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Marginal Prince Short Story
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■シハル×アイヴィー
アイヴィーは自宅で遅い昼食を取っていた。
お手軽カンタンなサンドイッチだ。
今日になってからは一食目なので朝食と言ってもいいのだが今は午後2時。
時間的には朝食とは言えなかった。
月の綺麗な深夜。呼び出されて、お仕事をしていた。
招かれざるお客さんが、島に上陸した為だ。
今年はこんな風に、海辺で開かれる深夜のダンスパーティに誘われることが多い。
片が付いたのは明け方。街が動き出す時間に家に帰ることができた。
習慣的にメールチェックをして、
他に仕事が―今のところ―入っていないことを確かめる。
窓には眩しい朝陽が差し込む。
「お肌に悪い生活してんなあ、俺」
太陽におやすみを言って、遮光カーテンを引く。
ベッドに入ったら、すぐに夢に落ちた。
3時間程眠ったら自然と目が覚めた。身体を起こすと、右手に痛みを感じた。
手の甲に赤いラインが入っていた。
「ああ。そういや、ちょっと切られたんだっけ」
警備の任務で傷を負うことは珍しい。
ほんのちょこっと油断した。
不法侵入のお客さんが吐いた言葉。
思い出したくない過去がフラッシュバックして。
短剣を避けるのが一瞬遅れた。
手を広げて天井に向けてみる。深くはないが明らかに刃物で切られた痕だ。
マージナルプリンスどもや保健室のセンセに見付かると何かとマズイ。
傷は隠して、転んで擦り剥いたことにでもしておこう。
絆創膏をぺとっと貼る。
食後の一服。今日の煙草はちょっと苦い。
ゆらゆら上る煙を、ぼうっと見ていた。

「アイヴィー、遊びに来ましたよー♪」

華やかな声がした。またしてもアポなし。
誰の声かは解る。デッドプリンスのドラマーだ。
続いてベーシストのハルヤが上がってくる。
早食い王子はアイヴィーの前にある空っぽの皿を見た。
「あ、ご飯食べ終わったとこ? 何食べてたの?」
アイヴィーは煙草を指に預ける。
「BLTだけど」
「びーえるティー? なんか紅茶の名前みたいだけど…なんなの?」
笑いながら灰皿に灰を落とす。
「ベーコン、レタス、トマトのサンドイッチ。頭文字がBLTだろ?
 この前、カフェで食べてウマかったから、適当に作ってみただけ」
「美味しそうですね。僕、食べたいです!」
「俺も食べたいな」
「んじゃ勝手に作って来いよ。まだ材料あっから」
「アイヴィーが作って下さいよー」
「俺もアイヴィーに作って欲しいな」
「ったく。マージナルプリンスどもめ」
煙草を灰皿に置いて、キッチンへ向かった。
手際良く、調理は進んでいく。作り方には無駄がなかった。
まずは長いフランスパンを適当に切って、オーブンに焼かせておく。
冷蔵庫から取り出した四角いベーコンの塊を薄めに切る。
オリーブオイルを敷いたフライパンにベーコンを乗せる。
途端に美味しそうな音が跳ねる。これは焦げる直前くらいが美味しい。
タイミングを見計らって、引っ繰り返す。
焼き上がったフランスパンには縦に切り込みを入れる。
パリッと香ばしい音と共に、硬いパンの欠片が少し飛び散った。
パンに新鮮なレタスを挟む。
緑のベッドに、トマトとカリカリベーコンを寝かせる。
二人の上にマヨネーズを掛ける。これで完成だ。
熱々のBLTを、マージナルプリンスどもの前に置く。
「ほい、おまたせ」
色彩鮮やかなサンドイッチ。腹ペコ達がかぶりつく。
「できたては最高ですねー」
「うん。パン、あったかくて美味しい」
「おや。ハルヤ、マヨネーズがほっぺに。僕、舐めてもイイですか?」
「いっ、イイわけないでしょ…」
「てゆうか、ついてないだろ、何にも」
「そうですね、マヨネーズなんか付けなくても、ハルヤは美味しそうですし」
「ハルヤを食べようとするな」
ぺしっとシルヴァンの頭を叩く。その手の甲に絆創膏があった。
まだ少し赤い顔で、ハルヤが尋ねる。
「手、どうしたの? 大丈夫?」
シルヴァンが顔を上げる。一瞬浮かんだ表情。原因を察したようだ。
アイヴィーが警備責任者だとは知らないハルヤと、
知っているシルヴァンに、ひらひらと手を振ってみせる。
「あー、平気ヘイキ。ちょっと擦り剥いただけだから」
「そう?」
「気を付けて下さいね、アイヴィー。
貴方の手は僕達にご飯を作る大事な手なんですから」
「へいへい。ご心配どうも」

二人の王子は存分にくつろぎ、あっと言う間に夕食の時間になった。
「送って下さい」とのご命令により、
学院の正門前までタクシーに乗せることになった。
寮へ向かう二人の背中を見ながら、まっすぐおうちに帰るか、
何処かに道草しようか考えていた。
すると、シルヴァンが一人で戻って来た。ハルヤの背中は寮に向かっている。
先に寮に戻るように言ったのだろう。
アイヴィーの前で立ち止まる。走った割には微塵も息が切れていない。
「あの…」
「どした?」
シルヴァンは俺の右手を取った。
手の甲には絆創膏。そっと自分の手を重ねた。
「お仕事…お疲れ様です、アイヴィー」
この怪我が気になっていたらしい。神妙な顔をしてやがる。
やはり、警備の任務で負った傷だと解ったのだろう。
左手で頭をぽんと叩いてやった。
「そんな顔することかよ」
「だって、貴方が怪我をするなんて、珍しいじゃないですか…」
「ちょこっと切っただけだって。大したことねえよ、全然動くし」
「はい。大事に至らなくて良かったです、今回は」
軍人の家系に生まれたシルヴァンは、アイヴィーの仕事が、
いつ命を失っても可笑しくないものであると十分に理解していた。
温かかった手がまた外気に晒される。
「じゃ、また遊びに行きますね」
笑顔を見せて、シルヴァンは寮へと戻っていった。
一人になったアイヴィーは、手の甲を眺めた。
絆創膏を撫でてみる。すべすべして、内側は柔らかい。
傷を覆ってくれるもの。
大した傷じゃない。
時が経てばそのうち治る。
この孤島に来てから、徐々に過去が薄れていく。
昨日は思い出しちまったけど。たまたまだ。
普段は忘れている。それが何故か。
そこまでシルヴァンは解っているのだろうか。
絆創膏の役割をしてくれてんのは誰か、ってことを。
タクシードライバーは愛車に背を預ける。
バカみたいにデカイ月桂樹の館を眺めた。

「ま。聞かれても教えてやんないけどな」


fin
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