忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ユウタ×エンジュ
エンジュは月桂樹の上に居た。
木の上は葉の青い香りがする。
講義は終わり、夕食まで自由時間だ。
今日はジムに行く気はしない。
ただ、ぼんやりと雲の流れを見ていた。
保証人からの連絡があった。
卒業へ向けて準備を始めた、とのことだった。
この学院に居た時間は悪いものではなかった。
急激な気温変化もなく、年中温暖な気候。
命を狙われる危険性はない。
苦労することなく、質の良い食事が与えられる。
此処に居る連中は日々を平穏に暮らせることに、何も感じていないのだろうか。
富裕層の人間ばかりだから、人生で一度も衣食住に困ったことなどないのだろう。

ポケットから板型のチョコレートを取り出す。
祖国ではあまり食べられなかった物だ。
この島にはたくさんある。
銀色の紙を破って、カカオの板を齧る。
パキンと小気味の良い音が鳴る。
月桂樹の上で食べるチョコレートは悪くない。
好きな時にチョコレートが食べられる。
こんな日が来るとは思わなかった。

空気は祖国よりは少し汚れているが、月桂樹の香りは気に入っていた。
此処では登山ができないが海がある。
想像以上に海は大きく、美しいものだった。
時間によって色が変わる。朝も昼も夜も綺麗だ。
此処を離れたら、海はもう見られないかもしれない。
あと何度、海が見られるだろう。
チョコレートを銜える。パキンと鳴った。

「あっ、エンジュだ! おーい!」
見下ろすとあいつが居た。ユウタ。寮も違うのにやたら絡まれる。
あれは何故いつも笑顔なのか。変だ。育ちの差か。
あいつの姉貴も面白くない状況で笑う。
そういう血筋か。笑う血か。変だ。
「あれ? エンジュー、何食べてるのー? 眩しくてよく見えないや」
チョコレートを銀の紙に包み、ポケットに入れる。
木から地面に降りた。
あいつが俺の顔を見ている。なんか変な顔だ。
「なんだ? 俺の顔に何か付いているか?」
「あっ、ううん。カッコイイなーって思って」
「カッコイイ?」
「あんな高い木から飛び降りちゃって平気なんだもん。
俺じゃあ、ぜったいムリ。あ、それで、さっき何食べてたの?」
ポケットから出して見せる。
「チョコ? エンジュ、チョコ好きなの?」
「ああ。お前は? 好きか?」
「あ、うん、好き」
「そうか」
カカオの板を半分に割る。さっきより大きな音がする。
片割れを差し出した。
「エンジュ、俺にくれるの? 半分も貰って良いの?」
「好きではないのか?」
「ううん。くれるとは思わなくてビックリしちゃった。ありがと。貰うね」

月桂樹の下で食べるチョコレートも悪くない。
木洩れ陽が、あいつの髪に当たって、きらきらと輝いている。
パキン、という音が増える。この音は良い音だ。
昔はよくこうして、食べ物を半分に分けていた。
それは嫌なことではなかった。
半分にした物を差し出すと、笑った顔が見れた。
ユウタがこちらを向く。
似ている。
「美味しいね。俺、板チョコ食べたの久し振りだよ。エンジュはよく食べるの?」
「食べる」
「このチョコ、なんて言うチョコ?」
「変なウサギのチョコレートだ」
「変なウサギ?」
「ああ。顔が怖い」


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]