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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュア×アンリ
■ほのぼの。ジョシュア視点。
■第1回『BL王座決定戦』優勝記念小説です!
注:13話ネタバレ必至。アルフォンソ祭終了後のお話。
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アルフォンソ祭が終わった。

全てのイベント、パーティーから解放され、ジョシュアは自分の部屋に居た。
もう深夜と言える時間帯だ。部屋の灯りは、とっくに消している。
身体もベッドに預けては居るが、意識が沈む気配は無い。
今日は色々なことが在り過ぎて、まだ、ふわふわと気持ちが浮付いている。
目を閉じても、今日の様々なシーンが甦る。
舞台。観客。ロレート。みんな...
ジョシュアは額に手の甲を乗せる。
....眠れない、かな。今夜は。

コンコン、とドアがノックされた。

部屋の灯りが消えているにも関わらず、このドアを叩く人物は限られている。
ジョシュアはベッドから降りる。
部屋の電気を付け、扉を開けた。
予想通りの顔に見上げられる。

「起きていたね?」

感情のこもらない声。
質問とも確認とも聞こえる言い回しで、アンリは言った。
彼の場合は、おそらく後者だろうな、ジョシュアは思う。

「うん。眠れそうにないな、と思っていた所だよ」

「そう」

来訪者は、それだけ言って、俺を見ている。
ジョシュアは、無言の要求を汲み取る。

「ねえ、アンリ。良かったら、少し話し相手になってくれないかな?」

来客は先と変わらない声で応える。

「君が、美味しい紅茶を淹れてくれるならね?」

「うん。了解」

君が俺の前を通り過ぎる。
俺は扉を閉めて、青い髪を追った。

戸棚から、白いカップと紅茶のリーフを手に取る。
特に意識しなくても、手は流れるように紅茶の用意をしてくれる。
リーフを量り、お湯の温度を確かめる。
このリーフの浸出時間は2分。
俺は、紅茶用の砂時計を、逆さまにする。

さらさらと、青い砂が落ちていく。

俺は、どちらかと珈琲の方が好きで、紅茶はあまり飲まない。
だけど、偶に街に出た時は、俺の足は、紅茶の専門店へと向かい、
君が好きそうなリーフを探してる。
その店主には、すっかり顔を知られている。
きっと、俺のことを余程の紅茶好きと思っていることだろう。

紅茶に必要な品は、カフェ並み以上に揃っている。
でもこれらは、俺が使う為のものではない。
全て君のために、置いてあるものだ。

この部屋に、少しずつ君が増えていく。

君が、此処で紅茶を飲む度に、俺は紅茶のことを知っていく。
紅茶の淹れ方だって、もう君よりずっと上手くなってしまった。
君は「まるで、ティーソムリエのようだね」と言ってくれた。
だけど、この腕を自分の為に振るうことは殆どない。
俺が紅茶を飲みたくなるのは、決まって君が寮に居ない時だ。

最後の砂が落ちる。
紅茶を注ぐと、俺は温かい香りに包まれる。
茶葉の自然な甘みと、深みのある柑橘系の香り。
これは、君が好きな。

「…ベルガモット。アールグレイだね」

冷たい声が、静かに香りの名前を言い当てる。

「さすが、アンリ」

「そのくらい解るよ。好きだからね」

アンリの言葉が、耳に残る。
好きだから、解る。
解っていく程、好きになる。
確かにそうだな、とジョシュアは思う。
俺も、紅茶を知って、好きになった。
でも、今もこんなに好きなのに、これ以上好きになるのかな。
淹れ立ての紅茶をアンリに渡す。

「どうぞ」

「ありがとう」

アンリは一口飲んで、テーブルに置く。
良かった、とジョシュアは思う。
彼が文句を言わない時は、美味しい、という意味だ。

「今日はお疲れさま、アンリ」

「随分と軽い挨拶だね」

声の温度が下がった。
表情を伺うと、先までと違う。

「今日、自分が何をしたか解っているの?
軽率な行動だったと反省もしていないの?」

「君を庇ったこと、怒っているのかい、アンリ?」

「当たり前だよ。君は、自分が誰だか知らないの?
君はね、僕にとって、最も都合の悪い、嫌な人間なんだよ」

「アンリ...」

「この学院の生徒代表で、ロレート国の王位継承権第1位。
しかも、サン・ジェルマン家と敵対するグラント家の人間。
君のような人間に死なれたら、僕が批難の的になるのは明白だ。
君の暗殺を計画したとか、僕が呪い殺したとか、言われるに決まってる。
こんなに夢見の悪い話がある? 少しは僕の迷惑を考えて」

「すまない、でも俺は」

「...もし、あのまま君が目を覚まさなかったら。
僕は、君の胸からナイフを抜き取って、自分に刺していたよ」

「えっ...」

「勘違いしないで。僕が迷惑だからだよ?
そんな批難に晒されて生きていくなんて嫌だからね」

君らしくない台詞だとジョシュアは思う。
いつもは他人の評価など気にしないくせに。

君の言葉が、何処までが冗談で、何処からが本音かも、
以前よりは解るようになってきたと思う。

君特有の、本音から遠回りする話し方。
そんな君を毒舌家と言う人も居る。

毒。
確かに、危険な毒だ。
君の声は、麻薬のような依存性がある。

君の毒舌が全て甘く感じられるのも、
身体中に毒が回っているからなのかな。

「何が可笑しいの、ジョシュア」

「いや。俺と一緒に死ぬなんて、まるでボルジアの台詞だね?」

「冗談言ってる場合じゃないよ。
今回はたまたま助かっただけだと解らない?
僕の命はね、これからも狙われ続ける運命にある」

「アンリ...」

「そんな僕に構っていたら、次こそ命を落とすよ?
だから、僕を守ろうだなんて思わないで...
もう二度と僕を庇わないと、今、此処で誓って」

「ごめん。誓えないよ、アンリ」

「どうして」

「俺も同じだから。
もし、アンリが死んでいたら、
君の胸からナイフを抜き取って、俺の胸に刺していた」

「...君は、そんなことをしては駄目だ」

「俺だって残されたくないんだよ、アンリが居ない世界にはね。
俺より先に死なせない。...俺を置いていかないで、アンリ」

アンリは溜め息を吐く。

「いい加減にして。その独善主義にはうんざりなんだよ。
....残された方は、どうすればいいの?」

「うん。ごめん...」

「君は、つくづく嫌な人間だね、ジョシュア」

青い髪が、こちらに向かって傾く。
とん、と俺の胸に当たった。

「...アンリ?」

「嫌いだよ。大嫌いだ」

君の言葉は冷たくて、こんなにも、甘い。

「うん。俺も」

綺麗な青い髪。
その冷たい色を包む。

「俺も、愛してるよ、アンリ」

「...そんなこと、僕は言ってない」

「俺には、そう聞こえたよ?」

「ちょっと、ジョシュア...」

「黙って...」

テーブルの上で、アンリの紅茶が熱を失っていく。

忘れられたカップが、ちらと目に入った。
ジョシュアは、アンリに気付かれないように微笑む。
心の中で、白いカップに小さく詫びる。

――ごめん。また残ってしまったね。

まあ、紅茶を飲ませてと言ったのは、彼なんだけれど。
アンリの為に淹れた紅茶は、
どうして、最後まで飲んで貰えないのかな?


fin

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