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■ソクーロフ×アイヴィー
「どうだ。参ったかー!」
アイヴィーが高々に掲げたのはワインボトル。
毎年11月第3木曜日に解禁されるフランスワイン。
昨夜解禁されたボジョレーヌーボーを、アイヴィーがゲットしてきた。
ソクーロフは冷たく言い放つ。
「別に参らん」
「あー!? あんたが買って来いって俺をパシリにしたんじゃん!」
先日、アイヴィーはいつものように保健室へ昼寝をしに行った。
その時に保健医が「そう言えば、今度の木曜日は解禁日だったな」と注文したのだ。
今日は金曜の夜。今年のできたてワインを開けようと、
アイヴィーは教授陣の宿舎、メルキュール館にやってきた。
部屋の主は紫煙を細く吐いた。ソクーロフの煙草はキツイ。
身体を蝕む煙が宙に霧散する。この部屋は、いつ訪ねてもキレイ。
汚れていた日なんて、今までに一度もない。
家主に似て、隙のない部屋だ。
「私はそんなことを言ったか?」
「言った、言った、言いましたー」
「ほう。私の言葉は忘れられないか、アイヴィー」
「なっ何よ、その自信過剰っぷりは…」
「脈拍、平常値の128%に上昇中」
「…センセ、お医者さんごっこはしなくてイイから」
「では止めて良いのか?」
「あー、あのさ? ボジョレー飲もうよ。
俺、せっかく買ってきたんだし。ね?」
アイヴィーはワイングラスに赤のボジョレーを注ぐ。
これは、フランス・ブルゴーニュ地方の最南部、ボジョレー地区で作られたものだ。
2か月前にできたばかりの新酒。渋味は少なく、誰にも飲み易い爽やかなワイン。
ソクーロフは微笑を浮かべたまま、アイヴィーの黒ネクタイを引き抜く。
「ワインの美味しい飲み方を教えてやろう」
開いていたシャツのボタンをもうひとつ開ける。
ブルーのシャツからは、白い素肌が晒される。
「此処を杯にしたワインは絶品だ」
サディストは首許の窪みを指差した。
アイヴィーは引き攣りながら空笑いする。
「ちょっ…あのー、ソクちゃんさ? マジな目して、
そういうサディスティックなジョークは止めてくんないかな?
あんたが言うと、コワ過ぎるから」
「ジョークで終わらせるつもりはないが?」
「ソクちゃん! ヘンタイさんにも程があるって!」
「誰のことだ?」
「あんただよ、あんたっ!!」
「往生際が悪いぞ、アイヴィー」
首許を掴まれて、ソファに押し倒された。視界に天井が映る。
馬乗りされて、ソファがギイと鳴かされた。
ヘンタイさんの右手にはワイングラス。
「マ…マジですか…?」
「動くな、零れる」
ソクーロフのワイングラスが傾く。
薄い縁から一滴、白い鎖骨に赤い液体が落とされた。
その小さな杯に注がれた、一滴の赤ワイン。
冷たくて、思わず目を瞑った。含み笑いが聞こえる。
「ほら、零れてしまった」
鎖骨から、つうと流れていく。
軍人上がりだと解る肉体。無駄のない綺麗な筋肉。
その上には戦禍を生き抜いてきた無数の傷痕。
左胸の上部には大きな古傷が残る。
鎖骨から零れた雫は、細い赤紫の線を描きながら、落ちていく。
紫紺の瞳は愉快そうに見下ろしている。
ソクーロフの舌に這われているような錯覚に陥る。
この身体に刻まれている残滓が甦り、まだ酒も飲んでいないのに身体が火照る。
赤紫の水が煩い心臓の上を這う。
緩やかに波打ちながら、雫は左右に区切られた胸筋の溝へと伝う。
その動きは酷くゆっくりに見えた。胸の間を真っ直ぐに辿る。
予め引かれているラインから、六つに割れた腹筋へ向かう。
腹筋の中央を通る。その先は、へその窪みだ。
其処へ落ちる前に、ソクーロフが身を屈めた。長い髪に肩を撫でられる。
赤い舌先は、へその直前でボジョレーを舐め取った。
アイヴィーは思わず嬌声を漏らした。
サディストは、笑った。
「お前が零したからだろう? ではもう一度」
「や、やだっ! フツーに飲めよ、フツーに!」
「断る。私は気に入った」
ワイングラスから赤い新酒が垂れる。
ぽたぽたと鎖骨を汚す赤。
ソクーロフは、零れ落ちる前に、すする。
ちゅる、とわざと音を立てて、鎖骨を吸った。
キツイ煙草の香りが白い首元を覆う。
胸許へ噛み付くように痕を付けて行く。
「…や、あ、やめっ……」
いつもより乱暴な振る舞いに、アイヴィーは辛そうに眉を顰めていたが、
徐々に表情が悦楽に変わっていく。
白い肌が色付く度に、声は艶を帯びて。
金髪は煙草の香りに染まっていく。
「…そ、そくーろふ…あぁっ…」
気を良くした細い指は、白い腹をなぞりながら下へ降りていく。
「んっ…いっ…」
「イイのか?」
「ちがっ……はぁっ」
熱い吐息がソクーロフの耳に掛かる。くすぐったい。
「さて、そろそろ頃合だな」
見下ろして、其処へと手を伸ばす。
聞こえたのは、ファスナーの金属音と、含み笑い。
「次は、赤ではないワインを飲ませて貰おうか?」
