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■ジョシュア×アンリ
■連載(全十話程度)
放課後のウーティス寮サロン。
僕は隅の席で本を読みながら、春摘み紅茶ができるのを待っていた。
大きな窓からは午後の暖かい日差し。
庭では蝶々が舞い、春の花達が嬉しそうに太陽の光を浴びていた。
高等部二年のジョシュアは、テラスに出て外を眺めてる。
彼の周囲は、この世の美しいもの全てを背景にした絵のようだった。
彼の頭上にある透明の王冠も、いつもより綺麗な気がした。
出会った時から見えた月桂樹の王冠。
年を重ねるごとに輝きが増しているせいか、僕は気が付くとその光を見ている。
中断していた読書を再開する。
そう言えば、紅茶が遅い。「俺が淹れるよ」と言ったくせに、
春の景色に見惚れて紅茶のことを忘れてしまっているらしい。
僕はわざと音を立ててページを繰る。ペラッ。
ジョシュアは動かない。まだ春の庭に現を抜かしている。
適切な抽出時間を過ぎると雑味が入ってしまう。
「ねえ。君は、苦いファーストフラッシュが好みなの?」
「え? あっ、すまない」
素直に詫びた彼は、窓辺からティーセットの元に戻る。
紅茶用の小さな砂時計は、リーフの抽出が終わっていることを示していた。
白を基調としたポットやカップには、聖アルフォンソ学院の紋章。
王冠の上に止まっている一羽の鳥。月桂樹の小枝を銜えたナイチンゲール。
ティーポットを開けると、蒸気に迎えられる。
彼は他のカップに少し注いで毒味した。
大丈夫そうだと確認できたらしく、僕のカップに注ぐ。
「はい、アンリ。待たせてごめんね」
彼が僕の前にティーカップを置いた。
紅茶というよりは緑茶に近い水色。春摘みのダージリン特有の色だ。
「メルシー」
カップに口付ける。その様子を深紅の瞳が心配そうに見守る。
春を告げる瑞々しい香りがした。一口飲み終わってから、ぽつりと言った。
「苦味には、犯されていないようだね」
サロンのドアが開く。眼鏡を掛けた生徒が入ってきた。
高等部一年のハルヤ・コバヤシ。学院に来てから半年ほど。
東洋出身のせいか、どことなく言動に不可思議なところがある。
入学して間もなくお調子者達によってバンドに強制加入させられ、
やったこともないベースを担当することになった。
ウーティスの上級生は、入学してから一年目の生徒に優しく声を掛けていた。
「やあ、ハルヤ。君も一緒に紅茶を飲まないかい?」
「あ、うん。ありがとう、ジョシュア」
ハルヤは隅の席をちらりと見てから、中央のソファに座る。
テーブルに置かれていたクッキーを目にすると、すぐに手を伸ばした。
上級生からカップを受け取ると、ありがとう、と言っていた。
ジョシュアはハルヤに当たり障りのない話を振っていた。
ドンという派手な音と共にドアが開いた。
「やあやあ、失礼するよ、ウーティスの諸君!」
煩いのが来た。
笑顔を輝かせながら入ってきたのは今年度の生徒代表テオ・メネシス。
シュヌーシア寮の人間なのだが、気軽にウーティスに顔を出してくる。
「こんにちは、テオ」
ジョシュアが最初に挨拶を返す。テオは白い箱を携えていた。
空いている手を挙げて、いつものように賛辞を含んだ挨拶する。
「やあ、ジョシュア。今日も美しいね。
東洋の黒い真珠は居るかな? ああ、居た居た!」
「え、俺?」
テオは顔面に迫る勢いでハルヤに近付く。
「聞いたよ聞いたよ! おめでとう、東洋の黒い真珠!」
「な、なに?」
「君が先日、街の早食い大会で優勝したというから、
お祝いを言いにきたのだよ。君の圧勝だったそうだね!」
「あ、ども…」
「その身体のどこにピザ35人前が入ったんだい? 東洋の神秘だねえ!」
声が無駄に大きい。
「次回、出場する時は是非私にも教えておくれ? 全力で応援させて頂くよ!
