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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュア×アンリ
翌日の放課後。
ウーティス寮生は全員、サロンに集合していた。
アルフレッドが手を挙げる。
「ジョシュアとアンリを元に戻すぜ大作戦、始めるぞっ!」
おー、とアンリ以外の腕が上がる。
「じゃ、手始めに!」
アルフレッドがジョシュアとアンリの肩に手を置く。
「お前等の頭をゴッツンコさせてみっか!」
「なんで」
「王道なんだから、試してみないとダメだろ!
コレ一発で元に戻るかもしんねーぜ?」

ゴッツンコ作戦が強行されることになった。
ジョシュアとアンリは少し離れた距離に立つ。
シルヴァンとハルヤはソファで見守っている。アルフレッドが仕切っていた。
「よーし。二人とも、俺の合図で一斉にぶつけろよ? いいか? レディ、ゴー!」
合図のタイミング通りに額をぶつけた。
ジョシュアは額を押さえながら目の前の顔を見る。
自分の顔。変わっていない。
「すまない、レッド。戻らなかったみたいだ」
ジョシュアはアンリの肩に手を置く。
「大丈夫かい、アンリ」
「いたい」
赤くなってしまったアンリの額にジョシュアが手を伸ばす。
「ごめんね」
「撫でるな」
ぱしっと手を避けた。
アルフレッドは後頭部で手を組む。
「じゃあ、今度は助走でも付けてみっか?」
「まだやるの?」
「今のじゃ、衝撃が足りなかったかもしんねーだろ?」
ジョシュアとアンリはサロンの両端にスタンバイする。
二人が走り出したと同時に、ドアが派手に開いた。

「東洋の黒い真珠! 今日はニッポンスイーツをお持ちしたよ!」

陽気な生徒代表が現れた。
走ってくるジョシュアと徒歩に近いアンリがぶつかった。
アルフレッドが「どうだっ?」と聞き、ジョシュアは首を振った。
テオが、どすどすサロンに入ってくる。
「ど、どうして、肌と肌のぶつかり合いをしているんだい、君達!
美しい額に傷が付いてしまうよ? 触れ合いたいのならばもっとソフトに」
ジョシュアがアンリに聞く。
「テオは生徒代表だ。知っていて貰った方が良いよね?」
「…仕方ないな」
「テオ、お話があります。驚かせてしまうと思いますが、実は俺達」
「おや。ついにゴールインするのかい! いやあ、めでたいめでたい!」
「いえ、違います。あの、俺達、身体と魂が入れ替わってしまって」
「おっと、それは失礼。まだ気が早かったようだね。
かねてから似合いの王子様とお姫様と思っていたものだから。
でも、めでたい日から来た暁には、何でも協力させておくれ?
あ! 私の船で良ければ式場に貸そう。潮風と海鳥に祝福されながら、
豪華客船で披露宴なんて、なかなか優雅じゃないか。
そのままハネムーンにも行けて便利だし。我ながらグッドアイディアだ。
だから、入れ替わったなどという些末時は気にせず…って、い、入れ替わったっ!?」
アンリが呟く。
「…単細胞しか居ないのかな、この学院」

ジョシュアから事情を聞いたテオは、うんうんと深く頷いていた。
「成程。さすがは聖アルフォンソ学院だ。
何が起こっても不思議はない場所だもの。いやはや、愛着が増したよ」
「お前、心広いなー、テオ」
そう言いながら、レッドが串団子を食べる。
皆もソファに座り、テオの持って来た和菓子を食べならがら、話を聞いていた。
日本の味を見事に再現した、みたらし団子だった。
各自、被り付いたり、フォークで差して食べていた。
テオは紅茶のカップを置く。
「頭をぶつけるという作戦ではダメだったのだね。
では、アレはもう試したかい?」
「アレって?」
「やはり、こういう場合は、口付けで元に戻るんじゃないかな?」

