忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ジョシュア×アンリ
入れ替わってから四日目の朝。
朝食前の時間に、ジョシュアはアンリに会いに来た。
アンリは既に起きていて、ドアを開けた時にはワイシャツ姿だった。
首元のボタンはまだ開いていて、くっきり浮かんだ鎖骨が覗いていた。

「アンリ、やっぱり正直に話そう、ウーティスのみんなには」

アンリはジョシュアに背を向けてボタンを閉める。
リボンタイを付けながら相手した。

「まだ言ってるの、そんなこと。僕達は当事者だから信じざるを得なかったけれど、
こんな馬鹿げた話、他人が信じると思う? 信じる方がどうかしてる」

「きっと解ってくれるよ」

「理解できない。どうしてそんなに、彼等に話したいの?」

深紅と琥珀の視線がぶつかる。どちらも強気だった。
ジョシュアは一息置いてから言った。

「アンリに、これ以上無理はさせられない。
俺、アンリにはアンリのままで居て欲しいんだ」

瞬き、視線を外したのは深紅の瞳だった。

「…何を言うかと思えば。筋金入りのお人好しだね、君は」

「夕食の時に俺からみんなに話すよ。良いね?」

やや投げ遣りではあったが、好きにすれば、と返事があった。


ウーティス寮ダイニングルーム。
夕食が終わる頃、ジョシュアは席を立って言った。
「みんな。話があるんだ」
「何だよアンリ。面白いギャンブルでも思い付いたのか?」
アルフレッドが冗談めかすのをシルヴァンが制した。
「レッド。真面目な話みたいですよ。どうしました、アンリ」
ジョシュアはアンリの傍に歩いていく。
「実は、俺達二人のことで、みんなに聞いて欲しいことがあるんだ」
アルフレッドがからかう。
「おいおい。まさか『僕達、結婚します』とか言い出すんじゃねーだろーな」
ハルヤとシルヴァンが驚く。
「ええっ?」
「そ、そうなんですか!?」
「あ、いや、違うよ。あの、俺達、身体と魂が入れ替わってしまったんだ」
デッドプリンスは揃って脱力した。
「なんだー、驚かせないで下さいよー」
「びっくりしたー。結婚しちゃうのかと思ったよー」
「ホントだぜ。ったく、入れ替わったくらいでガタガタ言うな…って」
「入れ替わったあああー!!?」と三人が声を合わせる。
シルヴァンがジョシュアの身体を見る。
「うそ…じゃ、ジョシュアがアンリで」
ハルヤがアンリの身体を見る。
「アンリがジョシュア?」
「そうだ、って言ってるでしょ」
ジョシュアの声で毒吐かれたことに、三人は改めて驚いた。
本人はこんな喋り方はしない。喋っているのは本当にアンリらしい。
「あの、それは、いつからですか?」
シルヴァンの問いに、ジョシュアがアンリの声で申し訳なさそうに答える。
「三日前の朝なんだ。みんなに隠していてすまない。
目が覚めたら入れ替わってて、原因が解らないんだ」
「三日前? あ、ではサッカーで、ジョシュアがシュートミスをしたのは、
実際はアンリだったから、ですね?」
ハルヤが続く。
「じゃあ、あの時は、アンリがジョシュアを介抱したんじゃなくて、
ジョシュアがアンリを介抱してたんだ?」
「うん。驚かせてすまない。信じられないことだと思うけど、本当なんだ」
シルヴァンは静かに席を立った。アンリの身体を持つ人の前に行く。
彼の手を包むように、自分の手を重ねた。
「信じますよ。僕が知っているジョシュアは、
嘘が上手く吐けないくらい、誠実な人なんです。
それに、アンリのバニラボイスは、もっとひんやり冷たい筈ですから」
ジョシュアは吐息交じりに小さく言った。
「…ありがとう、シルヴァン」
「ほら、そんなにあたたかい声ではバニラとは言いません。溶けてしまいますよ」
ハルヤは眼鏡を押し上げる。
「俺も信じるよ。三日も前からめんどくさい演技するとは思えないし。ね、レッド?」
「お前等、何、あっさり信じてんだよ。ファンタジームービーじゃないんだぜ?」
全員がアルフレッドに注目する。
「こいつらがグルになって、ひと芝居打ってんのかもしんねーだろ?
ハリウッドスターの俺様をダマそうったって、そーはいかないぜ?
こっちはプロなんだからな!」
アンリが冷笑する。
「単細胞にしては賢明な意見だね、レッド。
さすが、ハリウッドスターだけのことはある。
言ったでしょう、ジョシュア。こんなこと、信じる方がどうかしてる」
「今のでハッキリしたな」首に腕を回す。
「こっちの、セーカクがひん曲がってる方がアンリだ」
深紅の瞳は瞬き、そっぽを向く。
「…ひん曲がってて、悪かったね」
「アンリ。レッドに噛み付くなよ」
「おい、ジョシュア。アンリの声でそれを言うなよ」
みんなが笑う。アンリだけが笑わなかった。
「アルフレッド…信じてないんじゃ、なかったの?」
「演技に決まってんだろ、演技。
俺は五歳の時からお前を泣かしてた天才子役、
アルフレッド・ヴィスコンティ様だぜ?」
「あんな三流ドラマで僕が泣くわけないでしょ」
「かっわいくねー。こっちがアンリ! ぜってえアンリ!」

