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Marginal Prince Short Story
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■テオとアンリとオーギュスト
第二化学室でアンリは午後の青空を眺めていた。
あと数分で神秘学の講義が始まる。
頭では最近始めた事業のことを考えている。
リスクとリターン。幾つもの数の羅列。
どうすれば、相手より僕の利益になるか。
その追求は嫌いじゃない。

「ああ…やはり傍で見ると、より愛しいね、アンリは」

思考が中断された。誰彼構わず賛辞を浴びせる大らかな声。
僕の隣に勝手に座っていたのは今年度の生徒代表。
テオ・メネシス。海運王のご子息だ。溢れる資産で代々遊ぶ家系。
慈善事業の如く、資金を赤の他人に投資することもざらだ。
メネシス一族には損得勘定というものがないのだろうか。
彼等には更に増やそうという欲はないらしい。
テオが住むシュヌーシア寮もメネシスの寄付だそうだ。
テオ個人も多額の資金を用い、イベントなどを開催する。
アンリが冗談で言った賞品―実際には褒賞金だが―も易々と用意してくれる。
彼が生徒代表になってからは明らかにイベント回数が増えた。職権乱用も甚だしい。
ウーティスが巻き込まれることもしばしばあり、迷惑していた。
仲良くしておいて損はない相手だが、傍に居ると疲れる、という害が大いにある人だ。

アンリは机に吐いていた肘を離し、僅かながらもテオと距離を取る。

「どうして貴方が居るの? 此処は神秘学の教室だよ?」

言外に、邪魔なんだけど、と伝えているつもりなのだが、
彼にそのメッセージは届かない。テオはいつでも楽しそうに喋る。

「この時間、私が受けている講義が休講になってしまってね?
それで、どうしようかと思っていたら、アンリの姿が見えたものだから」
「僕を見たからと行って、何故追いかけて来たのか解らない」
「それはね、誘惑というものだよ、アンリ」
「誘惑? 僕が貴方を誘惑したと言いたいの?」
「そうだよ。可憐な花に誘われて蝶がふらふらと舞い降りる。
花の美しさ、芳しさに吸い寄せられてしまったのだよ。当然のことだろう?」
「前から思っていたけれど、貴方の思考回路は理解に苦しむよ」
「そういうわけで、アンリ。私にも教科書を見せてくれるかい?」
「今日は教科書は使わないんじゃないかな」
「それは残念だね。君に寄り添いたかったのに」

講師が教室に入ってきた。

「ごきげんよう、諸君。一週間元気だったかな」

教室を見渡し、生徒達の表情を確かめる。
一人、此処では見慣れぬ顔があった。黄金の髪にブロンズの肌。
生徒の好奇心を尊重するこの学院では、
時間割にない授業でも、好きなように見学することができる。
ボージェ教授も普段なら誰が入ってきても気にせず授業を始めるのだが。
見学者らしい生徒が座っているのは、アンリの隣。
小麦色の生徒と並ぶと、余計アンリの白さが目立つ。
講師は思わず声を掛けた。

「おや。君は生徒代表の…」

呼ばれた生徒は立って挨拶した。
無口な教室に、威勢の良い声が響き渡る。

「テオ・メネシスです。こんにちは、ボージェ教授。
今日は海洋学が休講になってしまったので、
教授の授業を見学させて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

「それはもちろん…」

講師はテオの隣から飛んでくる無言の圧力に苦笑した。
アンリの目は明らかに『駄目だと言って』と訴えている。
オーギュストは聖アルフォンソ学院の講師として正しい回答をする。

「もちろん構わないよ、メネシス君。講義の見学は自由だからね」

「ありがとうございます、教授。兼ねてより神秘学に興味はあったのですよ。
何といっても、このアンリが好んで受けている授業ですし。
私も神秘的なものは大好きですから」

まだ立ったままのテオから、輝いた顔を向けられる。
その笑顔は眩しい、無駄に。
教壇を睨み付け、講師に八つ当たりする。

「ボージェ教授、そろそろ講義を始めてくれないかな?」

他の生徒からは文句のひとつも上がっていなかった。
物静かな受講生達は常と変わらない。
多くが無表情な中、ごく一部が不機嫌、ご機嫌だった。
講師は口許を隠しながら、穏やかに笑う。

「それでは授業を始めようか。メネシス君、席に着いて良いよ」

はい、と元気良く着席した。


fin
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