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Marginal Prince Short Story
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■ハルヤ シルヴァン アイヴィー マルタ
■コミックス、ハルヤの食いしん坊万歳より
休日の午後、空港のスタンド前。
学院から離れたこの場所まで、わざわざ俺を呼び寄せて、
タクシーを走らせたのは長髪不良少年と早食い眼鏡王子。
理由は至極単純だった。
車を降りたプリンスどもは、スタンドの女主人にこう言った。
「こんちは、マルタさん。レインボージュース飲みにきたよ」
「シニョーラ、僕もハルヤと同じのをお願いしまーす!」
駆け寄ってきた二人に向けられた視線は、自分の息子を見るように優しい。
「はいよ。アイヴィー、お前さんは?」
遅れてやってきた俺に笑顔の女主人が催促する。
「んじゃ、いつもの。あ、あとタバコも貰おっかな」
「はい。まいど」
『いつもの』で出てくるのは新聞。
此処に立ち寄った時は決まりごとみたいに買っている。
小銭と交換に受け取り、脇に新聞を挟む。
俺の相手をさっさと終えると、マルタは王子達に飲ませるジュースを用意する。
用済みとなった俺は、空っぽのタバコを傍のゴミ箱に捨てる。
タクシーの屋根に新聞を置き、タバコを1本銜える。
愛車に寄り掛かって火を灯す。
ぷかりと上る紫煙。冬の青空は少し遠く見える。

女主人から手渡されたカップを見て、眼鏡の王子は笑顔になる。
「あ。今日のはピンクなんだ?」
「ああ。新鮮なイチゴが手に入ったからね」
ふうん、と王子はカップに口付ける。隣の背の高い王子は女主人を茶化す。
「キュートな色ですが、虹にピンクなんてありましたっけ?」
「プリンスのくせに、細かいことを気にするんじゃあないよ」
眼鏡王子がクスクスと笑う。
「テキトーだね、マルタさん」
「味が良ければ良いのさ。それで、どうなんだい、味は?」
「ん。おいしいよ」
「そうだろう、そうだろう。マルタ特製のレインボージュースだからね」
二人の王子は顔を見合わせて笑う。
マルタとプリンスどもはバンド仲間だ。
この気の良いおばちゃんが島一番の歌姫と呼ばれている。
スタンドに立っている時と、ライブハウスで熱唱する姿は別人のようだ。

俺はタバコを銜えながら、買った新聞に一応目を通す。
無機質な紙の音。それは途中で聞こえ難くなる。
少し遠くの空を鉄の塊が通り過ぎていくところだった。
今日、誰かが島に来るという話は聞いていないから、
あれは人を運ぶものではなく、食料などの荷物を運ぶものだろう。
手元に視線を落とすが、あまり目を引く記事はない。何よりだ。

空が静かになった頃、眼鏡王子はカップを見ながら言った。
「これってさ、おみくじみたいで良いよね。
いつも何色が出てくるのかわかんなくってさ」
「そうですね。毎回ドキドキします。
僕、今まで飲んだ中ではイエローのが好きでした、レモンの」
「あ、それも美味しかったよね、夏だったかな?」
「ええ。そう言えば虹って、国によって、色の数が違うんですよね?」
「そうなの? 七色じゃなくて?」
「確か、イギリスは六色で、ドイツは五色なんですよ」
「へえ。面白いね」
「シニョーラ、貴女のジュースは全部で何色あるんですか?」
「知らないよ、虹に聞きな」
王子達は首を空へ向けたが、そこには青と白が広がるばかり。
正解はお預けですね、と不良王子は笑っていた。

俺は新聞を読むフリをしながらドリンクのことを考えていた。
レインボージュース。
これは六年前、俺が島に来た時にはもうあった。
何故レインボーなのかと尋ねれば、
「季節の果物を使うから」という答えが返ってくる。
俺も今までに何色も見てきた。
ただ、虹と名付けた理由は本当にそれだけなのか。
その疑問は今も晴れない。
女主人は時折、焦がれるように空を見上げている。
その姿は何かを待ち望んでいるように見えるのだ。
いつ現れるか解らない、虹のようなものを。

空港の傍、こんな寂しい場所でぽつんと佇む店。
虹の名を持つドリンク。
マルタの選曲に多いブルース。
彼女が此処に立ち続ける理由。
それらは全て謎のまま、誰も正解を聞けずにいる。
まさか虹の日に帰って来るとでも言われたか。

「ねえねえ、シニョーラ。今度はいつ歌うんですか?」
「次の日曜だったかねえ」
「日曜ですね。僕、また聞きに行きますから!」
「そいつは嬉しいけどね、そんなしょっちゅう来なくても良いんだよ?」
「だって、僕、シニョーラの歌、大好きですから」
歌姫はからからと男勝りに笑う。
「調子の良い子だねえ、シルヴァンは」
「シルヴァンは冗談で言ってるんじゃないと思うよ? 俺も好きだし」
「やだよう。照れるじゃないか。ハルヤは正直な子だねえ」
今度は少女のようにぽっと頬を染めた。
「ちょっと、シニョーラ! 僕の時と全然リアクションが違うじゃないですかー」
「細かいこと気にするんじゃないって言っただろう?」

二つのカップ。空の下の虹はカラになっていた。
結局、大して読んでいない新聞を畳み、車の脇に差し込む。
落ちそうになった灰を携帯灰皿に入れた。
「おーい、そこのマジプリども、そろそろ帰るぞ」
「あ、うん」
「僕達に放置プレイされていじけてるんですか、アイヴィー」
「いじけてねーよ」
「またね、マルタさん」
二人はスタンドからタクシーの方へ帰って来る。
後部座席に座った途端、前へ乗り出してくる。
「アイヴィー、今日はお泊まりしてあげても良いですよ?」
「ああ?」
「あ、良いね。俺もアイヴィーのパスタ食べたいな」
「ですよね。アイヴィーを見ると食べたくなりますよねー」
「うん。アイヴィー見るとおなか空いてくる」
「お前等は人食いか」

エンジンを掛け、王子サマ達を乗せる。
女主人に2回クラクションを鳴らし、車を走らせる。
此処を立ち去る時のクセのように視線を上げる。
バックミラーに映るスタンド。
再び一人になった女主人。
小さくなる横顔。

やっぱり、空を見てる。


fin
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