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■ジョシュア×姉貴
■今週の王子電話より
「…ええ。解っています。ですが、俺は守りたいんです」
聖アルフォンソ学院 生徒代表室。
壁に飾られたものを除けば、上品で風格のある部屋。
常に塵ひとつなく、美しい花も置かれている。
一人用の執務室にしては広過ぎるが、
ごく限られた人間が訪れたり、会議も行われる。
目立つインテリアは、来客用のソファとローテーブル。
しかし、それらが使われることは多くない。
「え? 俺は大丈夫です。それより、先程の件ですが…」
学院の理事会はこの島には存在しない。
各国に存在する資産家、権力者で構成される。
よって、理事会との会談は主にネットミーティングで行われる。
通信は強固なセキュリティによって保護され、
決して傍受されることのないよう最新の技術が施されている。
「甚大なご協力に感謝します。生徒を代表してお礼申し上げます」
理事会と接触できるのは選ばれた生徒のみ。
理事会からの指名制で、基本的に断ることはできない。
生徒代表。その席に座るのはたった一人。
優秀な生徒達の中から選ばれた、王の中の王。
PCに向かっているのは深紅の瞳。
今年度、王の任を背負っているのは、控えめで優しい生徒。
名をジョシュア・グラントという。
「ありがとうございます。はい。それでは失礼します」
丁寧に一礼して顔を上げると、PCのウインドウが消えていた。
ネットミーティングが終了した。今日は理事会との打ち合わせだった。
画面が消えると、思わず少し息が漏れた。
会議はもう何度も重ねて来たが、やはりこの時間は気が抜けず、緊張してしまう。
終わった後、張り詰めていた糸が切れて、精神的な疲れが押し寄せる。
机に肘を突いて指を絡める。祈るように手に額を乗せていた。
問題が山積している。
生徒達を狙う者が後を絶たない。次から次へと、きりがない。
こんなにも、危険と隣り合わせな場所だったなんて。
まだ確定情報ではない。
だけど、もし真実だったのなら。
彼に何て言えば良い。
いつも楽しみにしているのに。
絵画の講義を勧めたのは、間違いだったということになる。
あの教授に不穏分子の可能性があり、
今、最も危機に晒されているのが、君の弟だなんて。
――お前さんも、とんだ<当たり年>に生徒代表になっちまったもんだな――
以前聞いた、警備責任者の言葉。
島に六年居る彼が、今年は『当たり』だと言っていた。
その意味を日々思い知らされる。
此処は、安全な避難所だと思っていた。
でもそれは、理事会や警備組織、そして生徒代表が積み上げてきた結果だった。
壁一面に飾られた肖像画を見上げる。歴代の生徒代表達。
テオもクラウスも、一年間この任務を務め上げた。
今度は自分が守らなくてはならない。
みんなを。君の弟を。
絡めていた指を解いても、視線が俯いてしまう。
頭の中でふわりと、優しい顔が思い浮かぶ。
自然と頭が上がる。
視界に入るのは、レトロクラシックな電話。
それが、この部屋にあるから。
重苦しい会議がある日も、此処に来れるのかもしれない。
就任直後、俺はこの電話があまり好きではなかった。
執務上の相手と話す為だけの電話だから。
クラシックなデザインにさえ少し苦手意識を感じていた。
だけど今では、この電話を眺めると勇気を貰える。
会議をしている時も、時々見てしまっている。
この電話は、君に繋がっている。
君の声ならいつでも思い返せる。
話が終わった後、何度も反芻してしまうから。
言葉のひとつひとつが綺麗で。
その声で聞くものは、全て、愛しい。
(声が、聞きたい)
俺の左手はクラシックな受話器に触れていた。
古風なダイヤル式。執務専用の電話。
本当はいけないことだと知りながら。
君に繋がる番号を回していく。たった11桁が、もどかしい。
学院を取り巻く現状は芳しいとは言えない。
最後まで生徒代表を務める自信も、本当はあまりない。
時々、重圧に押し潰されそうになって、一人で膝を抱えてしまう。
そうすることしかできなかった、今までは。
ダイヤルが最後の数字に辿り着く。
耳に受話器を当てる。今日は話せるだろうか。
呼び出し音に耳を澄ます。
一回、二回、三回、四回、五…
