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■ジョシュア×アンリ
「アンリ、起きて、アンリ」
頭が重い。眠たくて瞼が開かない。
朝から名前を連呼されて、いい気分になれる訳がない。
「起きて、早く」
優しく肩を揺すられた。
「やだ…ねむい…」
相手はそこでクスッと笑った。
「頭が重たいのは解るけど、起きた方が良いよ、アンリ」
妙な言い方だった。目を擦りながら、ぼんやり目覚める。
窓から朝陽が差し込んでいる。自然に光を背負った人。
彼は、おはよう、と笑った。
こんな時間から、爽やかな王子に少し腹が立つ。
「なんで、わざわざ起こしに来るの…」
彼は可笑しそうに笑った。
「アンリ、まだ気付かないのかい?」
嫌味なくらい優しいハニーボイス。
目の前にあるのは、深紅の瞳だった。
「長い夢でも見てたのかな、俺達」
「夢で片付けられること? 同時に同じ夢を何日も見る?」
「不思議な島だし、たまにはこういうこともあるのかもしれないよ?」
「君、神秘学を受講して、変人に感化された?」
「ほら、この前もハルヤが何か声が聞こえたって言っていたくらいだからね」
あっ、と二人同時に言う。
「ねえ。あの時、ハルヤは…」
「うん。確か『次は何して遊ぼっか?』って」
「…僕達、もしかして…遊ばれた?」
「そうかも、しれないね…」
「でも誰に」
「解らないね。まあ、もう戻れたんだから良いじゃないか」
「優等生だね、君は。僕は納得できないよ。
できることなら、損害賠償を請求したいところだよ。
訳も解らず入れ替わって、訳も解らず元に戻るなんて」
「俺は感謝してるけどな」
「感謝? 何を?」
「解ったから。たくさんのこと」
ジョシュアが僕の頬に触れる。
その手はもう冷たくなかった。
放課後のウーティス寮サロン。
シルヴァンから知らせを受けて、テオが飛び込んで来た。
「君達、元に戻ったんだって!?」
「はい。ご心配をお掛けしてすみませんでした」
「おお! そのホットなハニーボイスはまさしくジョシュア!」
感動したテオがジョシュアを抱き締める。
良かったね良かったね、とバシバシ背中を叩く。
ジョシュアは少し困り顔だったが、ありがとうございます、と言った。
『感動の再会』を満喫したテオがパッと離れて、顔を上げた。
「で、君達は一体どうやって元に戻ったんだい?」
「それが…解らないんです。今朝起きたら元に戻ってて」
「今朝? では昨夜辺り何か…ステキなことをしたのでは?」
「いいえ。特に何も」
僕は溜め息混じりに言う。
「意味が解らないよ。僕達は何もしてないのに」
「いやいや。効果があったんじゃないかい? ちょっとタイムラグがあっただけでね」
ウーティス寮生の多くが首を傾げる。
聖アルフォンソ学院の生徒代表は、びしっと人差し指を立てた。
「やはり、困った時は王子様のキスなのだよ!」
確かなことは何ひとつ解らないまま、ウーティス寮に日常が戻った。
他の寮生達も喜び、夕食時には乾杯までして、騒がしく一日が終わった。
就寝前、僕はジョシュアの部屋を訪ねた。
セイロンティー色の猫を連れて。
「この子、今夜から君が預かって」
突き出された猫を、ジョシュアは受け取れなかった。
「でも、アンリが今まで」
「この子の目に映っていたのは、ジョシュアの皮を被った僕だもの」
ほら、と急かされ、ジョシュアは仕方なく猫を抱く。
猫の視線が僕からジョシュアに移る。
見慣れた顔を見て安心したのか、大人しく抱かれていた。
僕は一歩後退り、呟いた。
「おやすみ、ルフナ」
猫の耳がピクと動く。ジョシュアの腕の中でもぞもぞした。
ジョシュアは「解ったよ」と言って床に下ろした。
猫は僕に駆け寄り、みゃあと鳴いた。
「ルフナ…君は目が悪いの? ジョシュアは彼でしょう?」
淡い紅茶色の猫は、きょとんとした目で見上げ、みゃあと鳴いた。
「俺がルフナの通訳をしようか?」
深紅の瞳が琥珀の瞳を見つめる。
「アンリと一緒に眠りたいな」
僕は膝を落とす。人差し指で猫の喉に触れた。
「セクシーなことを言うようになったね、ルフナ」
ジョシュアの額を盗み見る。
在るべき場所に、王冠は在った。
