×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■テオ アンリ ジョシュア
■小説ベース
昨日、ウーティス寮に新入生が来た。
入学の際に保証人を必要としない、特別な生徒。
アンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
学院との深い結び付きを持っていることが憧れの的となった。
それだけでも入学前から噂が絶えなかったのに、
入学初日に現した姿は更に注目を集めた。
中等部一年。背は低く、華奢な肢体。
肌は透き通るように白く、天使のようだったと噂された。
放課後のウーティス寮サロン。
噂の新入生は部屋の隅に居た。そこだけ孤島のように離れているので、
今までは誰も座っていなかった席だ。今は一人で静かに本を読んでいる。
周りの生徒達は、ちらちらと見てはいるものの、
話し掛ける勇気を持つ者は居なかった。どうも近寄り難い雰囲気があるのだ。
そこへ威勢の良い声が到着した。
「こんにちは、ウーティスのみんな。お邪魔するよ」
シュヌーシア寮のテオが笑顔でやってきた。堂々と部屋の中へ入る。
「昨日入ったという天使にお会いしたいのだけど、居るかな?」
寮生達に、そこだよ、と示された方を見る。
見慣れぬ髪が少し見えた。テオは彼の正面へと回る。
おお、と感嘆の声を上げた。
「なんという知性的な美貌だろう! これが博学と永遠の美を受け継ぐ血なのだね。
流石は、サン・ジェルマン伯の末裔だ」
新入生は本から少し顔を上げる。瞳が琥珀に光る。テオは更に感動を言葉にした。
「こんなところにトパーズが! 神々しい…常人には映らないものまで映し出しそうだ」
アンリはテオから視線を外し、気だるげに言った。
「本が、読めないんだけど」
「素晴らしい美声じゃないか!」
「君は…褒め殺し用生物兵器?」
「おっと、失礼。私の自己紹介がまだだったね」
さっとアンリの前で跪く。人の良い笑顔を惜し気なく見せた。
「私はテオ・メネシス。中等部三年だよ。君と同じで一年の頃から此処に居るんだ。
今日はね、君に一目会いたくて、やってきたのだよ。ああ、私はとても満足だ」
立ち上がって、両手を広げる。
「君はまさに孤島に舞い降りた天使、いや、秘密の花園に咲いたプリンセスだ!」
熱く演説しているテオに、冷たい視線が送られる。
ドアが少し開いた。琥珀の瞳がその姿を捉える。
彼はサロンに入らず、ドアを閉めた。
「どうしたの、アンリ?」
突然アンリが本を閉じたので、テオは尋ねた。
しかしアンリは、問いには答えず、本を持ち、サロンから出て行った。
残されたテオは不思議そうに小首を傾げる。
「私、何か可笑しなことを言ってしまったかな?」
廊下に出たアンリは、彼の姿を探していた。
彼が来るのをサロンで待っていたのに。
避けられている。
ジョシュア・グラント。
彼は、昨日から殆ど僕と目を合わさない。
外へ向かう背中。
頭上には透明な証。
尾を引く輝きを追い駆けた。
月桂樹の森。
美しいさえずりが響く。此処の伝説にも歌われるナイチンゲールだ。
学院で一番好きな場所にジョシュアは避難してきた。
新鮮な空気を吸って、幾らか気持ちが落ち着いてくる。
新入生の姿を目にして、思わず此処まで来てしまった。
やはり、彼を傷付けてしまっただろうかと後悔する。
昨日、初めて会った時に言われたこと。
それがひっかかって、まともに顔も合わせられない。
「ジョシュア」
森の入り口に少年が居た。
琥珀の瞳が睨むように、こちらを見ている。
二人の間には数メートルもの距離。自分から近付くつもりはないらしい。
「僕の顔を見て逃げるなんて、失礼じゃない?」
ジョシュアは相手を傷付けない為の嘘を吐く。
自分のせいで誰かを不幸にすること。それが何より怖いことだった。
「違うんだよ。サロン、人が多かったら、俺、邪魔かと思って…」