ああ、なんて美しいオリエンタルスマイルなのだろう!」
テオの勢いに押されて、ハルヤが曖昧な微笑を浮かべている。
歩く性善説が話題の転換を試みた。
「テオ、その箱は何ですか?」
「そうだった、そうだった。チャンピオンにお祝いの品をと思ってね。
うちの寮のシェフに、ふわふわハニーシフォンを焼いて貰ったのだよ。
これはシュヌーシアでは大人気のおやつなんだ。
さあ、たんとお食べ、東洋の黒い真珠! ああ、もちろん、君達もね」
テオがテーブルの上で箱を開ける。焼きたての甘い香りが立ち昇る。
リング型の1ホールと、生クリームが入った小瓶も添えてあった。
「このシフォンはね、島特産の蜂蜜で作ったものなんだ。
甘さは少し控えて貰ったから、東洋の黒い真珠の口にも合うんじゃないかな?
あ、お好みで生クリームを付けてどうぞ、とのことだったよ。
アンリはたくさん付けておくれ。君は甘い方が好きだものね?」
甘党扱いされた僕は何も言わなかった。ジョシュアが代表して礼を述べる。
「ありがとうございます、テオ。ケーキ、切り分けますね。
俺達も紅茶を飲み始めたところだったんです。テオも一緒にいかがですか?」
「ありがとう。お願いするよ」
堂々とハルヤの隣に座る。
別に誘われなくても、最初からお茶に呼ばれるつもりだったのだろう。
ジョシュアが紅茶を淹れたり、シフォンを切ったりしている。
そのうち僕にもケーキが回ってきた。フォークで触れると、本当にふわふわした。
お菓子好きのシュヌーシアで人気があるだけあって、なかなか悪くない味だった。
陽気な生徒代表が、お気に入りの東洋人で遊んでいる。
あれは、そろそろセクシャル・ハラスメントに抵触しないのだろうか。
「さあ、東洋の黒い真珠。私が食べさせてあげる」
「ええっ、ちょっと…」
「口を開けて? はい。 美味しいかい、東洋の黒い真珠? 良かった!
ああ、できることなら、私が君を食べてしまいたい」
ハルヤは、えっ、と言って肩が跳ねる。テオはご満悦だった。
「あはは。東洋の黒い真珠は初々しい反応をしてくれるねえ」
「あ、いや、あのさ。今、声がしなかった? 子供っぽいかんじの」
「子供の? さあ、私は気付かなかったな。君達は聞こえた?」
「いいえ、俺には…」
「僕も、貴方の騒がしい声しか聞こえなかったな。ハルヤには何が聞こえたの?」
「えっと確か、『次は何して遊ぼっか?』って」
サロンが、しん、となる。
元気良く立った生徒代表によって、沈黙は、けたたましく破られる。
ハルヤの両手を取って、感動を言葉にしていた。
「なんてミステリアスな! 流石は東洋の神秘だ!」
「あの、でも、気のせいかも…」
「いやいや。聖アルフォンソ学院の建築はアンティークだからね、
昔から不思議な話の類には不自由しない場所だし」
「ええっ、そうなの?」
「おや? 知らなかったかい? でも、安心しておくれ。
怖いものばかりではないのだよ? 例えば、
『聖アルフォンソ島には天使が居て、マージナルプリンスを見守ってくれている』とか。
この島ならではの、実に優しくミステリアスなお話もあるんだ」
僕はページを捲りながら冷笑する。
「天使って言うと聞こえは良いけれどね。それ、実際は亡霊や悪魔なんじゃない?」
「あ、あくま?」
「アンリ、ハルヤで遊ぶなよ」ジョシュアは肩を竦める。
「気にしないで、ハルヤ。俺達、中等部から此処に居るけど、別に何ともないから」
「あ、うん。なら、いいんだけど」
そう言いながら、眼鏡の奥の瞳はやや不安げだった。テオは黒い瞳を愛でながら、
「すまない。私のせいで怖がらせてしまったかな?
