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Marginal Prince Short Story
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■博士×生徒代表ジブリール
保健室までの廊下に孤独な足音が鳴り渡る。
生徒の背筋は良く、ポケットに両手を入れている。
闇夜に紛れる黒髪、精悍な顔立ち。
今年度の生徒代表ジブリールは、ただ歩いているだけで威圧的だった。
しかし、強暴性を秘めた瞳はこの日、やや俯きがちだった。
生徒代表の頭を占めているのは、2週間前に入学した生徒。
アンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
聖アルフォンソ学院に1世紀ぶりに入学したサン・ジェルマン伯爵家の末裔。
入学の際に保証人を必要としない、極めて稀な家柄。
学院全体から注目を浴び、ここ暫くどの寮もアンリの噂で持ち切りだ。
ジブリールはアルファルド寮だが、ウーティスやシュヌーシアの噂好きな連中から、
しつこくアンリのことを聞かれ、少々うんざりしていた。
ジブリールが彼等を無視した為に、噂は尾鰭を付けて泳ぎ始めた。
「今度の新入生は天使」だとか「小さなプリンセス」だとか言っているらしいが、
連中もあいつと一度話せばそれが幻想に過ぎないと解るだろう。
確かにアンリは今までのどの新入生とも違う人種だ。
見目以上に奴の言動は常軌を逸している。
他人を寄せ付けない雰囲気、というのはアルファルド寮では珍しくないが、
アンリの持つ刺々しさはなんだ。過去に何があったのか。

いつのまにか保健室の前まで来ていた。
ジブリールが他人のことをこれだけ考えるのも珍しいことだった。
保健室に来るのは余り好きではなかった。
この部屋に入ると、蟻地獄に足を踏み入れたような錯覚に陥る。
しかし、わざわざ訪れたのは、昨日、アンリの健康診断が終わったからだ。
ポケットから手を出す。ノックすると「入りたまえ」と声がした。
「やあ、ジブリール。よく来たね」
ソクーロフ博士。学院の保健医兼カウンセラー。
決まって優しく生徒を迎え入れる。この微笑が不得手だった。
「博士、少し聞きたいことが」
カウンセラーは妖艶に笑う。
「アンリのこと、だね?」
「…よく、解りましたね」
「顔にそう書いてあるからね」
解っているよ、という微笑。
ジブリールは保健医のこういう笑みが苦手だった。
「私もアンリについて生徒代表の話を聞きたかったところだ。
情報交換をしよう。其処に座ってくれるかい、ジブリール」
無言で指示された席に座る。
保健医は足を組み替え、カルテを眺めた。
「アンリのカウンセリングは昨日終わったよ。健康診断の際にね。
ああ、本人はカウンセリングをしていないと思っているから、言わないように」
嫌な含み笑い。自白・洗脳のスペシャリスト、
そう聞いていたが、生徒の記憶操作をしたと言うのか。
「それで、ジブリールは私に何を聞きたいのかな?」
「健康診断で、新入りに何か問題はなかったのか、
俺が知っておくべきことがあれば、聞いておきたいと」
「ほう。では生徒代表として、私に会いに来たと言うんだね?」
「はい」
「君の個人的興味も含まれているようだが?」
カウンセラーの微笑から、目を逸らす。
「そう、かもしれません」
「生徒代表に伝えるべきことか。そうだね、
既に君も気付いているかもしれないが、森を酷く怖がっているようだ。
もし、アンリを無理に森に誘うような生徒が居たら止めてあげるといい」
「やはり…そうですか」
「学院案内の時、森には?」
「入っていません。『森は嫌いだ』と言われたので」
「そうか。他に何か気付いたことはあるかい?」
「はい。あいつは誰かに『悪魔』と呼ばれていたようです。
誰のことだか聞こうとしたんですが、拒否されました」

その時、カウンセラーの変化を、ジブリールの獰猛な瞳は見逃さなかった。
確かに見た。
カウンセラーが口許を歪めたのを。

興奮を隠し切れない、嗜虐的な目で。
面白い玩具を見つけたかのように。

この男は笑ったんだ。


fin
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