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Marginal Prince Short Story
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■重たいです
■テオ×クラウス
放課後のシュヌーシア寮。
テオは寮の皆と一緒にお茶の時間を楽しんでいた。
受講している授業数が皆より少ないテオは、
早くからお茶の用意をして、皆を待っているのが好きだった。
今日のおやつはシェフのドニ・ドームと共同開発した秋色スイーツ。
メイプルシロップのケーキに秋のフルーツを豪華に盛り合わせている。
中等部の良い子達が美味しそうに貪る姿を、テオは愛おしげに眺めていた。

「また甘い物を食ってるのか、お前達…」

クラウスがサロンに現れた。珍しいことだ。
この所、何かに付けて生徒代表室に行ってしまうのに。

「おや、クラウス。今日は生徒代表室で会議ではなかった?」
「その予定だったんだがな。関係者が一人、風邪で倒れたために中止だ。
全く体調管理がなってない。あいつは遅刻も多いし…」

クラウスは自分の席となっている場所へ腰掛ける。
それはテオの隣だった。

「街の皆にも風邪が流行っているようだからね。大丈夫なのかい? その人は」
「博士が看るそうだから問題ないだろう」
「それなら安心だね。ではクラウスも今宵はゆっくり過ごせるね。
そうだ。久し振りに一緒に珈琲を飲んでくれる?」
「ああ。俺もお前に聞きたいことがあるんだ」
「おやおや。珍しいね、クラウス。何だい?」
「いや、大した話ではないから、珈琲を淹れた後で良いのだが」
「そんなに私の珈琲が待ち遠しいのだね。私、心を込めて淹れるよ」
「お前は恐ろしくポジティブだな」
「そうかい? どちらかというと私は悲観的な方だと思うけれど」
「どこがだ」

クラウスの言葉に合わせて、中等部の生徒達が笑う。
テオも微笑み、手挽きのミルを回した。
サロンの片隅にはテオ専用の珈琲セット一式がある。
珈琲だけでなく、紅茶などもある程度揃っていた。
淹れたての珈琲の香りが、クラウスに渡される。
テオはクラウスの隣に戻って来た。

「それで。私に話と言うのは?」
「ああ、そうだったな。今日の講義で聞いたのだが」

他の皆もそれとなく静かになり、クラウスの話を聞いていた。

「画家のゴッホにはテオという弟が居て、
テオの支援によって、傑作が世に残ったと聞いたんだ。
ただ、それだけの話なのだが…お前は知っていたか?」
「クラウス! 講義中に私を思い出してくれたのだね、嬉しいよ」
「…お前は知っていたか、と聞いているのだが」
「もちろんだよ。自分の名と同じだからね、以前調べたことがあるよ」

他の生徒達から「俺は知らなーい」という声が上がる。
皆はゴッホに弟が居たことを初めて聞いたようだ。

「テオドール・ファン・ゴッホ。彼は兄からテオと呼ばれていたんだ」

テオは皆にゴッホの弟の話を聞かせた。
弟テオドールは兄を経済的にも精神的にも支え続けた。
ゴッホの絵は、彼の生前、一枚しか売れなかった。
唯一の理解者である弟が居なければ、
ゴッホの名画は生まれなかっただろうと言われている。
彼のように、誰かを支えられる人でありたいと思う。
テオドールと私は、名前だけでなく、考え方も似ているんだ。
メネシスも芸術家を支援するのが好きだから、彼に少なからず親近感を感じる。
私の両親も彼についてそう評していたことがあるよ、とテオは語った。

テオの話に時折登場する両親。
海運王メネシスの当主、テオをテオに育てた張本人。
話を聞く度に、こいつは愛された子供なのだろうとクラウスは感じた。
テオに『人生は夢』だと教えた親。
クラウスは彼等には会ったことはないが、
きっとテオによく似ているのだろうという確信と共に、
大らかで、悟りや儚さをも兼ね備えた人物像を持っていた。

「けれども、名前負けだね。私は自分が楽しんでばかりだから」

そう微笑むテオに、クラウスは「いや」と言った。

「お前はそれで良いんだろう。
お前が楽しいと思うことは、皆の楽しみにも直接繋がっている。
現在のシュヌーシアは、極めて良好な環境だ。
これほど寮生の親睦が深まっているのは、お前のおかげだと、俺は思う」

クラウスの言葉に、サロンは一瞬、静まり返った。
普段、規則に厳しく、寮生達を叱り飛ばすクラウスが、
寮に対して『極めて良好』という見解を持っていた。

その事実に驚いたのは主に中等部の生徒達だった。
いつも怒られる人に突然、最上級に褒められて、思わず感動すら覚えた。
また、クラウスがテオに向けて、しかも皆の前で、
これほどストレートに謝意を示したのも初めて見た。
二人の仲が良いのは見て取れたけれど、
普段はテオが一方的に言い寄っているか、
痴話喧嘩のような場面しか見たことがなかった。

クラウスとの付き合いが長い上級生達は、
顔を見合わせて、僅かに笑みを浮かべていた。
この生真面目な男が、誰よりシュヌーシアに誇りを持っていること、
クラウスとテオが互いに親友と呼べる存在であることを知っていた。

「クラウス…いつも迷惑そうな顔をしているのに…」

一人、とても驚いている上級生が居た。
感激に打ち震えているのは、渦中のテオだった。

「本当は私のこと、そんなふうに思っていたのかい!?」
「毎度毎度、賑やかな催しを行うのはお前くらいだからな」
「解ったよ、クラウス!」
「な、なんだ?」
「実は前からクラウスと行きたいところがあったのだよ。
少し遠いけれど良いよね? そうだ、明日行こうか! 休みだものね!」

翌日、クラウスは海外旅行にヘリで誘拐された。

こうしてテオは、ゴッホ兄弟の結末を語ることはなかった。
彼等の最期は、悲劇としか言いようがない。

彼等は長い間、文通を繰り返した。
誰が見ても彼等は仲睦まじい兄弟だった。
兄は描いた絵を「ぼくらの作品」と呼んでいた。

けれども、兄は思い悩む。
絵画について、弟に迷惑を掛け通しの自己について。
37歳で自らを猟銃で撃つ。
それはテオドールが結婚し、子供が生まれた頃だった。

兄を失ったテオドールは、
半年後、後を追うように天に召される。まだ33歳。
彼の家には妻と兄の名を付けた幼子が残った。


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