忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ロレートシナリオ
私は後部座席のドアを開ける。殿下と陛下が車を降りる。
「お前とここに来るのは初めてだな」
「そう、ですね」
「やっと揃って、兄貴に顔が見せられる」
一面に広がる白い墓石。赤い陽を浴びて、細い影を落としている。
ここには著名な歴史上の人物も多い。『資本論』を執筆した経済学者から、
『犯罪界のナポレオン』と呼ばれた犯罪者まで、一様に眠っている。
生前どのように生きていても、いずれ皆、土に還る。
それだけが全ての人類へ平等に与えられた罰であり、救いなのだろう。
先導車、後続車に乗っていた護衛四人がこちらに来る。
そのうち一人が恭しく、私に花束を渡してくれた。
陛下と殿下の前方に二人、後方に二人の護衛が付く。
彼等が周囲に無言の圧力を掛けているおかげで、近寄ってくる無粋な者は居ない。
ただ、遠くの方で「ロレートの王様と王子様じゃない?」という声は聞こえていた。
陛下が歩き出す。その後方に殿下が続いた。
私は花束を持って、殿下の少し後ろを歩いた。
陛下は護衛が何人居ても気にならないご様子だが、
まだ慣れていない殿下は少し恐縮していらっしゃるようで、彼等をちらちら見ていた。
私は殿下にお声を掛けた。
「すみません、殿下。外出時は護衛を付けるのが原則なものですから。
彼等はお二人の邪魔は致しませんので、お気になさらず」
「あ、はい。解りました」
私一人でお守りできれば良いのだが、陛下と殿下がお揃いでのお出掛けだ。
用心に越したことはない。特に殿下は。

この墓地は歴史が古い故に、崩れ落ちた廟や、首のない天使像などもある。
夜中、ここを歩くには相応の覚悟が必要だろうが、
昼間は、緑豊かな森林を歩いているようなものだ。
鳥の鳴き声が楽しめるだろうし、キツネが我が物顔で散歩している。
殿下はキツネの姿を愛でながら歩いていた。馬に限らず他の動物もお好きらしい。
黄金色の小さな獣は、殿下の視線に気付いた。
ぞろぞろと歩く私達を珍しそうに眺めると、跳ねながら寄ってきた。
このような場所を住み家としていれば流石に人には慣れたものだろうが、
それにしても警戒心の薄い獣だ。キツネは殿下から1mほどの所まで来ると、
我々を真似するかのように、小さな足で付いてきた。
丸い黒目は、殿下を見上げながら、ひょこひょこと歩いている。
乗馬の時といい、この次期国王は動物を惹き付ける才能をお持ちなのだろうか。

お二人の歩みがひとつの石の前で止まった。
臣下は主の後方に控える。付いてきたキツネも止まった。
私は歩み出て、花束を陛下にお渡しする。
陛下が墓前に供えた。
「兄貴、クリスティーナ」
枝葉の影が墓石の隅に重なっていた。
「ジョシュアを次期国王に指名した。見守っていて欲しい」

私はお二人の背を見ながら、過去の残像を思い出していた。
13年前、ブラウン管を通して見た映像。
まだ5歳のジョシュア様は、父上の葬儀で、こう仰っていた。
「ねえ、ママ。パパ、どうして、箱の中でお休みしてるの?」
その時、お側に居て抱き締めて下さった母上も、
3年後には同じ場所で眠ることとなった。
ご両親を失ってから10年、殿下は再びこの場所に立っておられる。
今度は何も知らない子どもではない。
父上を失った理由も全て知った次期国王だ。

殿下は黙ったまま墓石を見つめていたが、足許に視線を落とした。
「どうした、ジョシュア」
陛下がお尋ねになると、殿下は小さな声で仰った。
「父は、俺を許してくれるでしょうか?」
「許す?」
「父は、自分と子孫の王位継承権を放棄したのに、俺はその意に反してしまったから」
座ったキツネが殿下のお顔を覗いている。
「ジョシュアの思う通りにやってごらん」
甥は顔を上げ、隣を見上げる。
「兄貴なら――お前の父なら、こう言うだろう」
殿下は俯いて、また口を閉ざした。
「ん? 違ったか?」
「似ていますね、声。本当に。貴方が隣に居ると解っているのに、
一瞬、父の声が聞こえたのかと思ってしまいました」
陛下はふっと笑う。
「似ているのは声だけさ。だが」
私は陛下の背を見ていた。
「俺のことは二番目の父ができたと思ってくれて構わない。俺は良い息子ができたと思ってる」
墓石に映った葉の影が揺れている。
殿下は、ありがとうございます、と呟いた。


→7
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]