驚愕の視線を受け止めて、テオはゆったりと言った。
「定説だろう? 困った時の王子様のキスは。
しかも、ここにはプリンスがよりどりみどりじゃないか。
そしてお姫様役は聖アルフォンソ学院が誇る、プリンセス・アンリだ」
テオが颯爽と右手を差し出す。
「さあ、おいで、プリンセス。私の熱い口付けで元に戻してあげよう」
アルフレッドが立ちはだかる。
「なんでテオが王子役なんだよっ!」
「おや。私もマージナルプリンスの一人なのだから資格はあるだろう?
ああ、それに、ほら! 生徒代表としての強い責任感から…」
「後付けだろ、その理由」
「アルフレッド、役を譲って欲しいのかい?
ではコイントスで公平に順番を決めよう。
それとも、第一回『王子様オーディション』でも華々しく開催して」
「しなくていいから」
アンリが遮る。テオはむしろ嬉しそうだった。
「おやおや。氷のハニーボイスというのもまた魅惑的だねえ」
シルヴァンが手を挙げる。
「僕、『王子様オーディション』にエントリーします!」
ハルヤが頬を染めた。
「な、なんでシルヴァンがっ?」
「お二人のピンチですから。でも、キスとなると、どちらが良いのか迷いますね。
ジョシュアの唇を持っているのはアンリで、アンリの唇はジョシュアでしょう?」
「そうだねえ。これは究極の選択だ。
難しくもお買い得な二択だもの。シルヴァン、どちらにする? 私はねえ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「おや。東洋の黒い真珠もエントリーかい?
けれど君の場合は、王子様というよりお姫様役の方が美しいと思うよ?
あ! もしかして、アンリに妬いてしまったの?
ああ、私としたことが。悲しい思いをさせてすまない。
案ずることはないよ、東洋の黒い真珠。私は喜んで君にも熱い」
「そ、そうじゃなくって。王子様役って、テオとかシルヴァンじゃダメじゃない?
もし、どうしてもっていうなら、当事者同士のジョシュアとアンリだと思うけど…
ジョシュアは、本当に王子様なんだし」
「成程。確かに、東洋の黒い真珠の言う通りだ。
我々の中では、ジョシュアが最も王子様役に適している」
ジョシュアがアンリを振り向く。
「アンリ」
「ちょっと。君まで、何、その気になってるの? これは童話なんかじゃ」
「でも、もしこれで元に戻れるなら」
「絶対に上手くいくという保証はない」
「絶対に失敗するという保証もないよ。
可能性がありそうなことは、とにかくやってみよう」
「今、僕達が好奇の目に晒されてるのが解らないの?」
外野はことの成り行きを熱く見守っていた。
悪びれない生徒代表が笑顔を見せる。
「ああ。私達がお邪魔だったかい? 
失礼、失礼。そうだね、秘め事は二人きりでするべきだ。
私達はサロンで待っているから、君達は愛の巣に行っておいで?」
「解りました。アンリ、俺の部屋へ」
「本気なの、ジョシュア」
「ああ。本気だよ」

行こう、と腕を引いて、サロンから消えていった。
残された外野は顔を見合わせて、二人の後を追い駆けた。
ジョシュアの部屋まで忍び足で行き、ドアを薄く開けた。

二人は向かい合ってベッドに腰掛けていた。
見た目上では、アンリがジョシュアを見つめている。
逆にジョシュアは目を合わせず、右下に視線を落としていた。

外野は喰い付いて見たり、目を手で覆った隙間から覗き見ていた。
テオは、ほう、と息を吐いて「絵になる二人だねえ」と呟く。
デッドプリンスは揃って人差し指を立てた。
部屋の中では、アンリの声でジョシュアが優しく尋ねていた。

「アンリ、怖いかい?」
「別に。唇を重ねるだけでしょう」
「もし、どうしてもアンリが嫌なら、他の誰かに…」
「此処まで連れて来たのは君でしょう? …早く、すれば」
「うん。すまない。じゃ、目を閉じて」

深紅の瞳が閉じる。頬に手が添えられる。
二人の距離が近付いていく。
ジョシュアはアンリの耳に何か囁いた。
アンリが何か言おうとした時、ジョシュアが唇を重ねた。
二秒ほどで静かに離れた。見つめ合った二人は肩を落とした。
ハニーボイスが毒吐く。

「…こんなことで、戻れるわけないじゃない」
「時間が短かったのかな…」
「えっ?」
ジョシュアは微笑みながら言った。
「もう一度、してみる?」
アンリは傍にあった枕を投げ付ける。
枕を受け止めて、ジョシュアは笑った。
「すまない。サロンに戻ろうか」
観客は慌てて引き上げた。

ジョシュアとアンリがサロンに戻ってくる。
みんなはサロンでくつろいでいた風の演技で出迎える。
「ど、どーだった?」
ジョシュアが首を振る。
「ごめん。ダメだったよ」
知ってるけどね、と観客達は心の中で呟いた。
テオは肘掛け椅子に身を沈めながら、
「さてさて。これからどうしたものかな? けれど、先ずは」
「先ずは?」
「二人の愛が深まったお祝いに、ひとつ盛大なパーティーでも」
「しなくていいから」
「あはは。良いねえ、氷のハニーボイス。
アイスハニーティーが飲みたくなってきたよ」
どんなに冷たく言っても喜ばれる。
苦手な相手を無視して、ハニーボイスは相方にそっと毒吐いた。
「ねえ。あの人、楽しんでるだけじゃない?」
「いや、生徒代表自ら一生懸命協力してくれてるんじゃないか」
「そうは見えない」

その後も考えられる方法を尽くしてみたが、
全て空振りに終わった。


To be continued
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