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■テオ×クラウス
11月、ある日の放課後。
今日の講義が終了した生徒が寮に戻って来た。
鍛え抜かれた身体を持つ、クラウス・フォン・モール。
シュヌーシア寮の最高学年だ。
サロンの方から騒がしい声が聞こえたので、扉を開けてみた。
何故、部屋の中央に木が立っているのか。
昨日まではなかった。
どう見ても本物の木が、室内にある。
形状から、もみの木だということは解る。
だが、それは来月のイベントだ。
まだ1か月も先なのに早いのではないか。
さらに、天井まで届きそうなほどの大きさだ。
いくらなんでも、でか過ぎる。
木の周りには、たくさんの生徒達が集まっていた。
皆、オーナメントなどを持ち、木の飾り付けをしていたようだ。
中等部は、何やらキラキラしたものを手に持って走り回っている。
何処から注意していいのか解らない。
クラウスの姿を見付けた生徒が笑顔を輝かせた。
「ああ、クラウス! クラウスも一緒にやろう。楽しいよ」
「犯人はお前か…テオ」
「もちろんだとも!」
シュヌーシア寮サロンには早くもクリスマスツリーが設置されていた。
立派な樹木に豪華なオーナメント。飾り付けが終わると点灯式を行った。
ピカピカと光るツリーを見ながら、皆でホットチョコレートを飲んだ。
一通り今の幸福感を表明したテオは、来たる当日の話を始めた。
「さて。今年のクリスマスはどうしようか?」
甘いカカオの匂いが立ち込めている。クラウスのカップだけが珈琲だった。
「そう言えば、昨年はサンタクロースごっこをしたんだったな、お前が」
テオに懐いている中等部達が突進してくる。
皆、口々に去年のお礼やら思い出を語った。
「去年のクリスマス、ありがとね、テオ」
「びっくりしたよなー。朝起きたらフツーにプレゼントあってさ」
「そーそー。俺、親にもして貰ったことねえよ、んなこと」
「ま、誰からのプレゼントだか、すぐ解ったけどな」
「うん。僕もテオがくれたんだって思ったー」
皆の視線を受けて、テオは、ふふと笑う。
「おやおや、みんな。彼は私ではなく、サンタさんなのだよ?」
昨年のクリスマスイブ。
真夜中、ご丁寧にわざわざサンタクロースの格好をしたテオは、
寮生達の部屋を訪れ、一人一人の枕許にプレゼントを置いて回った。
大半の生徒達は、翌日に驚くことになったのだが、
軍人の身体をしているクラウスには、見付かってしまった。
不審な侵入者を敏感に察知したクラウスは、
無駄に大きな白い袋を抱え、赤い服を着たテオと鉢合わせた。
クラウスはその時、初めてサンタクロースというものに出会ったのだが、
口から出た言葉は至極、無感動なものだった。
「…何やってるんだ、テオ。就寝時間だぞ」
サンタの方は白ひげを撫でながら楽しそうに笑う。
照明を消した薄暗い部屋でも、テオの笑顔が眩しく見えるようだった。
「ほっほっほ! 見付かってしまったねえ。メーリークリスマース!」
「お前…クリスマスパーティは明日やるんだろう?」
「サンタさんは、シュヌーシアの良い子達にプレゼントを渡しに来たのだよ」
「良い子達…って、まさか、全員か?」
「我がシュヌーシアは良い子達ばかりだからねえ」
「この道楽者は…」
「クラウス君へのプレゼントはこれだよ」
白い袋から出て来たのは大きな赤い箱。
中身はクラウスが以前ちらりと欲しいと言った事があるものだった。
テオサンタは白い袋を畳む。もう何も入っていない。
他の部屋には全て回っている。クラウスの部屋が最後だった。
「それから、クラウス君にはもうひとつプレゼントを。
クラウス君は良い子過ぎるくらい良い子だからねえ」
赤い服のポケットから白いリボンを取り出した。
既に結ばれた形のリボンを胸にぺたと貼った。
裏にシールでも付いているらしい。
ベッドの上でクラウスは眉間に皺を寄せた。
「それは何の真似だ?」
「私をあげる。貰ってくれるかい、クラウス」
サンタはベッドに腰を降ろす。
その重みを受けて、ベッドが少し沈む。
テオはいつもと変わらない穏やかさに加え、
情熱を込めた真摯な眼差しを向けた。
「貴方になら私の全てをあげる。愛しているよ、クラウス」
クラウスは友人を直視できなくなる。
こういう言葉を投げ掛けられると、どう対処していいのか解らなくなる。
「お前はまた…そういうことを…」
「聖なる夜にも愛を語ってはいけないのかい?