fin
■今週の王子電話より
「…ええ。解っています。ですが、俺は守りたいんです」
聖アルフォンソ学院 生徒代表室。
壁に飾られたものを除けば、上品で風格のある部屋。
常に塵ひとつなく、美しい花も置かれている。
一人用の執務室にしては広過ぎるが、
ごく限られた人間が訪れたり、会議も行われる。
目立つインテリアは、来客用のソファとローテーブル。
しかし、それらが使われることは多くない。
「え? 俺は大丈夫です。それより、先程の件ですが…」
学院の理事会はこの島には存在しない。
各国に存在する資産家、権力者で構成される。
よって、理事会との会談は主にネットミーティングで行われる。
通信は強固なセキュリティによって保護され、
決して傍受されることのないよう最新の技術が施されている。
「甚大なご協力に感謝します。生徒を代表してお礼申し上げます」
理事会と接触できるのは選ばれた生徒のみ。
理事会からの指名制で、基本的に断ることはできない。
生徒代表。その席に座るのはたった一人。
優秀な生徒達の中から選ばれた、王の中の王。
PCに向かっているのは深紅の瞳。
今年度、王の任を背負っているのは、控えめで優しい生徒。
名をジョシュア・グラントという。
「ありがとうございます。はい。それでは失礼します」
丁寧に一礼して顔を上げると、PCのウインドウが消えていた。
ネットミーティングが終了した。今日は理事会との打ち合わせだった。
画面が消えると、思わず少し息が漏れた。
会議はもう何度も重ねて来たが、やはりこの時間は気が抜けず、緊張してしまう。
終わった後、張り詰めていた糸が切れて、精神的な疲れが押し寄せる。
机に肘を突いて指を絡める。祈るように手に額を乗せていた。
問題が山積している。
生徒達を狙う者が後を絶たない。次から次へと、きりがない。
こんなにも、危険と隣り合わせな場所だったなんて。
まだ確定情報ではない。
だけど、もし真実だったのなら。
彼に何て言えば良い。
いつも楽しみにしているのに。
絵画の講義を勧めたのは、間違いだったということになる。
あの教授に不穏分子の可能性があり、
今、最も危機に晒されているのが、君の弟だなんて。
――お前さんも、とんだ<当たり年>に生徒代表になっちまったもんだな――
以前聞いた、警備責任者の言葉。
島に六年居る彼が、今年は『当たり』だと言っていた。
その意味を日々思い知らされる。
此処は、安全な避難所だと思っていた。
でもそれは、理事会や警備組織、そして生徒代表が積み上げてきた結果だった。
壁一面に飾られた肖像画を見上げる。歴代の生徒代表達。
テオもクラウスも、一年間この任務を務め上げた。
今度は自分が守らなくてはならない。
みんなを。君の弟を。
絡めていた指を解いても、視線が俯いてしまう。
頭の中でふわりと、優しい顔が思い浮かぶ。
自然と頭が上がる。
視界に入るのは、レトロクラシックな電話。
それが、この部屋にあるから。
重苦しい会議がある日も、此処に来れるのかもしれない。
就任直後、俺はこの電話があまり好きではなかった。
執務上の相手と話す為だけの電話だから。
クラシックなデザインにさえ少し苦手意識を感じていた。
だけど今では、この電話を眺めると勇気を貰える。
会議をしている時も、時々見てしまっている。
この電話は、君に繋がっている。
君の声ならいつでも思い返せる。
話が終わった後、何度も反芻してしまうから。
言葉のひとつひとつが綺麗で。
その声で聞くものは、全て、愛しい。
(声が、聞きたい)
俺の左手はクラシックな受話器に触れていた。
古風なダイヤル式。執務専用の電話。
本当はいけないことだと知りながら。
君に繋がる番号を回していく。たった11桁が、もどかしい。
学院を取り巻く現状は芳しいとは言えない。
最後まで生徒代表を務める自信も、本当はあまりない。
時々、重圧に押し潰されそうになって、一人で膝を抱えてしまう。
そうすることしかできなかった、今までは。
ダイヤルが最後の数字に辿り着く。
耳に受話器を当てる。今日は話せるだろうか。
呼び出し音に耳を澄ます。
一回、二回、三回、四回、五…
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