に返事をしながらも、目は星空から離していない。
「伝説では、流れ星が消える前に3回願いを唱えると叶うのだって」
随分前向きな伝説だ。マッチを売っていた少女は、
流れ星を見て、「誰かが天に召された」と思うのに。
「…それはメルヘンチックというか、如何にもお前が好きそうな伝説だな」
「私、何度も挑戦しているのだけど、3回どころか1回も言えないのだよ」
「願い事が長過ぎるんじゃないのか?」
「そうだね。もっと短くすれば良いのかな。もっと早口で言うとか…」
真剣にそう言っているらしい友人を見て、クラウスは少し笑ってしまった。
流星が見える時間は、せいぜい1秒。3回など言える筈がない。
しかし、生真面目にそう言ってしまっては、テオの楽しみが終わってしまう。
「ところで、お前の願いって何なんだ、テオ」
「それはもちろん」
言い掛けてテオは慌てて口を押さえた。
「テオ?」
「危ないところだった。すまない、クラウス。
星に掛ける願い事はね、人に言ってはいけないんだ。
口に出してしまうと、叶わないのだって」
「ふうん。変わったルールのある伝説だな。まあ、お前にとっては、
そこがミステリアスで良いとか言うんだろう?」
「うん。私、もう少し挑戦してみるよ」
他の生徒達は流星を幾つ見付けたとか、
あれは何座だとか楽しそうに星空を眺めていた。
テオ一人が不安な表情で星を見上げている。
それに気付いているのはクラウスだけのようだ。
数十分後、テオはがっくりと肩を落として、
すごすごとクラウスの元へ帰って来た。
クラウスは苦笑しつつ、友人を見やる。
「駄目だったのか、3回の願い事は」
「うん。全然駄目だったよ。私の願いは叶わないのだろうか。
…ああ、一体私はどうしたら」
「そんなことで、落ち込むなよ、テオ」
「あっ」
「どうした?」
「いや、あのね、クラウス」
「ん?」
黄金の髪が潮風になびく。
「また来年の夏も、一緒にペルセウス流星群を見てくれるかい?」
「なら、お前が攫いに来い」
クラウスは、黄金の髪を、ぽんと叩いた。
「似合わないぞ、テオ。嫌だと言っても誘拐するくせに」
腕を組んで、星空を見上げる。
「来年は俺も最高学年か。早いものだな」
静かな波音。夜の海が静かに揺れている。
テオは微笑みながら呟いた。
「なんだ…最初からこうすれば良かったのだね」
「何のことだ?」
「私の願いを叶えてくれるのは、いつもクラウスだなと思ってね。
これからも私の願いを叶えておくれ? クラウス」
隙間の無い星空に、またひとつ星が流れた。
fin
8月12日夜。シュヌーシア寮は海の上にあった。
テオが寮ごと誘拐してきた寮生達は、
テオ所有のクルザーで、わいわいと船上の立食ディナーを楽しんでいた。
「テオ、テオー。これ、めちゃくちゃウマイ!」
「良かった。どんどん食べておくれ」
「テオ、このハンバーグみたいの何?」
「気に入ったかい? 葡萄の葉で作ったドルマだよ」
肉や野菜を葉で包んだギリシア料理。
他にもテオの故郷の料理がテーブルいっぱいに並んでいる。
テオのリクエストにより、シュヌーシア寮のシェフ、
ドニ・ドームが3日前から下準備した料理。
潮風の中で食べるそれは、より一層美味しいものだった。
口許を汚しながら貪る中等部の頭を小突く高等部。
病弱な生徒に上着を羽織らせる生徒、料理を取り合う生徒など。
海上でも変わらず、シュヌーシアのいつもの光景が見られた。
楽しそうな面々を見て、テオは満足していた。
舳先で溜め息を吐いている人を見付けたテオは、
シャンパングラスを二つ持って、舳先に向かった。
「クラウス。船酔いしてるのかい?」
「遣り残してきた予習が気になるだけだ」
舳先で憮然として海を眺めていたのは、高等部2年のクラウス。
どうにも生真面目な性格で、いつも何かに追われているような人だった。
大らかな性格で、家族も似たような性質だったテオにとっては、
クラウスはとても凛々しく、新鮮な存在だった。
テオが微笑んでシャンパンを差し出す。
「私は明日できることは今日しない主義だよ?」
「俺は今日できることは明日に残したくない主義だ」
クラウスは渋々グラスを受け取った。淡い金色のジュースに口付ける。
「それで? なんなんだ、今日は。また急に大勢連れ出して」
「おや。熱烈なことを」
「熱烈?」
「解ったよ、クラウス。今度連れ出すのは貴方だけにする」
「…そういう意味では」
きらきらしい笑顔の隣は苦々しい。
「今日はね、ペルセウス座流星群が最も美しく見られる夜なのだよ」
「流星群? 流れ星のことか?」
「そう。たくさんの星が降るから、こちらもたくさんで愛でようと思ってね」
