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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー ジョシュア テオ ソクーロフ
生徒代表室でミーティング。
参加者は生徒代表と保健医と警備担当の俺。
今日は生徒代表室まで行けないので、俺はPCから参戦。
ネットミーティングができるベンリな時代で良かった。
ネットのない時代って、どうしてたんだろうと、ふと思う。

「こんちはー。アイヴィー、入りまーす」

PCから顔を出すと、カウンセラーさんの姿はまだなかった。
真面目な生徒代表はいつものように笑顔で挨拶してくれる。

「こんにちは、アイヴィー。今日もよろしくお願いします」

「こちらこそ、オネガイしまっす」

ジョシュアの傍に一冊のノートが置かれていた。
この荘厳な部屋には似つかわしくないような、ごく普通のノート。

「面白いらしいな、それ」

「はい。あの、アイヴィーは読んだことないんですか?」

「ああ。だって、それ、生徒代表専用のヒミツのラクガキ帳なんだろ?
テオがちょこっと中身を教えてくれたりはしたけどさ」

歴代の生徒代表が書き残したラクガキ。
一般の生徒はこのノートの存在すら知らないだろう。
生徒代表の机。その一番上の引き出しに毎年忍ばせてあるようで、
ある日、引き出しを開けた新しい生徒代表が、
「何だこれは」と思いながら、このノートを手にするらしい。

どうやら、理事会からの強制ではなく、
生徒代表側が自発的に始めたものだそうだ。
それが何十冊にも受け継がれ、全てこの部屋に納められている。
今後もノートが部屋の外に出ることはないのだろう。

卒業後、各国で活躍しているマージナルプリンスどもの
直筆サインがズラリと詰まった代物だ。
こんなもの、どこを探したって手に入らないだろう。
万が一、ノートが世に出れば、さぞ大変な価値に、
いや、大スキャンダルになること間違いなしだ。
パンドラの箱と言っても過言じゃない。
遊び心で恐ろしい物を残してくれたものだ。

ラクガキは人によって書くペースが全く違うそうだ。
自由気ままに絵などを描く者。
月に一度と決めて定期的に記録した者。
任務終了間際に一言だけ綴った者。
意味不明の数式を書き散らした者など、てんでバラバラ。

ただ、ほぼ共通して書かれたこともある。
次代の、また、もっと遠い未来の、生徒代表に向けたメッセージ。
それは殆どの生徒代表が綴っていた。
中には、読まれることはないと解っていながら、
自分より前の生徒代表へ、労いや感謝の言葉も贈られているそうだ。

ページの端々には、彼等のリアルな時間が刻まれている。
消しゴムで何度も消した痕や、水のようなもので濡れた痕、
派手にコーヒーを零したページ、ビリビリと破かれたページなどもあるそうだ。
このノートは、壁に飾られた生徒代表の肖像画と同様、もしくはそれ以上に、
この部屋が数多くの生徒によって受け継がれてきたことを証明するものだった。

前年度の生徒代表、テオ・メネシスは言っていた。
「どうして、この長い長い交換日記が続いているのか、解るような気がするよ」と。
その理由を尋ねると、陽気な男は「生徒代表室は孤独な部屋だから」そう答えた。

今、ジョシュアが手にしている表紙には、少し色褪せたラクガキ。
赤い文字で『トップ・シークレット』と書かれ、
大事そうにグルグルと丸で囲ってある。まるでテストにでも出そうだ。

「ジョシュア、お前さんもラクガキしてみた?」

「いいえ、まだです。何を書いて良いのか解らなくて」

「んな緊張しなくてもイイんじゃねえの?
テオはホントに絵とか、ただのラクガキを描いてるって言ってたぜ?」

「本人にとっては、さっと描いた素描なのかもしれませんが、上手ですよ、テオの絵。
楽しかった出来事の絵日記などもありますし、
この席から見える森や、壁の肖像画を模写したものもあって。
これを見るまで知りませんでした。テオ、こんなに絵の才能があったんですね。
でも、なんだか、テオらしい絵だなって思います。
大らかで華やかな絵なのに、どこか…あ、いえ…」

そう言ってジョシュアは押し黙った。
聞かなくても、続く言葉が何なのか、大体予想はついた。
俺はPC画面の時計を見る。

「ドクター、遅いなー。保健室で何やってんだか」

「あ、そうですね。急患じゃなければ良いんですが」

「ミラーボールでも回してんじゃないの?」

「まさか。博士はそんなことしませんよ。俺、ちょっと保健室に電話してみますね」

「失礼するよ」

ドアが開き、白衣の保健医が入ってきた。

「ドクター、ちこくだぞー」

「保健室に生徒が来たものでね」

「とか言ってー、俺達の話、立ち聞きしてたんじゃないのー?」

「私がそんな悪趣味なことをするとでも?」

いや、あんた悪趣味のカタマリだし。
と、言えない気弱な俺。

「ジョシュア、遅れてすまない、早速ミーティングを始めよう」

「はい、博士」

ジョシュアはノートを置いて、用意していた資料をドクターに手渡す。
俺にはメールに添付されていた資料だ。
ジョシュアが議題を読み上げ、ミーティングが始まった。

PC画面の隅にノートの表紙が映ってる。
楽しそうに書かれた『トップ・シークレット』の文字。
あれはテオが、笑いながら書き残したものだった。


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