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■テオシナリオ 続編
「はい、アンリ」
ユウタから携帯を受け取る。
選ばれた勝者は肩を竦めて、微笑した。
「君って本当、物好きだね?」
アルフレッドは指を差し、声を張り上げた。
「お前っ! 選んで貰ったのに、その言い方はないだろっ!」
冷笑して、携帯に向かって言う。
「此処は騒がしいから、僕の部屋に行こうか? じゃ、失礼するよ」
靴音を響かせ、悠々とその場を去った。
ウーティス寮生に宛がわれた部屋は、ホテルのスウィートルームのようだった。
「寮と同じ方が良いだろう?」とテオは6人全員に個室を提供した。
この家ではパーティなども個人的に開催する。
ゲストルームは当たり前のように数多く所有しているそうだ。
アンリにとっては、一人の空間を与えられたことはありがたいことだった。
6人で学院を出発してからギリシャに着くまで、ずっと寮生と一緒に居る。
あまり長時間、人の傍に居ると疲れてしまう。
全員揃っての旅行がそんなに嬉しいのか、彼等は移動中も騒ぎっぱなしだった。
やっと与えられた一人の空間にアンリはほっとした。
それに、今、自分が手にしている携帯電話。
これが手の中にあることも、自分を安心させる要因なのだろうとアンリは思った。
「さっき」
ドアに背を預けて、携帯を持ち上げる。
「君がもし、僕を選んでくれなかったら、どうしようかと思った」
ぽつりと零れ落ちた。捨てられた仔猫のように頼りない響き。
自分の言葉に驚いて、視線を泳がせる。
「ごめん。やっぱり、電話、一度切っても良いかな?」
アンリは顔を上げない。空いている手で髪の毛先を弄ぶ。
「夕食の前にシャワーを浴びたかったんだ。
此処に来るまでに雨に濡れたんだよ。ギリシャはこの時期、雨が多くて。
その後で、落ち着いてから話したいんだけれど…僕のこと、待てる?」
ユウタの姉が了承する。アンリの表情が僅かに柔らかくなる。
「Merci. ではまた後で」
ボタンを押す。電源まで落とした。
彼女からは百パーセント繋げないように。
画面が変わり、やがて黒に染まる。
闇色の画面を眺め、重い息を吐く。
「これじゃ、単細胞と変わらないな」
バスルームへ向かった。
ドアを閉めて、シャツのボタンを外していく。
衣服を脱ぎながらも、脳裏に浮かぶのは先の場面。
彼女がテオに言い寄られている光景を見て、
自分の血が冷えていくのを感じた。
意識下でコントロールできないまま、
自分が暗い穴へ堕ちて行くような感覚。
それが憤りだと理解したのはハリウッドスターを見てからだ。
馬鹿正直に感情表現している様子を見て、自分もそうなんだと解った。
今、この状態で彼女と話したら。
きっと傷付ける。
シャワーの前に立つ。水温を少し上げる。
あたたかいシャワーが降り注ぐ。
髪から伝い、全てを洗い流すように浴びた。
白い蒸気でシャワールームが曇っていく。
姉の携帯が鳴る。
画面に映った人は、まだ髪が濡れていた。
真っ白なバスローブより、肌の方が白かった。
首許の方が雪のようで、青白く見えた。
「待たせて、悪かったね」
アンリは窓際のテーブルに着く。
小さめの丸テーブルにはアイスティーが乗っている。
アンリは携帯の前に座ったきり、黙ってしまった。
彼女と目を合わせることもなく、
グラスに手を伸ばし、ストローに口付ける。
ユウタの姉は、話の切り口にテオのことを尋ねてみた。
話題の選択は間違っていたようで、気だるげな返事があった。
「テオと僕? 僕が入学した時にはもう居たよ。彼も13歳で入学したから。
だけど、苦手なんだ、ああいう騒がしい人。寮が違って良かったよ。
今回の旅行も、本当は来たくなかったんだけれど」
アンリはそこで、ちらと彼女を盗み見る。
「まあ、彼は僕のスポンサー、だね。事業を立ち上げる時に、彼は出資してくれたから。
去年の文化祭までは、上級生のリクエストに応えて、プリンセス役だったんだけれど。
