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■レッド×ハルヤ 他。
■アニメ。梅。ハルヤシナリオ若干。
----------------------------------------
聖アルフォンソ島 植物園。
此処には1本だけ梅の木が在った。
木の下に、幾つもの紙と瓶が転がっている。
紙に暗号めいた文章を綴る二人の生徒が居た。
「一枚目の地図は、こんなかんじかな?」
「どれどれ? ってコレ、日本語じゃん! 何て書いてあるんだよっ?」
「『東風吹かば 匂い寄こせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ』
菅原道真が、梅に会いたくて詠んだ歌だよ」
「梅? じゃあスタート地点は」
「そう。この梅の木」
「でも、日本語じゃあ、俺の後輩、読めねえじゃん!?」
「それで良いんだ。こうすれば、君の後輩は、こちらに助けを求めに来る」
「あっ! 二人揃った時が、宝探しの始まりってわけかっ!」
「そういうこと」
「じゃあ、最後の地図には何て書く? 宝の在り処はドコにするんだっ」
「うん…最後はやっぱり、ウーティス寮にしようと思ってる」
「もしココの寮生だったら、どーすんだよ! 振り出しに戻るじゃん!」
「まあ、そーなるね」
「お前って、キレーな顔して、やることケッコー黒いよな?」
「親切だと言って? お腹空いた頃に、ゴールで夕食が待ってるんだから」
「学院中歩かせれば腹も空くわな。
寮に着いた時のバカ面、拝めないのがザンネンだぜっ!」
生徒の笑い声に釣られたように、梅の枝が風に揺れる。
落ちる花弁は片手で足りた。
花は蕾。
枝に連なる白い鈴は、小指の爪程だ。
鈴はまだ鳴らない。
春が来るまで、もう少し。
「ハルヤー、開けるぜー?」
レッドは許可が出る前に部屋のドアを開ける。
「うわっ! レッド!?」
幾ら勝手にドアを開けたからと言っても、驚き過ぎだ。
原因はハルヤの手の中にあった。
「ああっ! それ! 前見つけた舞扇じゃん!」
「う、うん」
「お前、これから日舞の練習!?」
「ち、違うよ…。ちょっと、眺めてただけ」
「なあーんだ。俺、見たかったのに、ハルヤの舞っ!」
「駄目だよ。俺の舞なんか、見る程のもんじゃないし」
「何言ってんだよっ! お前、めちゃくちゃ上手かったじゃんっ!」
「上手くないよ、全然練習もしてないのに」
「だって、お前の手から花びらが、ひらひら舞ってたの見えたぜ!」
「え…花びらが?」
「ああ! お前の周りだけ、急に春になったのかと思ったよ!」
照れているのかハルヤの顔に少し赤みが差す。
「…ありがと。あれは梅の舞なんだ」
「梅かあ、どうりでっ! 香りが流れて来るみたいだったし!」
飾りの無い手放しの称讃に、ハルヤは嬉しそうに微笑む。
「…見えない梅を、観客に見せられるようになったら、一人前だって…じい様が言ってた」
「あははっ! じゃあ、お前一人前じゃんっ!」
「そんなこと…」
「なあ、ハルヤ! 俺達、似てると思わねえっ!?」
「…どこが? てゆうか、全然似てなくない?」
「家だよ、い・え! 家族中がエンターテイナーで、兄貴も居てさ! なっ!?」
「レッドんちとは規模が違うと思うけど。
でも、そう言われてみると…家の環境は似てる、かな」
「それだけじゃない! 俺達のじいさんもこのアルフォンソ学院に居たんだぜ!?」
「うん。それは…びっくりした」
「俺達のじーさんが此処で出会って、
孫の俺達がまた此処で出会ってる。すげーと思わねえか?」
「…思う」
ハルヤは舞扇に視線を移す。
そこにはレッドに読めない文字が刻まれている。
アルファベットの筆記体にも似ているが、固く、芯の通った形だ。
舞扇は、このウーティス寮に隠してあった。
ご丁寧に『宝の地図』まで用意して。
最初の地図を持っていたのは、俺のじーさんだ。
電話でたまたまハルヤの話をした時、
「やっと揃ったか」と嬉しそうに笑っていた。
数日後、届けられたのが、和歌だけが綴られた『宝の地図』だった。
それを見たハルヤは、これは梅に宛てて詠まれた歌だと言った。
俺達が、1本だけ梅の木が存在する植物園へ向かうと、
そこには、次の場所を示す地図が埋まっていた。
島中に散りばめられた地図を辿り、最後に見つかった宝物。
それが、ハルヤのじーさんの舞扇だった。
「やっぱり、レッドのおじいさんと、うちのじい様が、
二人で考えたのかな、この宝探し」
「そうとしか考えられねーだろ? 俺達にあちこち探させて、
あのじじい、今頃バカ笑いしてるだろーぜ?」
「どうして、こんなことしたんだろ…」
「さあな。卒業記念ってヤツじゃねーの?
