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■アンリ×ハルヤ
■危険なアンリ
---------------------
聖アルフォンソ島 植物園。
此処には1本だけ梅の木が在った。
ハルヤは、売店で『魔女のボンボン』を買った。
みたらし団子風の食べ物。
和菓子好きのハルヤは、これがお気に入りだった。
串には刺さっていない。
皿の中に白玉団子が入っていて、
みたらし風のソースが掛かっている。
それをスプーンで食べる。
梅の下で食べようと決めていた。
昨日の雨が上がって、今日の梅はきっと綺麗だと思ったからだ。
期待通り、雫を纏った梅の木はキラキラと輝いていた。
木の下に珍しく先客が居た。
(あっ…)
梅の木を見上げているのはアンリだった。
その眼差しは切なげで、声を掛け難いくらいだった。
そうっとして置いた方が良いのかもしれない。
後ずさろうと歩を進める。
「ハルヤ。何、こそこそしてるの?」
名を呼ばれ、そうっと彼を伺うと、
アンリはいつものアンリに戻っていた。
「ごめん、アンリ。俺、邪魔かと思って」
「邪魔?」
「なんか、考え事してたみたいだったから」
「別に。鳥の巣を見てただけ」
「えっ。巣があるの?」
「左上の方。昔から在ったのか、今年からなのか、解らないけれど」
「あ、ほんとだ。気付かなかった」
「君は、花しか見ていないだろうからね」
「そうだね、花ばっか見てた」
「…花すら映っていないのかな」
「え?」
「いや。何でもない」
「ねえ、アンリ。あの巣、鳥が住んでいるの?」
「いいや。まだ居ないようだね。もう少し温かくなれば、
母鳥が子供に餌を与える姿が見られるかもね」
そっか、とハルヤは思う。
アンリは、その様子が見たかったのかもしれない。
お母さんを幼い時に亡くしたそうだし。
お父さんは生きているのに「父は居ない」って言ったこともある。
家族と楽しく過ごした思い出が、あんまり無いのかもしれない。
「それ、魔女のボンボンだね。此処で食べようとしていた?」
「うん、まあ」
「花の下でお菓子か。よく、そんな長閑なことを思い付くね。
僕には到底できない発想だ」
「アンリさ、これ食べたことある?」
「無いけど?」
「じゃ、アンリも一緒に食べる?」
アンリが梅の木を見る。
視線の先は鳥の巣だ。
「…そうだね。ご馳走になろうかな」
二人は木の根に座る。
ハルヤはスプーンが1つしかないことに気付く。
「あ、どうしよ。スプーンが…」
「では、僕が食べさせてあげようか?」
「そ、そんなっ! いいよ、俺、一人で食べれるし…」
「嫌?」
「嫌って言うか…」
「嫌ではないの?」
「何て言うか、そういう問題じゃなくって…」
「ハルヤ…誘っている?」
「えっ」
「僕を挑発するとは、勇気があるね?
…スプーンを使って欲しくないのかな?」
「それって、どういう…」
「母鳥が子供に与えるように、して欲しい?」
ハルヤが言葉を返せないでいると、
アンリは「冗談だよ」と妖艶な笑みを浮かべた。
アンリとは同い年の筈なのに、
こんな風に笑う彼は、ずっと大人びて見えて。
少し、怖い。
「ねえ、ハルヤ? 前から聞いてみたかったのだけど」
「な、何?」
「君は、シャイな人間を演じているの?」
「え?」
「では天然? それも質が悪いよね」
「ごめん…」
「君が謝る理由は無いよ。純粋な君を見ていると、
自分の狡猾さが嫌になるだけだから」
アンリはスプーンで魔女のボンボンを掬う。
「ほら、ハルヤ。口を開けて?」
「う、うん」
甘いボンボンが口に入る。
なんだか、いつもと味が違う気がする。
魔女のボンボンは何度も食べてる筈なのに。
…これ、こんなに甘かったっけ?
