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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュア×アンリ
春は憂鬱。辺り構わず花が咲くから。
夏は暑いし、秋は中途半端だし、冬は寒い。
どの季節も憂鬱だ。


「あ、アンリ、見て。アイリスだ」

青い花を指差しているのが、この学院の生徒代表殿。
彼は花に詳しい。少なくとも僕よりはずっと。
おそらく、ご両親から学んだのだろう。
この植物園を歩いていても、大抵の名前は知っているようだった。
花の名前なんて知ってても何の得にもならないのに、彼は花を見るのが好きだ。
今日もこうして植物園に強引に連れて来られた。
花祭りが近くなると、君は毎年、一緒に行こうと僕を誘う。
花園を歩く君。それだけで絵になる。
グラントに受け継がれる瞳は美しく、是非描きたいと願う画家は少なくない。
今この瞬間の君も良い被写体になるのだろう。

「今年も可愛く咲いたね。どうしてこんなに綺麗なのかなあ」

他意のない、正直な感想。
甘い声で花に囁いている。
もし花に感情があったら、ブルーの花がピンクに染まるかもしれない。
花を褒め称えたって、1ユーロにもなりはしないのに。
彼の行動は本当に理に適ってない。

「疲れた? 少し休憩しようか?」

僕の表情を伺って、君は自発的に他人を思い遣る。
相手に合わせようとする。
自分を犠牲にしても、相手の幸せを守ろうとする。
この世の人間が全て君のような性格だったら、
さぞ平穏で退屈な毎日が送れるだろう。
君の傍に居ると、自分がどんなに嫌な人間かよく解る。
直そうとも思わない。無理だから。

「アンリ?」
「別に。ここまで濃厚な香りだとうんざりするだけ」
「アンリはいつもそう言うね」
「君が飽きもせず、花が綺麗だって言うからでしょう?」
「そうか」

どうして、そういうふうに笑えるんだろう、彼は。
君は僕ができないことばかりする。
同じ花園を見ていても、君と僕では、見ている景色は全く別の物なのだろう。
その深紅の瞳には、どんなに綺麗な色彩が広がっているのか、
僕には想像することしか出来ない。

「あのね? アンリ」

少し俯いた、控えな声。
どんな話をしようとしているのか解る。僕にとって面白くない話だ。
君はアイリスを見ると、僕を連想する癖がある。
五月に咲く花だからか、
フランスの国章だからなのか、よく解らないけれど。

「アンリ、来月、誕生日だろう?」
「そんな日を覚えていても何の得にもならないよ」
「アンリは毎年同じことを言うね」
「君が毎年同じことを言うからでしょう?」
「アンリが生まれた日だから、俺はお祝いしたいんだよ?」
「僕はされたくない」
「アンリとは、なかなか意見が合わないね」
「ほんと」

僕が歩き出すと、君も歩く。
離れてくれれば良いのに。僕と親しくして何になるの。
こんな人間の傍に居ても、君には何の利益にもならない。
むしろ、純粋な君を汚すかもしれないのに。

「ねえ、生徒代表殿は、どの季節が好き?」
「え?」
「聞こえなかった?」
「あ、いや。そう、だね…」

君は質問されたら、出来る限り答えようとする。
相手からの期待に応えようとする。
それがどんなに唐突でも。例え理不尽なことでも。
真摯に、誠実に考えた回答を差し出す。

「難しい質問だな。俺、どの季節も好きだから」

言うと思った。
予想通り過ぎてつまらない。

「春には綺麗な花が咲くし、夏は海で泳げるし。どの季節にも良いところがあるだろう?」

君はいつもそう。長所に着目する。
その深紅の瞳にはそれしか映らないのだろうか、と思わせる程。
僕の瞳には短所しか映らないくらいなのに。
君の表情には疑問が浮かんでいる。どうして急に季節について訊ねたのか。
聞きたいなら、聞けば良いのに。君は僕が話し出すまで待とうとする。
優しくされると、居心地が悪い。

「言いたいことがあるなら言えば?」
「アンリは、どの季節が好きなのかなと思って」
「全部、好きじゃない」

笑われた。
こちらはあまり愉快ではない。

「僕、そんなに可笑しいこと言ったかな?」
「すまない。そう言うだろうと思ったけど、本当にアンリらしいなと思って」

それでも君は。
僕の歩幅に合わせて、付いてくる。


fin
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