ガッコの壁に、自分の名前ラクガキすんのとおんなじだろ」
「…俺、じい様が『遊び』で舞扇を置いていったとは思えないんだよね。
なんか意味があったんだと思う」
「どういうことだ?」
ハルヤは舞扇の梅にそうっと触れる。
「『…だって、遊びで使たらあかん、言うたんは、じい様や。
踊り手にとって舞扇は大事なだいじなもんやて…』」
「ハルヤ! 日本語禁止って言っただろ!」
「え…ああ、ごめん。つい…。
じい様はね、普段優しいんだけど。日舞に関しては厳しい人で。
舞扇は遊びで使っちゃいけない、って言ってたんだよ」
「へえ。んじゃ! 俺達もやってみるかっ!」
「…何を?」
「宝探しだよ! 今度は俺達が仕掛けるんだ!」
「ええー? 宝物を隠すってこと?」
「そっ! 俺達も作り手に回ってみれば、なんか解るかもしんねーし!」
「それは確かに…」
「だろっ!? そんで、俺達の後輩にも、学院中、探検させてやろうぜっ!」
「うーん。宝物はどうするの? この舞扇?」
「もちろん! それから、俺達が演じた『アルフォンソ王』のDVD!
あと写真なっ! 俺達全員で撮ったヤツ!
どうだ、この3点セット! サイコーのお宝じゃん!」
「良いけど、随分盛りだくさんだね」
「あっそうだ! 劇のメイキング映像もオマケしてやろうかっ!?」
「メイキング?」
「劇の練習風景とか、休憩時間の隠し撮りとか♪」
「えー!? レッド、そんなの撮ってたのっ!? 俺、聞いてない!」
「うん。まあ、お前は…見ない方がイイかも」
「ちょっと、見ない方が良いって、なんで?」
「いや、まあ…な」
「言えないような映像を、学院に残そうとしないで…」
「だって、お宝映像だし」
「…あーもう、何を撮ったんだよ…」
「大丈夫だって、ハルヤ! お前のカットは、サイコーに可愛いーからっ!」
「…それは、励ましてるつもりなの?」
「宝は後で考えるとしてっ! 宝探し作りに異存はねーんだな?」
「でも、仕掛けるとなると、すっごい大変だよ?
宝物を決めるだけじゃない。
宝の在り処を考えて、宝の地図を書いて、
あ、あれ、暗号文だったから、文章も決めなきゃいけないし。
全部決まったら、地図を入れた瓶を、あちこち埋めに行くんだよ?
もう考えるだけでも、めんどくさっ」
「それくらい大したことねえって!
新しく考えるの面倒なら、前と同じでイイんだし!」
「それは、そうかもしれないけど…」
「お前だって、楽しかっただろ!
あっ! どうせなら、もっと難しいのにしてやろうぜ!
暗号とかさ、いっぱい作って! なっ!?」
「あーもう解ったよ」
「よっしゃ! 探検隊は永久に不滅だぜっ!
早速、作戦会議といくかっ! ハルヤ、紙とペン!」
ハルヤは動かない。
何か考え込むように、扇を見つめている。
「ハルヤ? どうした?」
「…あ、うん。じい様達、よくやったなあ、と思って」
「ん?」
「宝探しって、俺達、宝物を探す方も面倒くさかったけど、
宝物を隠す方も…ううん、隠す方がずっと、面倒くさいんだね…」
「まあ、そーだよな」
「そこまでする価値があったってことだよね。
どうして、舞扇を此処に置いていったのかな…」
レッドは頭の後ろに両手を回す。
天井を眺めて「やっぱ、解ってたんじゃねーの?」と声を上げた。
「解ってた?」
「ハルヤが此処に来ることも。お前が舞扇を持って来ないことも」
「俺…?」
「だから、お前に舞扇を渡したかったんだろうぜ」
「…どうして?」
「日舞を嫌いになって欲しくなかったんじゃねーのか?
