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■ロレートシナリオ
私は公用車のステアリングを握っていた。
今日はいよいよ、殿下とそのご学友をお迎えに上がる日。
聖アルフォンソ学院 正門が見えてくると、黄色いタクシーが見えた。
金髪の男が一人、こちらに向かって手を振っている。
正門前で車を停める。外に出ると、風に乗って特有の青い香りがした。
この島の象徴とも言える。月桂樹。心が落ち着く香りだ。
金髪の司令官が笑顔でやってきた。
「おはよ、ラルちゃん」
「おはようございます、アイヴィー様」
「そだ。ラルちゃん、唇…」
背の高い彼は少し身を屈めて、じいっと見た。
「ヨカッタ。傷の痕、残ってないね?」
「あ、はい、もう治りましたから」
「王様に怒られなかった?」
「ええ。それから、陛下からご伝言をお預かりしております。『キングズフィンガーは、
ラルと共に美味しく頂いた。ありがとう。次は危険な水死体を頼む』と」
「あははっ。王様、ムチャぶりー」
聖アルフォンソ島の食べ物の名前は本当にユニークだ。
陛下がご所望になった『危険な水死体』はハバネロ入り水餃子のことだというのだから。
「お戯れで仰ったのだと思われますので、お気になさらず。それで――」
「ああ、うん。ジョシュアが来る前に、オシゴトのお話しよっか」
事前にメールを頂いていた。殿下との待ち合わせの前に情報交換しよう、と。
正門前に停まっているタクシーと公用車。
アイヴィー様はタクシーの屋根に腕を置いている。
潜めた声で、互いの情報を提供し合った。
「コッチはジョシュア狙いの人は来てないよ。他は来たけどね、うじゃうじゃ。
皆さんに懺悔して貰ったんだけど、ジョシュアの名は出なかった。ソッチはどう?」
「いいえ。何も。投げ込みから、かなり日も経っていますし。あれで気が済んだのでは…」
アイヴィー様は腕の上に顎を乗せる。今日は少し、眠そうな顔をしていた。
「どうかなあ。まだ安心しちゃダメだと思う」
「何故ですか?」
「あ、いやあ、あんま根拠は無いんだけどさ。
あのお手紙のこと考えるとザワザワして…まだ何も起こってないのが薄気味悪いっつーか。
なんか手がかりが無いか、俺達も結構調べてるんだけど…。今は動いてないのかな」
身体をくるりと翻して、タクシーに背を預ける。
「ラルちゃんの前で、こんなこと言うのは悪いんだけど、
ジョシュアが次期国王に指名されて、ひと揉めもないなんて、やっぱヘンな気がするんだ。
あんなよくできた王子様でも、万人に好かれるとは限らないじゃん? ましてや」
司令官はそこで言葉を切った。
「ゴメン。それを言っちゃあ、俺もアレ書いた奴とおんなじだ」
私は首を横に振る。
「ご忠告、ありがとうございます。身を引き締めて参ります」
「ん。できれば、俺もロレートに付いて行きたいんだけど、
コッチも夜な夜なパーティってかんじでさ。島、空けられないんだ」
「お気持ち、ありがたく頂戴致します。
アイヴィー様は以前、殿下が島に居る間は俺が守ると仰いました。
ロレートにご滞在時は我々にお任せ下さい。殿下の御身は…」
「あのね、ラルちゃん」
ぽんと両肩に手が置かれる。彼はとても優しい声で言った。
「俺、怖いんだ。ラルちゃんは王様や王子様の為だったら何でもしちゃいそうだから。
俺達もう、ただの知り合いじゃないんだよ?」
私はアイヴィー様を見上げていた。彼は微笑んでいるのに、悲痛な表情をしていた。
「俺はイヤだからね? ラルちゃんがケガしたり、勝手に居なくなるのは、イヤだからね」
→13-2
私は公用車のステアリングを握っていた。
今日はいよいよ、殿下とそのご学友をお迎えに上がる日。
聖アルフォンソ学院 正門が見えてくると、黄色いタクシーが見えた。
金髪の男が一人、こちらに向かって手を振っている。
正門前で車を停める。外に出ると、風に乗って特有の青い香りがした。
この島の象徴とも言える。月桂樹。心が落ち着く香りだ。
金髪の司令官が笑顔でやってきた。
「おはよ、ラルちゃん」
「おはようございます、アイヴィー様」
「そだ。ラルちゃん、唇…」
背の高い彼は少し身を屈めて、じいっと見た。
「ヨカッタ。傷の痕、残ってないね?」
「あ、はい、もう治りましたから」
「王様に怒られなかった?」
「ええ。それから、陛下からご伝言をお預かりしております。『キングズフィンガーは、
ラルと共に美味しく頂いた。ありがとう。次は危険な水死体を頼む』と」
「あははっ。王様、ムチャぶりー」
聖アルフォンソ島の食べ物の名前は本当にユニークだ。
陛下がご所望になった『危険な水死体』はハバネロ入り水餃子のことだというのだから。
「お戯れで仰ったのだと思われますので、お気になさらず。それで――」
「ああ、うん。ジョシュアが来る前に、オシゴトのお話しよっか」
事前にメールを頂いていた。殿下との待ち合わせの前に情報交換しよう、と。
正門前に停まっているタクシーと公用車。
アイヴィー様はタクシーの屋根に腕を置いている。
潜めた声で、互いの情報を提供し合った。
「コッチはジョシュア狙いの人は来てないよ。他は来たけどね、うじゃうじゃ。
皆さんに懺悔して貰ったんだけど、ジョシュアの名は出なかった。ソッチはどう?」
「いいえ。何も。投げ込みから、かなり日も経っていますし。あれで気が済んだのでは…」
アイヴィー様は腕の上に顎を乗せる。今日は少し、眠そうな顔をしていた。
「どうかなあ。まだ安心しちゃダメだと思う」
「何故ですか?」
「あ、いやあ、あんま根拠は無いんだけどさ。
あのお手紙のこと考えるとザワザワして…まだ何も起こってないのが薄気味悪いっつーか。
なんか手がかりが無いか、俺達も結構調べてるんだけど…。今は動いてないのかな」
身体をくるりと翻して、タクシーに背を預ける。
「ラルちゃんの前で、こんなこと言うのは悪いんだけど、
ジョシュアが次期国王に指名されて、ひと揉めもないなんて、やっぱヘンな気がするんだ。
あんなよくできた王子様でも、万人に好かれるとは限らないじゃん? ましてや」
司令官はそこで言葉を切った。
「ゴメン。それを言っちゃあ、俺もアレ書いた奴とおんなじだ」
私は首を横に振る。
「ご忠告、ありがとうございます。身を引き締めて参ります」
「ん。できれば、俺もロレートに付いて行きたいんだけど、
コッチも夜な夜なパーティってかんじでさ。島、空けられないんだ」
「お気持ち、ありがたく頂戴致します。
アイヴィー様は以前、殿下が島に居る間は俺が守ると仰いました。
ロレートにご滞在時は我々にお任せ下さい。殿下の御身は…」
「あのね、ラルちゃん」
ぽんと両肩に手が置かれる。彼はとても優しい声で言った。
「俺、怖いんだ。ラルちゃんは王様や王子様の為だったら何でもしちゃいそうだから。
俺達もう、ただの知り合いじゃないんだよ?」
私はアイヴィー様を見上げていた。彼は微笑んでいるのに、悲痛な表情をしていた。
「俺はイヤだからね? ラルちゃんがケガしたり、勝手に居なくなるのは、イヤだからね」
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