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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
「ん。キレイになった。じゃ、うち、帰ろ?」

アイヴィー様の車。私は助手席に乗せて頂いた。
海沿いの道路は、私達の他は車も人も走っていない。
窓からは暗い海が見える。寂しい夜道だ。司令官はいつもこのような道を一人で走っているのだろう。
「あ、ラルちゃん。眠たい? 夜だもんね」
「いえ、動いたおかげで目が冴えています。アイヴィー様、大事なお話、というのは?」
「ああ、あのね。ロレートのこと、ちょっと聞きたいなーと思って。
前さ、ロレート国内の動きがどうも妙だったんだよね。
そん時は、王様の後継者問題が原因かなって俺達は思ってた。
で、ジョシュアが次の王様に決まってからは、動きが落ち着いてたから、
諦めも付いたのかなーって思ってたんだけど。最近、ちょっとまた妙な気がしてね」
「妙、というのは?」
「うーん。なんか企んでる奴が居そうっていうか。誰なのかはまだ解んないんだ。ゴメン。
そんで、ラルちゃんに最近のロレートどうかなー? って聞いてみたかったんだ。
ね、ちっちゃいことでもイイんだけど、なんかヘンなこととかなかった?」
軍服の膝は砂で少し汚れていた。
そうだ。この方にはお知らせするべきだった。
「殿下には、ご内密に願えますか?」
「ん。俺、ヒミツのお話、ダーイスキよ?」


ちょっと煙草吸ってイイかなあ、と断ってから司令官は火を点けた。
少し開いている窓を境に、紫煙と夜風が入れ違う。
「ふうん。<新しい王子は、闇の血を引く者>か。そういうのってよくあること?」
「以前は少し。ですが近年ではなくなりました」
「以前、っていうと、カーディス陛下の即位直後かな?
王様のお兄さんがロミジュリしちゃって、周りがゴタゴタしてた頃」
私は頷く。「その時期です」
「そっか。教えてくれてサンキュ。この話、王子様と、王様にもオフレコにしてんの?」
「はい。悪戯、というだけかもしれませんし」
「まあね。けど、<闇の血>ってのがなあ。
ジョシュア個人に恨みでもあんのか、グラント家に根を持ってんのかねえ。
けど、それをランベール館じゃなくて、王様んちに投げ込むのもヘンだしなー」
「そう、ですね」
「この言い方もさ、はっきりしないよねえ。
別に殺害予告ってわけでもないし、ただのグチみたいな? 何も脅迫してないし。
俺もさ、こーゆーオシゴトしてると、時々、本物の予告状とか見たりもすんだけど、
そういうのと違って、何ていうか、こう…迫力っていうか、パワーが足りないっつーか?
いや、あったらあったで困るんだけど…こいつ、何したいんだろ?」
確かに。緊迫感に欠ける文章ではある。
「書いた者が、何をしたいか、というのは考えてみませんでした」
「俺も受け売りなんだけどね。犯罪者が何を望んでるのか考えてみろってさ」
運転手は車内の灰皿にトンと灰を落とす。白っぽい塊が崩れた。
「そういや、ジョシュアの親父さん、公では事故死ってことになってるけど、暗殺されたんだよね?」
「…アイヴィー様…どうして、それを」
「え? ああ、ジョシュアに聞いたんだよ。あいつがその話を聞かされた直後だったのかな。
生徒代表室でぼんやりしてたから、ロレートでなんかあったのかって聞いたら、ね」
「そうでしたか」
「ていうか、この暗殺は、世界中に知らせても良いことだと思うけど」
「私もそう思うのですが」
「王様に口止めされてるワケね。そこまで背負い込まなくてもイイのにってかんじするけど、
王様的には譲れないラインなんだろーな、そこは」
「…ええ」
アイヴィー様の仰る通りだ。陛下はそれほど背負い込まなくても良いのに。
「あれ、ゴメン。しんみりさせちゃったね。
とにかく、ジョシュアの身の周り、気を付けるよ。
俺達もちょっと色々調べてみるね。なんか解ったらまたメールするから」
「ありがとうございます、閣下。我が国の皇太子をよろしくお願い致します」
「りょーかいしましたっ。ダイジョブだよ、ラルちゃん。
島に居る間は、お宅の王子サマも、俺達が責任持ってお守りするからさ?」
「はい」
彼が紫煙を吹く。ゆらりと翻りながら霧散する。
車内のシートからも少し煙草の香りがした。
「ねえ。ラルちゃん」
「はい?」
「もしもー、怪盗さんとかだったら、予告状とか出しときたいタイプ?」
「…怪盗、ですか?」
「うん。天下の大泥棒さんとかなら出すじゃん、予告状。
ほら『今夜0時に、なんとかダイヤを頂きに参上致します』とかって」
「…え?」
「俺は出せないんだよねー、予告状なんて。そんなことしたら警備が厳重になっちゃうでしょ?
つーか、0時とかに警備のお仕事を増やすな! ってかんじ。
どうせ参上するなら、警備の睡眠時間と体内時計とかも、ちょっとは考えて欲しいよ。
ね? ラルちゃんなら、俺の気持ち、解ってくれるでしょ?」
「…ええ。まあ」
警備の人間を思いやれる怪盗ならば、そもそも怪盗にならないと思うが。

ご自宅に着くと、アイヴィー様は、ああ…と落胆された。
テーブルには、出しっぱなしのディナー。
そう言えば、ビールをお注ぎしたところで、呼び出しがかかったのだ。
アイヴィー様は肩を落とす。
「ビールは炭酸抜けまくりー。パスタも伸びまくりー」
有能なる司令官が、しゅん、となった。


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