お前が『大事な』舞扇を持って来れないくらい、嫌になるのも解ってて、
それでも、忘れて欲しくなったんだろ。
最初は、日舞が楽しくて仕方なかったこととかさ」
「レッド…なんで解るの、そんなこと…」
「だから、俺とお前は似てるんだよ。
…俺も子供の時は、演じることが単純に好きで、楽しくて仕方なかった。
けど、年取って、なんか上手くいかなくなっちまった」
「うん…」
「けど、俺、アルフォンソ祭で、お前達と一緒に劇やって、
忘れてたこと、思い出したんだ」
「何?」
「芝居は、一緒に作ってくれる仲間が居るから、楽しいんだってこと。
それから『あー俺、今でも芝居が好きなんだ』って悔しい位に思ったよ」
財宝を探し当てた海賊のような笑顔。
それは、演劇に対する彼の情熱を何より物語っていた。
「なあ、ハルヤ。俺達が嫌だったのは、芝居とか日舞じゃない。
大嫌いだったのは、もっと別の物だ。そうだろ?」
「うん」
「俺達、本当は好きなんだよな」
「ん…そうだね」
ハルヤが頷くのを確認し、
レッドの目がイタズラな色に染まる。
がしっと手を掴む。
「んじゃ、踊ってくれるよなっ!?」
「え、えっ!?」
「俺、もう一度見たいんだっ! じーさんを魅了した、梅香流を! なっ!?」
「…仕方無いな」
ハルヤの周りだけが春になる。
やっぱり見える。
ハルヤの指先から、花弁が舞っている。
あの舞扇から、梅の香が流れてくる。
スゴイとか、キレイとか。
そんな言葉じゃ、とても言い尽くせない。
人智を超えている。
妖艶で。
神秘的で。
不思議な気分に捕らわれる。
ハルヤの手が動く度、目も心も奪われる。
戦前のヨーロッパを魅了した日本舞踊『梅香流』家元、ハルミ・ウメガエ。
あの頑固じじい、ヴィットーリオ・ヴィスコンティが認めた男。
自ら出演依頼をする程に、惚れ込んだ唯一の舞踏家。
じーさんが、ハルミの舞に魅入られた理由、
やっと解ったぜ。
あんたにも見えたんだな、この花が。
聖アルフォンソ島に遅い春が訪れていた。
一人佇む梅の木も、その身を誇らしげに咲かせている。
梅の枝には、満開の白い鈴。
温かな春風に撫でられて、辺りは一層香り立つ。
木の下には、卒業式を終えたばかりの生徒が二人。
彼等の胸元にも、小さな花が咲いている。
梅も二人を祝福するかのように、しゃららと花吹雪を鳴らしていた。
「はい。書いて来たよ、一枚目の地図。じゃ、君に預ける」
「おうっ。お前って、字もキレーだなあ」
「読めないくせに、何言ってんの。
いい? 君にかかってるんだから、それ、無くさないでね?」
「任せとけって! …俺達の血を継ぐ者が出会う時、か。
なあハルミ、それって何年後?」
「さあね。10年先か、100年先か。もっと、かもしれないな」
「100年!? 俺、生きてられっかなー?」
「大丈夫だよ。肉体は、宇宙の意志を宿す器に過ぎないから」
「…宇宙? お前、スケールでっかいな」
「梅香流の考え方。この身が消えても受け継がれるものはあるってこと」
「へえー。面白いじゃん?」
「ヴィットーリオ。何、にやにやしてんの?」
「この身が消えても、お前は、俺のことヒーローだって思ってくれんだろ♪」
「…あほかっ。『俺の映画に出てくれ! お前は俺のヒーローだ!』って、
ヒーロー扱いしたのは、そっちだろっ」
「そーだっけ?」
「とぼけんなよ。俺の舞を見て『花が見えたっ!』とか言って、
散々口説いて来たくせに」
「へへっ! あー早く宝探し始まんないかなー!