fin
「どうだ。参ったかー!」
アイヴィーが高々に掲げたのはワインボトル。
毎年11月第3木曜日に解禁されるフランスワイン。
昨夜解禁されたボジョレーヌーボーを、アイヴィーがゲットしてきた。
ソクーロフは冷たく言い放つ。
「別に参らん」
「あー!? あんたが買って来いって俺をパシリにしたんじゃん!」
先日、アイヴィーはいつものように保健室へ昼寝をしに行った。
その時に保健医が「そう言えば、今度の木曜日は解禁日だったな」と注文したのだ。
今日は金曜の夜。今年のできたてワインを開けようと、
アイヴィーは教授陣の宿舎、メルキュール館にやってきた。
部屋の主は紫煙を細く吐いた。ソクーロフの煙草はキツイ。
身体を蝕む煙が宙に霧散する。この部屋は、いつ訪ねてもキレイ。
汚れていた日なんて、今までに一度もない。
家主に似て、隙のない部屋だ。
「私はそんなことを言ったか?」
「言った、言った、言いましたー」
「ほう。私の言葉は忘れられないか、アイヴィー」
「なっ何よ、その自信過剰っぷりは…」
「脈拍、平常値の128%に上昇中」
「…センセ、お医者さんごっこはしなくてイイから」
「では止めて良いのか?」
「あー、あのさ? ボジョレー飲もうよ。
俺、せっかく買ってきたんだし。ね?」
アイヴィーはワイングラスに赤のボジョレーを注ぐ。
これは、フランス・ブルゴーニュ地方の最南部、ボジョレー地区で作られたものだ。
2か月前にできたばかりの新酒。渋味は少なく、誰にも飲み易い爽やかなワイン。
ソクーロフは微笑を浮かべたまま、アイヴィーの黒ネクタイを引き抜く。
「ワインの美味しい飲み方を教えてやろう」
開いていたシャツのボタンをもうひとつ開ける。
ブルーのシャツからは、白い素肌が晒される。
「此処を杯にしたワインは絶品だ」
サディストは首許の窪みを指差した。
アイヴィーは引き攣りながら空笑いする。
「ちょっ…あのー、ソクちゃんさ? マジな目して、
そういうサディスティックなジョークは止めてくんないかな?
あんたが言うと、コワ過ぎるから」
「ジョークで終わらせるつもりはないが?」
「ソクちゃん! ヘンタイさんにも程があるって!」
「誰のことだ?」
「あんただよ、あんたっ!!」
「往生際が悪いぞ、アイヴィー」
首許を掴まれて、ソファに押し倒された。視界に天井が映る。
馬乗りされて、ソファがギイと鳴かされた。
ヘンタイさんの右手にはワイングラス。
「マ…マジですか…?」
「動くな、零れる」
ソクーロフのワイングラスが傾く。
薄い縁から一滴、白い鎖骨に赤い液体が落とされた。
その小さな杯に注がれた、一滴の赤ワイン。
冷たくて、思わず目を瞑った。含み笑いが聞こえる。
「ほら、零れてしまった」
鎖骨から、つうと流れていく。
軍人上がりだと解る肉体。無駄のない綺麗な筋肉。
その上には戦禍を生き抜いてきた無数の傷痕。
左胸の上部には大きな古傷が残る。
鎖骨から零れた雫は、細い赤紫の線を描きながら、落ちていく。
紫紺の瞳は愉快そうに見下ろしている。
ソクーロフの舌に這われているような錯覚に陥る。
この身体に刻まれている残滓が甦り、まだ酒も飲んでいないのに身体が火照る。
赤紫の水が煩い心臓の上を這う。
緩やかに波打ちながら、雫は左右に区切られた胸筋の溝へと伝う。
その動きは酷くゆっくりに見えた。胸の間を真っ直ぐに辿る。
予め引かれているラインから、六つに割れた腹筋へ向かう。
腹筋の中央を通る。その先は、へその窪みだ。
其処へ落ちる前に、ソクーロフが身を屈めた。長い髪に肩を撫でられる。
赤い舌先は、へその直前でボジョレーを舐め取った。
アイヴィーは思わず嬌声を漏らした。
サディストは、笑った。
「お前が零したからだろう? ではもう一度」
「や、やだっ! フツーに飲めよ、フツーに!」
「断る。私は気に入った」
ワイングラスから赤い新酒が垂れる。
ぽたぽたと鎖骨を汚す赤。
ソクーロフは、零れ落ちる前に、すする。
ちゅる、とわざと音を立てて、鎖骨を吸った。
キツイ煙草の香りが白い首元を覆う。
胸許へ噛み付くように痕を付けて行く。
「…や、あ、やめっ……」
いつもより乱暴な振る舞いに、アイヴィーは辛そうに眉を顰めていたが、
徐々に表情が悦楽に変わっていく。
白い肌が色付く度に、声は艶を帯びて。
金髪は煙草の香りに染まっていく。
「…そ、そくーろふ…あぁっ…」
気を良くした細い指は、白い腹をなぞりながら下へ降りていく。
「んっ…いっ…」
「イイのか?」
「ちがっ……はぁっ」
熱い吐息がソクーロフの耳に掛かる。くすぐったい。
「さて、そろそろ頃合だな」
見下ろして、其処へと手を伸ばす。
聞こえたのは、ファスナーの金属音と、含み笑い。
「次は、赤ではないワインを飲ませて貰おうか?」
fin
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