そうだ! 責任を取って今宵は私が添い寝しよう。良ければ童話も読むよ?
大丈夫。こう見えても、私は本を読むのは上手いのだよ。
中等部の良い子達に読むこともあるからね。
あ、もちろん私の方が先に眠ったりはしないから安心しておくれ。
夜は君の寝顔を愛でるのに忙しいだろうからね」
「ねえ」
「アンリも入れて欲しいのかい? もちろん大歓迎だよ。天使の寝顔を見せておくれ?」
「彼も、僕も、ベッドに入れる相手を選ぶ権利はあると思うけれど?」
「おやおや。セクシーなことを言うようになったねえ、アンリ。
そう言えば、この頃の君は、ますます美しくなった気がするし。
流石は永遠の美を持つ家系だ。それとも、君の美を高めてくれる相手でも居るのかな?
今日はまた一段と美しい氷の微笑だね!」
ウーティス寮サロンのティータイムは今日も騒々しかった。
夜になると、生徒達は自室に戻り、サロンにも静寂が訪れた。
どの部屋もすっかり明かりを落とし、夜の帳に包まれていた。
聖アルフォンソ島は常春。この時刻ともなれば適度に寝易い気温となる。
しかし、寝苦しいわけでもないのに、先程からうなされている生徒が一人居た。
夢と現を行き来しながら、寝返りを打つ。
肩までの髪、透き通るような白い肌。整った鼻筋には眼鏡の痕があった。
――ねえ、見て。キラキラきれい――
――王様と伯爵の光だな――
ハルヤの瞼が微かに動き、薄っすらと目を開ける。
真っ暗な自分の部屋。音もしない。誰も居ない。当たり前だ。
では一体、今の声は。サロンで聞いた声に似ていたような気もするが。
「まいっか、めんどくさ…」
毛布を被ると、すうっと眠りに落ちていった。
闇夜の聖アルフォンソ学院に、子供の声が降りてくる。
――うん。今度はあの子達で遊ぼうよ――
To be continued
■連載(全十話程度)
放課後のウーティス寮サロン。
僕は隅の席で本を読みながら、春摘み紅茶ができるのを待っていた。
大きな窓からは午後の暖かい日差し。
庭では蝶々が舞い、春の花達が嬉しそうに太陽の光を浴びていた。
高等部二年のジョシュアは、テラスに出て外を眺めてる。
彼の周囲は、この世の美しいもの全てを背景にした絵のようだった。
彼の頭上にある透明の王冠も、いつもより綺麗な気がした。
出会った時から見えた月桂樹の王冠。
年を重ねるごとに輝きが増しているせいか、僕は気が付くとその光を見ている。
中断していた読書を再開する。
そう言えば、紅茶が遅い。「俺が淹れるよ」と言ったくせに、
春の景色に見惚れて紅茶のことを忘れてしまっているらしい。
僕はわざと音を立ててページを繰る。ペラッ。
ジョシュアは動かない。まだ春の庭に現を抜かしている。
適切な抽出時間を過ぎると雑味が入ってしまう。
「ねえ。君は、苦いファーストフラッシュが好みなの?」
「え? あっ、すまない」
素直に詫びた彼は、窓辺からティーセットの元に戻る。
紅茶用の小さな砂時計は、リーフの抽出が終わっていることを示していた。
白を基調としたポットやカップには、聖アルフォンソ学院の紋章。
王冠の上に止まっている一羽の鳥。月桂樹の小枝を銜えたナイチンゲール。
ティーポットを開けると、蒸気に迎えられる。
彼は他のカップに少し注いで毒味した。
大丈夫そうだと確認できたらしく、僕のカップに注ぐ。
「はい、アンリ。待たせてごめんね」
彼が僕の前にティーカップを置いた。
紅茶というよりは緑茶に近い水色。春摘みのダージリン特有の色だ。
「メルシー」
カップに口付ける。その様子を深紅の瞳が心配そうに見守る。
春を告げる瑞々しい香りがした。一口飲み終わってから、ぽつりと言った。
「苦味には、犯されていないようだね」