私はきっと、クラウスに会うため、聖アルフォンソ学院に――
いや、この世に、生を授かったのだよ」
真正面に向けられた瞳。
いつだって思うまま行動し、テオは自由に言葉を発してきた。
テオの言動は眩むほど派手だが、その本質には常に嘘偽りはない。
だが、テオは友人だ。
友人の枠から越えてはならない相手だ。
誤りだ。俺に愛など注いでも何にもならない。
何故、俺なんだ。何故、俺でなくてはならなかった。
「止めろ、テオ…相手を間違えている」
「ううん。他に誰が居ると言うんだい。貴方こそ、私の全てだ。
私は貴方を愛したことを後悔しないよ」
後悔しない、それは本当なのだろうか。
肩に添えられた手。ゆっくりと赤い衣装が倒れ込んで来る。
クラウスの背がベッドに戻った。
こんな体勢を戦場で取ったら、自ら降伏しているようなものだ。
沈黙の後、テオの瞳に困惑した俺が映っていた。
「貴方と共にある奇跡に感謝するよ。愛しい…愛しいよ、クラウス…」
その後のことまで思い出してしまって、クラウスの耳が仄かに紅潮する。
昨年の出来具合に大満足だったテオは美しい思い出に陶酔していた。
「昨年のクリスマスは素晴らしかったね。おや? どうしたんだい、クラウス」
「…今年のサンタクロースごっこは禁止だ」
寮生達から「えー!?」と叫び声が上がる。テオも慌てて詰め寄った。
「クラウス! 私は今年もやろうと思っていたのだよ?」
「いや、しかし…」
煌めくクリスマスツリーの下で、生徒達の賑やかな声が飛び交う。
結果、クラウスは寮生全員からの大反対に合い、多数決に惨敗する。
その年、シュヌーシアの枕許には、2人のサンタクロースが訪れた。
fin
11月、ある日の放課後。
今日の講義が終了した生徒が寮に戻って来た。
鍛え抜かれた身体を持つ、クラウス・フォン・モール。
シュヌーシア寮の最高学年だ。
サロンの方から騒がしい声が聞こえたので、扉を開けてみた。
何故、部屋の中央に木が立っているのか。
昨日まではなかった。
どう見ても本物の木が、室内にある。
形状から、もみの木だということは解る。
だが、それは来月のイベントだ。
まだ1か月も先なのに早いのではないか。
さらに、天井まで届きそうなほどの大きさだ。
いくらなんでも、でか過ぎる。
木の周りには、たくさんの生徒達が集まっていた。
皆、オーナメントなどを持ち、木の飾り付けをしていたようだ。
中等部は、何やらキラキラしたものを手に持って走り回っている。
何処から注意していいのか解らない。
クラウスの姿を見付けた生徒が笑顔を輝かせた。
「ああ、クラウス! クラウスも一緒にやろう。楽しいよ」
「犯人はお前か…テオ」
「もちろんだとも!」
シュヌーシア寮サロンには早くもクリスマスツリーが設置されていた。
立派な樹木に豪華なオーナメント。飾り付けが終わると点灯式を行った。
ピカピカと光るツリーを見ながら、皆でホットチョコレートを飲んだ。
一通り今の幸福感を表明したテオは、来たる当日の話を始めた。
「さて。今年のクリスマスはどうしようか?」
甘いカカオの匂いが立ち込めている。クラウスのカップだけが珈琲だった。
「そう言えば、昨年はサンタクロースごっこをしたんだったな、お前が」
テオに懐いている中等部達が突進してくる。
皆、口々に去年のお礼やら思い出を語った。
「去年のクリスマス、ありがとね、テオ」
「びっくりしたよなー。朝起きたらフツーにプレゼントあってさ」
「そーそー。俺、親にもして貰ったことねえよ、んなこと」
「ま、誰からのプレゼントだか、すぐ解ったけどな」
「うん。僕もテオがくれたんだって思ったー」
皆の視線を受けて、テオは、ふふと笑う。
「おやおや、みんな。彼は私ではなく、サンタさんなのだよ?」
昨年のクリスマスイブ。
真夜中、ご丁寧にわざわざサンタクロースの格好をしたテオは、
寮生達の部屋を訪れ、一人一人の枕許にプレゼントを置いて回った。
