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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
ロープウェイ下の広場。
ベンチには殿下と私。ホワイトは立ち尽くしている。
殿下のご友人を行方不明にしてしまうなんて。
あっ、と殿下が声を上げる。
「アンリの携帯に電話してみましょう」
その手があった。二通目のことで、冷静さを失っているのか。情けない。
「でも、アンリがまだ電話中だったら、繋がらないのかな」
「大丈夫ですよ。通話中でも、電話が入ったことはご友人には伝わりますし、
ご友人がこちらに繋いで下されば、割り込んで通話することも可能です」
先日、登録したばかりの電話番号を選んで、殿下に携帯をお渡しする。
殿下が私の携帯電話を耳に当てる。十数秒がやけに長く感じられた。
殿下は耳から携帯を外して、私に差し出す。
「出ません。呼び出し音は鳴ってるんですけど」
「では、後で掛け直して下さるかもしれません」
受け取ったところで、携帯が鳴り出した。
サブディスプレイにはサン・ジェルマン様のお名前が表示された。
どうぞ、と殿下に再び手渡した。
「ジョシュアだよ。今どこに居るんだい?」
「サン・ジェルマン様のお連れ様ですね? 丁度、ご連絡差し上げるところでした」
「えっ?」
「私、ロープウェイ管理棟の者です。先程、こちらのお客様が、
こう、ふらふらと歩いておられるのをお見掛けしましてね?
救護室にて少しお休み頂いていました。軽い貧血のようです。
暫く横になっていれば、回復されるでしょう。そちら様は、今どこにいらっしゃいますか?」
「あ、ロープウェイの下の広場です」
「では、ロープウェイから少し離れたところに、崖があるのが見えますでしょうか?
その近くに赤い屋根の小屋がありますでしょう?」
「えっと、はい。見えます」
「そこが管理棟です。おいで頂けますか?」
「はい。すぐに伺います。どうもありがとうございます」
「いえいえ。では、お待ちしております」

私達は小屋の前まで来た。
赤い屋根はすっかり色褪せ、汚れた朱色。壁板も砂埃に塗れて傷んでいる。
本当にここが管理棟なのだろうか。ホワイトも同じことを思ったようで、私と目が合った。
殿下は小屋を見て「築300年くらいかなあ」と呟かれていた。古い建物に抵抗が全くないらしい。
殿下が自ら扉に手を伸ばそうとされたので、私がドアノブに手を置く。
ギギイと軋みながら、古い扉が開いた。私、殿下、ホワイトの順で中に入っていく。
暗い空間だった。人の気配がするのに、姿が見えない。
以前は管理棟だったのかもしれないが、今では既に使われていない物置小屋といった様相だ。
こんな場所に救護室などという清潔な場所があるわけがない。
「レイナ」とホワイトが固い声を上げる。
ああ、と私は振り返って、殿下の御身を守れるように、肩を抱いた。
いきなりのことに赤い瞳がぱちりと瞬いた。
「…ラル、ヴィスさん?」
「殿下、一度、外に出ましょう」
「でもアンリが」
「ここには居ないかもしれません。早く外に」
部屋の奥から、足音が近付いてきた。
「いらっしゃいますよ」
声のするほうを見た時、扉が閉まる音を背で聞いた。
扉の前には薄笑いを浮かべた男が立っている。
私とホワイトは殿下の前後方に立つ。
奥から近付いてきた男は被っていたハットを取り、胸に当てた。
こちらに向かって、深々と頭を下げた。
「ようこそおいで下さいました、ジョシュア様」
男の顔を殿下はご存知の様子だった。
「あっ、昨日の…」
「おや。私のことを覚えておいででしたか?」
私は瞬時に思い出せなかった。
「殿下、お知り合いですか?」
「えっと、街で俺がぶつかってしまった方です。あの時は、すみませんでした」
「いえいえ。私はラッキーでしたから」
「え? あの、アンリはどこですか? さっき、電話でお話したのは、貴方ですよね?」
「ええ。ご友人でしたら、こちらですよ。どうぞ」
男は、ハットを頭に乗せ、部屋の奥へと歩き出す。
琥珀の瞳に、地べたから見上げられた。
身体を縄で縛られ、口は黒い布のようなもので覆われている。
歩き出そうとする殿下を私は止めた。声を抑えて、同僚に言った。
「ホワイト、殿下とここを出ろ。あいつは私が抑える」
「解った」
殿下が私の腕を掴む。
「ラルヴィスさん!」
男は不敵な笑みを浮かべ、その場にしゃがんだ。
「ああ、皆さん、一歩も動かないようにお願いしますね?」
胸ポケットから出した物を、サン・ジェルマン様の頬に突き付けた。
「ジョシュア様のご友人に傷が付いてしまいますから」
真っ白な頬が冷たい鉄で歪む。銃を見ても、殿下は毅然としたお声で言った。
「アンリを返して下さい」
男は、にこりと微笑んだ。
「よろしいですよ、ジョシュア様と引き換えなら」
ふざけたことを。
「俺と引き換えなら、アンリを返してくれますか」
「ええ」
「殿下、お下がり下さい。信じてはいけません」
「ジョシュア様? こちらまで歩いてきて頂けますか?
