忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ソクーロフ アイヴィー デッドプリンス
聖アルフォンソ学院 保健室。
カウンセラー兼保健医は、テレビを見つめていた。
明るいBGMと共にコーナータイトルのテロップが映る。

「『ハルヤの食いしん坊万歳』。今日はライブハウス『バッカーノ』さんに来てみました」

画面の中でマイクを持っている――というより、持たされている感がある――眼鏡の男子高校生は、この学院の生徒だった。
去年から放送しているテレビ番組『週刊! 聖アルフォンソニュース』。
発案者のアルフレッドを始め、制作、出演の全てを学院生が務める貴重な番組で、島民には大変人気がある。
ただ、この学院の特性上、番組は島の外の世界に流すことは出来ない。
生徒の多くが、この島に居ることを知られたくない<訳あり>である為、
この番組は島内限定のローカル放送であり、
加えて、高セキュリティのコピーガードを施している。
録画・複製不可、この島でしか見ることが出来ない、プレミア番組だ。
その番組内に、最近、新しいコーナーが誕生した。
聖アルフォンソ島の美味しい物を紹介する『ハルヤの食いしん坊万歳』という、およそ5分のグルメコーナーだ。
カウンセラーはテレビを見ながら、時々ニヤリと笑みを零している。
この回、眼鏡の食いしん坊は、ライブハウスの前でレポートしていた。

「えっと、実は俺達、バンドを組んでて…あ、俺達っていうのは、
この番組のプロデューサーでメインキャスターのアルフレッドと、
今、カメラを持ってくれてるシルヴァンと俺、の三人です。
…え。バンド名も言うの? やだ…言いたくないよ…あの…デッドプリンスです…。
それで、えっと、このライブハウスにもお世話になってます。
本番前に、ここでよく食べさせて貰ってるのが、こちら」

グルメレポーターの前には、三段重ねのサンドイッチ。クラブハウスサンドのようだ。
トーストからはみ出すほどのローストチキン。
かなりボリュームのあるサンドイッチをレポーターはペロリと平らげる。
日頃から食べることが大好きな彼は、とても美味しそうに食べた。
それは彼のごく自然な表情であり、実際、演技などではないのだろう。
わざとらしい絶賛コメントを言う芸能人より、美味しさが伝わってくるくらいだ。
彼の番組進行は、お世辞にも上手いとは言えない。はっきり言ってしまえば、ぐだぐだ、ゆるゆるだ。
段取りを忘れたり間違えたりは、しょっちゅうで、
カメラマンに助け舟を出される遣り取りや、
明らかにカンニングペーパーを読んでいる様子も、ありのまま放送されている。
おそらく殆ど編集もせず、素のままを見せているのだろう。
そのたどたどしさ。
不慣れなレポーターを周りのスタッフがあれこれフォローしている様子が、視聴者には微笑ましく映ってならないのだ。
番組スタッフの仲の良さが画面から滲み出ていて、
自然と見るものを和ませる番組になっている。
しかし、全てが無計算に行われているわけではない、とカウンセラーは分析していた。
レポーターにシャイなハルヤ・コバヤシを抜擢し、
カメラマンにはレポーターと親しい友人を据えたセンス。
カウンセラーは、番組プロデューサーの手腕を感じていた。
テレビの中のレポーターは、一点に視線を集中させて話す。

「えっと、今度のサタデーナイト、夜の8時からこの『バッカーノ』さんで、俺達もライブをします。
良かったら来て下さい。待ってます…って、すみません、宣伝でした。
あ、そう言えば、この『バッカーノ』って、どういう意味なのかな?
…え? …へえ。イタリア語で『お祭り騒ぎ』かあ。シルヴァンって一家に一台あると便利だね。
…あ…いや、そういう意味じゃなくて…。もう…あの、では、また来週…」

頬を染めたレポーターが控えめに手を振る。
満足げなカウンセラーは、机に広げた三人分のカルテに、何かのメモを綴り始めた。
コンコンコン、小気味良いノックの音。
どうぞ、と言う前にドアが勝手に開いた。

「ちわー。ソクちゃーん、お昼寝させてー」

長い金髪の男。いつものようにルーズに締めたネクタイ。
そのだらしなさは、彼自身も隙のある人間、お気楽なキャラクタであるかのように錯覚させる効果が見受けられた。
この金髪は、表向きは学院専属のタクシードライバー。同時にこの島の警備責任者でもある。
昼の顔、夜の顔を持つ為、睡眠時間がきちんと確保できないことも多い。
空いた時間に、度々こうして保健室のベッドを借りに来る。
その辺の事情を知っている保健医は、金髪がベッドに寝そべる様子を見ても、黙ってそれを許していた。
金髪はゴロンと横になり、テレビが付いているのに気付いた。

「ん? ソクちゃん、テレビ見てたの?」
「ああ。『ハルヤの食いしん坊万歳』をな」
「あっ、あいつらが新コーナー作りたいって騒いでたヤツ、もう実現したんだ?」
「お前、まだ見ていないのか? 遅れているな。今や大人気コーナーだぞ」
「しょーがないじゃんよ。俺、その時間、大抵、外に居んだから」