大半の生徒達は、翌日に驚くことになったのだが、
軍人の身体をしているクラウスには、見付かってしまった。
不審な侵入者を敏感に察知したクラウスは、
無駄に大きな白い袋を抱え、赤い服を着たテオと鉢合わせた。
クラウスはその時、初めてサンタクロースというものに出会ったのだが、
口から出た言葉は至極、無感動なものだった。
「…何やってるんだ、テオ。就寝時間だぞ」
サンタの方は白ひげを撫でながら楽しそうに笑う。
照明を消した薄暗い部屋でも、テオの笑顔が眩しく見えるようだった。
「ほっほっほ! 見付かってしまったねえ。メーリークリスマース!」
「お前…クリスマスパーティは明日やるんだろう?」
「サンタさんは、シュヌーシアの良い子達にプレゼントを渡しに来たのだよ」
「良い子達…って、まさか、全員か?」
「我がシュヌーシアは良い子達ばかりだからねえ」
「この道楽者は…」
「クラウス君へのプレゼントはこれだよ」
白い袋から出て来たのは大きな赤い箱。
中身はクラウスが以前ちらりと欲しいと言った事があるものだった。
テオサンタは白い袋を畳む。もう何も入っていない。
他の部屋には全て回っている。クラウスの部屋が最後だった。
「それから、クラウス君にはもうひとつプレゼントを。
クラウス君は良い子過ぎるくらい良い子だからねえ」
赤い服のポケットから白いリボンを取り出した。
既に結ばれた形のリボンを胸にぺたと貼った。
裏にシールでも付いているらしい。
ベッドの上でクラウスは眉間に皺を寄せた。
「それは何の真似だ?」
「私をあげる。貰ってくれるかい、クラウス」
サンタはベッドに腰を降ろす。
その重みを受けて、ベッドが少し沈む。
テオはいつもと変わらない穏やかさに加え、
情熱を込めた真摯な眼差しを向けた。
「貴方になら私の全てをあげる。愛しているよ、クラウス」
クラウスは友人を直視できなくなる。
こういう言葉を投げ掛けられると、どう対処していいのか解らなくなる。
「お前はまた…そういうことを…」
「聖なる夜にも愛を語ってはいけないのかい?
私はきっと、クラウスに会うため、聖アルフォンソ学院に――
いや、この世に、生を授かったのだよ」
真正面に向けられた瞳。
いつだって思うまま行動し、テオは自由に言葉を発してきた。
テオの言動は眩むほど派手だが、その本質には常に嘘偽りはない。
だが、テオは友人だ。
友人の枠から越えてはならない相手だ。
誤りだ。俺に愛など注いでも何にもならない。
何故、俺なんだ。何故、俺でなくてはならなかった。
「止めろ、テオ…相手を間違えている」
「ううん。他に誰が居ると言うんだい。貴方こそ、私の全てだ。
私は貴方を愛したことを後悔しないよ」
後悔しない、それは本当なのだろうか。
肩に添えられた手。ゆっくりと赤い衣装が倒れ込んで来る。
クラウスの背がベッドに戻った。
こんな体勢を戦場で取ったら、自ら降伏しているようなものだ。
沈黙の後、テオの瞳に困惑した俺が映っていた。
「貴方と共にある奇跡に感謝するよ。愛しい…愛しいよ、クラウス…」
その後のことまで思い出してしまって、クラウスの耳が仄かに紅潮する。
昨年の出来具合に大満足だったテオは美しい思い出に陶酔していた。
「昨年のクリスマスは素晴らしかったね。おや? どうしたんだい、クラウス」
「…今年のサンタクロースごっこは禁止だ」
寮生達から「えー!?」と叫び声が上がる。テオも慌てて詰め寄った。
「クラウス! 私は今年もやろうと思っていたのだよ?」
「いや、しかし…」
煌めくクリスマスツリーの下で、生徒達の賑やかな声が飛び交う。
結果、クラウスは寮生全員からの大反対に合い、多数決に惨敗する。
その年、シュヌーシアの枕許には、2人のサンタクロースが訪れた。
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