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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
***

「やっぱり、お金が目的?」

湿った空気が漂っている。薄暗い空間に、アンリの声が微かに反響する。
部屋の脇に使い物にならないゴミが居座っているだけの倉庫。
アンリは、冷たいコンクリートの上で、うつ伏せに横たわっていた。
手は背中で結ばれ、足もきつく縛られていた。携帯電話はポケットにあるのに使えない。
今の自分には、相手を睨み付けることしかできなかった。

「知らないなら教えてあげる。僕には身代金を用意してくれるような家族は居ないよ?」

「存じております。お父上は先日、他界されたのでしたね。残念でした」

男は廃材のコンクリートの上に腰掛け、悠長に煙草を吹かしている。品のない香りだ。
つばの広い帽子を深く被っていて、顔がよく見えない。

「君にとっては残念だったろうね。父なら僕の首と引き換えに、たっぷりご褒美をくれただろうから」

「ご心配には及びません。私共はお金を目的としておりません」

「じゃあ、僕を殺すのかな? にしては悠長だけれど」

会社からの連絡は予定通り、商談成立を確認するものだった。
電話が終わった時、背後で人の気配を感じた。その後は、手垢の付いた術。
口と鼻を少し冷たい布で押さえられ、気が付けば、ここに転がされていた。
自分でもがっかりするほど、あっけなく捕われたものだ。
せっかく商談が上手くいったのに、喜びを噛み締める時間も有りはしない。

「ご安心下さい、ご当主様。貴方を殺すつもりは、まだありません」

囚われの身は冷笑する。

「じゃあ君、何が目的なの? 縛り上げた人を眺めるのが好きな人? 最悪だね」

「その趣味は否定できませんね。私はただの愉快犯なのかもしれません。
この悲劇では、貴方は攫われたお姫様役になって頂きます。
どうせなら、ドレス姿にした後、縛れば良かったですね?」

頭痛がする。さっき吸わされた薬のせいだけではないだろう。

「僕にこんな真似をして…誰に何を要求するつもりなの」

「誰か、お分かりになりませんか? もちろん、貴方を取り戻したい人ですよ」

アンリは可笑しそうに嗤った。

「居ないよ。この世に、そんな人間は。もう一人も、いいや、僕には最初から一人も居ない」

「ご謙遜を。いらっしゃいますよ。昨日だって、
仲良く見つめ合ってらしたじゃないですか。私とぶつかってしまう程に」

男は足を組み替え、右手で頬杖を突く。

「お友達、なんでしょう? 貴方は、闇の血を引く王子様と」

***


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