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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュア×アンリ
アンリ、入学翌日 続編
まだ夜は明けていないようだ。
アンリは暗い部屋で目覚めた。
自分のベッド。ふと隣を見ると、優等生の寝顔があった。
ジョシュア・グラント。
僕達は向き合って眠っていたらしい。
彼が同じ毛布の中に居る。
今では余り疑問を感じていないことが不思議だった。

この学院の生徒代表殿が白い肩を晒している。
少し寝乱れた髪。左腕は毛布の外。
乗馬を嗜むそれは男性的で綺麗な腕だった。
その左腕は、毛布越しに僕の腕を抱いていた。
ただ眠っているだけなのに。これも血ゆえだろうか。

父方はロレート大公、母方はサン・ジェルマン家の好敵手グラント家。
学院の生徒はプリンスと呼ばれることもあるけれど、彼は本物だ。
王となる者の証を持っている。
初めて会った時から、彼の額に見えたもの。
普段はゆっくり眺めることができないから、
君が眠っている時はいつも、視線を奪われる。
まだ少し重い目にも、それは輝いて映った。
僕にしか見えない月桂樹の王冠。
この暗い部屋の中でも闇に溶けない、透明の光。
きらきら輝いて。
綺麗だ。

触れてみたくなる。
この王冠は光と同じで感触はないと知っているのだけれど。
彼が生徒代表になってからは輝きが増しているから、
いつか、さわれる日が来るかもしれない。
君の様子を伺う。深紅の瞳は閉じられている。
高貴な両親から受け継いだ、整った顔立ち。
毛布から腕を出して、王冠に手を伸ばす。
僕の右腕を抱く手を気にしながら、光との距離を縮めていく。
透明な月桂樹に人差し指を近付ける。
えっ、と思った。
少しだけ温かく感じられた。
今までこんなことはなかった。もう一度、光に指を添える。
今度は何も感じなかった。空気との差がない。
気のせいか。いや、さっきは確かに。

柔らかい吐息が聞こえた。
「好きだね、王冠。そんなに気になってしまう?」
深紅の瞳がこちらを見て微笑んでいた。
「君が可笑しなものを被ってるからだ。いつから起きてたの」
「少し前にね。アンリ、忙しそうだったから静かにしていたんだけど」
右手で口許を隠す。
「何を笑っているの?」
「蝶々に手を伸ばす猫みたいだったから」
王冠に手を伸ばしている様子を見られていたらしい。
ジョシュアは笑いながら、ごめん、と言う。
「怒るなよ。可愛かった」
「寝たフリなんて、君、性格悪くなったね」
「じゃあ、似てきたのかな、好きな人に」
「ああ、栗毛の彼女、じゃじゃ馬だものね?」
彼女には危なく蹴られるところだった。仲直りする機会もないだろう。
「アルセイデスは大人しいレディだよ。イジワルなことも言わないし」
「なら、イジワルな人から離れた方が良いんじゃない?」
ジョシュアは僕に近付いて、とん、と額を合わせた。
僕は王冠にぶつかると思い、反射的に目を閉じた。
感じたのは痛みではなく、人肌の温もり。
目を開けると、深紅の瞳がすぐ傍にあった。
「離れるなんてできないよ。俺、その人のこと、大好きだから」
口付けさえできない距離。僕は彼の肩を押して、自分から離れた。
「僕にピロートークは必要ない」
彼の笑顔が余計に優しくなる。左手が僕の髪を梳き始める。
子守唄のように、ゆっくりと話し始めた。
「アンリは覚えているかな?」
蜂蜜にも似た声。君の指が髪の間をするすると流れていく。
「これは一体何の王冠なのか、俺に聞いたことがあっただろう?」
入学当初、王冠について問い質したことがあった。
ジョシュアはグラントやロレートの跡継ぎではないと言っていた。
それを聞いて、では何の王冠なの、と尋ねた。
「そんなこともあったかな」
「俺、今なら答えられると思うんだ」
グラントかロレートのどちらかを選んだのだろうか。
ジョシュアの答えは、サン・ジェルマン家にも影響を及ぼす。
「では、聞かせて」
どちらの答えを聞いても驚かない覚悟があった。
ただ、彼が敵に回るのは、あまりいい気がしない。
願わくは、ロレートという答えを期待していた。
そっと深紅の瞳を見つめる。余裕のある表情だった。
「これはきっと、アンリに見つけて貰う為の目印だったんだよ」
真綿のような笑顔で、彼は自分の前髪に触れた。
その指は王冠を擦り抜けている。
「俺達を惹き合せてくれたのは、この王冠だからね」
嬉しそうに言う人を見て、僕は息を吐いた。
「馬鹿なこと言わないで。そんな些末事を示す光じゃない」
でなければ、説明がつかない輝きだ。
彼は生徒代表に留まるような器じゃない。光がそう物語ってる。
この輝きは年を重ねる度に強くなる。きっと、そのせい。
だから、王冠に触れたくなるんだ。
「月桂樹の王冠は、古代ギリシャから栄光の証と決まってる。君の王冠は」
「だから、だよ?」
ふわと香る、君の匂い。後ろ髪に回された腕。
近過ぎて王冠も見えない。
「君に会えた。それが栄光だよ」
僕の頬に寄り添う手。
シフォンケーキのような口付けが落とされた。


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