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Marginal Prince Short Story
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■オーギュスト×アンリ
■ブラックテイスト
「フランスに於いては、15世紀にリボンが生まれたという説がある。
 最盛期は19世紀。裕福な貴婦人方にとってシルクのリボンは、
 なくてはならないアクセサリーだったんだ」
別に質問もしていないのに、講師はリボンについて講釈していた。
アンリは髪を枕に散らして可笑しな講師を見上げていた。
オーギュストはベッドの上に座っている。
暗い部屋に講師のワイシャツが青白く浮かぶ。
彼のボタンは上部だけが開いている。
ジャケットは向こうの椅子に寄り掛かっていた。
明日には皺になっているだろう。生徒は、ふっと笑みを零した。
「神秘学もそうだけれど。君の趣味ってどうかしている」
講師の手には細身の赤いリボン。
「アンリをより可愛くしたいだけだよ、私は。
 クリスマスが近いからね。季節感を演出してみようかと思って」
生徒の後頭部を静かに持ち上げて、首の下にリボンを通す。
もう一度、枕に戻る髪。一連の動作は酷く丁寧だった。
講師の長い指が生徒の白い喉にリボンを結び始める。
首より下の肌には既に、紐と似た色の花。
幾度となく受けている夜の特別授業。
今宵の一時間目が終わった後。
首にリボンを巻いてるアンリが見たいなと言われた。
紳士的に振舞えるくせに、彼の講義はアブノーマルで困る。
首許を眺めながら、生徒は冷笑する。
「僕を絞殺でもするつもり? 化けて出るよ? 毎晩ね」
生徒の冗談に講師が微笑む。
「君の方から私のベッドに来てくれるのかい? それも良いね」
オーギュストは蝶の形になったリボンを眺める。
しかし、すぐに先端を引いた。
「ねえ。何故、ほどいたの?」
「綺麗に結ぶのはなかなか難しくてね。ほら、また長さが揃わない」
両端を揃え直そうと、講師は手にしている片方を引く。
後ろの首筋をリボンが擦れる。
「くすぐったい…」
「ごめん」
その器用過ぎる指先なら、リボンくらい容易く結べる筈なのに。
わざとなのか、何度かやり直していた。
リボンの先に鎖骨をちろちろとなぞられて、思わず眉を顰める。
「…オーギュ」
「ごめんね。次は上手く作るから」
また片方をリングにする。
遅過ぎる手作業の上につまらないお喋りを続ける。
「リボンという物は、実に神秘的な物だと思わないかね?」
「思わない」
リングの中心をもう一方の紐で巻く。
「私などはリボンを見ると、解きたくなるんだ。
 結んでいるのに、すぐに解けるようにできているからね、リボンは」
「絡まったリボンだってあるよ。鋏で切るしかない程に」
きゅ、と左右のリングが結ばれる。
「ゆっくりと時間を掛けさえすれば、いつかはほどけるよ。
 私はそれまで待てる。気は長い方だからね」
左右の形を整える。先端の長さまで綺麗に合わせていた。
「ん。できたよ」



蝶と首との間は少し余裕を持って作られたのだが、
苦しくはないかね? と聞かれた。生徒は何も言わなかった。
講師はリボン姿を眺め、小さな子供を褒めるように髪を撫でた。
「可愛いよ。とても可愛い」
彼の手を避けることはなかったが、唇は反抗していた。
「僕にリボンなんか掛けて、何処かに贈るつもり?」
「まさか。私だけのものだよ、アンリは」
生徒は教諭を見上げ、冷静な声で言う。
「僕は僕のものだ」
冷たい苦言さえ愛おしむように、講師は微笑していた。
白い首許に下がる赤い紐。
それを手に乗せ、ゆっくり顔を寄せる。
「可愛いよ、アンリ」
手の甲へするように、恭しくリボンに口付けた。
昔のフランス貴族のような動作。
この紳士がすると違和感がないのが不思議だった。
薄い唇が自分の身体に落とされるより、胸がとく、と鳴ってしまった。
講師は、リボンの端をゆっくりと引く。
「やはり、ほどきたくなるね」
艶々した赤い布が肌を滑る。その僅かな振動が喉に伝わる。
「せっかくだから、これで手首でも縛るかい? アンリ」
「嫌」
2つのリングが小さくなる。今結んだばかりのリボンが解けていく。
講師は穏やかな笑顔を見せた。
「アンリ、以前はお気に入りだったじゃないか」


fin
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