僕にお姫様の格好をさせて喜んでいた上級生の一人なんだ、彼は。
リクエストと引き換えに、事業への出資者の確保をお願いしていたんだけど、
テオだけは自ら出資者になると言ったんだよ、快くね。そういう家系なんだ。
彼のご両親も、多くの無名の芸術家や夢追い人に手を貸している。
彼等の趣味のようなものなんだろうね、きっと。
ねえ。君はメネシスがどういう家だか、知っているの?」
否定の返事。アンリはグラスのストローに触れる。カランと氷が回った。
「では、教えておくよ。ギリシャにはこの土地柄から、
海運王と呼ばれる家が複数あるけれど、中でもメネシス家はトップクラス。
有り余る金で遊んでいるように見えて業績は成長している。
メネシスに生まれた者は、生まれてから死ぬまで、裕福に暮らせる。
仮に、君がテオと結ばれれば、お姫様の生活が待っている。
どう? テオを射止めてみる? 彼も君に興味を持っているようだったし」
アイスティーに手を伸ばし、ストローを銜える。
グラスの中で透き通る琥珀の水。
その味でリーフも特級品を使用しているらしいと解った。
「だけどね、それは不可能なんだ。彼にはもう、フィアンセがいる。
ホテル王のご令嬢だ。海運王のご子息には申し分ない姫君がね。
そう、家同士が勝手に決めた政略結婚だよ。21世紀にもなってね。
さっき、あの単細胞が君に伝えたがってたのはこのことだよ」
グラスの頬に手を添える。
「だからね、##NAME1##」
冷えたグラス。水滴は吸い付くように白い指を濡らした。
「彼にどんな甘言を囁かれても、心を許さない方がいい」
ぽたり、と携帯画面に小さな雫が落ちる。
まだ乾いていない髪から流れたようだ。
バスローブの袖で拭こうとして、動きが止まる。
雫が落ちている位置には、彼女の唇。
赤い唇が艶々と輝いている。
どうしたんですか、と彼女に尋ねられる。
「何でもない。今日は話し過ぎたよね。そろそろ切るよ。またね」
画面から彼女を消す。雫をさっと拭き取った。
「はい、アンリ」
ユウタから携帯を受け取る。
選ばれた勝者は肩を竦めて、微笑した。
「君って本当、物好きだね?」
アルフレッドは指を差し、声を張り上げた。
「お前っ! 選んで貰ったのに、その言い方はないだろっ!」
冷笑して、携帯に向かって言う。
「此処は騒がしいから、僕の部屋に行こうか? じゃ、失礼するよ」
靴音を響かせ、悠々とその場を去った。
ウーティス寮生に宛がわれた部屋は、ホテルのスウィートルームのようだった。
「寮と同じ方が良いだろう?」とテオは6人全員に個室を提供した。
この家ではパーティなども個人的に開催する。
ゲストルームは当たり前のように数多く所有しているそうだ。
アンリにとっては、一人の空間を与えられたことはありがたいことだった。
6人で学院を出発してからギリシャに着くまで、ずっと寮生と一緒に居る。
あまり長時間、人の傍に居ると疲れてしまう。
全員揃っての旅行がそんなに嬉しいのか、彼等は移動中も騒ぎっぱなしだった。
やっと与えられた一人の空間にアンリはほっとした。
それに、今、自分が手にしている携帯電話。
これが手の中にあることも、自分を安心させる要因なのだろうとアンリは思った。
「さっき」
ドアに背を預けて、携帯を持ち上げる。
「君がもし、僕を選んでくれなかったら、どうしようかと思った」
ぽつりと零れ落ちた。捨てられた仔猫のように頼りない響き。
自分の言葉に驚いて、視線を泳がせる。
「ごめん。やっぱり、電話、一度切っても良いかな?」
アンリは顔を上げない。空いている手で髪の毛先を弄ぶ。
「夕食の前にシャワーを浴びたかったんだ。
此処に来るまでに雨に濡れたんだよ。ギリシャはこの時期、雨が多くて。
その後で、落ち着いてから話したいんだけれど…僕のこと、待てる?」
ユウタの姉が了承する。アンリの表情が僅かに柔らかくなる。
「Merci. ではまた後で」
ボタンを押す。電源まで落とした。
彼女からは百パーセント繋げないように。
