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■エドガー×ヤン
シュヌーシア寮サロンにエドガーが遊びに来ていた。
サロンにはたくさんの生徒が居た。
就寝前までのひとときを、生徒達は自由に過ごしている。
エドガーはウーティス寮だが、こちらにもよく顔を出すので、
中等部の生徒にもいつのまにか懐かれていた。
シュヌーシアの中等部は大きく分けて、
極端に人懐っこいのと、極端に人見知りな奴に二分されるようだった。
ウーティスの後輩達と比べると、なんとなく幼くて微笑ましい。
エドガーの膝の上にはシュヌーシアの中等部が一人乗っていた。
勝手に椅子にされてしまい、エドガーは動けなくなっていた。重い。
二人の前には薄い教科書がでんと開かれている。
最高学年のエドガーは唸っていた。
「てゆうか、これ何語?」
後輩は可笑しそうに笑って、先輩を振り返る。
「中等部の数学だよ? エド、解んないの?」
エドガーはこの学院に来て以来、数学の類とは縁を切っていた。
好きな科目を履修できるので、わざわざ苦手科目を取る必要がなかったからだ。
「んなもん俺が知るか」
「エド、一番年上なのにー」
「あのなあ。最高学年だからって何でも知ってるわけじゃないんだよ」
「えー。ヤンは何でも知ってるよー」
ヤン・ハシェク。シュヌーシア寮の最高学年で生徒代表。
ぼーっとした見た目とは裏腹に、数学においては、
優秀な頭脳が集まるこの学院の中でも右に出るものはいない。
ただ神は二物を与えないようで、
数学以外の知識や常識はあちこち怪しかったが。
「ヤンと俺を一緒にするな。あいつは天才だろうが」
「えっ? エドもヤンのこと天才だと思ってたの?
エド、ヤンのこといつもバカバカ言うじゃん」
「バカと天才は同じイミなんだよ」
「なんでさ? 対義語じゃないの?」
「大人になったら解るよ」
「エドだって大人じゃないじゃん」
「お前よりは大人だよー」
他の生徒が声を上げた。
「あっ、ヤン帰って来た!」
生徒代表室帰りらしいヤンがサロンに顔を出した。
サロンのあちこちから「おかえりー」「おつかれー」と声が掛かる。
ヤンはのんびりとした声で「あ、うん。ただいま」と返していた。
エドガーの膝が突然軽くなる。
膝に乗っていた後輩は、ヤンに向かって駆け出していた。
そのままヤンの腹めがけて、ぶつかる。
「ヤンー。勉強教えて。エドに聞いても解らないの」
エドガーはぷいと顔を背ける。
「悪かったな、役立たずな先輩で」
ヤンは苦笑しつつ、中等部の隣に座る。
「んと。どこが解らないの?」
「全部。もう僕、どこが解らないのか解らない」
「そっか。じゃ、最初からゆっくり解いていこうか」
「うんっ!」
のんびりとしたヤンの性格は物を教えることに長けていた。
イライラすることなく、中等部に付き合える。
子供に昔話でも聞かせるように、ひとつひとつ丁寧に説明していた。
エドガーはそんな先輩後輩を眺めながら、クッキーをつまんでいた。
「あっ。そっか!」
歓声が上がる。後輩は笑顔で先輩を見上げた。
「僕、解った!」
「うん。よくできたね。お疲れさま」
「ヤン、すごい。ヤンの説明、先生より解り易かった」
「そんなことないよ。先生に聞いてもおんなじ説明すると思うし」
「だって、あの先生には聞けないもん。顔、コワイし」
ヤンは苦笑する。
「本当は優しい先生なんだよ? あの先生も」
教科書を片付けながら、後輩は急に申し訳なさそうに言った。
「ヤン、いっつも聞いてごめんね。
ヤンにはつまんないことばっかりだよね…」
「ううん。いいんだよ、そんなこと気にしなくて。
僕はこんな方程式もあったなって懐かしいし。
それに僕も、先輩にこうやって、教えて貰ってたんだよ?
だから君も先輩になったら、後輩の子に教えてあげて?
シュヌーシアは伝統的にそういうとこだしさ。
これって、いい伝統だと思わない?」
「うん。でも僕、別にそんなに得意科目もないし…」
「そんなことないよ。君はたくさん国の名前知ってるでしょ?
