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■お茶目なオーギュスト
「ごきげんよう、諸君。最初に、裏庭でちょっとした実験を行いたいのだが良いかな?」
授業開始の鐘が鳴ると、神秘学教授は、そう切り出した。
教室は困惑に覆われる。しかし、声を発する者は居なかった。
神秘学の受講生は少なく、また物静かな生徒が揃っているためだ。
講師はドアを開け、生徒達を促す。
「ああ、筆記用具は特に必要ないから、手ぶらで構わないよ。
諸君の聡明な頭脳さえあれば充分だ。では行こうか」
講師が教室の外へ歩いていくので、生徒達は仕方なく席を立つ。
机と椅子の音が鳴り響いた。
講師を先頭に、少数の受講生が廊下を歩いている。
擦れ違った他の教授が、不審そうに見ていた。
アンリは少し早く歩いて、講師の隣に並んだ。
「珍しいことするんだね、ボージェ教授。一体、何を企んでいるの?」
「今日は天気が良いからね。偶には青空の下で講義というのも良いだろう?」
裏庭の地面には巨大な円陣が描かれていた。
円の中に星。何かの本で目にしたことのある図形だった。
「魔法陣…いや、これが五芳星なの?」
「正解だよ、アンリ。皆は呪術師のアベノセイメイを知っているかな?
彼はこのような図を描き、召喚魔を呼び出したと言われているんだ」
「ボージェ教授。この五芳星、此処が欠けていない?」
「うん。まだ完成していないんだ。私達が来る前に魔物が出てきたら困るだろう?」
「君はまた…そういうことを」
「召喚魔のことは刺激しないように。約束できるかね?」
反論を唱える者は居なかった。
「では試しに、切れた線を繋いでみようか。諸君、円の外側に居た方が良いよ」
ざわめきながらも生徒達は円陣から少し離れた場所に立った。
腕を組み、講師を見つめる。彼はしゃがみ、地面の線を書き足した。
彼も円から離れた。
すると、五芳星はぽうっと光った。
円の中央にキモノを着た何かが座っている。
髪が長い。女性のようだ。アンリは目を見開く。
「何、あれ…」
受講生の一人が怪訝そうに尋ねる。
「何って、何だ?」
「見えないの? 君達には」
琥珀の瞳が揺らいている。一芝居打っているようには見えない。
動揺したアンリを初めて見た生徒達に動揺が静かに感染する。
ただ一人、講師だけが落ち着いていた。
「アンリ、何が見えるのか、説明してくれるかね?」
「え…ニッポンの女性のような…キモノを着ている人…」
「うん。そうだね。ではお帰り頂こう。講義へのご協力、どうもありがとう」
講師が何事かを唱える。英語ではない。
着物の女性は一礼して、ゆらりと消えた。
アンリは息を吐いた。講師を睨み付ける。
講義中は彼を「教授」と普段は呼ぶのだが、思わず名前で呼んでしまう。
「オーギュスト、今の、何?」
「悪いものではないよ。女神のようなものだから。
では、諸君。教室に戻ろうか。今日は東洋の神秘について勉強しよう」
fin
「ごきげんよう、諸君。最初に、裏庭でちょっとした実験を行いたいのだが良いかな?」
授業開始の鐘が鳴ると、神秘学教授は、そう切り出した。
教室は困惑に覆われる。しかし、声を発する者は居なかった。
神秘学の受講生は少なく、また物静かな生徒が揃っているためだ。
講師はドアを開け、生徒達を促す。
「ああ、筆記用具は特に必要ないから、手ぶらで構わないよ。
諸君の聡明な頭脳さえあれば充分だ。では行こうか」
講師が教室の外へ歩いていくので、生徒達は仕方なく席を立つ。
机と椅子の音が鳴り響いた。
講師を先頭に、少数の受講生が廊下を歩いている。
擦れ違った他の教授が、不審そうに見ていた。
アンリは少し早く歩いて、講師の隣に並んだ。
「珍しいことするんだね、ボージェ教授。一体、何を企んでいるの?」
「今日は天気が良いからね。偶には青空の下で講義というのも良いだろう?」
裏庭の地面には巨大な円陣が描かれていた。
円の中に星。何かの本で目にしたことのある図形だった。
「魔法陣…いや、これが五芳星なの?」
「正解だよ、アンリ。皆は呪術師のアベノセイメイを知っているかな?
彼はこのような図を描き、召喚魔を呼び出したと言われているんだ」
「ボージェ教授。この五芳星、此処が欠けていない?」
「うん。まだ完成していないんだ。私達が来る前に魔物が出てきたら困るだろう?」
「君はまた…そういうことを」
「召喚魔のことは刺激しないように。約束できるかね?」
反論を唱える者は居なかった。
「では試しに、切れた線を繋いでみようか。諸君、円の外側に居た方が良いよ」
ざわめきながらも生徒達は円陣から少し離れた場所に立った。
腕を組み、講師を見つめる。彼はしゃがみ、地面の線を書き足した。
彼も円から離れた。
すると、五芳星はぽうっと光った。
円の中央にキモノを着た何かが座っている。
髪が長い。女性のようだ。アンリは目を見開く。
「何、あれ…」
受講生の一人が怪訝そうに尋ねる。
「何って、何だ?」
「見えないの? 君達には」
琥珀の瞳が揺らいている。一芝居打っているようには見えない。
動揺したアンリを初めて見た生徒達に動揺が静かに感染する。
ただ一人、講師だけが落ち着いていた。
「アンリ、何が見えるのか、説明してくれるかね?」
「え…ニッポンの女性のような…キモノを着ている人…」
「うん。そうだね。ではお帰り頂こう。講義へのご協力、どうもありがとう」
講師が何事かを唱える。英語ではない。
着物の女性は一礼して、ゆらりと消えた。
アンリは息を吐いた。講師を睨み付ける。
講義中は彼を「教授」と普段は呼ぶのだが、思わず名前で呼んでしまう。
「オーギュスト、今の、何?」
「悪いものではないよ。女神のようなものだから。
では、諸君。教室に戻ろうか。今日は東洋の神秘について勉強しよう」
fin
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