鳥達が頭上を過ぎ行く。その歌声は楽しげに聞こえた。
アンリからの反応がない。そっと表情を伺う。
視線が絡むと、痛い程、冷静な声が返って来た。
「僕に、嘘は吐けないよ」
アンリは自分の腕を抱く。
寒いわけでもないのに、顔色もあまり良くないように見えた。
「僕は君に話があるからわざわざ待っててあげたのに…早く、そこから出て来て」
アンリは森の中へ一歩も踏み入れていなかった。吐き捨てるように言う。
「森は嫌いだと言ったでしょ」
甦る昨日の場面。森は嫌いだと確かに言われていた。
「ごめん…今、行くよ」
出会ってから彼には謝ってばかりだ、そう思いながら少年の元へ向かった。
付いて来て、と言われ、アンリの部屋に入ることになった。
昨日来たばかりなのに荷物は殆ど片付いていた。
カーテンの色はブルーだった。窓の外には明るい夕陽。
机には、ぽつんと写真立てが乗っている。
本の影になって写真の上部はよく見えないが、何か花を持っているようだ。
「立ってないで、座ったら?」
「ごめん、そうだね」
ひとつ年下の生徒が主導になっている。
ジョシュアは傍のソファに腰を降ろす。
アンリは彼の正面に立った。
そして、ジョシュアの額の方をじっと見つめた。
「ねえ。その王冠、なんなの?」
月桂樹の王冠が見える。
昨日、そう言われてから、食事の時間も同じ場所を凝視されていた。
「何って言われても…俺…」
美しい見目の少年は、ずけずけと疑問をぶつけてきた。
「君は、本当に今まで気付かなかったの?」
「うん…俺には見えないし、その、そんなこと言われたのも、初めてだから」
「それ、ちっとも重くないの?」
「え? 重さは、ないけど…」
「昨日、グラントの跡継ぎではないと言ったよね? ではロレートの王になるの?」
「ならないと、思うよ。今は叔父が王位を継いでいるし」
「それなら、これは何の王冠なの?」
「解らないよ…俺には」
「まあ、グラントかロレートならば、ロレートの方が王冠には合いそうだけどね」
アンリはジョシュアの周りをゆっくりと歩く。
視線は頭を見つめたままだ。王冠をじっくりと観察しているらしい。
黙ったまま、周りを歩かれ、ジョシュアは落ち着かない。
「あの、アンリの目には、俺達に見えないものが見えるの? 王冠の他にも」
「偶には、ね。だけど王冠は初めてだよ」
「そう、なんだ」
「僕にしか見えないものは、透明で、光っているんだ。
でも、君のは…こんなに綺麗なのは、今まで見たことがない」
額を見つめたまま、手を伸ばす。ジョシュアは少し首を上げる。
「アンリ?」
「動かないで」
「あ、ごめん」
ゆっくりと手を近付ける。
指は透明な光を擦り抜け、緩い波のある髪に触れた。
アンリは少し肩を落とす。ぽつ、と呟いた。
「さわれない…」
途端にジョシュアは申し訳ない気持ちになる。
それまで彼は冷たい台詞が目立ったので、素直に落胆されて初めて、
目の前の少年が、自分より年下の子なのだと感じられた。
「あの、ごめんね、アンリ」
「ん?」
「俺、君に迷惑を掛けてばかりだから…ごめん」
「ふうん。頭を下げても、君の王冠は落ちないんだ。便利だね?」
シニカルな微笑。それを見て、ジョシュアはやっと緊張感が解けた。
「そんなに見られると、俺、恥ずかしいよ」
「だって、こんなに光っているんだもの。気にするなっていう方が無理でしょう?」
アンリはジョシュアの前に座った。足を組み、肘掛けに頬杖を突く。
「まあ、いいや。とりあえず、この話はおしまいにしようか?」
「あ、うん。ありがとう」
ジョシュアはほっとしていた。
この部屋に入るまで、少年のことが少し恐ろしかった。
色々冷たい言い方もされたが悪意はないらしい。
彼が見えるという王冠の話は、まだ半信半疑だけれど。
思ったよりはずっと、仲良くなれそうだ。
ジョシュアはソファから立ち上がる。笑顔で手を差し出した。
「これから、よろしくね? アンリ」
