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■アンリ×レッド
■毒アンリ。
--------------------------
朝。レッドが寮の食堂へ向かう途中、玄関先が目に入った。
制服姿のジョシュアと、スーツ姿のアンリが居た。
バトラーが鞄をアンリに渡している。
レッドは急いで駆け寄る。
「アンリ! 出掛けんのかっ!?」
振り向いたアンリは、意地悪く笑みを返す。
「意味の無い質問だね、レッド。他にどう見えると言うの?」
ジョシュアが息を吐く。
「アンリ。時間が無いんだろ?」
「ああ。そうだったね」
「…くれぐれも、気を付けて」
「幾ら気を付けたって、駄目な時は駄目だろうけどね。じゃ」
アンリが、待たせていたタクシーの方へ歩いていく。
それをジョシュアが心配そうに見守っている。
レッドは「おい」とジョシュアに尋ねる。
「あいつ、仕事で外出するのか? 昨日はそんなこと言ってなかったよな?」
「ああ。今朝、トラブルがあったらしくてね。急に呼ばれたんだ。
まだ状況が把握できていなから、いつ戻れるか解らないって…」
「そっか…まっ、そんな心配そうな顔すんなよ、ジョシュア!
あいつ、今までだって、ちゃんと帰って来たろ?」
「うん。そうだね。ありがとう、レッド」
黄色いタクシーが動き出す。
小さくなる車を見つめる二人に、バトラーが声を掛ける。
「ジョシュア様、アルフレッド様、そろそろお食事のお時間ですが…」
「そうだね、頂くよ」
「なあ、バトラー。アンリは食事したのか?」
「…いいえ。時間も無いから要らない、とおっしゃられて」
「ったく。あいつ、絶対何も食わないまま一日終わるぜ?
そのくせ腹減ってると、機嫌悪いし。
部下に当り散らすに決まってる。あいつの部下も災難だな」
ジョシュアが声に出さずに笑う。
「レッド、心配なんだね、アンリのこと」
「んなこと言ってねーだろっ! 食事行くぜっ!」
「うん」
ジョシュアは、一度外を振り返ってから、レッドの後を追った。
それから数日が過ぎた。
正確に何日経ったのか解らない。
レッドは、サロンの扉を開ける。
誰も居ない。
この部屋は、こんなに広かっただろうか。
普段小さく感じるテーブルが、大きく見えて、
誰も座っていないソファは、冷たく感じられた。
テーブル席から離れたソファも空っぽだ。
そう言えば、あの席には座ったことがない。
俺がサロンに来た時は、もう埋まっているからだ。
レッドは気が付くと、ソファの背凭れに手を触れていた。
誰も、座っていない。
レッドはその席に腰を下ろす。
身体の重みを受けて、柔らかなソファが少し沈む。
背を完全に預け、首を仰向ける。
静かだ。
何の音も、聞こえない。
「僕の席に、勝手に座らないでくれる?」
「アンリ!?」
スーツ姿のアンリが、いつもの冷笑を浮かべていた。
サロンの扉を、後ろ手に閉める。
「お前、いつ帰って来たっ!?」
「さっき。どうやら、仕事を早く切り上げて、正解だったようだね」
ジャケットを脱いで、他のソファに放る。
煩わしそうに、ネクタイを緩める。
「君って、僕が居ない所では、そんな可愛いことしてくれるんだ?」
「違う! これはっ…」
「違う? その割りに、顔はリンゴのようだけど?
…僕が居なくて、そんなに寂しかった?」
「だから! 違うって!」
「…僕は、寂しかった」
「え…」
アンリは、くすくすと笑い始める。
「ほら、また赤くなった」
「てめっ! からかったのかよっ!?」
レッドの言葉に意義を唱えるように、
アンリは笑みを消す。
「僕が、君の為に早く戻って来たとは思わないの?」
「なっ…」
アンリは堪え切れないように笑い出す。
「君って、学習能力が無いの?」
「てめえ…いい加減にっ…!」
「あっ! アンリだー!」
サロンの扉が開いて他の寮生達が入ってきた。
ユウタが嬉しそうに、アンリに近付く。
「おかえりっ! アンリ!」
「…ただいま。総出のお出迎え、痛み入るね」
「良かったー! 無事に帰って来て。みんな心配してたんだよ?」
「そう」
「あっ、丁度これから、お茶の時間にするところだったんだー。
アンリも一緒にお茶にしよ?」
ユウタの後ろにジョシュアが居た。
彼の目が、断るなよ、と言っているのが読み取れて、アンリは肩を竦めた。
「解ったよ」
「じゃ、アンリのケーキも用意するね!」
「いいや。ケーキよりも、…Je veux manger une pomme.」
突然切り替わったフランス語に、ユウタは首を傾げる。
助けを求めようと、後方を振り返った。
しかし、多少のフランス語なら扱える筈のジョシュアとシルヴァンも、
意味が解らない、という風に顔を見合わせていた。
レッドが誰より先に抗議する。
「またフランス語使いやがって! 今、何て言った!?」
「…聞きたいのなら、教えてあげる。では耳を貸して?」
ソファに手を置いて、身を屈める。
レッドの耳元に唇を寄せ、態と低音で囁いた。
英訳を聞き取った耳から赤く染まっていく。
その様子を、アンリは満足そうに見下ろしている。
ユウタが「ねえっ」と声を上げる。
「二人でナイショ話なんてズルイよ! 俺にも教えてっ!」
「良いよ」
アンリは赤く染まる人の目を捕らえたまま、
もう一度同じ言葉を口にする。
「…僕は、リンゴが食べたいな」
fin
■毒アンリ。
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朝。レッドが寮の食堂へ向かう途中、玄関先が目に入った。
制服姿のジョシュアと、スーツ姿のアンリが居た。
バトラーが鞄をアンリに渡している。
レッドは急いで駆け寄る。
「アンリ! 出掛けんのかっ!?」
振り向いたアンリは、意地悪く笑みを返す。
「意味の無い質問だね、レッド。他にどう見えると言うの?」
ジョシュアが息を吐く。
「アンリ。時間が無いんだろ?」
「ああ。そうだったね」
「…くれぐれも、気を付けて」
「幾ら気を付けたって、駄目な時は駄目だろうけどね。じゃ」
アンリが、待たせていたタクシーの方へ歩いていく。
それをジョシュアが心配そうに見守っている。
レッドは「おい」とジョシュアに尋ねる。
「あいつ、仕事で外出するのか? 昨日はそんなこと言ってなかったよな?」
「ああ。今朝、トラブルがあったらしくてね。急に呼ばれたんだ。
まだ状況が把握できていなから、いつ戻れるか解らないって…」
「そっか…まっ、そんな心配そうな顔すんなよ、ジョシュア!