アンリは、くすくすと笑う。
「人に食べさせるのって、悪くないね。小鳥に餌付けしてるみたいだ」
ハルヤは、ボンボンを飲み込んで、咳き込んだ。
隣で苦しむ人を一瞥し、
アンリは真上の梅を仰ぐ。
白い花。
白は苦手だ。
汚れを知らない色。
眩しくて、綺麗過ぎる。
梅も嫌い。
人の目を捕らえて離さない、この花が。
白梅がアンリの前に降りてきた。
まるで蝶のように、
アンリの前で、羽ばたいている。
(誰もが見惚れると思っているの?)
風を切って、宙で握り潰す。
手の中には動かなくなった白い蝶。
羽の端が破れていた。
いつも『見られる』側に居る、白い花。
偶には、立場を交換しても良い筈だ。
今日は『見る』側に回って貰おうか。
いつもの、お返しに。
「…見せてあげるよ?」
やっと咳が止まったハルヤが、
目を少し潤ませて、こちらを向く。
「アンリ? 今、何か言わなかった?」
「うん。魔女のボンボン、僕もひとつ頂いて良い?」
「あ、うん。どうぞ」
皿を差し出す。
アンリは先と同じ大人の笑みを浮かべている。
「じゃ、まず、ハルヤにあげるね?」
魔女のボンボンをひとつ掬って、ハルヤの口許に運ぶ。
二度目の動作に、口は反射的に開く。
用済みとなった匙を皿に置いて、
ハルヤの顎を軽く持ち上げる。
「では、頂こうか」
梅の枝から、二枚の花弁が堕ちた。
一片が、はらり、ひらりと身を翻す。
それをもう一片が執拗に追い回す。
捕らえられて。
二片の梅は、絡み合うように。
堕ちて行く。
地面に伏した頃には、もう。
泥に塗れ、黒く汚れていた。
アンリは口許を歪め、自分の唇を舐める。
「ご馳走さま…柔らかいんだね?」
赤い舌先は、艶やかに濡れていた。
アンリが梅の木を見上げる。
白い花は、落ちて来ない。
「ねえ、ハルヤ。白い梅も見飽きたよね?」
「そんな、こと…」
「…僕が、紅い梅を散らそうか?」
fin
■危険なアンリ
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聖アルフォンソ島 植物園。
此処には1本だけ梅の木が在った。
ハルヤは、売店で『魔女のボンボン』を買った。
みたらし団子風の食べ物。
和菓子好きのハルヤは、これがお気に入りだった。
串には刺さっていない。
皿の中に白玉団子が入っていて、
みたらし風のソースが掛かっている。
それをスプーンで食べる。
梅の下で食べようと決めていた。
昨日の雨が上がって、今日の梅はきっと綺麗だと思ったからだ。
期待通り、雫を纏った梅の木はキラキラと輝いていた。
木の下に珍しく先客が居た。
(あっ…)
梅の木を見上げているのはアンリだった。
その眼差しは切なげで、声を掛け難いくらいだった。
そうっとして置いた方が良いのかもしれない。
後ずさろうと歩を進める。
「ハルヤ。何、こそこそしてるの?」
名を呼ばれ、そうっと彼を伺うと、
アンリはいつものアンリに戻っていた。
「ごめん、アンリ。俺、邪魔かと思って」
「邪魔?」
「なんか、考え事してたみたいだったから」
「別に。鳥の巣を見てただけ」
「えっ。巣があるの?」
「左上の方。昔から在ったのか、今年からなのか、解らないけれど」
「あ、ほんとだ。気付かなかった」
「君は、花しか見ていないだろうからね」
「そうだね、花ばっか見てた」
「…花すら映っていないのかな」
「え?」
「いや。何でもない」
「ねえ、アンリ。あの巣、鳥が住んでいるの?」
「いいや。まだ居ないようだね。もう少し温かくなれば、
母鳥が子供に餌を与える姿が見られるかもね」
そっか、とハルヤは思う。
アンリは、その様子が見たかったのかもしれない。
お母さんを幼い時に亡くしたそうだし。
お父さんは生きているのに「父は居ない」って言ったこともある。
家族と楽しく過ごした思い出が、あんまり無いのかもしれない。
「それ、魔女のボンボンだね。此処で食べようとしていた?」
「うん、まあ」
「花の下でお菓子か。よく、そんな長閑なことを思い付くね。
僕には到底できない発想だ」
「アンリさ、これ食べたことある?」
「無いけど?」
「じゃ、アンリも一緒に食べる?」
アンリが梅の木を見る。
視線の先は鳥の巣だ。
「…そうだね。ご馳走になろうかな」
二人は木の根に座る。
ハルヤはスプーンが1つしかないことに気付く。
「あ、どうしよ。スプーンが…」
「では、僕が食べさせてあげようか?」
「そ、そんなっ! いいよ、俺、一人で食べれるし…」
「嫌?」
「嫌って言うか…」
「嫌ではないの?」
「何て言うか、そういう問題じゃなくって…」
「ハルヤ…誘っている?」
「えっ」
「僕を挑発するとは、勇気があるね?