やっぱ俺が生きてるうちがイイし!」
「ふうん。『俺は…どっちでも良いけどね』」
「ハルミ! 日本語禁止って言っただろっ! 俺の悪口かっ!?」
「褒めたんだよ。『君なら1000年経っても生きてんじゃない?』ってね」
「俺は化石かっ! ったく、そろそろ行こうぜ。卒業パーティーが始まっちまう」
「あ、ちょっと待って。こいつにも挨拶するから」
ハルミは梅の幹に手を触れて、咲き誇る花を仰ぐ。
「お前も、またね。いつか未来の俺達が会いに来るから、その時もよろしく。
俺の方はね、名前に『春』が付くから、すぐに解るよ。
『東風吹かば 匂い寄こせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ』だね、本当に…」
梅は名残惜しそうに、その枝を震わせた。
芳香に吸い寄せられたように、
ハルミはそっと幹に額をくっつける。
「俺の後輩もね、梅が大好きだから。
お前の存在が慰めになると思う。見守ってやってね」
「何言ってんだよ、ハルミ! お前の後輩には、俺の後輩が付いてんだぞっ!」
「あははっ、梅の木に妬く人、初めて見た」
「るせーなっ! パーティー行くぞ、ハルミ!」
「はいはい」
ハルミを追い駆けるように、一片の花弁が髪に乗った。
手に取る。
白い花びらの縁が、仄かに桃色に染まっている。
「…お前も妬いてくれたん? おおきに」
花びらに口付けて、空に返す。
風に乗って、ひらりひらりと舞った。
白梅の舞。
ハルミは目が離せない。
いつまでも見ていたかった。
ずっとこの香りを感じていたかった。
「ねえ、ヴィットーリオ」
「ん?」
「…見つけられるかな、未来の俺達」
「決まってんだろ。俺達の血を引く者なんだぜ?」
「うん」
「絶対、梅に、会いに行く」
「うん…」
待っている。
春が何度巡っても。
器が何度変わっても。
梅の木の下で。
また君に会える。
fin
■アニメ。梅。ハルヤシナリオ若干。
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聖アルフォンソ島 植物園。
此処には1本だけ梅の木が在った。
木の下に、幾つもの紙と瓶が転がっている。
紙に暗号めいた文章を綴る二人の生徒が居た。
「一枚目の地図は、こんなかんじかな?」
「どれどれ? ってコレ、日本語じゃん! 何て書いてあるんだよっ?」
「『東風吹かば 匂い寄こせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ』
菅原道真が、梅に会いたくて詠んだ歌だよ」
「梅? じゃあスタート地点は」
「そう。この梅の木」
「でも、日本語じゃあ、俺の後輩、読めねえじゃん!?」
「それで良いんだ。こうすれば、君の後輩は、こちらに助けを求めに来る」
「あっ! 二人揃った時が、宝探しの始まりってわけかっ!」
「そういうこと」
「じゃあ、最後の地図には何て書く? 宝の在り処はドコにするんだっ」
「うん…最後はやっぱり、ウーティス寮にしようと思ってる」
「もしココの寮生だったら、どーすんだよ! 振り出しに戻るじゃん!」
「まあ、そーなるね」
「お前って、キレーな顔して、やることケッコー黒いよな?」
「親切だと言って? お腹空いた頃に、ゴールで夕食が待ってるんだから」
「学院中歩かせれば腹も空くわな。
寮に着いた時のバカ面、拝めないのがザンネンだぜっ!」
生徒の笑い声に釣られたように、梅の枝が風に揺れる。
落ちる花弁は片手で足りた。
花は蕾。
枝に連なる白い鈴は、小指の爪程だ。
鈴はまだ鳴らない。
春が来るまで、もう少し。
「ハルヤー、開けるぜー?」
レッドは許可が出る前に部屋のドアを開ける。
「うわっ! レッド!?」
幾ら勝手にドアを開けたからと言っても、驚き過ぎだ。