少し前のことだ。デッドプリンスがアイヴィーの家に遊びに来た。
家主にカルボナーラを作らせている間に、三人は何か打ち合わせをしていた。

「衣装はエプロンにしましょうよ! ピンクの!」
「おっ! イイねー。そいつは数字が稼げるカモ」
「や、やだ。エプロンで街ん中、歩くのは恥ずかしいよ」
「エプロンハルヤがいいですー。ピンクじゃなくて白でも良いですからー」
「エプロンならやんないよ、俺」
「そ、そんなー!」
アルフレッドが腕を組む。
「ハルヤが出てくれないのは困る。このコーナーはお前じゃなきゃダメだ」
「じゃあ、エプロンはなしってことで」
「…では、せめてマイクを持ってくれませんか!」
「まあ、マイクくらいならいっかな」
アイヴィーがテーブルに大皿を置く。
「なんだ? 仮装行列の打ち合わせか?」
「違いますよー。僕達、ハルヤの新コーナーを計画中なんです!」

放送前から三人に話は聞いていたものの、アイヴィーは実際の放送を見たことがなかった。
つい先日も遊びに来たアルフレッドはミートソース色の唇を尖らせていた。
「なんだよ、アイヴィー。ハルヤの新コーナー、まだ見てねえの?
俺様プロデュースの超人気コーナーなんだぜ?」
「悪ぃな。『週刊! 聖アルフォンソニュース』の時間はオシゴトしてるもんだから」
番組は、生徒達もランチタイムに見られるようにお昼時に放送していた。
その時間は、タクシーのハンドルを握っていたり、
警備の雑事に追われているアイヴィーは、なかなか番組を見る機会がなかった。
「見れないなら、録画しときゃイイじゃん」
「できたら、とっくにやってるよ。
お前さんらがガッツリ出演してる番組だから、録画プロテクトかかってんだろーが」
「ああ、そーいや、そっか」
「アイヴィーに見て貰えないなんてザンネンです」

カウンセラーは棚からビデオテープを取り出す。
「見たいなら見ていくか?」
「ソクちゃん、録画してあんの? 見たい見たいー」
「では、選りすぐりの『ハルヤ・コレクション』を見せてやろう」
「あれ? ちょい待ち」
「なんだ?」
「この番組、録画プロテクトかけてんじゃなかった?」
「ああ。このビデオテープはテレビを撮影したものだ」
「…んな身も蓋もないウラ技使ってんじゃねえよ!
どうせやるなら『解除ソフトを使いました』とかカッコイイこと言えよ!」
「これが最強の方法だろう。どんな高性能なプロテクトを使用しようとも形無しだからな」
「いや、そうですけども」
「このビデオテープは、ハルヤ達のカウンセリングデータとして必要なものだ」
「あんたに舐めるように見られてると知ったら、男の子だって泣くぞ!
てゆうか、今時8ミリビデオで撮影したんかい!」
「他に方法がないからな」
「デジカメはないのか、デジカメは!
てか、あんたの周りアナログ商品多過ぎだから。
iPodの時代にカセットテープ愛用してるし」
「アナログを馬鹿にするのか。デジタルと違ってデータ消滅することはない」
「でも、ビロンビロンになるでしょうが、テープは」
アイヴィーは警備責任者という立場上、8ミリテープを取り上げた。
「これは没収ですよ、スタニスラフ君。センセイが預かっておきます」
カウンセラーは動じる様子もなく、冗談に乗る。
「職員室まで行けば返して貰えるのか?」
「ダメに決まってんでしょ」
「反省文を書いても?」
「ダーメ!」
「融通の利かないセンセイだ」
「…生徒代表に報告しないだけでもカンシャしてよ」

追憶の塔。ここには警備組織の司令本部がある。
司令官であるアイヴィーが、コソコソと中へ入っていく。
顔馴染みの隊員が挙動不審な司令官に声を掛ける。
「司令…コソドロですか、貴方は」
司令官の肩が跳ねる。
「わっ! び、ビックリしたー」
「どうされたんですか、キョロキョロして」
「え? い、いやー、何でもないよ? 俺、ちょっと『映画館』に居るわ。
ダイジな資料見なきゃだから、暫く誰も入ってこないようにオネガイね?」
「了解しました」

司令官が勝手に『映画館』と呼んでいるのは、この塔内にある視聴覚室だ。
レトロな映写機を始め、OHP、最新の液晶プロジェクターまで揃っている。
犯罪者に関する資料映像や島の要所要所に設置されている防犯用カメラなどのチェックもできる。
いずれも、警備組織の人間にしか見せられないような極秘のフィルムだ。
司令官は持ってきた8ミリのビデオテープをセットする。
保健医から没収した違法録画テープだ。司令官は誰にともなく言い訳する。
「…テ、テープを処分する前に、ちょこっと見るだけだもん。
あいつらにも新コーナーを見ろって言われたし…」
再生ボタンを押す。違法映像が大きなスクリーンに映し出される、ハズだった。
「なっ…」
司令官は唖然と見つめる。スクリーンいっぱいに広がったのは。
「さあー、めーを、とーじてー」
煌めくミラーボール。輝く保健医。
ソクーロフが延々と熱唱しているビデオだった。
「これ『ソクーロフ・コレクション』じゃねえかよっ!」


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]