×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■ロレートシナリオ
「殿下…何故、こちらに…」
陛下の寝室の前に居たのはジョシュア様だった。
「すみません。今夜はなんだか眠れなくて、少しお邸の中を歩いていたんです。
そしたら、ピアノの音が聞こえた気がして…」
「それはお耳汚しを。失礼致しました」
「弾いていたの、レイナ卿だったんですか?」
「はい。陛下がご所望になったので弾いていました」
「すごく優しい音でした。俺にも聞かせてくれませんか?」
「申し訳ありません。ピアノは陛下の寝室にしかなく、陛下も、もうお休みになられたので」
「カーディスの、寝室、だったんですか、ここ」
「え? ええ」
「カーディスの部屋にピアノがあるとは思いませんでした…彼もピアノを弾くんですか?」
「いいえ。陛下はお弾きになりません。あのピアノは兄上の…殿下の父上がご愛用されていたものです」
「父のピアノ、ですか」
「ジョシュア様がお生まれになる以前の話になります。
カーディス様がお小さい時に、エドワード様が弾いていらした、と伺っております」
「そうだったんですか。俺も弾いてみたいな」
「殿下もお弾きになるのですか? ピアノを」
「はい。父ほど上手くはないですけど」
お父上のお話をされた殿下は、少し寂しげだった。
過去を思い出したのかもしれない。
幼い殿下の前でエドワード様がピアノを弾いていた光景を。
絵に描いたように幸福だった頃を。
私の顔を見て、陛下は笑顔で取り繕った。
「あ、すみません。俺、立ち話なんかして。レイナ卿、もうお休みの時間ですよね?」
気遣い。どうしてこの御方は誰にでもお優しいのだろう。
下々の者にも悪態のひとつ吐かない。
お言葉遣いが粗野な陛下と長く居るせいか、殿下は丁寧過ぎるように感じる。
こちらが恐縮してしまうくらいだ。
先刻ちらりとでも殿下に対して懐疑的になった自分を恥じた。
半分は闇の血が流れていても、半分はカーディス様と同じ、ロレートの血なのだ。
第一、カーディス様が選んだ御方に間違いがある筈ない。
「眠れないと仰いましたね、殿下。よろしければ、よく眠れる物をご用意致しましょう」
「何ですか?」
「陛下も時々飲まれるんですよ。『大人のホットミルク』だと仰って」
「えっ?」
「ラム酒を少し入れるのがお好きなんです」
殿下の寝室にお飲み物をお持ちした。
香り付けに、ほんの少しだけラムを垂らしたホットミルク。
殿下は興味深げに白い水面をご覧になった。
「あ、甘い香りですね。これがラムの香り…」
初々しいご感想だ。殿下がカップに口付ける。
お飲みになると、赤い舌先が濡れた唇をぺろりと舐めた。
「ほっとする味ですね。聖アルフォンソ島にもホットミルクがあるんです。
『青い月』という名前で。中等部の頃、時々飲んでいました。
眠る前に飲むと、気分が落ち着いたから。
このミルクは『青い月』より大人の味ですね。美味しいです」
「お気に召しましたか。良かったです」
間が空く。私は一歩下がって、礼をした。
「では私はこれで」
「あっ、レイナ卿」
殿下は私を呼び止めた。
「俺、レイナ卿に聞きたいことがあって…」
「何でしょう?」
紅の瞳はホットミルクを見つめている。
「俺、ロレートのこと、まだ殆ど知らないから、
国内を見て回りたいなと思ってて…でも、今では難しいでしょうか?」
→難しいですね
→解りました
「殿下…何故、こちらに…」
陛下の寝室の前に居たのはジョシュア様だった。
「すみません。今夜はなんだか眠れなくて、少しお邸の中を歩いていたんです。
そしたら、ピアノの音が聞こえた気がして…」
「それはお耳汚しを。失礼致しました」
「弾いていたの、レイナ卿だったんですか?」
「はい。陛下がご所望になったので弾いていました」
「すごく優しい音でした。俺にも聞かせてくれませんか?」
「申し訳ありません。ピアノは陛下の寝室にしかなく、陛下も、もうお休みになられたので」
「カーディスの、寝室、だったんですか、ここ」
「え? ええ」
「カーディスの部屋にピアノがあるとは思いませんでした…彼もピアノを弾くんですか?」
「いいえ。陛下はお弾きになりません。あのピアノは兄上の…殿下の父上がご愛用されていたものです」
「父のピアノ、ですか」
「ジョシュア様がお生まれになる以前の話になります。
カーディス様がお小さい時に、エドワード様が弾いていらした、と伺っております」
「そうだったんですか。俺も弾いてみたいな」
「殿下もお弾きになるのですか? ピアノを」
「はい。父ほど上手くはないですけど」
お父上のお話をされた殿下は、少し寂しげだった。
過去を思い出したのかもしれない。
幼い殿下の前でエドワード様がピアノを弾いていた光景を。
絵に描いたように幸福だった頃を。
私の顔を見て、陛下は笑顔で取り繕った。
「あ、すみません。俺、立ち話なんかして。レイナ卿、もうお休みの時間ですよね?」
気遣い。どうしてこの御方は誰にでもお優しいのだろう。
下々の者にも悪態のひとつ吐かない。
お言葉遣いが粗野な陛下と長く居るせいか、殿下は丁寧過ぎるように感じる。
こちらが恐縮してしまうくらいだ。
先刻ちらりとでも殿下に対して懐疑的になった自分を恥じた。
半分は闇の血が流れていても、半分はカーディス様と同じ、ロレートの血なのだ。
第一、カーディス様が選んだ御方に間違いがある筈ない。
「眠れないと仰いましたね、殿下。よろしければ、よく眠れる物をご用意致しましょう」
「何ですか?」
「陛下も時々飲まれるんですよ。『大人のホットミルク』だと仰って」
「えっ?」
「ラム酒を少し入れるのがお好きなんです」
殿下の寝室にお飲み物をお持ちした。
香り付けに、ほんの少しだけラムを垂らしたホットミルク。
殿下は興味深げに白い水面をご覧になった。
「あ、甘い香りですね。これがラムの香り…」
初々しいご感想だ。殿下がカップに口付ける。
お飲みになると、赤い舌先が濡れた唇をぺろりと舐めた。
「ほっとする味ですね。聖アルフォンソ島にもホットミルクがあるんです。
『青い月』という名前で。中等部の頃、時々飲んでいました。
眠る前に飲むと、気分が落ち着いたから。
このミルクは『青い月』より大人の味ですね。美味しいです」
「お気に召しましたか。良かったです」
間が空く。私は一歩下がって、礼をした。
「では私はこれで」
「あっ、レイナ卿」
殿下は私を呼び止めた。
「俺、レイナ卿に聞きたいことがあって…」
「何でしょう?」
紅の瞳はホットミルクを見つめている。
「俺、ロレートのこと、まだ殆ど知らないから、
国内を見て回りたいなと思ってて…でも、今では難しいでしょうか?」
→難しいですね
→解りました
PR