サロンのドアが開く。眼鏡を掛けた生徒が入ってきた。
高等部一年のハルヤ・コバヤシ。学院に来てから半年ほど。
東洋出身のせいか、どことなく言動に不可思議なところがある。
入学して間もなくお調子者達によってバンドに強制加入させられ、
やったこともないベースを担当することになった。
ウーティスの上級生は、入学してから一年目の生徒に優しく声を掛けていた。
「やあ、ハルヤ。君も一緒に紅茶を飲まないかい?」
「あ、うん。ありがとう、ジョシュア」
ハルヤは隅の席をちらりと見てから、中央のソファに座る。
テーブルに置かれていたクッキーを目にすると、すぐに手を伸ばした。
上級生からカップを受け取ると、ありがとう、と言っていた。
ジョシュアはハルヤに当たり障りのない話を振っていた。
ドンという派手な音と共にドアが開いた。
「やあやあ、失礼するよ、ウーティスの諸君!」
煩いのが来た。
笑顔を輝かせながら入ってきたのは今年度の生徒代表テオ・メネシス。
シュヌーシア寮の人間なのだが、気軽にウーティスに顔を出してくる。
「こんにちは、テオ」
ジョシュアが最初に挨拶を返す。テオは白い箱を携えていた。
空いている手を挙げて、いつものように賛辞を含んだ挨拶する。
「やあ、ジョシュア。今日も美しいね。
東洋の黒い真珠は居るかな? ああ、居た居た!」
「え、俺?」
テオは顔面に迫る勢いでハルヤに近付く。
「聞いたよ聞いたよ! おめでとう、東洋の黒い真珠!」
「な、なに?」
「君が先日、街の早食い大会で優勝したというから、
お祝いを言いにきたのだよ。君の圧勝だったそうだね!」
「あ、ども…」
「その身体のどこにピザ35人前が入ったんだい? 東洋の神秘だねえ!」
声が無駄に大きい。
「次回、出場する時は是非私にも教えておくれ? 全力で応援させて頂くよ!
ああ、なんて美しいオリエンタルスマイルなのだろう!」
テオの勢いに押されて、ハルヤが曖昧な微笑を浮かべている。
歩く性善説が話題の転換を試みた。
「テオ、その箱は何ですか?」
「そうだった、そうだった。チャンピオンにお祝いの品をと思ってね。
うちの寮のシェフに、ふわふわハニーシフォンを焼いて貰ったのだよ。
これはシュヌーシアでは大人気のおやつなんだ。
さあ、たんとお食べ、東洋の黒い真珠! ああ、もちろん、君達もね」
テオがテーブルの上で箱を開ける。焼きたての甘い香りが立ち昇る。
リング型の1ホールと、生クリームが入った小瓶も添えてあった。
「このシフォンはね、島特産の蜂蜜で作ったものなんだ。
甘さは少し控えて貰ったから、東洋の黒い真珠の口にも合うんじゃないかな?
あ、お好みで生クリームを付けてどうぞ、とのことだったよ。
アンリはたくさん付けておくれ。君は甘い方が好きだものね?」
甘党扱いされた僕は何も言わなかった。ジョシュアが代表して礼を述べる。
「ありがとうございます、テオ。ケーキ、切り分けますね。
俺達も紅茶を飲み始めたところだったんです。テオも一緒にいかがですか?」
「ありがとう。お願いするよ」
堂々とハルヤの隣に座る。
別に誘われなくても、最初からお茶に呼ばれるつもりだったのだろう。
ジョシュアが紅茶を淹れたり、シフォンを切ったりしている。
そのうち僕にもケーキが回ってきた。フォークで触れると、本当にふわふわした。
お菓子好きのシュヌーシアで人気があるだけあって、なかなか悪くない味だった。
陽気な生徒代表が、お気に入りの東洋人で遊んでいる。
あれは、そろそろセクシャル・ハラスメントに抵触しないのだろうか。
「さあ、東洋の黒い真珠。私が食べさせてあげる」
「ええっ、ちょっと…」
「口を開けて? はい。 美味しいかい、東洋の黒い真珠? 良かった!