fin
「アンリ、起きて、アンリ」
頭が重い。眠たくて瞼が開かない。
朝から名前を連呼されて、いい気分になれる訳がない。
「起きて、早く」
優しく肩を揺すられた。
「やだ…ねむい…」
相手はそこでクスッと笑った。
「頭が重たいのは解るけど、起きた方が良いよ、アンリ」
妙な言い方だった。目を擦りながら、ぼんやり目覚める。
窓から朝陽が差し込んでいる。自然に光を背負った人。
彼は、おはよう、と笑った。
こんな時間から、爽やかな王子に少し腹が立つ。
「なんで、わざわざ起こしに来るの…」
彼は可笑しそうに笑った。
「アンリ、まだ気付かないのかい?」
嫌味なくらい優しいハニーボイス。
目の前にあるのは、深紅の瞳だった。
「長い夢でも見てたのかな、俺達」
「夢で片付けられること? 同時に同じ夢を何日も見る?」
「不思議な島だし、たまにはこういうこともあるのかもしれないよ?」
「君、神秘学を受講して、変人に感化された?」
「ほら、この前もハルヤが何か声が聞こえたって言っていたくらいだからね」
あっ、と二人同時に言う。
「ねえ。あの時、ハルヤは…」
「うん。確か『次は何して遊ぼっか?』って」
「…僕達、もしかして…遊ばれた?」
「そうかも、しれないね…」
「でも誰に」
「解らないね。まあ、もう戻れたんだから良いじゃないか」
「優等生だね、君は。僕は納得できないよ。
できることなら、損害賠償を請求したいところだよ。
訳も解らず入れ替わって、訳も解らず元に戻るなんて」
「俺は感謝してるけどな」
「感謝? 何を?」
「解ったから。たくさんのこと」
ジョシュアが僕の頬に触れる。
その手はもう冷たくなかった。
放課後のウーティス寮サロン。
シルヴァンから知らせを受けて、テオが飛び込んで来た。
「君達、元に戻ったんだって!?」
「はい。ご心配をお掛けしてすみませんでした」
「おお! そのホットなハニーボイスはまさしくジョシュア!」
感動したテオがジョシュアを抱き締める。
良かったね良かったね、とバシバシ背中を叩く。
ジョシュアは少し困り顔だったが、ありがとうございます、と言った。
『感動の再会』を満喫したテオがパッと離れて、顔を上げた。
「で、君達は一体どうやって元に戻ったんだい?」
「それが…解らないんです。今朝起きたら元に戻ってて」
「今朝? では昨夜辺り何か…ステキなことをしたのでは?」
「いいえ。特に何も」
僕は溜め息混じりに言う。
「意味が解らないよ。僕達は何もしてないのに」
「いやいや。効果があったんじゃないかい? ちょっとタイムラグがあっただけでね」
ウーティス寮生の多くが首を傾げる。
聖アルフォンソ学院の生徒代表は、びしっと人差し指を立てた。
「やはり、困った時は王子様のキスなのだよ!」
確かなことは何ひとつ解らないまま、ウーティス寮に日常が戻った。
他の寮生達も喜び、夕食時には乾杯までして、騒がしく一日が終わった。
就寝前、僕はジョシュアの部屋を訪ねた。
セイロンティー色の猫を連れて。
「この子、今夜から君が預かって」
突き出された猫を、ジョシュアは受け取れなかった。
「でも、アンリが今まで」
「この子の目に映っていたのは、ジョシュアの皮を被った僕だもの」
ほら、と急かされ、ジョシュアは仕方なく猫を抱く。
猫の視線が僕からジョシュアに移る。
見慣れた顔を見て安心したのか、大人しく抱かれていた。
僕は一歩後退り、呟いた。
「おやすみ、ルフナ」
猫の耳がピクと動く。ジョシュアの腕の中でもぞもぞした。
ジョシュアは「解ったよ」と言って床に下ろした。
猫は僕に駆け寄り、みゃあと鳴いた。
「ルフナ…君は目が悪いの? ジョシュアは彼でしょう?」
淡い紅茶色の猫は、きょとんとした目で見上げ、みゃあと鳴いた。
「俺がルフナの通訳をしようか?」
深紅の瞳が琥珀の瞳を見つめる。
「アンリと一緒に眠りたいな」
僕は膝を落とす。人差し指で猫の喉に触れた。
「セクシーなことを言うようになったね、ルフナ」
ジョシュアの額を盗み見る。
在るべき場所に、王冠は在った。
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