愛情に満ちた眼差しで星空を見上げていた。
テオが言うには、一年のうちで最高の流星群が今日だと言う。
三大流星群と呼ばれるものがあるようだ。
1月のしぶんぎ座流星群、8月のペルセウス座流星群、12月のふたご座流星群。
このうち夏に見られるペルセウス座流星群がテオは一番好きだと言う。
夏の海で見る流星群はそれはそれは豪華で壮麗、らしい。
「皆、22時頃になったら一緒に流れ星探しをしよう。
今日は極大日だから、10分に1つは見られると思うよ」
テオの言葉通り、今夜は信じられないほど星が流れた。
流星群を見るのが初めてという生徒が多かった。
「あっ!」「ドコッ!?」ひとつ流星を発見する度に歓声が上がる。
そうかと思えば、星よりデザートと、口に運んでいる生徒も居る。
ミロピタというギリシャのアップルパイ。手掴みで、ぱくついていた。
それぞれに年に一度の、天体芸術の夜を楽しんでいるようだった。
クラウスにとっても流星群は物珍しく、最初は嫌々付いて来たものの、
まるで飛行機雲のように、星が長く尾を引く様子には目を見張った。
片手には食後に用意されたギリシャスタイルのグリークコーヒー。
細かく挽いたコーヒー豆を直火で煮出したもの。
カップの底には粉砕された豆が沈殿しているので、上澄みだけを飲むコーヒーだ。
味は濃く酸味も強い為に、砂糖を多く入れて飲むのが一般的だそうだ。
ブラック党のクラウスは控えめに入れたくらいで丁度良かった。
「なかなか難しいな。今宵なら成功するかと思ったのだけど」
主催者のテオが浮かない顔だ。
暫くの間、皆と一緒に流星探しをしていたのだが、
徐々に太陽の笑顔には曇が懸かっていた。
どうせ他愛の無いことで困っているのだろうが。
クラウスは二杯目のグリークコーヒーを持って、肩に手を置いた。
「どうした、テオ」
「ああ、クラウス。実はね、私、ニッポンの伝説を聞いたんだ」
クラウスは肩を竦める。テオはオリエンタル愛好者だ。
最近もキョウゲンという伝統芸能のDVDを見せられたのだが、
クラウスには理解し難いものだった。
テオは適確に返事をしながらも、目は星空から離していない。
「伝説では、流れ星が消える前に3回願いを唱えると叶うのだって」
随分前向きな伝説だ。マッチを売っていた少女は、
流れ星を見て、「誰かが天に召された」と思うのに。
「…それはメルヘンチックというか、如何にもお前が好きそうな伝説だな」
「私、何度も挑戦しているのだけど、3回どころか1回も言えないのだよ」
「願い事が長過ぎるんじゃないのか?」
「そうだね。もっと短くすれば良いのかな。もっと早口で言うとか…」
真剣にそう言っているらしい友人を見て、クラウスは少し笑ってしまった。
流星が見える時間は、せいぜい1秒。3回など言える筈がない。
しかし、生真面目にそう言ってしまっては、テオの楽しみが終わってしまう。
「ところで、お前の願いって何なんだ、テオ」
「それはもちろん」
言い掛けてテオは慌てて口を押さえた。
「テオ?」
「危ないところだった。すまない、クラウス。
星に掛ける願い事はね、人に言ってはいけないんだ。
口に出してしまうと、叶わないのだって」
「ふうん。変わったルールのある伝説だな。まあ、お前にとっては、
そこがミステリアスで良いとか言うんだろう?」
「うん。私、もう少し挑戦してみるよ」
他の生徒達は流星を幾つ見付けたとか、
あれは何座だとか楽しそうに星空を眺めていた。
テオ一人が不安な表情で星を見上げている。
それに気付いているのはクラウスだけのようだ。
数十分後、テオはがっくりと肩を落として、
すごすごとクラウスの元へ帰って来た。
クラウスは苦笑しつつ、友人を見やる。
「駄目だったのか、3回の願い事は」
「うん。全然駄目だったよ。私の願いは叶わないのだろうか。
…ああ、一体私はどうしたら」
「そんなことで、落ち込むなよ、テオ」
「あっ」
「どうした?」
「いや、あのね、クラウス」
「ん?」
黄金の髪が潮風になびく。
「また来年の夏も、一緒にペルセウス流星群を見てくれるかい?」
「なら、お前が攫いに来い」
クラウスは、黄金の髪を、ぽんと叩いた。
「似合わないぞ、テオ。嫌だと言っても誘拐するくせに」
腕を組んで、星空を見上げる。
「来年は俺も最高学年か。早いものだな」
静かな波音。夜の海が静かに揺れている。
テオは微笑みながら呟いた。
「なんだ…最初からこうすれば良かったのだね」
「何のことだ?」
「私の願いを叶えてくれるのは、いつもクラウスだなと思ってね。
これからも私の願いを叶えておくれ? クラウス」
隙間の無い星空に、またひとつ星が流れた。
fin
PR