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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
エドワード様の元へ伺った夜。
陛下の寝室から辞そうとすると、短く名を呼ばれた。
「子守唄にピアノを弾いていけ」
ご自分では弾けないのに、寝室にこのグランドピアノを置いている。
陛下は時折こうして、私にピアノを弾かせることがあった。
そのような夜は、陛下のお心がお疲れの時が多かった。
先日ふらりとやってきた、流しのピアニストの顔がちらりと浮かぶ。
「あのご学友が、今宵いらしたら良かったですね」
「ん?」
「私の拙い腕では、陛下のお慰みにならないのではと」
私は亡き義母に少し教わったことがあるだけで、あのピアニストには到底敵わない。
「プロの腕前を披露しろとは言っていないだろう?
俺はお前のピアノが聞きたいと言っているんだ」
陛下がピアノを欲するのは、どなたのせいなのだろう。ご学友か、やはり兄君だろうか。
「畏まりました」

陛下はベッドに入り、目を閉じられた。本当に眠る体勢だ。
私は軍服のまま、グランドピアノの前に座る。
決して多くはないレパートリーの中から、なるべく緩やかな曲を探す。
オーストリアの作曲家が作った子守唄を選んだ。

黒と白の板に触れながら、私はとりとめもないことを考えていた。
墓地で交わされた、陛下と殿下の言葉。
お二人にとって大切な、故人のこと。
陛下の側近だからかもしれない。
私はエドワード様のことを良くは思っていなかった。

陛下は過度に責任を感じている。ご自分のせいで兄君を失くしたと。
だが、カーディス様のどこに非があったと言うのだ。
突然、王位を授けられ、素行が荒れた若き王。
その為、国内がエドワード派、カーディス派に分裂。
カーディス派の人間にエドワード様が暗殺された。

私には、陛下に落ち度があったとは思えない。
陛下の素行が荒れたからと言って、エドワード様を殺していい理由などになるものか。

そんな凶行を企てる者なら、例え、カーディス様が誠実に王位を継ごうとしても、
エドワード様を再び担ぎ出そうとした動きが起こった可能性だってある。
そうなれば、やはりエドワード様は殺されただろう。

そもそも、カーディス様の素行が荒れた原因は、エドワード様の勝手な駆け落ちだ。
エドワード様が、幼少期から品行方正で誰にも優しい王子だったのは知っている。
全てを捨ててまで、一人の女性を愛した王子。
『王位を賭けた恋』などという美談に仕上げられているが、彼が行ったことは、
自己に課せられた王位という義務を、
弟君に――カーディス様に押し付けただけではないのか。

エドワード様を惑わせ、ロレートから攫った女。
それが闇の家系と呼ばれるグラント家。
前国王、あのお優しいお父上がご結婚に反対されたのも無理はない。
エドワード王子がクリスティーナ嬢と結ばれる前、まことしやかに囁かれた噂もある。
「グラントが次に飲み込む国は、ロレート公国か」と。
その噂も、エドワード様が王位継承権を放棄したことで勢いを失い、
クリスティーナ様の客死で完全に絶えたかのように思えた。

しかし、今になって、それは再び浮上するのではないだろうか。
ジョシュア様の身体にも流れているのだ。グラントの、闇の血が。
グラントの者が次期国王になれば、我が国は本当に――

鍵盤から手が離れる。ピアノの演奏を不自然に中断してしまった。
すみません、と言って振り返る。陛下の目は閉じたままだった。
静かに席を立って、お側まで行く。以前は、お戯れに眠ったフリをされたこともある。
あの時は、突然、腕を引かれて驚かされたものだが、今宵はどうだろうか。
ゆっくりと繰り返される息。本当に夢の中にいらっしゃるようだ。
お疲れだったのだろう。そっと毛布を掛け直す。
「おやすみなさいませ、陛下」

寝室を出ると、人に出くわした。
こちらを見て瞬いたのは、色素が欠乏した、紅の瞳だった。


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