原因はハルヤの手の中にあった。
「ああっ! それ! 前見つけた舞扇じゃん!」
「う、うん」
「お前、これから日舞の練習!?」
「ち、違うよ…。ちょっと、眺めてただけ」
「なあーんだ。俺、見たかったのに、ハルヤの舞っ!」
「駄目だよ。俺の舞なんか、見る程のもんじゃないし」
「何言ってんだよっ! お前、めちゃくちゃ上手かったじゃんっ!」
「上手くないよ、全然練習もしてないのに」
「だって、お前の手から花びらが、ひらひら舞ってたの見えたぜ!」
「え…花びらが?」
「ああ! お前の周りだけ、急に春になったのかと思ったよ!」
照れているのかハルヤの顔に少し赤みが差す。
「…ありがと。あれは梅の舞なんだ」
「梅かあ、どうりでっ! 香りが流れて来るみたいだったし!」
飾りの無い手放しの称讃に、ハルヤは嬉しそうに微笑む。
「…見えない梅を、観客に見せられるようになったら、一人前だって…じい様が言ってた」
「あははっ! じゃあ、お前一人前じゃんっ!」
「そんなこと…」
「なあ、ハルヤ! 俺達、似てると思わねえっ!?」
「…どこが? てゆうか、全然似てなくない?」
「家だよ、い・え! 家族中がエンターテイナーで、兄貴も居てさ! なっ!?」
「レッドんちとは規模が違うと思うけど。
でも、そう言われてみると…家の環境は似てる、かな」
「それだけじゃない! 俺達のじいさんもこのアルフォンソ学院に居たんだぜ!?」
「うん。それは…びっくりした」
「俺達のじーさんが此処で出会って、
孫の俺達がまた此処で出会ってる。すげーと思わねえか?」
「…思う」
ハルヤは舞扇に視線を移す。
そこにはレッドに読めない文字が刻まれている。
アルファベットの筆記体にも似ているが、固く、芯の通った形だ。
舞扇は、このウーティス寮に隠してあった。
ご丁寧に『宝の地図』まで用意して。
最初の地図を持っていたのは、俺のじーさんだ。
電話でたまたまハルヤの話をした時、
「やっと揃ったか」と嬉しそうに笑っていた。
数日後、届けられたのが、和歌だけが綴られた『宝の地図』だった。
それを見たハルヤは、これは梅に宛てて詠まれた歌だと言った。
俺達が、1本だけ梅の木が存在する植物園へ向かうと、
そこには、次の場所を示す地図が埋まっていた。
島中に散りばめられた地図を辿り、最後に見つかった宝物。
それが、ハルヤのじーさんの舞扇だった。
「やっぱり、レッドのおじいさんと、うちのじい様が、
二人で考えたのかな、この宝探し」
「そうとしか考えられねーだろ? 俺達にあちこち探させて、
あのじじい、今頃バカ笑いしてるだろーぜ?」
「どうして、こんなことしたんだろ…」
「さあな。卒業記念ってヤツじゃねーの?
ガッコの壁に、自分の名前ラクガキすんのとおんなじだろ」
「…俺、じい様が『遊び』で舞扇を置いていったとは思えないんだよね。
なんか意味があったんだと思う」
「どういうことだ?」
ハルヤは舞扇の梅にそうっと触れる。
「『…だって、遊びで使たらあかん、言うたんは、じい様や。
踊り手にとって舞扇は大事なだいじなもんやて…』」
「ハルヤ! 日本語禁止って言っただろ!」
「え…ああ、ごめん。つい…。
じい様はね、普段優しいんだけど。日舞に関しては厳しい人で。
舞扇は遊びで使っちゃいけない、って言ってたんだよ」
「へえ。んじゃ! 俺達もやってみるかっ!」
「…何を?」
「宝探しだよ! 今度は俺達が仕掛けるんだ!」
「ええー? 宝物を隠すってこと?」
「そっ! 俺達も作り手に回ってみれば、なんか解るかもしんねーし!」
「それは確かに…」
「だろっ!? そんで、俺達の後輩にも、学院中、探検させてやろうぜっ!」
「うーん。宝物はどうするの? この舞扇?」
「もちろん! それから、俺達が演じた『アルフォンソ王』のDVD!
あと写真なっ! 俺達全員で撮ったヤツ!
