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Marginal Prince Short Story
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■国王×側近←王子
ロレート公国。
国主の邸に、我が国の第一王子、ジョシュア殿下がご滞在されていた。
学院の短い休暇中に足を運んで下さったのだ。
今回はロレートからの招待ではなく、殿下からのご要望だった。
突然のご申し出で、臣下達は驚き慌てたのだが、
殿下の為、すぐに受け入れる準備を整えた。
先日、殿下は正式にこの国の王位継承者として発表された。
殿下の真摯な挨拶と誠実な姿勢が、国民の信頼を得た。
次期国王が決まったロレートは、このところ幸福に満ちている。
もう臣下からも敬愛を受けている。
粗悪な品行の現国王とは全く違うからだろう。
殿下に何かして差し上げると、笑顔で丁寧な礼を言われる。
誰にも分け隔てなく接して下さる。
ジョシュア殿下は、確実にロレートの皆に愛されていた。
今日は国王が不在だった。公式行事で他国へと向かわれている。
国王の側近である私が、ジョシュア殿下のお世話役を仰せ付かっていた。
今回はご学友と一緒にいらしたのだが、今日は別行動。
ご学友はロレートを観光されるらしい。
殿下は私に『話があるので、部屋に来て欲しい』と仰られた。
殿下のお部屋に伺うと、扉が閉まったのを確認して、殿下は言った。

「すみません。わざわざ来て頂いて」

「いえ、殿下。何でもお申し付け下さい。その為に私は居るのです。
 殿下のご滞在中、私は貴方のお世話役なのですから。それで、お話というのは?」

「俺、側に居て欲しいんです。これからも、ずっと」

「殿下…?」

「愛しています、貴方のことを」

殿下は私を正面から抱き留めた。

「俺、どうしても伝えたくて、会いに来たんです、貴方に」

「どうして…殿下が私などを」

「貴方を初めて見た時からです。気付きませんでしたか?
 俺はずっと、叔父が羨ましかった。貴方を側に置ける叔父が。
 貴方のことしか考えられません。愛してる。貴方が好きです」

殿下は私を引き寄せた。真摯な眼差しだった。
予想もしない事態に次にどうすべきかも解らなくなっていた。
唇が塞がれそうになって、やっと声を上げる。

「そんな…殿下、お止め下さい」

「叔父では良いのに、ですか?」

「何を仰るのです。陛下とそのようなことは」

「俺にだって解りますよ。貴方と叔父はただの主従関係ではない。
 それに、俺に嘘を吐くなんて、臣下としては頂けませんね。
 俺は正式な王位継承者ですよ、ラルヴィス中将」

殿下の声が低く聞こえた。
臣下に礼を言った声とは違う。

「王座に即位したら、俺が何を最初にするか解りますか?」

「…解りません」

「俺は、貴方を側近にします」

信じられないお言葉だった。
そのようなこと、あってはならない。
私は陛下と共に死すことを誓った者だ。

「私はカーディス様の、あの御方の側近です」

「ええ。だから俺は、叔父から貴方を奪います。
 それが叶うから、ロレートの王になることを選んだんです」

「そんな…ご冗談としか思えません」

「冗談ではありませんよ。貴方を叔父から奪える唯一の方法です。
 貴方は国王の側近だ。貴方と共にあるには、
 俺が王となり、正式に貴方を俺の側に置きたい」

殿下は私の顎を持ち上げた。
目を見開いていると、殿下の顔が近付いてきた。

「俺の側に居て下さい。俺は貴方に支えて欲しい」

このお顔はカーディス様と似ている。
そんな場違いなことを考えた瞬間、殿下は唇を重ねた。
何が起こったのかさえ解らなかった。
何故、殿下の舌が、私の口内にある。
滑らかに甘いそれは歯列をひと撫でして、自分から離れた。
グラントの血をも引く、深紅の瞳。
熱い瞳で私を見つめている。

「いけません、殿下。このようなお戯れは」

「俺の言うことが聞けないんですか? ラルヴィス中将」

品行方正な殿下が居なくなった。
国民からすぐに支持を受けた第一王子。
お優しい殿下は、あれは演技だったのだろうか。
戸惑う私に気付いた殿下は詫びた。

「すみません…今日はもう止めておきます。
 俺が王位に就けば貴方と一緒に居られる。そう遠くない未来です。
 それまでに、どうか貴方も心の準備をして下さい」

「…このこと、陛下にはお話されたんですか?」

「いいえ。言う必要はありませんよ。
 一人の兵を動かすのに、国王の意思が通らない筈がありません」

「殿下…」

「いつか貴方に『陛下』と呼ばれる日を楽しみにしています。ラルヴィス中将」

そう言い残し、殿下は学院にお戻りになった。
幾日が過ぎ、現ロレート国王がご帰還された。
陛下のお帰りが、これほど待ち遠しく、また恐ろしかったことはない。
殿下に言われたことを、陛下にお伝えすべきか迷っていた。
空が漆黒に染まると、私は陛下の部屋に呼ばれた。
私に課せられた夜の勤めとも言える。
この時間が、義務から麻薬へと感じるようになったのは、もう何年も昔のことだ。
他の従者は皆、下がらせている。
王の寝室。この高貴な部屋には誰も近付けない。
私の王は民には見せない微笑みを向けている。
平静を保ちながら、常のように陛下のお着替えを手伝う。
装束を脱がせ、夜着を持つ。陛下が腕を通す。

「たった数日離れていただけだが、久しく感じるぞ、ラル。
 お前のその鉄面皮は、他国では見受けられなかったからな」

いつもと変わらない陛下の軽口。
帰国して落ち着かれたのか、普段より表情が柔らかい。
私も軽口を返さなくてはいけない。
常ならすぐに思い付くのに、今日に限って頭が回らない。

「ラル? 主との再会に声も出ないか?」

「ご機嫌ですね、陛下」

「ああ。やはり自分の国が一番良い。外へ出ると常にそう思う。
 俺が居ない間、変わりはないか?
 そうだ、ジョシュアが来ていたのだったな?
 俺の甥は元気にしていたか?」

「…ええ」

「では、お前は? 俺以外の者に奪われていないか?」

口の端には笑みが浮かんでいる。
帰国時に決まって言う貴方の冗談だ。私が返す台詞も決まっている。
同じ台詞を言わなくてはならない。

「さあ…どうでしょう」

貴方は笑って、私の顎を取る。陛下の口髭が、私の唇に触れる。
殿下も、私の唇に触れた。
貴方の腕の中で、他の人物を思い出してしまった。
否応なく、あの言葉が脳裏を過ぎる。

――俺は、貴方を側近にします――

王になった殿下が仰れば、その言葉は確実に現実のものとなる。
一臣下の異動など造作ない。私の首など一言で刎ねられる。
そうなれば、私は陛下のお側には居られない。

「カーディス様…」

「ん?」

「いえ…今宵は手加減されているのですか?」

「何?」

「それとも、私が貴方に慣れてしまったのでしょうか?」

「面白い。俺に喧嘩を売っているのか?」

陛下の匂いに包まれる。
今ではこんなにも愛おしく感じている。
私は貴方のものだ。
ずっと、死ぬまでお側に居られると思っていたのに。
不規則な息を吐きながら、私の主を見つめた。

「カーディス様…お慕い、しています…貴方だけを」

陛下はくすりと笑った。

「どうした、ラル。今宵は随分と可愛いな? 昼間もそう囁いて欲しいものだ」

「今、だけです」


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