お嫌でしたら、ご友人のお綺麗なほっぺたに穴が開いてしまいますが」
「止めて下さい。行きます」
「殿下! お立場をお考え下さい、貴方様はこの国の」
「すみません。でも、今アンリを見捨てなくてはいけないなら、俺は王位継承権を放棄します。
大切な友達一人守れなくて、ロレートの国民全員が守れるとは思いません」
男は恍惚とした表情で、笑い声を上げた。
「流石はジョシュア様。お父上の、エドワード様の血が流れている。さあ、どうぞ、こちらへ」
バタン、と大きな音がした。扉の前に居た男が倒れている。
外から入ってきたのは気障な白いコートを着た男。しゃがれた低い声で言う。
「じゃーん。正義のヒーロー登場ー、ってか」
どう見ても悪人顔の男が、銃を構えて真っ直ぐ奥に入ってくる。
誘拐犯はサン・ジェルマン様の頬に銃を再度突き付ける。
「止まれ。ジョシュア様のご友人だぞ」
ウェーブのかかった黒髪が私達の横を通り過ぎていく。
「撃ちたきゃ撃てよ。そしたら、ナマ言えなくなって、大人しくなるだろうぜ」
「なんだと…おい、止まれ。お前から撃つぞ」
「猿芝居が俺様に通用すると思うのか。ハンマー上げたままで何遊んでだ、てめえ」
犯人の顔色が変わる。銃の安全装置は掛かったままだった。
黒髪の男は、犯人と真向かいに立つ。
「ハナから撃つ気もねえ奴に、銃を持つ資格はねえ」
銃を振り上げる。マガジンで後頭部を殴った。呻いて、犯人が倒れた。
黒髪の男は、サン・ジェルマン様の傍で跪き、口を覆う布を外した。
「ったく。おめえは何度襲われたら気が済むんだ。そろそろ割に合わねえぞ」
サン・ジェルマン様は吐息混じりに呟かれた。
「僕は好きで襲われてるんじゃない」伸びている誘拐犯を見る。
「ねえ。殺してない、よね?」
「まだな。殺ったほうが良かったか?」
「良いわけないでしょう、王子の前で」
「んじゃ、とりあえず動けねえようにしとくか――おい」
後方に声を掛けた。厳つい男三人が現れ、慣れた手付きで犯人を拘束した。
黒髪の男は、サン・ジェルマン様を見下ろして、首を傾げる。
「お姫様? 正義のヒーローにお礼は?」
琥珀の瞳はヒーローを睨み付ける。
「来るのが遅い。何の為に君と手を組んだと思ってるの?」
「だから、ちゃんと助けに来てやっただろう」
「こんな事態を起こすなって言っているの」
「助け甲斐のないお姫様だな。ここは『サンキュー、マリオ』っつって、抱き着く場面だろうが」
「今、僕、縛られてるから」
「ああ…すげえソソるぜ、その拘束プレイ」
「さっさと縄を解いて」
「もうちょい拝ませろって。あ、携帯で写真撮って、待受画面にしてもイイか?」
「ジョシュア、縄を解いて、早く」
「あ、う、うん」
殿下が駆け出す。ホワイトも後を追って、殿下を手伝った。
私は黒髪の男と目が合った。白いコートをなびかせて、男が向かってくる。
やはりこいつだ。聖アルフォンソ島で、アイヴィー様と話していた男。
マージナルプリンスの一人がボディガートとして雇っているというマフィア。
「よお、ラルちゃん。また会えるって、信じてたぜ?」
縄を解かれたサン・ジェルマン様が、怪訝な顔をする。
「ディーノ、レイナ卿と知り合いなの?」
「ああ、今まさに運命の再会中だ。再会のキスするなら今だぜ、ラルちゃん?」
マフィアにウインクをされた。


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