どうだ、この3点セット! サイコーのお宝じゃん!」
「良いけど、随分盛りだくさんだね」
「あっそうだ! 劇のメイキング映像もオマケしてやろうかっ!?」
「メイキング?」
「劇の練習風景とか、休憩時間の隠し撮りとか♪」
「えー!? レッド、そんなの撮ってたのっ!? 俺、聞いてない!」
「うん。まあ、お前は…見ない方がイイかも」
「ちょっと、見ない方が良いって、なんで?」
「いや、まあ…な」
「言えないような映像を、学院に残そうとしないで…」
「だって、お宝映像だし」
「…あーもう、何を撮ったんだよ…」
「大丈夫だって、ハルヤ! お前のカットは、サイコーに可愛いーからっ!」
「…それは、励ましてるつもりなの?」
「宝は後で考えるとしてっ! 宝探し作りに異存はねーんだな?」
「でも、仕掛けるとなると、すっごい大変だよ?
宝物を決めるだけじゃない。
宝の在り処を考えて、宝の地図を書いて、
あ、あれ、暗号文だったから、文章も決めなきゃいけないし。
全部決まったら、地図を入れた瓶を、あちこち埋めに行くんだよ?
もう考えるだけでも、めんどくさっ」
「それくらい大したことねえって!
新しく考えるの面倒なら、前と同じでイイんだし!」
「それは、そうかもしれないけど…」
「お前だって、楽しかっただろ!
あっ! どうせなら、もっと難しいのにしてやろうぜ!
暗号とかさ、いっぱい作って! なっ!?」
「あーもう解ったよ」
「よっしゃ! 探検隊は永久に不滅だぜっ!
早速、作戦会議といくかっ! ハルヤ、紙とペン!」
ハルヤは動かない。
何か考え込むように、扇を見つめている。
「ハルヤ? どうした?」
「…あ、うん。じい様達、よくやったなあ、と思って」
「ん?」
「宝探しって、俺達、宝物を探す方も面倒くさかったけど、
宝物を隠す方も…ううん、隠す方がずっと、面倒くさいんだね…」
「まあ、そーだよな」
「そこまでする価値があったってことだよね。
どうして、舞扇を此処に置いていったのかな…」
レッドは頭の後ろに両手を回す。
天井を眺めて「やっぱ、解ってたんじゃねーの?」と声を上げた。
「解ってた?」
「ハルヤが此処に来ることも。お前が舞扇を持って来ないことも」
「俺…?」
「だから、お前に舞扇を渡したかったんだろうぜ」
「…どうして?」
「日舞を嫌いになって欲しくなかったんじゃねーのか?
お前が『大事な』舞扇を持って来れないくらい、嫌になるのも解ってて、
それでも、忘れて欲しくなったんだろ。
最初は、日舞が楽しくて仕方なかったこととかさ」
「レッド…なんで解るの、そんなこと…」
「だから、俺とお前は似てるんだよ。
…俺も子供の時は、演じることが単純に好きで、楽しくて仕方なかった。
けど、年取って、なんか上手くいかなくなっちまった」
「うん…」
「けど、俺、アルフォンソ祭で、お前達と一緒に劇やって、
忘れてたこと、思い出したんだ」
「何?」
「芝居は、一緒に作ってくれる仲間が居るから、楽しいんだってこと。
それから『あー俺、今でも芝居が好きなんだ』って悔しい位に思ったよ」
財宝を探し当てた海賊のような笑顔。
それは、演劇に対する彼の情熱を何より物語っていた。
「なあ、ハルヤ。俺達が嫌だったのは、芝居とか日舞じゃない。
大嫌いだったのは、もっと別の物だ。そうだろ?」
「うん」
「俺達、本当は好きなんだよな」
「ん…そうだね」
ハルヤが頷くのを確認し、
レッドの目がイタズラな色に染まる。
がしっと手を掴む。
「んじゃ、踊ってくれるよなっ!?」
「え、えっ!?」
「俺、もう一度見たいんだっ! じーさんを魅了した、梅香流を! なっ!?」
「…仕方無いな」
ハルヤの周りだけが春になる。
やっぱり見える。
ハルヤの指先から、花弁が舞っている。
あの舞扇から、梅の香が流れてくる。
スゴイとか、キレイとか。
そんな言葉じゃ、とても言い尽くせない。
人智を超えている。
妖艶で。
神秘的で。
不思議な気分に捕らわれる。
