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Marginal Prince Short Story
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■オーギュスト×アンリ
聖アルフォンソ学院 研究室棟。
教授陣が住まいとは別に与えられている、学問の空間。
講義がない時間は、ここに居ることが多い。
先生に質問や相談がある生徒はこの研究室に訪れる。
神秘学の教授は、一人で紅茶を飲みながら、
学会から送られてくる論文集に目を通していた。
電話が鳴る。ティーカップを置いて、受話器を取る。
「はい、ボージェです」
「学務課のスティーブです。今、よろしいでしょうか?」
快活な青年の声。面識のある職員だ。生徒の成績表などは彼に提出している。
「何でしょう?」
「先生に夏期講習新設の申し込みがありましたので、お電話しました」
「私に?」
「ええ。こちらに申請がありました。生徒の希望は…」
語尾に紙の音が重なって聞こえる。
「期間は八月いっぱい。一日一コマを週三回程度。
講習は教授と一対一のプライベートレッスンで、とのことです。
先生のご都合はいかがでしょうか?」

教授はその日のうちに、生徒に会いに行くことにした。
研究室棟から外に出ると、七月の強い光を浴びた。
常春の聖アルフォンソ島とは言え、流石に今月の太陽は眩しい。
この時期は学院のプライベートビーチへ泳ぎに行く生徒も多い。
そう言えば、自分が最後に海に行ったのは一体いつだろう、
などと考えているうちに目的の寮に着いた。
本人の許可なく部屋に入り、紅茶を飲みながら待つ。
寮内の温度管理は完璧で、あたたかいセイロンが美味しかった。
そのうちに、耳に馴染んだ足音が聞こえてきた。
教授はもうひとつのカップに紅茶を注ぐ。
砂糖を二杯入れて攪拌する。シャリシャリと紅い水底が鳴った。
間もなく部屋に戻ってきた生徒には、冷たい眼差しを向けられた。
「…オーギュスト。部屋に勝手に入るなって言っているでしょう?」
生徒は金融工学のテキストを机の右端に立て掛ける。
「学務課から連絡があったよ」
ゆっくりと生徒が振り向く。少し伸びてきた宵闇の髪が目許に掛かる。
教授は紅茶のカップを差し出す。
「アンリ、神秘学の夏期講習を作って欲しいそうだね?」
「ああ、その話?」
カップを受け取ってベッドに座る。紅茶の水色を確かめるように、水面を見つめて言う。
「聖アルフォンソ学院では、生徒の知的好奇心が特別に尊重される。
教授側に拒否権はないと思うけれど。旅行にでも出掛ける予定だった? ボージェ教授」
「ううん。喜んでお引き受けするよ」
生徒は短く、そう、と言って、紅茶に口付けた。教授はカップを片手に微笑む。
「光栄だね。アンリと二人きりで、夏のひとときを過ごせるなんて」
教授の予想通り、生徒の眉が少しつり上がる。
「変な言い方しないで。夏は少し暇になるから、君に退屈凌ぎになって貰うだけだ」
教授は口許を手で隠す。生徒の視線がますます冷たくなる。
無言のまま、教授は、失礼、と片手を上げる。
「夏期講習の詳細を決めようと思って来たんだ。日程は月、水、金曜日の16時からでどうかな?」
生徒は頷いて了承する。
「教室は、いつもと同じ、第二化学室で良いのかい?」
ぶっきらぼうな声が「どこでもいい」と答える。
「では学務課にはそのように伝えておくよ」
教師と生徒がカップを傾ける。口当たりの良い渋み。
標高900~1500mの高地で、冷たい季節風に耐えたタフな味わいだ。
「ところで、アンリ。他のウーティスの子達は、夏期休暇を取るのかね?」
「そうらしいけれど?」
「成程」
教授は鷹揚に頷いた。
「彼もかね? アンリとよく一緒に居る、緋色の瞳の…」
「ジョシュア?」
「ああ、そう。彼も居なくなってしまうのかね?」
ねえ、と生徒が不満を露わにする。
「どうして、そんなこと聞くの? 君には関係ないでしょ? ボージェ教授」
「ああ、すまない。話が逸れてしまったね。
夏期講習では何について勉強しようか。何かリクエストはあるのかな?」
「別に。君に任せる」
「おや。私に任せてしまって良いのかね?」
生徒はツンと澄ました顔で言う。
「僕を退屈させなければね」
教授は生徒の頭に手を置く。
「アンリとの夏期講習、楽しみにしているね」
一瞬遅れて、邪魔、というように手が振り払われた。


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