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Marginal Prince Short Story
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■アンリのHWイベント オーギュスト添え
■衣装と決め台詞はオフィシャルと同じです
ハロウィン当日。
ユウタとアンリは暗闇のキャンパスを移動中だった。
これから学院の内外へお菓子集めへ行く。
新入生のユウタは、ひとつ上の先輩にぴたっと寄り添って歩いていた。
ユウタの衣装は虎模様のちゃんちゃんこ。頭に目玉のお父さん。
履き物は下駄と、頭から足まで緻密にコーディネートされている。
「わあっ! い、今、なんか可笑しな音しなかったっ!?」
「…風で木が揺れただけでしょう」
校舎はどれも古い洋館。ユウタにはお化け屋敷に見えて仕方ないらしい。
アンリは後輩に掴まれた腕を一瞥したが、振り解かなかった。
もう何度も払っているのだが、何度でもひっついて来るからだ。
「ねえアンリ、もう少し早く歩けない? 夜の学校なんて通るのコワイよ…」
「文句なら衣装係に言ってくれる? 僕だって、こんな靴初めてなんだから」
アンリが歩くと、足許から、ちゃらちゃらと音が鳴る。
ユウタはその隣をカランコロンと歩く。二人とも和装だった。
「アンリ、それは靴じゃなくて、雪駄(せった)って言うんだよ?」
「知らないよ、そんなの」
裏面に皮を張ることで防水機能を持った下駄。
千利休が考案者という説もあるらしく、ユウタは、へええ、と思ったのだが、
アンリはいつも以上にツンツンしてた。
今年のハロウィンは、例年以上にアンリの機嫌が良くなかった。
アンリは、うっとうしい長い髪を耳に掛ける。地毛でない。
「せっかく、今年の文化祭ではしないで済んだのに」

アンリが着ているのは氷色の着物。帯は紫、赤い帯締め。女性物だ。
衣装・演出担当はシルヴァン。かなり前から、はりきって準備していた。
打ち合わせ期間には幾つかの衣装を着せられた。衣装係曰く、
「年に一度はアンリの女装を見ないと年が越せない!というリクエストが多かったので♪」
などと、周囲の期待に応えたことを強調していたのだが。
普段から『バニラボイス』だとか中傷してくれているから、雪女を思い付いたのだろうし、
日本のテイストが多分に含まれているのは、単にニッポンマニアの趣味だろう。
もちろん、リクエストを出した者は、
事業に出資するようにと交換条件を出しておいた。
できることなら、いっそ凍らせてやりたかったが、
こちらのコストはゼロで法外な出資額が集まるのだからと自分の憤りを抑えた。
衣装を着せたのはシルヴァンに頼まれたハルヤだ。
アンリに睨まれながらも、淡々と姫のお着替えを手伝った。
自分で着せておきながら「うわ…アンリ、綺麗だねえ」と言ったかと思うと、
「あっ、ごめん…」と顔を赤らめる。彼の言動は未だにミステリアスだ。
アルフレッドとジョシュアには、やいやい言われて散々だった。
お化け嫌いのユウタはイベント自体に拒否反応を示していた。
一人ではとても行動できないと、一日中誰かの傍にくっついていた。
今も校舎と校舎の間を通るだけなのに、びくついている。

「アンリ…此処暗いから早く行こうよー」
「待って、ユウタ。お菓子が居た」
雪女は人影に近付いていく。生徒にお菓子を与えている講師の姿が見えた。
礼を言って歩き出した他の受講生に片手を挙げている。
雪女は講師の背中へ歩いていった。
「トリック・オア・トリート」
振り向いた講師に、雪女はバッと左腕を掲げた。

「…お菓子をくれなきゃ…くらえブリザード攻撃っ!」

講師は一瞬、唖然とした後、クスクスと微笑した。
この子にしては珍しい。貴重な教え子が見られた。
アンリは、一気にクールダウンして、髪を耳に掛ける。
「言っておくけど、好きでやってるんじゃないからね? シルヴァンの演出なんだ」
「それは素晴らしい。雪女がこれほど美しい妖怪だったとはね」
「知っているの? これ」
「妖怪図鑑には必ず載っているからね?」
「ヨウカイって神秘学の範囲? 君の趣味?」
「神秘には違いないよ。その美貌で人を幻惑し、身も心も凍らせる…
とてもよく似合うよ、アンリ」
「それ、嫌味?」
「まさか。ああ、お菓子をあげなくてはね。はい、アンリ」
黒猫を意図したらしいチョコレート。
講師はもう一人の生徒の前に行く。
「それからユウタにも。ハッピーハロウィン。君も可愛いらしいね」
「あ、ありがとうございます、ボージェ先生」
「どういたしまして」
ユウタは雪女の袖を引っ張る。
「アンリ…もう少し明るい場所に行こうよ…」
「良いよ。明るい場所にはお化け達がいっぱい居るものね?」
「ううっ…それもやだあ…」
「ではね、オーギュ」
「うん。楽しい夜を」
雪女は雪駄を鳴らしながら歩き出す。
「アンリ~! 置いてかないで~!」
ユウタが歩くと、地面に白い物がコロンと転がった。
「ひいっ! な、なに、なにっ!?」
いちいち挙動不審な連れに、雪女は冷たい息を吐く。
「それ、君の頭に付けてる物でしょ?」
あっ、とユウタは慌てて拾い上げる。
白いマスコットに向かって言った。
「すみません、父さん!」


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