少年の視線が手と笑顔を行き来する。やや遅れて、その手を握り返した。
「うん」
fin
■小説ベース
昨日、ウーティス寮に新入生が来た。
入学の際に保証人を必要としない、特別な生徒。
アンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
学院との深い結び付きを持っていることが憧れの的となった。
それだけでも入学前から噂が絶えなかったのに、
入学初日に現した姿は更に注目を集めた。
中等部一年。背は低く、華奢な肢体。
肌は透き通るように白く、天使のようだったと噂された。
放課後のウーティス寮サロン。
噂の新入生は部屋の隅に居た。そこだけ孤島のように離れているので、
今までは誰も座っていなかった席だ。今は一人で静かに本を読んでいる。
周りの生徒達は、ちらちらと見てはいるものの、
話し掛ける勇気を持つ者は居なかった。どうも近寄り難い雰囲気があるのだ。
そこへ威勢の良い声が到着した。
「こんにちは、ウーティスのみんな。お邪魔するよ」
シュヌーシア寮のテオが笑顔でやってきた。堂々と部屋の中へ入る。
「昨日入ったという天使にお会いしたいのだけど、居るかな?」
寮生達に、そこだよ、と示された方を見る。
見慣れぬ髪が少し見えた。テオは彼の正面へと回る。
おお、と感嘆の声を上げた。
「なんという知性的な美貌だろう! これが博学と永遠の美を受け継ぐ血なのだね。
流石は、サン・ジェルマン伯の末裔だ」
新入生は本から少し顔を上げる。瞳が琥珀に光る。テオは更に感動を言葉にした。
「こんなところにトパーズが! 神々しい…常人には映らないものまで映し出しそうだ」
アンリはテオから視線を外し、気だるげに言った。
「本が、読めないんだけど」
「素晴らしい美声じゃないか!」
「君は…褒め殺し用生物兵器?」
「おっと、失礼。私の自己紹介がまだだったね」
さっとアンリの前で跪く。人の良い笑顔を惜し気なく見せた。
「私はテオ・メネシス。中等部三年だよ。君と同じで一年の頃から此処に居るんだ。
今日はね、君に一目会いたくて、やってきたのだよ。ああ、私はとても満足だ」
立ち上がって、両手を広げる。
「君はまさに孤島に舞い降りた天使、いや、秘密の花園に咲いたプリンセスだ!」
熱く演説しているテオに、冷たい視線が送られる。
ドアが少し開いた。琥珀の瞳がその姿を捉える。
彼はサロンに入らず、ドアを閉めた。
「どうしたの、アンリ?」
突然アンリが本を閉じたので、テオは尋ねた。
しかしアンリは、問いには答えず、本を持ち、サロンから出て行った。
残されたテオは不思議そうに小首を傾げる。
「私、何か可笑しなことを言ってしまったかな?」
廊下に出たアンリは、彼の姿を探していた。
彼が来るのをサロンで待っていたのに。
避けられている。
ジョシュア・グラント。
彼は、昨日から殆ど僕と目を合わさない。
外へ向かう背中。
頭上には透明な証。
尾を引く輝きを追い駆けた。
月桂樹の森。
美しいさえずりが響く。此処の伝説にも歌われるナイチンゲールだ。
学院で一番好きな場所にジョシュアは避難してきた。
新鮮な空気を吸って、幾らか気持ちが落ち着いてくる。
新入生の姿を目にして、思わず此処まで来てしまった。
やはり、彼を傷付けてしまっただろうかと後悔する。
昨日、初めて会った時に言われたこと。
それがひっかかって、まともに顔も合わせられない。
「ジョシュア」
森の入り口に少年が居た。
琥珀の瞳が睨むように、こちらを見ている。
二人の間には数メートルもの距離。自分から近付くつもりはないらしい。
「僕の顔を見て逃げるなんて、失礼じゃない?」
ジョシュアは相手を傷付けない為の嘘を吐く。
自分のせいで誰かを不幸にすること。それが何より怖いことだった。
「違うんだよ。サロン、人が多かったら、俺、邪魔かと思って…」
鳥達が頭上を過ぎ行く。その歌声は楽しげに聞こえた。
アンリからの反応がない。そっと表情を伺う。