ああ、できることなら、私が君を食べてしまいたい」
ハルヤは、えっ、と言って肩が跳ねる。テオはご満悦だった。
「あはは。東洋の黒い真珠は初々しい反応をしてくれるねえ」
「あ、いや、あのさ。今、声がしなかった? 子供っぽいかんじの」
「子供の? さあ、私は気付かなかったな。君達は聞こえた?」
「いいえ、俺には…」
「僕も、貴方の騒がしい声しか聞こえなかったな。ハルヤには何が聞こえたの?」
「えっと確か、『次は何して遊ぼっか?』って」
サロンが、しん、となる。
元気良く立った生徒代表によって、沈黙は、けたたましく破られる。
ハルヤの両手を取って、感動を言葉にしていた。
「なんてミステリアスな! 流石は東洋の神秘だ!」
「あの、でも、気のせいかも…」
「いやいや。聖アルフォンソ学院の建築はアンティークだからね、
昔から不思議な話の類には不自由しない場所だし」
「ええっ、そうなの?」
「おや? 知らなかったかい? でも、安心しておくれ。
怖いものばかりではないのだよ? 例えば、
『聖アルフォンソ島には天使が居て、マージナルプリンスを見守ってくれている』とか。
この島ならではの、実に優しくミステリアスなお話もあるんだ」
僕はページを捲りながら冷笑する。
「天使って言うと聞こえは良いけれどね。それ、実際は亡霊や悪魔なんじゃない?」
「あ、あくま?」
「アンリ、ハルヤで遊ぶなよ」ジョシュアは肩を竦める。
「気にしないで、ハルヤ。俺達、中等部から此処に居るけど、別に何ともないから」
「あ、うん。なら、いいんだけど」
そう言いながら、眼鏡の奥の瞳はやや不安げだった。テオは黒い瞳を愛でながら、
「すまない。私のせいで怖がらせてしまったかな?
そうだ! 責任を取って今宵は私が添い寝しよう。良ければ童話も読むよ?
大丈夫。こう見えても、私は本を読むのは上手いのだよ。
中等部の良い子達に読むこともあるからね。
あ、もちろん私の方が先に眠ったりはしないから安心しておくれ。
夜は君の寝顔を愛でるのに忙しいだろうからね」
「ねえ」
「アンリも入れて欲しいのかい? もちろん大歓迎だよ。天使の寝顔を見せておくれ?」
「彼も、僕も、ベッドに入れる相手を選ぶ権利はあると思うけれど?」
「おやおや。セクシーなことを言うようになったねえ、アンリ。
そう言えば、この頃の君は、ますます美しくなった気がするし。
流石は永遠の美を持つ家系だ。それとも、君の美を高めてくれる相手でも居るのかな?
今日はまた一段と美しい氷の微笑だね!」
ウーティス寮サロンのティータイムは今日も騒々しかった。
夜になると、生徒達は自室に戻り、サロンにも静寂が訪れた。
どの部屋もすっかり明かりを落とし、夜の帳に包まれていた。
聖アルフォンソ島は常春。この時刻ともなれば適度に寝易い気温となる。
しかし、寝苦しいわけでもないのに、先程からうなされている生徒が一人居た。
夢と現を行き来しながら、寝返りを打つ。
肩までの髪、透き通るような白い肌。整った鼻筋には眼鏡の痕があった。
――ねえ、見て。キラキラきれい――
――王様と伯爵の光だな――
ハルヤの瞼が微かに動き、薄っすらと目を開ける。
真っ暗な自分の部屋。音もしない。誰も居ない。当たり前だ。
では一体、今の声は。サロンで聞いた声に似ていたような気もするが。
「まいっか、めんどくさ…」
毛布を被ると、すうっと眠りに落ちていった。
闇夜の聖アルフォンソ学院に、子供の声が降りてくる。
――うん。今度はあの子達で遊ぼうよ――
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