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Marginal Prince Short Story
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■ジブリール×ヤン
ヤンの紙飛行機 続編
新しい生徒代表が決まる朝。
ジブリールが朝食から部屋に戻ると、ドアに一通の封筒が挟まっていた。
上質な便箋には生徒代表室に来るようにと書いてあった。
無表情なまま、その文章を読み、アルファルド寮を後にした。
サロンを通ると、珍しく寮生達の顔があった。
ジブリールに対し、声を掛ける生徒は居なかった。
その方がありがたい。祝辞や激励など掛けられた方が対応に困る。
無言の見送りを背中で感じながら、寮を出て、その場所へと向かった。

生徒代表室の扉を開けると、壁に凭れて窓の外を眺めている生徒が一人居た。
今年度の生徒代表だった、ヤン・ハシェクだ。
眼鏡を通した灰色の瞳は穏やかに後継者を見つめた。
「いらっしゃい。やっぱり君だったね、ジブリール」
壁からゆっくりと身を起こし、静かな靴音を響かせながら、
ヤンはジブリールの前に立った。
「ジブリール・アブル・アルファマード。運営組織は貴方を生徒代表に任命します。
 任務で知り得た全ての情報を、運営組織以外には話さないと誓いますか?」
「ああ」
後継者の返事に、ヤンは頷いて、再び口を開く。
「あ、えっと…」
「どうした?」
「あれ。なんだったかな? 続きの台詞」
「俺に聞かれても困る」
「そうだよねえ…あ、ちょっと待って」
ヤンはこそこそとメモを取り出して覗き見た。
「んっと『この学院の平和と秩序を守る為に、全力を尽くすと誓いますか?』だね」
「お前…数字は覚えられるのに、そんな短い台詞も覚えられないのか」
「ごめんね、僕、ほんとダメだよね」
「話を前に進めよう。学院の為に全力を尽くすことを誓う」
「ありがとう。ジブリール。今日から生徒代表だよ。おめでとう。
 君なら、僕なんかよりしっかりしてるから、きっといい生徒代表になれるよ」
「そうか」
「うん。じゃあ、運営組織について説明するね。
 僕、説明するのも上手くないから、わかんないとこあったら聞いてね?」
「ああ」
「最初は生徒代表室について話そうかな。あ、この部屋のことなんだけどね。
 ええっと…あ、あの電話は、仕事以外では使っちゃダメなんだって。
 でも、僕、何回か普通に使っちゃったけど。別に何も言われなかったよ」
「聞きたいことがある」
「えっ。もうわかんないとこあった? ごめん。僕、説明下手だよね…」
「お前、いつ、島を発つんだ?」
「僕? 僕はこの任命式が終わったら、すぐだよ?」
「そうか」
「どうしたの、ジブリール?」
「空港まで、見送りに行っても構わないか?」
「ほんと? 嬉しいな」

聖アルフォンソ島の空港。
ヤン一人を乗せるだけに来た単独チャーター機。
搭乗口まで来てしまったジブリールは無造作に紙を差し出した。
「これ」
「なあに?」
「『月桂樹の森』だ」
「森?」
「歌詞とタイトルを考えろと言ったのはお前だぞ、ヤン」
以前、ヤンが草笛で奏でた曲。
曲しか作っていないので、後はジブリールに決めて欲しいと言われていた。
ヤンは紙に書かれたジブリールの繊細な文字を眺める。
「覚えててくれたんだ。ありがとう。これで曲が完成するね」
洗練された歌詞が綴られている。しかしタイトルは変わっていなかった。
「あれ? ジブリール、タイトルは決めてくれなかったの?」
「そのタイトルが一番良いと思った」
「ほんと? なんだか照れちゃうな」
「ヤン。元気で」
「うん。ジブリールも。見送りまでしてくれてありがとう」
ヤンは搭乗口の向こうに消えて行った。

生徒代表としての日常にも慣れてきた頃。
天気の良い日曜日に、ジブリールは新入生の学院案内をしていた。
今日入学した生徒は背筋が良く、見るからに真面目そうな奴だった。
均整の取れた肢体から、相当運動神経が良さそうだということが伺えた。
二人は月桂樹の森に入った。
木々の間に注がれる木洩れ陽と鳥の歌声。
ジブリールは、この時初めて常との違いに気が付いた。
「そういう、ことか」
「どうしたんです? ジブリール」
森の中を柔らかな風が通り抜ける。
「俺の前の生徒代表がこう言っていたんだ。
 新入生の中に一人だけ特別な生徒が居た。
 彼が森に来るとナイチンゲールの歌声が大きくなったと」
「ナイチンゲールの声、ですか?」
「丁度、今のようにな」
手折った月桂樹の枝を新入生の胸に差す。
「さあ、寮に戻ろう」
「あ、はい」
新入生をシュヌーシア寮まで送り届ける。
扉の向こうに消える背中を見ながら、ジブリールは呟いた。
「クラウス・フォン・モール、か」

新入生と別れた後。
自分が住むアルファルド寮には戻らず、生徒代表室へ向かった。
思い出したことがあった。
生徒代表室の扉を開け、自分の席に座る。机の上で手を組み、顔を上げる。
猛禽類のような鋭い瞳は壁一面に飾られた肖像画を一枚一枚眺めている。
組んでいた手が解かれる。
その手をポケットに入れて、ジブリールは夕暮れの城壁へと向かった。
古びた壁の上に上る。海に落ちる夕陽が見えた。
眼下にはオレンジの水面が輝いている。
オレンジの光を浴びながら、ジブリールは一枚の紙を折っていた。
やがて出来たのは紙飛行機。
「お前の分も入れておいたぞ、ヤン」
手に持った紙飛行機。
真っ直ぐと海に向けて、手を離した。
「クイズの回答だ」
紙飛行機は風に乗り、オレンジの海へと飛んで行く。
その翼には三桁の数字が刻まれていた。


fin
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