あいつ、今までだって、ちゃんと帰って来たろ?」
「うん。そうだね。ありがとう、レッド」
黄色いタクシーが動き出す。
小さくなる車を見つめる二人に、バトラーが声を掛ける。
「ジョシュア様、アルフレッド様、そろそろお食事のお時間ですが…」
「そうだね、頂くよ」
「なあ、バトラー。アンリは食事したのか?」
「…いいえ。時間も無いから要らない、とおっしゃられて」
「ったく。あいつ、絶対何も食わないまま一日終わるぜ?
そのくせ腹減ってると、機嫌悪いし。
部下に当り散らすに決まってる。あいつの部下も災難だな」
ジョシュアが声に出さずに笑う。
「レッド、心配なんだね、アンリのこと」
「んなこと言ってねーだろっ! 食事行くぜっ!」
「うん」
ジョシュアは、一度外を振り返ってから、レッドの後を追った。
それから数日が過ぎた。
正確に何日経ったのか解らない。
レッドは、サロンの扉を開ける。
誰も居ない。
この部屋は、こんなに広かっただろうか。
普段小さく感じるテーブルが、大きく見えて、
誰も座っていないソファは、冷たく感じられた。
テーブル席から離れたソファも空っぽだ。
そう言えば、あの席には座ったことがない。
俺がサロンに来た時は、もう埋まっているからだ。
レッドは気が付くと、ソファの背凭れに手を触れていた。
誰も、座っていない。
レッドはその席に腰を下ろす。
身体の重みを受けて、柔らかなソファが少し沈む。
背を完全に預け、首を仰向ける。
静かだ。
何の音も、聞こえない。
「僕の席に、勝手に座らないでくれる?」
「アンリ!?」
スーツ姿のアンリが、いつもの冷笑を浮かべていた。
サロンの扉を、後ろ手に閉める。
「お前、いつ帰って来たっ!?」
「さっき。どうやら、仕事を早く切り上げて、正解だったようだね」
ジャケットを脱いで、他のソファに放る。
煩わしそうに、ネクタイを緩める。
「君って、僕が居ない所では、そんな可愛いことしてくれるんだ?」
「違う! これはっ…」
「違う? その割りに、顔はリンゴのようだけど?
…僕が居なくて、そんなに寂しかった?」
「だから! 違うって!」
「…僕は、寂しかった」
「え…」
アンリは、くすくすと笑い始める。
「ほら、また赤くなった」
「てめっ! からかったのかよっ!?」
レッドの言葉に意義を唱えるように、
アンリは笑みを消す。
「僕が、君の為に早く戻って来たとは思わないの?」
「なっ…」
アンリは堪え切れないように笑い出す。
「君って、学習能力が無いの?」
「てめえ…いい加減にっ…!」
「あっ! アンリだー!」
サロンの扉が開いて他の寮生達が入ってきた。
ユウタが嬉しそうに、アンリに近付く。
「おかえりっ! アンリ!」
「…ただいま。総出のお出迎え、痛み入るね」
「良かったー! 無事に帰って来て。みんな心配してたんだよ?」
「そう」
「あっ、丁度これから、お茶の時間にするところだったんだー。
アンリも一緒にお茶にしよ?」
ユウタの後ろにジョシュアが居た。
彼の目が、断るなよ、と言っているのが読み取れて、アンリは肩を竦めた。
「解ったよ」
「じゃ、アンリのケーキも用意するね!」
「いいや。ケーキよりも、…Je veux manger une pomme.」
突然切り替わったフランス語に、ユウタは首を傾げる。
助けを求めようと、後方を振り返った。
しかし、多少のフランス語なら扱える筈のジョシュアとシルヴァンも、
意味が解らない、という風に顔を見合わせていた。
レッドが誰より先に抗議する。
「またフランス語使いやがって! 今、何て言った!?」
「…聞きたいのなら、教えてあげる。では耳を貸して?」
ソファに手を置いて、身を屈める。
レッドの耳元に唇を寄せ、態と低音で囁いた。
英訳を聞き取った耳から赤く染まっていく。
その様子を、アンリは満足そうに見下ろしている。
ユウタが「ねえっ」と声を上げる。
「二人でナイショ話なんてズルイよ! 俺にも教えてっ!」
「良いよ」
アンリは赤く染まる人の目を捕らえたまま、
もう一度同じ言葉を口にする。
「…僕は、リンゴが食べたいな」
fin
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