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■オーギュスト×アンリ
深夜、降り出した雨。
そのノイズで、重い瞼が物憂げに開いていく。
最初に映ったのは暗い色をした壁だった。
アンリは自分のベッドに居た。
憂鬱な雨音が耳に付く。
好きな音ではない。
ふと隣を見ると、紳士の寝顔があった。
神秘学の特別講師。
彼が同じ毛布の中に居る。
もう、珍しいことではなかった。
君を拒まずにいる理由は、自分にも説明できないでいた。
解らない。
すぐ傍にある顔を虚ろに眺める。
君はこちら側を向いている。
そう言えば、寝顔はあまり見たことがなかった。
自分は酷く朝に弱い。
大抵、講師の方が先に目覚めている。
君と眠った時は、彼の声で朝を告げられる。
戯れに口付けで起こされることもあった。
講義中は先生の顔をしている。
髪は後ろに撫で付け、首許にはクロスタイをしている。
今は前髪を降ろし、開いた立襟からは鎖骨が覗いている。
声は、昼も夜も理屈っぽい。
この唇から紡がれる。
神秘学の知識も、僕の名前も、甘い口付けも。
自分から唇を寄せたことはなかった。
優しい言葉も、蕩ける愛撫も。
いつも君にされるままで。
この性格では、何もできなかった。
君は今眠っている。
枕の上に左の肘を突く。
もそりと僅かに上体を起こす。
肩から毛布が滑る。
夜の空気に晒される素肌。
毛布のぬくみを失って、肌寒い。
君の様子を伺う。
眉ひとつ動かさない。
穏やかな寝息。
数センチ、彼に近付く。
自分の横髪に頬を撫でられた。
右手で静かに耳に掛ける。
囁く程度の声で呼んだ。
「オーギュ」
講師の目は開かない。
毛布の上から、彼の肩に右手を添える。
体重を掛けないように、そっと。
君との距離を縮めていく。
外では物悲しい旋律が続いている。
夜の雨は嫌い。
好きじゃない。
ずっと年の離れた男性。
自分より優秀な。
父に似た、薄い唇。
目を閉じて、静かに重ねた。
柔らかい。
とく、と自分の心音を感じて。
君の唇から離れる。
肩に添えた右手も離した。
距離を取って、様子を伺う。
まだ眼を瞑っている。
止まっていた自分の呼吸。
枕から左肘を外す。
再び枕に頭を乗せた。
目に映る暗い天井。
横髪を手で梳く。
指の間を流れる髪。
毛布を引き寄せる。
君に背を向けた。
唇に毛布が触れている。
とくとく、鳴り止まない心音。
目を閉じても。
まだ。
どうかしている。
fin
深夜、降り出した雨。
そのノイズで、重い瞼が物憂げに開いていく。
最初に映ったのは暗い色をした壁だった。
アンリは自分のベッドに居た。
憂鬱な雨音が耳に付く。
好きな音ではない。
ふと隣を見ると、紳士の寝顔があった。
神秘学の特別講師。
彼が同じ毛布の中に居る。
もう、珍しいことではなかった。
君を拒まずにいる理由は、自分にも説明できないでいた。
解らない。
すぐ傍にある顔を虚ろに眺める。
君はこちら側を向いている。
そう言えば、寝顔はあまり見たことがなかった。
自分は酷く朝に弱い。
大抵、講師の方が先に目覚めている。
君と眠った時は、彼の声で朝を告げられる。
戯れに口付けで起こされることもあった。
講義中は先生の顔をしている。
髪は後ろに撫で付け、首許にはクロスタイをしている。
今は前髪を降ろし、開いた立襟からは鎖骨が覗いている。
声は、昼も夜も理屈っぽい。
この唇から紡がれる。
神秘学の知識も、僕の名前も、甘い口付けも。
自分から唇を寄せたことはなかった。
優しい言葉も、蕩ける愛撫も。
いつも君にされるままで。
この性格では、何もできなかった。
君は今眠っている。
枕の上に左の肘を突く。
もそりと僅かに上体を起こす。
肩から毛布が滑る。
夜の空気に晒される素肌。
毛布のぬくみを失って、肌寒い。
君の様子を伺う。
眉ひとつ動かさない。
穏やかな寝息。
数センチ、彼に近付く。
自分の横髪に頬を撫でられた。
右手で静かに耳に掛ける。
囁く程度の声で呼んだ。
「オーギュ」
講師の目は開かない。
毛布の上から、彼の肩に右手を添える。
体重を掛けないように、そっと。
君との距離を縮めていく。
外では物悲しい旋律が続いている。
夜の雨は嫌い。
好きじゃない。
ずっと年の離れた男性。
自分より優秀な。
父に似た、薄い唇。
目を閉じて、静かに重ねた。
柔らかい。
とく、と自分の心音を感じて。
君の唇から離れる。
肩に添えた右手も離した。
距離を取って、様子を伺う。
まだ眼を瞑っている。
止まっていた自分の呼吸。
枕から左肘を外す。
再び枕に頭を乗せた。
目に映る暗い天井。
横髪を手で梳く。
指の間を流れる髪。
毛布を引き寄せる。
君に背を向けた。
唇に毛布が触れている。
とくとく、鳴り止まない心音。
目を閉じても。
まだ。
どうかしている。
fin
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