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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
13時、ご学友のご要望通り、『ラトナピュラ』という紅茶専門店に殿下をお連れした。
ロレートでも有名な老舗だが、国民でないサン・ジェルマン様が、よくこのお店をご存知だったものだ。
ご学友は既に到着されていて店内にずらりと並ぶ紅茶のリーフを吟味されていた。
「アン…マーリン、お待たせ」
殿下がご学友の肩に手を置く。ご学友は殿下を見上げて、冷ややかに呟く。
「また、そんな格好させ…」
殿下が手で唇を覆う。今日も殿下には変装して頂いたのだ。
ご学友にはお気に召さないらしい。殿下の手を静かに避ける。
殿下とご学友が肩を並べていると、いつのまにか女性客の注目を浴びていた。
今日も共に護衛を務めているホワイトが、彼女達を見て怪訝な顔をする。
「見て、あの子達」「かわいい」という囁き声が聞こえる。
私は、殿下ご本人だと気付かれないか心配したが、
どうやらお二人の美貌がご婦人方の視線を集めているようだった。
ご学友は視線を完全に無視している。
殿下は周囲の視線に気付かないフリをしていらっしゃるようだが、
少し居た堪れないご様子で、ご友人の後に付いて行っている。
「マーリン、お土産用のリーフを選んでるんだよね?」
「自分用にね」
「じゃあ俺、バトラーへのお土産を選ぼうかな。彼も紅茶は好きだし」
ご学友はリーフの缶を手にしながら、
「勝手にすれば?」
「あ、博士やアイヴィーにも選ぼうかな。いつもお世話になっているし」
「サディストなんかには必要なっ…」
ご学友が何もない所で躓いた。よろけそうなったところを、殿下が腕を伸ばして、身体を支えた。
「平気かい? 寝不足だからかな、ちょっとふらふらしているよ?」
「…平気だから、離して」
その後、ご学友は「これと、これと、これと、これを100gずつ」とリーフを指を差し、
自分用にしては大量のリーフをお求めになった。

紅茶専門店の次は、近くのロープウェイまで車で移動した。
四人乗りとのことだったので、殿下とご学友、私とホワイトがひとつの箱に乗ることになった。
ロープウェイに乗ったご学友は、クールな表情ながらも楽しまれているようで、
外の景色を興味深くご覧になっていた。本当に高い所がお好きなようだ。
そのご様子を見て、殿下は声に出さずに微笑んでおられた。
十五分ほどの空中遊覧から地上に戻ってくると、電子音が鳴った。私の携帯ではない。
ポケットから携帯電話を取り出したのは、ご学友だった。
サブディスプレイ見て「会社からだ」と呟く。
「あ、商談の結果?」と殿下。
「だろうね。すぐに済むと思うから、この辺で待っていてくれる?」
「うん。解った」
そう言えば、近日中にまとまりそうな商談があるので、その一報が入る予定だと仰っていた。
ご学友は電話を耳に当てると、英語ではない言語で話し始めた。
電話をしながら、売店の影まで行ってしまい、姿が見えなくなった。
ホワイトは「殿下、あちらのベンチでお待ちになりますか?」と声を掛けていた。
彼も殿下の前では優しい微笑みが見せられるらしい。

ロープウェイ乗り場の周りは、一本の木を囲んだ広場。ひなびた売店などが軒を連ねている。
殿下にはお座り頂き、私とホワイトはベンチの後方に立った。
一分程そのままでいたのだが、殿下は、あの、と私達を振り返った。
「お二人も座って下さい。俺の隣、空いてますし…その、不自然な気がして…」
確かに、今は殿下としてではなく、私服姿なのだから、
二人もボディーガードのように立っている絵は、自然ではない。
また、殿下のお優しいご好意に背くわけにも行かず、我々は陛下を挟む形でお隣に座った。
これもまた不自然な絵である。
「あの、ラテさんっていうんですか? お名前」
「殿下…どうしてそんなことを…」
「えっと、聞き違いだったのかもしれませんが、この前、エメリーさんが、
貴方のこと、そう呼んでいるのを見掛けて…」
「ああ、そうでしたか。ラテというのは、ニックネームのようなものでして、
私の名前は、ブラウン・ホワイトと申します」
「あっ、それで、ラテさんなんですね? 良いですね、コーヒーの愛称なんて。
もし失礼じゃなければ、俺もラテさんってお呼びしても良いですか?」
「ええ、お好きなようにお呼び下さい、殿下」
「ありがとうございます。俺、コーヒーが好きだから、
貴方のことをお呼びする度に、飲みたくなってしまいそうです」
殿下の笑顔を見て、ホワイトは少し俯いた。
「では、コーヒーをお飲みになりますか? あそこで売っているようですから、私、行って参ります」
殿下はまだ、飲むとも仰っていないのに、ホワイトは立ち上がって売店に向かってしまった。
私はホワイトと長い付き合いだと思っていたが、あのように動揺しているホワイトは初めて見た。

ベンチは殿下と私だけになる。殿下は私にも笑顔を向けた。
「ラテさんって優しい人ですね」
奴が優しいのは、陛下と殿下の前だけだ。
「ホワイトをお褒め頂き、ありがとうございます」
「あれ? ラルヴィスさんは、ラテさんって呼んでないんですか?」
「ええ。私はホワイトと」
「そうですか…」
殿下は、名前については、それ以上ご質問されなかった。
「アンリ、遅いですね。商談が上手くいかなかったのかな」
「そうかもしれませんね」
ホワイトが戻ってくる。紙コップを殿下に渡す。殿下はお礼を仰っていた。
電子音。私の携帯電話が鳴った。エメリーからのようだ。
殿下に、失礼致します、と断ってから、私は少し離れた場所へ行った。
「どうした? エメリー」
「王子サマ、今、どこに居る?」
私はベンチを見やる。現在、アイスコーヒーをお召し上がり中だ。
ホワイトと何かご歓談されている。
「殿下は、こちらにいらっしゃるが」
「そ。じゃあ、イイんだけど」
「どういうことだ」
「うちの王子サマは、よくおモテになるって話」
「何が言いたい? 早く言え」
エメリーが声を低める。
「二通目が見つかった。王子サマへのファンレターだ」


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