忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■テオ×クラウス
シュヌーシア寮サロン。
コーヒーミルの心地好い音がする。
クラウスは新聞から視線を上げ、友人の後ろ姿を盗み見る。
テオは電動式ではなく、わざわざ手動式のミルを購入した。
回す動作も遅い。あまり急いで回すといけないそうだ。
時間を掛けて、俺と自分だけの為に珈琲を淹れている。
湯が注がれ、珈琲の良い香りが漂う。
テオからカップを渡され、クラウスは短く礼を言う。
挽き立ての香り。あたたかい珈琲が身体中に沁みていく。
そう言えば、と先程耳にした噂を尋ねた。
「お前、明日からギリシャに帰るのか?」
「ああ、そうなのだよ。メネシスパーティがあってね」
テオも同じものを持って隣のソファに座る。
「なんだ、それは?」
「メネシスの親戚一同が集まる日、まあ、儀式のようなものだね。
姉上に久し振りに会えるのが唯一の楽しみかな」
カップに口付ける横顔。黒い水面に注がれる視線。一瞬、曇ったように見えた。
恒例行事のような言い方だが、クラウスが知る限り、これまでは参加していなかった筈だ。
「何かあったのか?」
テオはにこりと笑う。もう一口、珈琲に口付けてから話した。
「ううん。あまり面白いパーティではないから行きたくないだけだよ。
 だって、パーティで豪勢な料理を食べるより、
 こうして、クラウスと珈琲を飲む時間の方が私は幸せだからね?」
「そんなに面白くないパーティなのか?」
「おや。貴方との時間が至上だと思ってはくれないのかい?」
「また…お前は」
テオは芝居がかった言い回しでクラウスの手を取る。
「三日程、留守にするけれど、私は必ず貴方の元に帰って来るからね。
 泣かないで、私のことを待っているのだよ、クラウス」
「誰が、泣くか!」

翌朝、テオは「お土産を期待してておくれー」と言い残し、寮を出て行った。
今日は休日。講義はない。自主活動の日だ。
テオを玄関まで見送った生徒達は、ぞろぞろとサロンへ入る。
なんとなく皆、覇気がない。
小生意気な中等部一年生のレオンは、だらりとソファに凭れた。
「今日はテオ居ないのかー。つまんないのー」
同い年で性格が真逆のラビットが傍に座る。
「ね、レオン。アクティヴィティ、何する?」
「思い付かないー。ラビは?」
ふるると首を横に振る。柔らかい栗毛がさらさら揺れた。
「僕もだめ…最近のアクティヴィティはテオスペシャルだったもんね」

先週のアクティヴィティは『家庭科の実習』という名目でのクッキー作り。
単にテオが皆でお菓子を作ってみたかっただけで、
学問で分類するとそれが家庭科だっただけだ。
うちの寮のシェフを特別講師にシュヌーシア全員で作って食べた。
テオが毎回名付ける正式名称は無駄に長い。
その時は『ドニ先生の初めてのドキドキクッキー教室デラックス』だった。
先々週は『海洋学の実習』という名目のスキューバダイビングだった。
それも海と太陽を愛する男がシュヌーシア全体を巻き込んだものだ。
こちらの正式名称は、『テオプレゼンツ! 真夏の太陽と海に包まれて、
私達もお魚になろうスペシャル!』だっただろうか。

テオが居ない日、クラウスは極めて自分らしい休日を過ごした。
午前中はジムに行き、午後は勉強。
講義の予習復習はかなり進んだ。溜まっていた本も読み終わった。
充実した休日だったと言える。言える筈だが。
本を閉じる。傍には読み終えた本が積み重なっていた。
これほど勉強が捗ったのも久しい。
次の本に手が伸びない。
ずっと勉強していたから疲れたようだ。
「少し、休むか」

サロンに行き、バトラーに珈琲を頼んだ。
いつもはテオが申し出て、目の前で豆から淹れてくれる。
手挽きのミルはサロンの片隅にある。テオのお茶セット一式だ。
道具は其処にあるが、使う者が今日は居ない。
この部屋はいつも大抵誰かが居て、何かと騒がしいのだが、
今日は皆、自室か外に行っているようで、静かなものだった。
クラウスが新聞を捲る音が侘しく響く。
バトラーはサロンから一度下がり、カップを持ってきた。
彼が淹れる珈琲も美味い。
けれど、鼻腔を抜ける香りも、喉を流れる苦味も。
欲しているのはこれではない。
身体はそう言っていた。


「テオ、まだかなー」
「もう着いても良いのにね」
テオが帰宅する日。
寮生達はそわそわとサロンで待ち伏せていた。
その様子を見ていて、クラウスは何故か苛々してくる。
「お前達、少しは落ち着け」
「クラウスも待ってんじゃん」
最年長をからかったのは最年少のレオンだ。
「俺はサロンで新聞を読んでいるだけだ」
「年取ると頑固になっちゃうのかねー。あ、クラウスは生まれつきか」
「レオン、俺に喧嘩を売っているのか」
「ほんとのこと言っただけだもーん」
「こいつ…」
険悪な空気を感じたラビットは弱々しく声を上げた。
「ちょ、ちょっと、レオンもクラウスも止めてよ…」
「ラビ! お前、俺の味方じゃないのかよー」
最年長が大人げなくクスリと笑う。
「どうやら、ラビにも見限られたようだな」
「違うよな、ラビ!」
「え、あ、あの…」
(テオ、早く帰って来てっ)というラビの願いが届いたのか、
サロンのドアは派手に開いた。
テオはたくさんのお土産を抱えて帰って来た。
タクシーの運転手にも運ぶのを手伝って貰った程の量だった。
サロンに皆を集めて、寮生一人ずつに何らかの物を配っていた。
特産品からよく解らないおもちゃまで様々だ。
落ち着いたところで、ギリシャの名産だという蜂蜜を、
ホットミルクに入れて皆で飲んだ。
「私、家でもこれを飲んだのだけど、サロンで飲むと、やはり格別だね」
テオは心底嬉しそうに言った。そこでテオはこちらを向いた。
「クラウスに蜂蜜は甘かったかな。貴方には珈琲を淹れても良い?」
「それはありがたいが。お前、帰って来たばかりなのによく動くな?」
「良いのだよ。家では私の珈琲を飲んでくれる人は居ないんだ。
 私が淹れる珈琲はこんなに美味しいのにね」
海運王の跡取り息子が微笑む。
サロンの片隅に向かう。愛用のコーヒーミルに触れる。
豆を挽く音。寮生達の騒ぐ声。
ここ三日間、聞こえなかった音がサロンに戻っていた。


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]