視線が絡むと、痛い程、冷静な声が返って来た。
「僕に、嘘は吐けないよ」
アンリは自分の腕を抱く。
寒いわけでもないのに、顔色もあまり良くないように見えた。
「僕は君に話があるからわざわざ待っててあげたのに…早く、そこから出て来て」
アンリは森の中へ一歩も踏み入れていなかった。吐き捨てるように言う。
「森は嫌いだと言ったでしょ」
甦る昨日の場面。森は嫌いだと確かに言われていた。
「ごめん…今、行くよ」
出会ってから彼には謝ってばかりだ、そう思いながら少年の元へ向かった。
付いて来て、と言われ、アンリの部屋に入ることになった。
昨日来たばかりなのに荷物は殆ど片付いていた。
カーテンの色はブルーだった。窓の外には明るい夕陽。
机には、ぽつんと写真立てが乗っている。
本の影になって写真の上部はよく見えないが、何か花を持っているようだ。
「立ってないで、座ったら?」
「ごめん、そうだね」
ひとつ年下の生徒が主導になっている。
ジョシュアは傍のソファに腰を降ろす。
アンリは彼の正面に立った。
そして、ジョシュアの額の方をじっと見つめた。
「ねえ。その王冠、なんなの?」
月桂樹の王冠が見える。
昨日、そう言われてから、食事の時間も同じ場所を凝視されていた。
「何って言われても…俺…」
美しい見目の少年は、ずけずけと疑問をぶつけてきた。
「君は、本当に今まで気付かなかったの?」
「うん…俺には見えないし、その、そんなこと言われたのも、初めてだから」
「それ、ちっとも重くないの?」
「え? 重さは、ないけど…」
「昨日、グラントの跡継ぎではないと言ったよね? ではロレートの王になるの?」
「ならないと、思うよ。今は叔父が王位を継いでいるし」
「それなら、これは何の王冠なの?」
「解らないよ…俺には」
「まあ、グラントかロレートならば、ロレートの方が王冠には合いそうだけどね」
アンリはジョシュアの周りをゆっくりと歩く。
視線は頭を見つめたままだ。王冠をじっくりと観察しているらしい。
黙ったまま、周りを歩かれ、ジョシュアは落ち着かない。
「あの、アンリの目には、俺達に見えないものが見えるの? 王冠の他にも」
「偶には、ね。だけど王冠は初めてだよ」
「そう、なんだ」
「僕にしか見えないものは、透明で、光っているんだ。
でも、君のは…こんなに綺麗なのは、今まで見たことがない」
額を見つめたまま、手を伸ばす。ジョシュアは少し首を上げる。
「アンリ?」
「動かないで」
「あ、ごめん」
ゆっくりと手を近付ける。
指は透明な光を擦り抜け、緩い波のある髪に触れた。
アンリは少し肩を落とす。ぽつ、と呟いた。
「さわれない…」
途端にジョシュアは申し訳ない気持ちになる。
それまで彼は冷たい台詞が目立ったので、素直に落胆されて初めて、
目の前の少年が、自分より年下の子なのだと感じられた。
「あの、ごめんね、アンリ」
「ん?」
「俺、君に迷惑を掛けてばかりだから…ごめん」
「ふうん。頭を下げても、君の王冠は落ちないんだ。便利だね?」
シニカルな微笑。それを見て、ジョシュアはやっと緊張感が解けた。
「そんなに見られると、俺、恥ずかしいよ」
「だって、こんなに光っているんだもの。気にするなっていう方が無理でしょう?」
アンリはジョシュアの前に座った。足を組み、肘掛けに頬杖を突く。
「まあ、いいや。とりあえず、この話はおしまいにしようか?」
「あ、うん。ありがとう」
ジョシュアはほっとしていた。
この部屋に入るまで、少年のことが少し恐ろしかった。
色々冷たい言い方もされたが悪意はないらしい。
彼が見えるという王冠の話は、まだ半信半疑だけれど。
思ったよりはずっと、仲良くなれそうだ。
ジョシュアはソファから立ち上がる。笑顔で手を差し出した。
「これから、よろしくね? アンリ」
少年の視線が手と笑顔を行き来する。やや遅れて、その手を握り返した。
「うん」
fin
PR