…スプーンを使って欲しくないのかな?」
「それって、どういう…」
「母鳥が子供に与えるように、して欲しい?」
ハルヤが言葉を返せないでいると、
アンリは「冗談だよ」と妖艶な笑みを浮かべた。
アンリとは同い年の筈なのに、
こんな風に笑う彼は、ずっと大人びて見えて。
少し、怖い。
「ねえ、ハルヤ? 前から聞いてみたかったのだけど」
「な、何?」
「君は、シャイな人間を演じているの?」
「え?」
「では天然? それも質が悪いよね」
「ごめん…」
「君が謝る理由は無いよ。純粋な君を見ていると、
自分の狡猾さが嫌になるだけだから」
アンリはスプーンで魔女のボンボンを掬う。
「ほら、ハルヤ。口を開けて?」
「う、うん」
甘いボンボンが口に入る。
なんだか、いつもと味が違う気がする。
魔女のボンボンは何度も食べてる筈なのに。
…これ、こんなに甘かったっけ?
アンリは、くすくすと笑う。
「人に食べさせるのって、悪くないね。小鳥に餌付けしてるみたいだ」
ハルヤは、ボンボンを飲み込んで、咳き込んだ。
隣で苦しむ人を一瞥し、
アンリは真上の梅を仰ぐ。
白い花。
白は苦手だ。
汚れを知らない色。
眩しくて、綺麗過ぎる。
梅も嫌い。
人の目を捕らえて離さない、この花が。
白梅がアンリの前に降りてきた。
まるで蝶のように、
アンリの前で、羽ばたいている。
(誰もが見惚れると思っているの?)
風を切って、宙で握り潰す。
手の中には動かなくなった白い蝶。
羽の端が破れていた。
いつも『見られる』側に居る、白い花。
偶には、立場を交換しても良い筈だ。
今日は『見る』側に回って貰おうか。
いつもの、お返しに。
「…見せてあげるよ?」
やっと咳が止まったハルヤが、
目を少し潤ませて、こちらを向く。
「アンリ? 今、何か言わなかった?」
「うん。魔女のボンボン、僕もひとつ頂いて良い?」
「あ、うん。どうぞ」
皿を差し出す。
アンリは先と同じ大人の笑みを浮かべている。
「じゃ、まず、ハルヤにあげるね?」
魔女のボンボンをひとつ掬って、ハルヤの口許に運ぶ。
二度目の動作に、口は反射的に開く。
用済みとなった匙を皿に置いて、
ハルヤの顎を軽く持ち上げる。
「では、頂こうか」
梅の枝から、二枚の花弁が堕ちた。
一片が、はらり、ひらりと身を翻す。
それをもう一片が執拗に追い回す。
捕らえられて。
二片の梅は、絡み合うように。
堕ちて行く。
地面に伏した頃には、もう。
泥に塗れ、黒く汚れていた。
アンリは口許を歪め、自分の唇を舐める。
「ご馳走さま…柔らかいんだね?」
赤い舌先は、艶やかに濡れていた。
アンリが梅の木を見上げる。
白い花は、落ちて来ない。
「ねえ、ハルヤ。白い梅も見飽きたよね?」
「そんな、こと…」
「…僕が、紅い梅を散らそうか?」
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