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Marginal Prince Short Story
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2日目3:ありがとう 続編
○生徒代表の頃の話

「生徒代表の話かい? 生徒代表室という部屋があるのはもう知っているかな?
そこにね、私は今も居るのだよ。歴代の生徒代表は肖像画を飾らせて貰える伝統なんだ。
専属の芸術家が描いてくれるのだよ。素晴らしい老紳士だ。私を描いて貰った時にね、
『今年の生徒代表さんは随分落ち着いていますね』と彼に言われたんだ。
それで私が、昨年はどんな様子でしたか、と伺ったら、
『少し緊張されていたのか、終始、背筋の正しい方でした』って。
彼らしいなと笑ってしまったよ。ああ、彼はとても真面目な人だったんだ。
もし、姫と彼が出会っていたら、どうなったかな。
おそらくは、あの硬派な人も姫の虜になっていただろうね」
その時、遠くの方から「テオ様」と聞こえたような気がした。
膝の上に居る姫をそっと手に取る。
「名残惜しいけれど、今日はもう帰らなくてはいけないようだ。
姫、おやすみのキスをさせて頂けますか?」

→手を差し出す
→手を差し出さない


○寮に居た頃の話

「私はシュヌーシア寮に居たのだよ。私にとっては最高の寮だった。
ウーティスやアルファルドとは違って、身体の弱い生徒が多く入るんだ。
そのせいか、この寮に入った生徒は次第に面倒見が良くなるのだよ。
団欒を厭うアルファルドとは正反対の環境だね。
おかげでシュヌーシアの中等部は甘えん坊なあどけない子が多くて、
高等部になると後輩達の世話を焼くお兄さんに育つ傾向があるんだ。
サンベリーナは、シュヌーシアの生徒を誰か知っている?」
聞かれて姉は、ミハイルさんなら知っています、と答えた。
「ああ、ミハイルかい。彼は可愛い子の筆頭だったね。
彼もまた病弱で、なかなか部屋から出てきてはくれないのだけど、
時々彼の部屋から聞こえてくる歌声は楽しみだったな。
あ…まさか、姫。彼も姫の虜なのかい?」
ユウタの姉が言葉を濁していると、テオは少し落ち込んだようだった。
「そ、そうなのだね…ではアルファルドにも知っている生徒が居るの?」
ユウタの姉は、エンジュさんとジャワハルワールさんを少し、と答えた。
「エンジュかい? 彼の鋼鉄の心までも…すごいね、さすが姫だ。
私、彼とは親しくはなれなかったんだ。
やはり最初がいけなかったのだろうね。彼は黒髪だと聞いたから、
アルファルドへ拝見に行ったのだが、とても邪険にされてしまってね。
ジャハワルワールに至っては、ついぞ彼の声を聞かせて貰えなかったな。
あまりに無口だから、声帯を失っているのではという噂も一時はあったのだがね、
結局、真相は解らずじまいだったよ。彼のオウム君とは仲良くして貰えたけどね。
それで姫、他には? 他にも知っている生徒が居るの?」
もう居ないです、生徒は、と答えるとテオは胸を撫で下ろした。
「姫を慕う者はなんと多いのだろう。恐れ入るよ」
その時、遠くの方から「テオ様」と聞こえたような気がした。
膝の上に居る姫をそっと手に取る。
「名残惜しいけれど、今日はもう帰らなくてはいけないようだ。
姫、今宵もおやすみのキスをさせて頂けますか?」

→手を差し出す
→手を差し出さない


○子供の頃の話

「私の子供時代かい? そうだねえ、今とそう変わらない子供だったと思うよ。
父上や母上の真似が好きだったらしくてね、
子供の頃から、両親にそっくりだと言われていたようだよ」
ユウタの姉は幼少時代のテオを想像してみる。
その時から「美しい瞳だね」などと言っていたのだろうか。
「幼い頃は、姉上とゼノと三人で遊んでいた。そう言えば、
この家でかくれんぼをしていて、私が行方不明になったことがあるよ。
箱の中に入ったら、鍵が掛かってしまってね、出られなくなったんだ。
家の者が総出で探す大騒ぎになってね。
私を見つけ出してくれたのは姉上とゼノだった。
大泣きする私を二人が抱き締めてくれたんだ。
そのあたたかさは今もなんとなく覚えているよ」
ゼノ、と姉が呟くとテオは説明を補足した。
「ああ、昨日、見なかったかな? 長い金髪に眼鏡の似合う男だよ。
彼はゼノ・エリティスと言うんだ。
エリティス家は代々メネシスを補佐してくれる家系でね。
先祖が主従関係だったそうなんだ。ゼノは現在、私の専属執事ということになっている。
年は36、私の仕事の手伝いもボデイガードもしてくれる、我がメネシスの名参謀だ。
彼は、私達、姉弟とは子供の頃から共に此処で育った。
姉弟の世話係という位置付けだったが、私にとっては頼れる兄だ。
幼い頃は、姉上と私とでゼノの取り合いになることもしばしばあったね」

「昔話はそこまでですよ、テオ様」
振り向くと身形の正しい男が居た。眼鏡の執事だ。
テオは思わず携帯電話を後ろ手に隠した。執事は頭を抱える。
「テオ様は相変わらずですね…それで隠したおつもりですか?
昨夜、いけないと申し上げたのに…私に隠れて東洋の姫君と密会とは」
「…すまない。でも私は」
「言い訳は聞きたくありません。東洋の姫君、貴女も貴女ですよ」
眼鏡の執事は、ユウタの姉を鋭く見据えた。
「ご存知でないのならお教えしましょう。
テオ様には婚約者がいらっしゃいます。式は二か月後です。
こんな時にメネシスの次期当主をたぶらかすのは止めて頂けませんか」
「ゼノ、私が無理に連れてきたんだ。姫は悪くないよ」
「それは最も良くない状況ですね」
執事はゆっくりと手を差し出した。
「テオ様、携帯電話をこちらへ」
「えっ…」
「私からユウタ様にお返しします。
そして、二度とテオ様にはお渡ししないようお願いしておきます」
「そんな…私は姫とまだ話が」
「いけません」
執事はゆっくりと主人のすぐ傍まで近付く。
「お願いだよ、ゼノ。もう少し、もう少しだけ姫の傍に居させておくれ」
執事の柳眉が辛そうに歪む。押し殺した声でぽつりと零す。
「…ダフネと同じことを言うな」
テオは目を見開き、言葉を失う。
執事は、失礼、と小さく断り、テオが背中に回していた両手首を片手で押さえる。
一瞬のうちに、主人の手から携帯電話を抜き取った。
「ご無礼をお許し下さい、テオ様」
執事は深く頭を下げる。
「携帯電話をお返しして参ります」
踵を返し、主人の元から離れていく。
次期当主は座り込んだまま、その場から動けなかった。
月桂樹の幹に凭れる。黄金の髪は瞼まで覆っていた。

fin
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