この前は86か国も言えてたし」
「え。僕、そんなに言ってた?」
「うん。すごいよね、世界の国の半分も覚えてるなんて」
以前サロンで、この生徒は国の名前を暗唱して遊んでいた。
それはエドガーも見掛けていた。
隣でヤンが数えていたので、またこいつは、と思った記憶があった。
「それじゃ、僕、もう寝るね。おやすみ、ヤン」
「うん。おやすみ」
他の中等部も数名、つられたように退室していった。
エドガーはクッキーを一枚取って、ヤンの隣に座る。
「ヤン、口開けてみ?」
「え、うん」
開いた口にクッキーを押し込む。
「ほい、お疲れ。子守りのごほーび」
fin
シュヌーシア寮サロンにエドガーが遊びに来ていた。
サロンにはたくさんの生徒が居た。
就寝前までのひとときを、生徒達は自由に過ごしている。
エドガーはウーティス寮だが、こちらにもよく顔を出すので、
中等部の生徒にもいつのまにか懐かれていた。
シュヌーシアの中等部は大きく分けて、
極端に人懐っこいのと、極端に人見知りな奴に二分されるようだった。
ウーティスの後輩達と比べると、なんとなく幼くて微笑ましい。
エドガーの膝の上にはシュヌーシアの中等部が一人乗っていた。
勝手に椅子にされてしまい、エドガーは動けなくなっていた。重い。
二人の前には薄い教科書がでんと開かれている。
最高学年のエドガーは唸っていた。
「てゆうか、これ何語?」
後輩は可笑しそうに笑って、先輩を振り返る。
「中等部の数学だよ? エド、解んないの?」
エドガーはこの学院に来て以来、数学の類とは縁を切っていた。
好きな科目を履修できるので、わざわざ苦手科目を取る必要がなかったからだ。
「んなもん俺が知るか」
「エド、一番年上なのにー」
「あのなあ。最高学年だからって何でも知ってるわけじゃないんだよ」
「えー。ヤンは何でも知ってるよー」
ヤン・ハシェク。シュヌーシア寮の最高学年で生徒代表。
ぼーっとした見た目とは裏腹に、数学においては、
優秀な頭脳が集まるこの学院の中でも右に出るものはいない。
ただ神は二物を与えないようで、
数学以外の知識や常識はあちこち怪しかったが。
「ヤンと俺を一緒にするな。あいつは天才だろうが」
「えっ? エドもヤンのこと天才だと思ってたの?
エド、ヤンのこといつもバカバカ言うじゃん」
「バカと天才は同じイミなんだよ」
「なんでさ? 対義語じゃないの?」
「大人になったら解るよ」
「エドだって大人じゃないじゃん」
「お前よりは大人だよー」
他の生徒が声を上げた。
「あっ、ヤン帰って来た!」
生徒代表室帰りらしいヤンがサロンに顔を出した。
サロンのあちこちから「おかえりー」「おつかれー」と声が掛かる。
ヤンはのんびりとした声で「あ、うん。ただいま」と返していた。
エドガーの膝が突然軽くなる。
膝に乗っていた後輩は、ヤンに向かって駆け出していた。
そのままヤンの腹めがけて、ぶつかる。
「ヤンー。勉強教えて。エドに聞いても解らないの」
エドガーはぷいと顔を背ける。
「悪かったな、役立たずな先輩で」
ヤンは苦笑しつつ、中等部の隣に座る。
「んと。どこが解らないの?」
「全部。もう僕、どこが解らないのか解らない」
「そっか。じゃ、最初からゆっくり解いていこうか」
「うんっ!」
のんびりとしたヤンの性格は物を教えることに長けていた。
イライラすることなく、中等部に付き合える。
子供に昔話でも聞かせるように、ひとつひとつ丁寧に説明していた。
エドガーはそんな先輩後輩を眺めながら、クッキーをつまんでいた。
「あっ。そっか!」
歓声が上がる。後輩は笑顔で先輩を見上げた。
「僕、解った!」
「うん。よくできたね。お疲れさま」
「ヤン、すごい。ヤンの説明、先生より解り易かった」
「そんなことないよ。先生に聞いてもおんなじ説明すると思うし」
「だって、あの先生には聞けないもん。顔、コワイし」
ヤンは苦笑する。
「本当は優しい先生なんだよ? あの先生も」
教科書を片付けながら、後輩は急に申し訳なさそうに言った。
「ヤン、いっつも聞いてごめんね。
ヤンにはつまんないことばっかりだよね…」
「ううん。いいんだよ、そんなこと気にしなくて。
僕はこんな方程式もあったなって懐かしいし。
それに僕も、先輩にこうやって、教えて貰ってたんだよ?
だから君も先輩になったら、後輩の子に教えてあげて?
シュヌーシアは伝統的にそういうとこだしさ。
これって、いい伝統だと思わない?」
「うん。でも僕、別にそんなに得意科目もないし…」
「そんなことないよ。君はたくさん国の名前知ってるでしょ?
この前は86か国も言えてたし」
「え。僕、そんなに言ってた?」
「うん。すごいよね、世界の国の半分も覚えてるなんて」
以前サロンで、この生徒は国の名前を暗唱して遊んでいた。
それはエドガーも見掛けていた。
隣でヤンが数えていたので、またこいつは、と思った記憶があった。
「それじゃ、僕、もう寝るね。おやすみ、ヤン」
「うん。おやすみ」
他の中等部も数名、つられたように退室していった。
エドガーはクッキーを一枚取って、ヤンの隣に座る。
「ヤン、口開けてみ?」
「え、うん」
開いた口にクッキーを押し込む。
「ほい、お疲れ。子守りのごほーび」
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