ジョシュアは寮生達に改めてお礼を言った。
「ありがとう、みんな。俺達のこと、信じてくれて」
「当たり前じゃないですか」
「隠してたなんて、水臭いよ」
「しっかし。元に戻る方法が解んないんじゃーなー。ホントに心当たりねーの?」
「うん…」
「映画やドラマでは、二人で一緒に何かすると入れ替わるってのはあるけどな。
入れ替わった時と全く同じ条件でそれをやると、元に戻るってやつ。
で、お前等は、二人で何もしてないわけ?」
二人は頷く。アルフレッドとハルヤは考え込む。
シルヴァンが手を合わせた。
「まあまあ、皆さん。今日はもう遅いですし。また明日から対策を考えましょう?」
寮生達は自室へ戻っていった。


二人は今夜から自分の部屋で眠ることにした。
もうアンリの部屋からジョシュアの身体が出てきても変に思われないからだ。
猫もアンリと一緒に移動した。
眠る前、ジョシュアは、アンリの部屋を訪ねてきた。
猫は籠のベッドで背中を丸めている。
アンリも既にベッドに入っていた。ジョシュアはベッドに腰掛けた。
「良かったね、みんなに言って」
深紅の瞳は天井を見上げて言う。
「何の解決にもならないけれどね」
「でも、これで明日からはお互いのフリをしなくて済む、だろう?」
「まあね」
天井を見たままの友人をそっと覗く。今夜は目を合わせてくれない。
「驚いているのかい? みんなが俺達を信じてくれたこと」
チク、タク、たっぷり二秒空いた。
「別に。単純な人間ばかりだなって、呆れてるだけだよ」
琥珀の瞳が細くなる。
「それじゃ、おやすみ、アンリ。またあした」


アンリが一人になると、猫の鳴き声がした。
籠のベッドで丸くなっていた猫が、こちらに顔を向けている。

「なんだ、起きてたの?」

くりくりの小さな瞳。
無垢でいて、何でも知っていそうな気がした。

「怪我が治ったら、早くこの寮を出て行った方が良いよ、ルフナ。
この寮に居るのは単細胞ばかりだから。君にまで馬鹿が移る」

話し掛けられた猫は、籠から降りた。
包帯を巻いた足でゆっくりと歩き、アンリが居るベッドの前まで来た。
みゃう、と鳴く。アンリは眉を顰める。
動物愛護者なら猫とも意思疎通ができるのかもしれないけれど。
怪我が痛いのか、空腹なのか、アンリには解らなかった。
猫はぴょんとベッドに飛び乗った。一瞬、猫の顔が歪む。

「その足でジャンプなんかするからでしょう?
君、自分が怪我してるって解らないの?」

人間の言葉は無視され、猫は毛布の上で丸くなった。
アンリのすぐ傍だ。

「随分、懐くのが早い猫だね」

アンリはそっと手を伸ばす。
一瞬、迷って、指は淡い茶色の毛に触れた。
頭を撫でる。嫌がる様子は全くない。
猫は目が細くなり、眠たそうな顔になる。

「猫に好かれるのもこの声と甘いマスクのせいか。
僕が悪魔に戻ったら、君との蜜月もおしまいだね」

人差し指で喉をくすぐる。
セイロンティー色の毛があたたかい。

「その時は、本物の王子様に君を預けるから、安心して?
このまま一緒に居たら、君の足、折ってしまうかもしれないから」

人差し指で足に巻かれた包帯をなぞる。
本物のジョシュア・グラントが巻いた布。
真っ白で汚れのない色。柔らかくて、ざらりとした。

「今は王子様の仮面を付けているけれど、
本当は悪魔の子なんだよ、ルフナ。解る? あくま」

猫は欠伸した。悪魔は微笑する。

「本当はね、僕もよく解らない」

猫の鼻先にキスをした。

「おやすみ、ルフナ」


To be continued
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]