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■博士×生徒代表クラウス
「クラウス・フォン・モール、入ります」
軍人の家系に生まれた、少々神経質な生徒代表は、
約束の時間よりきっかり10分早く、保健室に訪れた。
鍛え抜かれた肢体はいつ見ても美しく、
きびきびとした歩き方は軍事訓練でも見ているかのようだ。
「やあ、クラウス。来てくれてありがとう」
「いえ。任務ですから」
保健医が謝辞を述べると、予測通りの生真面目な回答があった。
軍は完全なる縦社会。目上の者には服従する姿勢が刷り込まれているのだろう。
立場上は生徒代表であるクラウスの方が上なのだが、年上を重んじる律儀さも彼らしい。
こちらが席を勧めるまで起立したままだった。
「クラウス、其処へ掛けてくれるかい?」
「はい。失礼します」
椅子に座っても背筋が良い。
彼の膝には畏まった拳が置かれている。
まるでこれから集合写真でも撮るかのようだ。
「早速、新入生の印象を聞かせて貰おうかな」
「はい。学院案内の様子をレポートにまとめてきました」
ファイルを渡される。中のレポート用紙には几帳面な文字。
紙面で報告してきた生徒代表は初めてだったので、少々面食らう。
「…ありがとう、クラウス。用意が良いね」
「当然のことですから」
「今、読ませて貰っても構わないかな?」
「もちろんです」
博士はクラウスに背を向けた。レポートに素早く目を通す。
新入生の名は、シルヴァン・クラーク。17歳で高等部に編入。
学院案内の朝から翌日まで細かく記されていた。
初日から夜遊びした後、警備責任者の自宅に外泊したらしい。
レポートを読んだ後は鏡越しにクラウスの様子を伺っていた。
視線は上を向いている。何か考え事をしているらしい。
クラウスに向き直り、礼を述べる。
「素晴らしいレポートだね。これは私が頂いても良いかい?」
「はい」
「ありがとう。では次に、クラウスの率直な感想を聞こうか。
シルヴァンについて君はどんなことを思ったかな?」
「率直な…ですか」
はきはき喋る彼は急に歯切れが悪くなった。視線も泳いでいる。
「何から話して良いか解らないようだね?」
「ええ。レポートにも書きましたが、今度の新入りは、
その、縦横無尽というか、かなり奔放な奴で…」
規律的なクラウスとは真逆の性質だったと言いたいのだろう。
だが、必死に言葉を選んでいる。
後輩の評価を下げる発言は避けたいということか。
この子は後に、部下思いの良い上官になるだろう。
「すまない。私の聞き方が悪かったね。質問を変えよう。
クラウスは、シルヴァンのように振る舞えるかい?」
どんな感想を持ったか、という自由回答から、二択の質問へ変える。
回答はイエスかノーにすることで、答え易くなる。
クラウスは僅かに笑って、首を横に振った。
「いいえ。俺には不可能です」
「だろうね。どちらが良い悪いという話ではないよ。
これは個性というものだからね?」
「ええ。全く、この学院に来てから、
こんなにも人間は性格がバラバラなのかと、いつも驚かされます」
軍は個性を尊重しない。集団生活を送る、どの環境よりも特殊だと言える。
優先されるべきは統率。
皆が同じ目標を見据え、同じ行動を取らなくては、軍が動かないからだ。
彼の目には、学院の生徒達が天真爛漫に映って仕方がないのだろう。
「ではクラウスにとって、一番珍しい性格だったのは、シルヴァンかい?」
「シルヴァンにも振り回されましたが、一番、となると違いますね」
そこで、生徒代表はふっと微笑んだ。
たった数年前までは見せなかった表情だ。
「あいつは、俺だけではなく、シュヌーシアも…いえ、学院全体をも巻き込みますから」
随分柔らかく笑えるようになったものだ。
入学したばかりの頃は、喜怒哀楽を上手く表現できない子だった。
感情的な面が酷く抑圧され、機械的な受け答えしかできなかった。
ここでの寮生活が始まってから、少しずつ感情を表に出せるようになったのだろう。
困っている、という口振りでクラウスは肩を竦めた。
「シルヴァンとテオは気が合いそうで、この先が思いやられます」
