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Marginal Prince Short Story
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■ミハイル×ユウタ
「ありがとうございました、ソクーロフ博士」
カウンセリングが終わったミハイルは保健室のドアを閉める。
目許は濡れていた。博士の前で歌うと、いつも涙が出ちゃう。

濡れた瞳を乾かす為に、今日も森の奥へ向かう。
泉まで来ると、ミハイルはほっとした。この学院で好きな場所。
此処には棕櫚(シュロ)の木が一本だけ生えていた。
誰が植えたのかな、とミハイルはいつも思うが、答えは出ない。

どうして植えたのかな。
棕櫚の木が好きだったのかもしれない。
祖国にあった木なのかもしれない。
植物園には木も花もいっぱいあるみたいだけど、
なかなか学院の外まで行けない。

一羽のナイチンゲールが月桂樹から下りて来た。
ミハイルに恐れることなく、傍を歩いている。

おひさまが温かい。
此処は日当たりが良かった。眠たくなってきちゃったな。

ちょっとだけ、ちょっとだけ…

睡魔の誘惑に抗えず、ブルーの瞳が閉じられる。
ナイチンゲールは、木の上へ飛んでいった。

自然と目が覚めた。
何か夢を見ていた。楽しい夢だったような気がする。
眠い目をこすると、目の前に友達の寝顔があった。
今年初めて出来た友達。ウーティス寮のユウタだ。
ユウタの寝顔は、春のおひさまみたいだった。
どうして自分の隣で眠っているのか聞きたい気持ちもあったが、
ユウタのこと、このまま見ていたい気持ちもあった。
栗色の髪は、木漏れ陽に当たって、いつもより明るい色に見える。
さらさらしてて、撫でたら気持ちが良さそうだった。
少しミハイルの手が持ち上がる。
その時、うさぎが木の影からひょこっと現れた。
ミハイルの知っているウサギだった。野菜をあげたことがある。
シュヌーシア寮のシェフ、ドニ・ドームから貰った野菜の残りを、
うさぎにあげるととても喜んでくれた。
それ以来、うさぎはミハイルが傍に居ても、逃げなくなった。
ミハイルは、うさぎが野菜を、はむはむ食べる様子を見るのが好きだった。
鼻をひくひくさせて、赤い瞳がユウタを見ている。
見知らぬ顔を伺っているようだ。
ミハイルは人差し指を口に当てた。
「うさぎさん、起こさないであげて? この人、ぼくの友達なの」
すっと口から出た『友達』という言葉。
ミハイルは自分で言ったその単語で、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。
今日は昨日より涼しい日なのに、胸がだんだん温かくなるみたいだった。
「んん…」
ユウタが寝返りを打った。片手が投げ出される。
動いた人間を見て、うさぎは木の向こうに飛んで行った。
ほんの小さな声で、友達の名前を呼んでみる。
「ユウ、タ?」
反応はない。友達の瞳は閉じられたままだ。
ユウタはどうして、此処で眠っているんだろう。
ミハイルはもう一度横たわる。
友達の手に、そっと自分の手を重ねた。
ユウタの手はあったかかった。
また瞼が重くなる。目を閉じた。
木陰からうさぎが顔を覗かせる。
真ん中には知らない人間の手と、知っている人間の手が重なっている。
ぴょんぴょんと傍まで跳ねていく。
棕櫚の木の下で、二人の人間が眠っていた。


fin
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