ハルヤの手が動く度、目も心も奪われる。
戦前のヨーロッパを魅了した日本舞踊『梅香流』家元、ハルミ・ウメガエ。
あの頑固じじい、ヴィットーリオ・ヴィスコンティが認めた男。
自ら出演依頼をする程に、惚れ込んだ唯一の舞踏家。
じーさんが、ハルミの舞に魅入られた理由、
やっと解ったぜ。
あんたにも見えたんだな、この花が。
聖アルフォンソ島に遅い春が訪れていた。
一人佇む梅の木も、その身を誇らしげに咲かせている。
梅の枝には、満開の白い鈴。
温かな春風に撫でられて、辺りは一層香り立つ。
木の下には、卒業式を終えたばかりの生徒が二人。
彼等の胸元にも、小さな花が咲いている。
梅も二人を祝福するかのように、しゃららと花吹雪を鳴らしていた。
「はい。書いて来たよ、一枚目の地図。じゃ、君に預ける」
「おうっ。お前って、字もキレーだなあ」
「読めないくせに、何言ってんの。
いい? 君にかかってるんだから、それ、無くさないでね?」
「任せとけって! …俺達の血を継ぐ者が出会う時、か。
なあハルミ、それって何年後?」
「さあね。10年先か、100年先か。もっと、かもしれないな」
「100年!? 俺、生きてられっかなー?」
「大丈夫だよ。肉体は、宇宙の意志を宿す器に過ぎないから」
「…宇宙? お前、スケールでっかいな」
「梅香流の考え方。この身が消えても受け継がれるものはあるってこと」
「へえー。面白いじゃん?」
「ヴィットーリオ。何、にやにやしてんの?」
「この身が消えても、お前は、俺のことヒーローだって思ってくれんだろ♪」
「…あほかっ。『俺の映画に出てくれ! お前は俺のヒーローだ!』って、
ヒーロー扱いしたのは、そっちだろっ」
「そーだっけ?」
「とぼけんなよ。俺の舞を見て『花が見えたっ!』とか言って、
散々口説いて来たくせに」
「へへっ! あー早く宝探し始まんないかなー!
やっぱ俺が生きてるうちがイイし!」
「ふうん。『俺は…どっちでも良いけどね』」
「ハルミ! 日本語禁止って言っただろっ! 俺の悪口かっ!?」
「褒めたんだよ。『君なら1000年経っても生きてんじゃない?』ってね」
「俺は化石かっ! ったく、そろそろ行こうぜ。卒業パーティーが始まっちまう」
「あ、ちょっと待って。こいつにも挨拶するから」
ハルミは梅の幹に手を触れて、咲き誇る花を仰ぐ。
「お前も、またね。いつか未来の俺達が会いに来るから、その時もよろしく。
俺の方はね、名前に『春』が付くから、すぐに解るよ。
『東風吹かば 匂い寄こせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ』だね、本当に…」
梅は名残惜しそうに、その枝を震わせた。
芳香に吸い寄せられたように、
ハルミはそっと幹に額をくっつける。
「俺の後輩もね、梅が大好きだから。
お前の存在が慰めになると思う。見守ってやってね」
「何言ってんだよ、ハルミ! お前の後輩には、俺の後輩が付いてんだぞっ!」
「あははっ、梅の木に妬く人、初めて見た」
「るせーなっ! パーティー行くぞ、ハルミ!」
「はいはい」
ハルミを追い駆けるように、一片の花弁が髪に乗った。
手に取る。
白い花びらの縁が、仄かに桃色に染まっている。
「…お前も妬いてくれたん? おおきに」
花びらに口付けて、空に返す。
風に乗って、ひらりひらりと舞った。
白梅の舞。
ハルミは目が離せない。
いつまでも見ていたかった。
ずっとこの香りを感じていたかった。
「ねえ、ヴィットーリオ」
「ん?」
「…見つけられるかな、未来の俺達」
「決まってんだろ。俺達の血を引く者なんだぜ?」
「うん」
「絶対、梅に、会いに行く」
「うん…」
待っている。
春が何度巡っても。
器が何度変わっても。
梅の木の下で。
また君に会える。
fin
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