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Marginal Prince Short Story
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■アンリ×シルヴァン
■ダークアンリ
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「アンリ…今、何て?」

シルヴァンの部屋に、アンリは突然訪れた。
最初は、他愛も無い話を振って来るだけだったので、
シルヴァンは不思議に思いつつも話を聞いていた。

それは唐突に。
何の脈絡も無く。
他の話題と同じように「そう言えばね」とさらりと言ってのけたので、
シルヴァンは思わず聞き返した。

「聞いていなかったのかい、シルヴァン?」

アンリは微笑み、大袈裟に嘆息する。

「だからね? 子供に一番好きな玩具を見せて貰うと、大抵ボロボロなんだって。
常に使っていれば、傷が付いたり、擦り切れたりするのは仕方ないよね。
要するに、使用頻度の問題だから。
まあ、傷の数が『好き』の証、と言えなくも無いね」

「違います、その次の話です!」

アンリは美しい笑みを見せる。

「『君の秘密が解った』と言ったんだよ、シルヴァン」

「話が違うじゃないですか! もう詮索はしないと約束してくれた筈です!」

「僕は、詮索などしていないよ? 勝手に耳に入って来るだけだ」

「証拠が無い、というわけですか。
…脅しても無駄ですよ、アンリ。君が知り得る筈がありません」

「舐められたものだね。僕は、目的の為には手段を選ばない人間だよ?」

「アンリ…」

「僕が何を知ったか、聞きたい?」

「…はい」

「では、おいで? シルヴァン」

アンリが、シルヴァンの長い横髪を耳に掻ける。
冷たい指で耳に触れると、彼の眉間が少し歪んだ。

露わになったエメラルドのピアス。

ピアスに噛み付くように、
魔法の呪文を唱える。

これで君は、僕のものになる。


「どう? シルヴァン、正解?」

「何のことです…」

否定する口とは裏腹に、
白く美しい顔は青ざめている。

「素直じゃないね、シルヴァン。良いよ、そういうのも嫌いじゃない」

「えっ…」

「不正解なら、誰に言っても構わないよね?」

「アンリ…」

「良いのかな? シルヴァン」

「止めて…下さい」

「おや?」

「在り得ません…どうして、君が…」

「正解のようだね」

「…それで、君は僕にどうしろと?」

「僕のお願いを聞いて欲しいんだ」

「…取引、ということですか?」

「そうなるかな」

「何がお望みですか?」

アンリが、シルヴァンの胸の中に飛び込む。
思いも寄らない行動に、シルヴァンは目を見開く。

「アン、リ…?」

「…ずっと、僕の傍に居て」

「えっ…」

「僕の傍から離れないで」

「それが…君の望みなのですか?」

シルヴァンの背中に回された腕から、
頼り無く力が抜けていく。

「…人を繋ぎとめる方法を、僕はこれしか知らないから。
弱みを握っていれば、人は僕の言うことを聞いてくれる」

思想が歪んでいる、いや…歪められたのだろう、とシルヴァンは思った。

『悪魔の子』と呼ばれ続けた人間は、
こうも狂気的になってしまうものなのか。

生まれた時は天使だったのに、これでは堕天使だ。
彼を変えたのは一体誰だ。

胸の中で俯いている彼が、捨てられた仔猫のように見えた。
以前、彼が「自分を可愛いと言ってくれる者は居ない」と言い放ったことがある。

アンリは、本当の意味で、捨てられたのかもしれない。

愛されることも、愛することも知らずに生きてきたのなら、
彼の相手を突き放す言動にも納得が行く。

シルヴァンは、アンリの頭を包むように優しく抱き寄せた。

「アンリ。誰かに傍に居て欲しい時に、
弱みを握ったり、脅す必要は無いんですよ?」


「…どうすれば、良いの?」

「ただ、伝えるだけで良いんです。一緒に居たいと」

「…本当に? それだけで良いの?」

「ええ。僕で試してみて下さい?」

「シルヴァン…」

「はい」

「僕と…ずっと友人で居てくれる?」

「はい。喜んで」

「嬉しい」

アンリは天使の微笑を浮かべて、こう言った。

「これで君は、僕の玩具だね?」

「えっ…?」

「ねえ、シルヴァン? まずは何をして遊ぼうか?」

「…ずっと友人で居たい、と言ったのは嘘ですか?」

「いいや。君を手放すつもりは無いよ。ずっと君が欲しかったのだから」

アンリが猫のように、纏わり付いてくる。
金色の瞳。
白い細腕が無遠慮に背中と首に回される。

「…楽しませて、くれるよね?」


背中に爪が立てられた。
古傷に刺さっている。

燃えるように、熱い。


「アンリ、止めて、下さい…」

「さっきも言ったけれどね、シルヴァン?」

「ア…ンリッ…」

「一番好きな玩具は、傷だらけになってしまうものなんだよ?」

「止めっ…」

更に爪を立てて囁く。

「…愛してる」


fin
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