画面が変わり、やがて黒に染まる。
闇色の画面を眺め、重い息を吐く。
「これじゃ、単細胞と変わらないな」
バスルームへ向かった。
ドアを閉めて、シャツのボタンを外していく。
衣服を脱ぎながらも、脳裏に浮かぶのは先の場面。
彼女がテオに言い寄られている光景を見て、
自分の血が冷えていくのを感じた。
意識下でコントロールできないまま、
自分が暗い穴へ堕ちて行くような感覚。
それが憤りだと理解したのはハリウッドスターを見てからだ。
馬鹿正直に感情表現している様子を見て、自分もそうなんだと解った。
今、この状態で彼女と話したら。
きっと傷付ける。
シャワーの前に立つ。水温を少し上げる。
あたたかいシャワーが降り注ぐ。
髪から伝い、全てを洗い流すように浴びた。
白い蒸気でシャワールームが曇っていく。
姉の携帯が鳴る。
画面に映った人は、まだ髪が濡れていた。
真っ白なバスローブより、肌の方が白かった。
首許の方が雪のようで、青白く見えた。
「待たせて、悪かったね」
アンリは窓際のテーブルに着く。
小さめの丸テーブルにはアイスティーが乗っている。
アンリは携帯の前に座ったきり、黙ってしまった。
彼女と目を合わせることもなく、
グラスに手を伸ばし、ストローに口付ける。
ユウタの姉は、話の切り口にテオのことを尋ねてみた。
話題の選択は間違っていたようで、気だるげな返事があった。
「テオと僕? 僕が入学した時にはもう居たよ。彼も13歳で入学したから。
だけど、苦手なんだ、ああいう騒がしい人。寮が違って良かったよ。
今回の旅行も、本当は来たくなかったんだけれど」
アンリはそこで、ちらと彼女を盗み見る。
「まあ、彼は僕のスポンサー、だね。事業を立ち上げる時に、彼は出資してくれたから。
去年の文化祭までは、上級生のリクエストに応えて、プリンセス役だったんだけれど。
僕にお姫様の格好をさせて喜んでいた上級生の一人なんだ、彼は。
リクエストと引き換えに、事業への出資者の確保をお願いしていたんだけど、
テオだけは自ら出資者になると言ったんだよ、快くね。そういう家系なんだ。
彼のご両親も、多くの無名の芸術家や夢追い人に手を貸している。
彼等の趣味のようなものなんだろうね、きっと。
ねえ。君はメネシスがどういう家だか、知っているの?」
否定の返事。アンリはグラスのストローに触れる。カランと氷が回った。
「では、教えておくよ。ギリシャにはこの土地柄から、
海運王と呼ばれる家が複数あるけれど、中でもメネシス家はトップクラス。
有り余る金で遊んでいるように見えて業績は成長している。
メネシスに生まれた者は、生まれてから死ぬまで、裕福に暮らせる。
仮に、君がテオと結ばれれば、お姫様の生活が待っている。
どう? テオを射止めてみる? 彼も君に興味を持っているようだったし」
アイスティーに手を伸ばし、ストローを銜える。
グラスの中で透き通る琥珀の水。
その味でリーフも特級品を使用しているらしいと解った。
「だけどね、それは不可能なんだ。彼にはもう、フィアンセがいる。
ホテル王のご令嬢だ。海運王のご子息には申し分ない姫君がね。
そう、家同士が勝手に決めた政略結婚だよ。21世紀にもなってね。
さっき、あの単細胞が君に伝えたがってたのはこのことだよ」
グラスの頬に手を添える。
「だからね、##NAME1##」
冷えたグラス。水滴は吸い付くように白い指を濡らした。
「彼にどんな甘言を囁かれても、心を許さない方がいい」
ぽたり、と携帯画面に小さな雫が落ちる。
まだ乾いていない髪から流れたようだ。
バスローブの袖で拭こうとして、動きが止まる。
雫が落ちている位置には、彼女の唇。
赤い唇が艶々と輝いている。
どうしたんですか、と彼女に尋ねられる。
「何でもない。今日は話し過ぎたよね。そろそろ切るよ。またね」
画面から彼女を消す。雫をさっと拭き取った。
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