fin
「クラウス・フォン・モール、入ります」
軍人の家系に生まれた、少々神経質な生徒代表は、
約束の時間よりきっかり10分早く、保健室に訪れた。
鍛え抜かれた肢体はいつ見ても美しく、
きびきびとした歩き方は軍事訓練でも見ているかのようだ。
「やあ、クラウス。来てくれてありがとう」
「いえ。任務ですから」
保健医が謝辞を述べると、予測通りの生真面目な回答があった。
軍は完全なる縦社会。目上の者には服従する姿勢が刷り込まれているのだろう。
立場上は生徒代表であるクラウスの方が上なのだが、年上を重んじる律儀さも彼らしい。
こちらが席を勧めるまで起立したままだった。
「クラウス、其処へ掛けてくれるかい?」
「はい。失礼します」
椅子に座っても背筋が良い。
彼の膝には畏まった拳が置かれている。
まるでこれから集合写真でも撮るかのようだ。
「早速、新入生の印象を聞かせて貰おうかな」
「はい。学院案内の様子をレポートにまとめてきました」
ファイルを渡される。中のレポート用紙には几帳面な文字。
紙面で報告してきた生徒代表は初めてだったので、少々面食らう。
「…ありがとう、クラウス。用意が良いね」
「当然のことですから」
「今、読ませて貰っても構わないかな?」
「もちろんです」
博士はクラウスに背を向けた。レポートに素早く目を通す。
新入生の名は、シルヴァン・クラーク。17歳で高等部に編入。
学院案内の朝から翌日まで細かく記されていた。
初日から夜遊びした後、警備責任者の自宅に外泊したらしい。
レポートを読んだ後は鏡越しにクラウスの様子を伺っていた。
視線は上を向いている。何か考え事をしているらしい。
クラウスに向き直り、礼を述べる。
「素晴らしいレポートだね。これは私が頂いても良いかい?」
「はい」
「ありがとう。では次に、クラウスの率直な感想を聞こうか。
シルヴァンについて君はどんなことを思ったかな?」
「率直な…ですか」
はきはき喋る彼は急に歯切れが悪くなった。視線も泳いでいる。
「何から話して良いか解らないようだね?」
「ええ。レポートにも書きましたが、今度の新入りは、
その、縦横無尽というか、かなり奔放な奴で…」
規律的なクラウスとは真逆の性質だったと言いたいのだろう。
だが、必死に言葉を選んでいる。
後輩の評価を下げる発言は避けたいということか。
この子は後に、部下思いの良い上官になるだろう。
「すまない。私の聞き方が悪かったね。質問を変えよう。
クラウスは、シルヴァンのように振る舞えるかい?」
どんな感想を持ったか、という自由回答から、二択の質問へ変える。
回答はイエスかノーにすることで、答え易くなる。
クラウスは僅かに笑って、首を横に振った。
「いいえ。俺には不可能です」
「だろうね。どちらが良い悪いという話ではないよ。
これは個性というものだからね?」
「ええ。全く、この学院に来てから、
こんなにも人間は性格がバラバラなのかと、いつも驚かされます」
軍は個性を尊重しない。集団生活を送る、どの環境よりも特殊だと言える。
優先されるべきは統率。
皆が同じ目標を見据え、同じ行動を取らなくては、軍が動かないからだ。
彼の目には、学院の生徒達が天真爛漫に映って仕方がないのだろう。
「ではクラウスにとって、一番珍しい性格だったのは、シルヴァンかい?」
「シルヴァンにも振り回されましたが、一番、となると違いますね」
そこで、生徒代表はふっと微笑んだ。
たった数年前までは見せなかった表情だ。
「あいつは、俺だけではなく、シュヌーシアも…いえ、学院全体をも巻き込みますから」
随分柔らかく笑えるようになったものだ。
入学したばかりの頃は、喜怒哀楽を上手く表現できない子だった。
感情的な面が酷く抑圧され、機械的な受け答えしかできなかった。
ここでの寮生活が始まってから、少しずつ感情を表に出せるようになったのだろう。
困っている、という口振りでクラウスは肩を竦めた。
「シルヴァンとテオは気が合いそうで、この先が思いやられます」
fin
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